数日後夕刻。見滝原中央病院。
ふわりと白いカーテンが揺れる病室。
「何を聴いているの?」
さやかが声を掛けた相手。端正な顔立ちの少年、上条恭介はベッドに横たわりイヤホンで曲を聴いていた。左腕に巻かれた包帯が痛々しい。
「……亜麻色の髪の乙女」
「ああ、ドビュッシー?素敵な曲だよね!」
さやかは明るく浮かれた調子で答えた。
「わ、私ってこんなだからさ、クラッシックなんて聞く柄じゃないってみんな思うみたいでさ。たまに曲名とか言い当てたら、すっごい驚かれるんだよね。意外過ぎて尊敬されたりとかしてさ!」
さやかは反応のない上条に、言葉を続ける。
「き、恭介が教えてくれたから。でないと私、こいうい音楽ちゃんと聴こうとするきっかけなんて一生なかったろうし……」
「……さやかはさ」
「ん。なに?」
「さやかは、僕をいじめているのかい?」
「えっ?」
上条の呟いた言葉に、さやかは固まる。投げられた言葉の意味がわからなかった。
「なんで今でもまだ僕に音楽なんて聴かせるんだい?嫌がらせのつもりなのか?」
「えっ、だって恭介、音楽好きだから……」
「もう聴きたくなんてないんだよ!自分で弾けない曲をただ聴くだけなんて!僕は、僕は!」
さやかの言葉に上条は激しく反応し、その左腕をプレイヤーに叩きつける!機器は破壊され破片を飛ばし、上条の腕からは血飛沫が飛ぶ!
「ああっ!」
さやかは目を見開く。
ああ、私ってほんと馬鹿!よかれと思ってしていたことが苦しめていただけだなんて……。毎日毎日苦しめて、ここまで追い詰めてしまったのだ。全て自分のせいだ!
情けなすぎて滲む涙に視界が揺れる。
さやかは唇を噛みつつ上条に覆いかぶさり、それ以上の自傷を止めるものの。
「……動かないんだ。もう痛みさえ感じない」
上条の絞り出す言葉がさらなる衝撃となって突きつけられ、さやかは顔を歪めた。
「……だいじょうぶだよ。きっとなんとかなるよ。あきらめなければいつか、きっと……」
「あきらめろっていわれたのさ。もう演奏はあきらめろって。先生から直々にいわれたよ。今の医学じゃ無理だって」
さやかの苦し紛れの慰めの言葉は、すかさず否定された。
「僕の手はもう二度と動かない。奇跡か魔法でもない限り治らない。……ヴァイオリンを弾けない僕に生きる意味はない……」
「……あるよ」
さやかは小さく呟いた。
「え?」
「奇跡も魔法もあるんだよ」
絶望に俯く上条の横で、さやかは唇を噛み硬い表情で瞳を揺らす。
窓の外。小さな影の赤い双眸が光る……。
「おまえっ!!」
その時。病室の扉がガララッ!!と、勢いよく開けられ。そこには怒髪天な怒りに震える険しい顔の横島が立っていた!
「黙って聞いてりゃ自分勝手に言いたい放題いいやがって……」
「ちょ、横島さん……」
監視の為盗聴していたのだから黙って聞いていなくてはならない。乱入するなどもっての外。おキヌは横島を懸命に押し止めようとしたものの、横島を止めることができなかったのだ。
「……謝れ!」
「よ、横島さん!私が悪いの!だからやめて!」
「横島さん、駄目ですよ!」
さやかは涙ぐみつつ、おキヌは複雑な表情で横島を見やる。
「おキヌちゃん、さやかちゃん。駄目だ。こいつには謝ってもらわないと気が済まない!」
「くっ……」
横島の気迫に正気にもどった上条は、献身的なさやかに当たってしまったことを恥じ、視線を下げる。
「おいお前!謝れ!謝るときの七文字の言葉をいえっ!」
「……」
「謝れっ!俺にっ!謝れ!」
「……え?」
横島の言葉に場が凍り付く。
「ヴァイオリンが弾けないと生きる価値がないだ?そんなブルジョアジーな楽器に触ったことすらない俺は存在すら許されないミジンコとでもいいたいのか?!ふざけるな!お前はそんな俺含め、全国のモテない男子に土下座しろっ!」
横島は半沢直樹張りに、裂帛の気合で叫んだ!
「そりゃあ天才ヴァイオリニストというモテ要素を失った悲しみはわかる。だがお前には、イケメンで実家が金持ちなうえ、ベタ惚れの幼馴染がいるんだぞ?全然勝ち組だろうが!今は辛かろうが、こらえどきだ……」
「……」
「辛い時こそ、よかった探しだ。北風がヴァイキングをつくるんだぜ?そして、太陽に向かって歩く者には自分の影は見えないもんだぞ?」
「…………」
「なっ?」
俺、いい事いった!キリッとドヤ顔の横島は無言の恭介に小さく頷き、ズビシ!とサムズアップつつ、優しく微笑みかける。
「………………」
あまりのことに三人は、ぽかんと固まっていた……。
「あほかーー!!」
「あぶー!!」
そんな横島に、突如現れた美神のドロップキックが炸裂!壁に叩きつける!
「ったく、この馬鹿はほんと野放しにはできないわね……。ええっと、あなたが上条君よね?」
依然と固まる三人に、美神は亜麻色の髪を揺らし、にこりと微笑んだ。
「私はGSの美神令子。それとこちら……」
美神の後ろには、美神より少し背が低い、黒いフード付きローブを身に着けた怪しすぎる人物が控えていた。
「この方は、とある心霊治療師なの。ちょっと傷を診せてもらってもいいかしら?」
「あ、はい……」
ローブの人物は小さく頭を下げ、上条の腕の診察を始めた。
ずんちゃちゃずんちゃ!ずんちゃちゃずんちゃ!ちゃらっちゃ!ちゃっちゃららっちゃっちゃら~!
オマケコーナーのラジオ番組がはじまった!
横島「えーっとまず一枚目。ペンネームpqLTOhycさんから、GSが弱いってハガキきてますよ?」
美神「魔法少女は潜在能力や経験値といった個人差もあるけど、総じてスペックが高いのは事実ね」
おキヌ「ふむふむ」
美神「色々な制限を課すことで、あれだけのスペックを引き出されているのよ」
横島「それって……」
脳裏をよぎる人物を想い、横島は言い淀む。
美神「けど、たかが小娘よ?私らプロの敵じゃないわ。オカルト問題のプロと、オカルト問題の被害者。どっちが上かなんて、明白でしょ?」
美神「それに。GS側で戦闘してるの横島クンだけじゃない?」
横島「え?まぁ、そうっすねー」
横島「……ええっ?!じゃあ俺が雑魚みたいじゃないですか?」
美神「雑魚でしょ?」
横島「えっ?」
美神「雑魚でしょ?」
横島「いまでしょ?みたいに、二回いわんでも……」
美神「あら?大事な事でしょ?何回だっていってあげるわよ?」
おキヌ「……で、では今日の一曲目『GOST SWEEPER』です!」
おキヌが曲紹介で割り込み、曲が流れだすのだった。