横島忠夫の登場は、その場に大きな衝撃をもたらす!
「よ、横島クン!」
美神が期待を込めて呼び。
「織莉子、キリカ。横島よ。気をつけな?タイガーは幻影投射維持!魔法少女と魔女の撹乱を継続!」
エミは最大限の警戒をもって指示を飛ばす。
「……ぐるぅぅ」
「ん?タイガー?」
タイガー寅吉こと、タイガーの反応にエミは眉をよせる。
エミの助手であるタイガーは虎の獣人。獣化をすれば人間を超える肉体性能の持ち主であり。それ以上に特筆すべきは大きな精神感応能力有していていること。エミはそれを利用し、広範囲への精神攻撃を仕掛ける術式を編み出したのだ。
だがその術式にも大きな欠陥があった。タイガーは優れた資質の反面、精神的に脆いところがあり。それはタイガーの精神限界を超えると暴走してしまうというものだった。
だが、行動限界にはまだ余裕があるはずなのに。なぜ……?
エミの顔に焦りの色が浮かぶ。
「うへへ……」
タイガーに限界に近い反応を見て、エミの表情が変わる!
「ま、まさか……」
「女ー!色っぽいねーちゃん……!」
「!」
タイガー最大の弱点。それは女に対しての異常な執着!限界を超え理性を失うと、本能のままに暴走してしまうことだ!
「おんなあああぁぁぁ!」
限界を超えたタイガーは、獣人化をすませ欲望の雄たけびを上げた!
「なっ!」
暴走状態のタイガーに、エミは顔を歪める!
「ま、まさか、横島……」
「でかした!横島クン!」
タイガーの暴走。それを引き起こしたであろう横島を、二人は対極の表情で見つめた!
その視線の先。横島はゆらりと立ち、俯いてその表情はよくわからない。
「…………」
「横島クン?」
不穏なオーラを漂わせるその姿に、美神は眉をよせた。
「……ち……り……も……」
「?」
美神視線の先。横島は俯きつつ、ぶつぶつと呟いている有様。
そして次の瞬間。
「ちち!しり!ふとももー!」
横島も欲望全開で雄たけびを上げたのだった!
「なーっ!」
これには流石の美神も驚愕に固まってしまう。
「はじまったわ、キリカ!エミさんと美神さんをガード!エミさんはあちらの魔法少女の行動阻害を解除してください!」
この事態にすかさず織莉子とキリカが動く!
「ちょっと!タイガーまでこうなるとは、聞いてないワケ!」
「はい?聞かれなかったですしー?」
すんすーん!
狼狽するエミに、織莉子はしれっとすまし顔でそっぽを向いて答えた。
「あの二人は魔女の口づけで正気を失っています!速やかに無力化する必要があります!協力してください!」
織莉子は大声でその場に宣言した!
「キリカ!五時の方角から一体、二秒後!」
「ふふん!早速一体撃破だよ!」
織莉子からの指示に従い、接近する存在へ迎撃を試みる。
呉キリカの固有魔法は対象の『速度を低下させる』こと。そのうえ自身のスピードを上昇することで、圧倒的優位をとる戦闘スタイル。
「てい!」
キリカは絶対のタイミングでもって、かぎ爪の刃のない側でその場を、ガヒョン!と薙ぎ払う!
「ふひひっ!」
だが!忍びよるソレはキリカの一撃を気色悪い姿勢で避けそのままの勢いでキリカに迫り、さわさわとキリカの尻を撫でた!
「ひいいいっ!」
お尻を撫でられたキリカは悲鳴をあげて、情けなく飛び上がる!
「遅延魔法に捕らえたはずなのに!な、なんで?」
正気を失ったソレは下卑た笑いを浮かべながら、ぺたりと座り呆然とするキリカから離れていく。
「よくもキリカを!」
織莉子は悔しさに唇を噛む。
「織莉子?」
らしくなく感情むき出しな織莉子の言葉にキリカは目を瞬かせる。
「よくも!よくもキリカをー!」
「え、織莉子?」
「……わたしのものなのに」
「ええっ?!」
「わたしのお尻になんてことを!許さない!」
「っ!!おり……。ちょ、やめて……」
「わたしのものに!わたしのキリカに手を出すとか!絶対!許さない!」
「ふえっ?!ぇぇぇぇぇ………!!」
怒髪天にスーパーになりそうな勢いの織莉子の憤怒に、キリカは真っ赤な顔で身悶える……。
「ば、ばか!なにやってるワケ?」
同じくタイガーもエミの身体をまさぐるというセクハラをし、即座に逃げていく。
そう!魔女の口づけにより正気を失った二人は、リミッターがはずれた状態で本能のままにセクハラするという、禍々しい存在と成り果てていたのだった!
「ふへへー!」
「ちょっ!横島!このっ!」
神通鞭での攻撃を気色の悪い姿勢で全て躱し、横島は美神に抱き着く!美神にすかさず突き飛ばされ、横島は下卑た笑みを浮かべながら離脱!
「ぐへへー!」
「もう!」
織莉子の魔法武器である銀色の珠の攻撃を尽く避け、タイガーはそのまま織莉子に近寄り抱き着いた!
「こんの!」
そのタイガーへすかさずキリカの殺気のこもった一撃!
だがしかし!当然のようにタイガーは回避!薄気味悪い笑みを浮かべながら離れていく!
「きゃあ!」
マミが忍び寄る影に悲鳴を上げる!
ずごん!
迫るタイガーを横島がドロップキックで弾き飛ばした!
「?」
だが横島は不思議顔のマミへの接触なく離れていく。
「…………………」
そんな大騒ぎの中。なぜだか蚊帳の外なおキヌとほむらは、なんとなく不機嫌な表情で静かに佇んでいた……。
*****
「巴さん!私達をリボンで繋げて!」
「ええ!」
織莉子の指示にマミが迅速に対応!
マミのリボンがするする伸びる。
「全員を繋げたわ!」
「今です!暁美さんは時間を停止してください!」
「……」
かしゃん!
織莉子の指示に従い、ほむらは魔法を発動。時が止まり、世界は色を失う。
「これで……チェックです」
織莉子は灰色に固まる横島とタイガーを見つめ、大きな溜息を吐いた。
*****
「しかたなかったんや!心神耗弱だったんやー!」
「うおおお!わしゃあ、わしゃあ!なんてことをー!」
黄色いリボンでぐるぐる巻きにされた横島とタイガーは見苦しいまでに、びたんびたん!と暴れつつ、言い訳を叫んでいた!
「やかましい!だまっとれ!」
美神はそんな二人を一喝!
「さてと。どうゆう事情でこの惨状なのか、説明してくれるんでしょうね?」
そして、厳しい視線を織莉子に向ける。
「ええ」
織莉子は美神の凄まじい視線を受けつつも涼しい顔。
「まず……。見てたでしょう?」
織莉子の視線の先。そこには白い小動物がいた。
「インキュベーター?!」
美神陣が驚愕の声を上げる!
「ああ。すさまじい感情エネルギーだね。あれはいったい……」
キュゥべえは赤い目を瞬かせた。
「エントロピーを凌駕するほどに異性体を触りたいとか、わけがわからないよ」
「こいつらは煩悩のカタマリなのよ!」
美神の言葉にキュゥべえは首を傾げた。そして女性陣の氷点下な視線が、簀巻きな二人に注がれる……。
「煩悩……。異性体をちらつかせるだけで、これだけのエネルギーになるなんて。とてもリーズナブルだ」
ぶつぶつ呟くキュゥべえに、エミは怪訝な視線を向けた。
「そういえば。魔法少女になるための『願い』はどうやって叶えているワケ?」
「ん?宇宙エネルギーを使っているのさ。宇宙を助けるためなのだから、当たり前だよね?」
「えっ?まあそうだろうけど、魔女にならない魔法少女も少なくないわよね?」
美神はキュゥべえの言葉に、首を傾げる。
「そうだね。魔法少女の多くは初戦で死んでしまうことが少なくないんだ。でもそれも仕方のないことだよ。普通の少女がいきなり戦わなくてはならなくなるのだから」
「じゃあ、なんでちゃんとサポートしてあげないワケ?!」
「そこで死んでしまうようでは、どうせすぐ死んでしまうよ。それにそれくらいの娘が魔女になっても、たいしたエネルギーにもならない。僕らは無駄なことはしないのさ」
「…………」
エミは信じられないモノを見る表情で固まった。
「……ええと。エネルギー使って、回収できないと無駄とは思わないの?」
「そうして選抜された魔法少女が魔女になる時の感情エネルギー量は凄まじいものだからね。元は取れるさ」
「…………」
GSとして経営者でもある美神とエミの表情は死んでいた。こんな行き当たりばったりな博打操業をしてたのかと……。
この白饅頭の頭の中は、やっぱりさらさらのこしあんでも詰まっているに間違いない。
こんな間抜けな白饅頭に人類は翻弄されていた?多くの少女達の運命が狂わされた?それどころでなく。むしろこの頭の悪い小動物が無駄な善意でもって勤勉に宇宙エネルギーを浪費していたのではないかという事実に、美神とエミは特大の溜息を吐いた。
「実際、魔法少女からエネルギーを得る方法には行き詰まりを感じていたのさ。様々な妨害も受けていたしね。しかも彼が健在となれば、事態はより深刻だ……」
「キュゥべえ!このエネルギーはどう!?」
そんなキュゥべえを見つめ、織莉子が叫ぶ!
「このバカどもが宇宙の為になるなら全然オッケーよ?人間社会のクズなんだから!」
「しかも地球人との摩擦も減るとなれば理想的だ。一考の価値はある……」
……かかった!インキュベーターが新しい感情エネルギーに興味を持った!
そのやり取りを見つめていた織莉子が胸元で拳を握る。
――その胸に問え。今の、お前の本当の願いを。
それは織莉子が黒い怪人と遭遇したことがはじまり。
その時、織莉子はその人物からいくつかの助言をもらったのだ。
私の願いは『自分が生きる意味を知りたい』こと。お父様の意志を継ぎ、この街を守る。それもだけれど……。
なによりも大切なキリカ……。私のために魔法少女になった貴女を魔女になんか絶対させない!
貴女を守る!
その為に、インキュベーターに魔法少女システムを転換させる!
それが私の願い!『今』の願い!そして、生きる意味なのよ!
織莉子はその言葉に従い、幾度も未来を、可能性を見つめ。策を練り今回の作戦となる!
エミに助力を請い、美神達を利用しワルプルギスの夜を撃破。見滝原壊滅を阻止。
そしてキュゥべえに新たなエネルギーを提案することによって、魔法少女システムを転換させる!
「っ!っっっっ~!」
作戦の成功に織莉子は沸き上がる喜びで言葉にならない呻きをあげつつ、わたわたと身悶えた!
ありがとう!全て貴方のお陰だわ!か、か……。えーっとー。からすさん?
織莉子は黒い恩人に感謝しつつ、うろ覚えなその名前に、んんん?と首を傾げた。
「ま、まさかエミ……」
「そうゆうこと。わたしらの目的はこっち!魔法少女問題の解決だったワケ!」
「なっ!」
「悪いけど今回は私の完全勝利ね!」
「まって!まどかちゃんのことなんだけど……」
「うん?あーそれだれ?とりあえずのっかってみたけど?」
「…………………」
エミのテヘペロ!な返答にさらにずーんと力なく呆然と美神はしゃがみ込んだ。その前でエミはご機嫌に勝利の舞を、どんどこどん!と踊る!
「かんにんやー!」
「わっしは、わるくないんですー!」
その横で。横島とタイガー二人がぎゃあぎゃあ騒ぐというカオス状態の中。
「あれれれ?ええと……」
ほむらはぽかんとその長い髪を揺らし首を傾げる。
こうして……。ほむらは永久とも思われた時の迷宮の、明日という出口へと踏み出すことになるのだった!
これにて本編は終了となります!
2020年12月~からのお付き合い、ありがとうございました!
こんなに長くなるとはー。まったくもって早いものです……
このあと、後日談ですとかこぼれ話っぽいものを、気が向いたらぽろぽろしようと思いますので、気が向いたらお付き合い願えれば幸いでございます!