数日後。美神令子除霊事務所、応接室。朝。
「ほむらちゃん、今日から学校ですね」
「そうね」
通学準備を終え美神にコーヒーを給仕するおキヌに、美神は軽く頷いた。
「お友達の説得、できるのかな……」
「ツンケンしてるわ、具体的にしゃべらんわで、初対面じゃーどんびきっしょ」
ありゃないわー!横島は大きく首を振る。
「未来からきたといったって、いきなり信用されるわけないでしょ。とにかく!鹿目まどかのほうは彼女にまかせて、私はこっちの魔法少女を担当するから。大人の私がきっちり、味方にひきいれるわ!」
執務机の上の何枚かの写真。その一枚を美神は指さした。
「金髪縦ロール、巨乳ちゃんだと?」
写真に写る人物に、横島は目を見開き震えだす。
「俺は今までJCなぞガキだと思っていた……。しかし!このたわわに実った乳はどうだ?美神さんに勝るとも劣らぬ一品よ!これでJC?JCの乳だとお!末恐ろしいわ!けしからん!これぞまさに!禁断の果実っっ!!!」
「やかましい!死ね!!」
美神のハイキックが炸裂し、横島は壁にめり込んだ!
「じゃあ私は学校いってきますねー」
その横を、つんと澄ましたおキヌが通り過ぎる。
「学校より病院にいかねば……」
壁にめり込んだ血まみれの横島はうつろな視線でつぶやいた。
*****
「まどか、こっち!」
見滝原中学の制服を着た二人の少女がデパートのバックヤードを走っていた。
青いショートカットの美樹さやかの顔はいつもの明るい表情ではなく、険しいもの。桃色の短いツインテールの小柄な鹿目まどかの手を引く。必死のまどかも、もう片方の手で胸に白いものを抱えて懸命に走る!
*****
放課後。買い物に寄ったデパート。
はぐれたまどかを捜していたいたさやかは、バックヤードで厳しい顔の転校生とまどかが対峙するのを見つけたのだ。さやかは咄嗟に近くの消火器を手に取りそれを噴出。煙を目くらましにして、まどかの手を取り逃げたのだった。
二人は幼馴染であり勝気なさやかが、内気なまどかをこうしてひっぱる関係であり。まどかはいつも助けて引っ張ってくれる幼馴染の手をぎゅうと握った。
「まどか!それなんなの?」
「ほむらちゃん、このこを狙ってるみたい」
さやかはまどかが胸に抱く小動物を見やる。赤い目と長く垂れた耳。見たことのない白い生き物だった。その体は所々が薄汚れてしまっている。攻撃を受けたのかもしれない。
「このこの助けを呼ぶ声が聞こえたの……」
「なんなの?あの転校生!動物虐待とかわけわかんない!」
怒りの表情のさやかの叫びに、まどかは俯く。
転校生暁美ほむら。
成績優秀、スポーツ万能。長い黒髪に白い肌。端正な顔は表情に乏しく、それが神秘的な雰囲気で。
初めて会ったはずなのに、どこかで見たような、不思議な女の子。
そのほむらが学校を案内する際、まどかに訴えかけたのだ。異様な圧を発して言葉少ないほむらの問いかけは要領を得ないもので、万能と思われていた彼女だがコミュニケーション能力は皆無の様だった。抱えた想いを伝えることができず、視線を下げるほむらの瞳の複雑な輝きに、まどかは息をのんだ。
そんなほむらが理由もなく無体な事をするのだろうか?
考えに沈んでいたまどかは、立ち止まったさやかに怪訝な視線を向ける。
「さやかちゃん?」
「え、なに……?どうなってるの?」
夢中で逃げていた二人は、いつの間にか広がっていた異様な風景に立ち竦む。
デパートの中にはありえない、黄色い通行止めテープがあちこちに張られた建設現場のような不気味な場所になっていたのだ。
「お化けに囲まれてる!」
不気味に蠢く幾つもの影が二人を囲む。
大きく丸い頭は綿のようにもこもこしていて、その真ん中には冗談のように小さな髭。細長い体と腕。下半身は蝶になっていて、その羽でわさわさと移動してくるのだ。
「きしゃああ!」
その綿の頭から真っ黒な目と青紫色の唇が浮かび上がり奇声を発しだす。
「くっそ!こっちくんな!」
敵意剥き出しにさやかが叫ぶが、効果があるわけもなく。
わけのわからない絶望に、少女達が押しつぶされそうな、その時。
「まどか。このピンチを切り抜ける唯一の方法があるよ」
まどかの抱える白い小動物が、赤い目で見つめてきたのだ。
「えっ……?」
その言葉に、まどかは身をこわばらせた。
*****
「ただいま、おキヌちゃん!金髪ボインちゃんは?!」
事務所にダッシュで帰還した横島は、とりあえず見かけたおキヌに声を掛けた。
「そ、それがたいへんな事に……」
目を見開いて固まっているおキヌの視線の先に、横島も視線を走らせると……。
「…………」
「…………」
美神と少女が額に青筋を立てながら、ゴリゴリと微笑み合っていた!
美神に対峙する、金髪の短い二つの縦ロールに見滝原中学の制服姿の少女が、ターゲットである巴マミなのだろう。美神より背は低いものの、美神に劣らぬプロポーションの持ち主だった。柔らかな面持ちの美少女だが、その顔は不穏な笑顔に彩られている。
「え?な、なんで睨み合ってるの?この緊迫した雰囲気はなに?」
びくりと横島は震え、身構えた。
「さっきまで和やかだったんですけど……。マミちゃんが魔女の部下も退治してるとかなんとかって話で美神さんと口論になっちゃって……」
「なぬ?」
「人に危害を加える可能性のある魔物だろうと、見返りがなければ放置に決まってるって美神さんがいうものだから、マミちゃんがすっかり臨戦態勢に……」
どうやら価値観の違いで衝突しているようだった。
「美神さんは意地っ張りの負けず嫌いで、自分の意見曲げないもんなぁ」
美神は器用なようで不器用だから、説得のためでも自論を曲げるわけがない……。
横島とおキヌは項垂れつつ、盛大なため息を吐いた。
せんちゃん「新年早々、PCがぶっ壊れたやつがいたらしいんですよー」
小野「なーにー!やっちまったな!」
――やってないよ。やられたんだよ; みつを。