翌日。見滝原中央病院、上条の病室。
「ほらっ!動くっ!動くんだよ!夢みたいだ!」
放課後立ち寄ったさやかに、上条は興奮しつつ左手を開いたり握ったりを繰り返してみせた。
「そっかそっか。よかった……」
喜び絶頂の上条の姿に、さやかは唇を震わせる。
「ああもう!早くヴァイオリンが弾きたくてたまらないよ!」
「ふふふ!私も早く恭介のヴァイオリンが聴きたい、なっ……」
つうと、揺れるさやかの瞳から涙が零れ落ちた。
「う、くうぅ……。ご、ごめ……。でも、うううっ!」
様々な感情が胸に渦を巻く。溢れるいっぱいの想いをとどめることができず、さやかは泣き崩れてしまう。
「さやか……」
俯いて激しく感泣するさやかの頭を、上条は微笑みながらやさしく撫でた。
「さやか。本当に、本当にありがとう……」
「う、ううっー!うううっ……」
さやかの嗚咽が漏れる病室で、白いカーテンが静かに揺れる……。
*****
見滝原中央病院。屋上。
「さやかちゃん、大丈夫かな?」
まどかとおキヌは、はらはらとさやかを待つ。
「さやかちゃんが某著名心療治療師に直談判。本来行われるはずのなかった奇跡の心療治療が行われ、動かなかった腕が完全治癒という筋書きよ。よっぽどの唐変木でなければ恩に着るわよ。まあ実際、さやかちゃんの絡みがなければあんな危ない橋は渡らなかったわけだしね」
これまでの献身的な看病に加え奇跡的な腕の治癒への貢献。ここまで踏まえての告白だ。失敗しようがないだろう。
上条の腕が元に戻り、さやかとくっつく。こうなれば、さやかが奇跡を願うこともないだろう。
「髪が青くて幼馴染でもフラれるとかありえないって、俺のサイドエフェクトもいってますよ?ケッ!」
「実力派エリートぶってフラグ立てるとか、はっ倒すわよ……?」
イケメンがいい目をみることが面白い事ではないのだろう。悪態をつく横島を、美神は睨んだ。
がちゃり!
そして。重い扉が開かれさやかが現れる。眉をよせ唇を噛んでいる硬い表情だった。
「さやかちゃん?」
幼馴染の尋常でない様子に、まどかは目を見開く。
「……って、きた」
「え?」
「恭介に告られたけど、断って、きたっ!」
「えええっ!」
さやかの言葉に一同は仰天する!
「な、なんで……」
「……だってさ。恭介が好きになったのは『腕を治すのを助けてくれた娘』なんだよ。それって私じゃなくてもよくない?実際、私何もしてないし……。今の恭介は腕が治った幸せをぶつける相手が欲しいだけなんだよ」
「……!」
「私は恭介が好き。恭介のためならどんなことだってやる覚悟はあるんだよ?私と恭介の『好き』にこんなに差があって……。そんな告白、受ける事なんてできないよ……」
「さやかちゃん!」
涙ながらに告白をするさやかに、まどかとおキヌは涙を潤ませながら抱き着く!
「なん……だとっ??とりあえず好きな相手が告ってきたんだから、いいんでないの?」
横島はさやかの言葉に、目を瞬かせながら呆然としていた。
「私!もっともっといい女になって!私じゃなきゃって、いわせてみせるっ!」
「さやかちゃん!えらいね、がんばったね!えーん!」
「やだー!さやかちゃん!かわいそうー!」
三人の娘は涙ながらに抱き合って泣き始める!
「えええっ?!」
文化祭終了時に女子皆で泣き出しちゃうみたいなあれか?あれなのか?
その異様な盛り上がりに、横島はひいていた。
「まぁ仕方ないわねー。女心は複雑なのよ」
「はぁ……。そのわりにアチラと美神さんで温度感が違うようですが?」
「え、私?わかるのよ?わかるんだけどね?やー、なんか女子的なあのノリ?毎回乗り遅れてダメなのよねー」
「はぁ」
苦笑う美神へ、横島のお察しな視線が向けられる。
「しっかしああゆう一見サバサバ系はほんとめんどうっすね……。仕事と私、どっちが大事?とか、修羅場りそう……」
「たはは……」
横島の呟きに、美神はただただ苦笑うのであった。
*****
数日後。見滝原中学校門前。
学校へ向かう多くの生徒の中にさやか、まどか、仁美の三人もいた。楽しくじゃれあって登校していたその時。
ヴァイオリンの音色が静かに流れだした。その場の一同は固まり、ざわ……ざわ……とその音源を探るため視線を彷徨わせる。
その視線の先。
校門脇の背の高い樹木の上のほうの枝に、一人の人影があった!
「やはっ!さやか、おはよう!」
爽やかに微笑みながら挨拶をするその人物は、ヴァイオリンを構えた上条恭介そのひとだった!
「ちょっ!なにやってんのよ?恭介!?」
さやかが真っ赤な顔をして叫ぶ!
「なにって……。僕の愛をさやかに証明したいだけだよ!」
「馬鹿やってないで!それは断ったでしょ?!」
「僕はさやかを振り向かせて見せる!このヴァイオリンで!」
「もう!ほんとしつこい!馬鹿なの?死ぬの?お断りよ!」
「!!」
さやかの罵倒をうけ、上条は目を見開き頬を染める。
「ああっ!怒った顔も素敵だっ!」
「なっ……!」
「みんなー!愛するさやかへの僕の演奏を聴けっ!!『さやかに捧げるセレナーデロード十章』!これが!あきらめないってことだっー!」
恭介は恍惚の表情でヴァイオリンを演奏しだした!
その感情の込められた超絶な演奏に、その場は陶然となる!
「こ、こらっ!すみやかに登校しなさい!」
「ば、ばかっ!恭介の、のんすとっぷばか!!」
登校を監視する教師とさやかだけが、なんとか正気を保って叫んでいた!
*****
「で?外の騒ぎはそれの延長ってこと?」
眉をよせた美神の視線の先。事務所の前で演奏する上条恭介に、さやかが猛抗議していた。
「上条君、さやかちゃんを付けねらって待ち構えては、ああして演奏してて……」
「どんなストーカーよ!?」
美神は苦虫を潰す。
「偉大な芸術家ほど、めんどくさいのに惚れては破滅するらしいっすねー。逆にいうなら、めんどくさいから惚れられた?」
「えっ!!さやかちゃんは悪くないと思います!!」
横島のコーヒーを啜りつつの心底どうでもよさそうな呟きに、おキヌが異議あり!!と横島を指さす!!
「と、とにかく!事務所の前で騒ぐなっていって!」
美神が叫ぶのだった!
ずんちゃちゃずんちゃ!
軽快なテーマソングとともに番組がはじまった!
横島「前回のお話に対してのおハガキ、いろいろきてますねー。文珠六つは無謀だってgonさん。それとヴァイオリンストーカー野郎の腕治すのに、文珠六つはもったいないってkuoさん」
おキヌ「ちょっ!そんなこと書いてないですよね?!」
横島「いや!あんなモテモテクソ野郎にあそこまでしなくてもっていう、同志kuoさんの気持ちはすっげーわかる!」
ずごんっ!
美神「貴様はだまれ!」
美神「六つは無謀って思われてもしかたないわね。でも当然、私は勝算のない事はしないわよ。あれは書き方が悪いとしか言いようがないわね。がっつり抗議したわ!」
おキヌ「はぁ」
美神「むしろ私は被害者よ?あんな駄文で無能扱いとか、どんだけ名誉棄損よ!泣かす!そして!泣いても許さない!かなり直させて、ましになってるはずよ」
横島とおキヌは、肩を震わせて顔を覆う人物に目を向けた。
横島「あいつは誤字といい、文珠勘違いといろいろやらかしてるしなぁ……」
おキヌ「ゲンジローちゃん……?!」
横島「でもまぁ美神さんも言いたい放題すぎるよ……。ぼるてっかーさんに怒られた方がいい……」
美神「ふん!ともかくね、マミちゃん頼りではあったけど、あの娘と文珠の相性はバツグンよ?それにあれを治すにはそこそこのパワーも必要だったの。六つは妥当よ!」
おキヌ「そうなんですか?」
美神「んー。わかりやすくゲーム的にいうわね。まず負傷したHPの回復。(治)や(治)+(癒)で対応できるわ。ただ、毒や麻痺、部位欠損といった状態異常はHPを回復させても治らない……といったとこかしら?」
美神「それを(治)+(癒)といった解釈もあるけど。強い効果が必要だったので、左腕を限定する文字を使ったのよ」
おキヌ「なるほどー」
美神「一番やばかったのは……」
おキヌ「?」
美神「マミちゃんよ!まさかサポートのために抱き着くとは思わないでしょ!あの娘、天然?無自覚すぎない?!」
おキヌ「あはは……」
美神「そして、よくまぁあれだけダダ漏れた煩悩エネルギーも制御するとはね。さすがとしか言いようがないわよ」
おキヌ「マミちゃん、すごいんですねー!」
美神「さすが実力派ベテランってとこかしら?……というかね」
おキヌ「はい?」
美神「あの時。タダスケのやつ、同時十四つ発動なら過去に戻らなくてもどうにかできたでしょうって。アラクネやアトラク=ナチャ、土御門……、あと蜘蛛娘?蜘蛛の上位怪異は多いけれど、あれはそこまでのものじゃなかったぽいし。あいつもほんと、ぬけてるてるわよね!」
おキヌ「なにか理由があったのでは?」
美神「ん?うーん。若い時の私がみれるかもとか?まったく馬鹿よね!」
横島・おキヌ「……えっ?」
美神「まったく……」
ブツブツいう美神に横島とおキヌは目を瞬かせた。
新手の惚気?わけわからん……。
おキヌ「あっ!では一曲目『呪いのクイーン』です!」
おキヌのファインプレーにより、放送事故は防がれた……。