時系列はほむらが美神事務所にいったあたり
「キョーコ!どこ?」
緑髪に緑色のワンピースを着た幼女が、夜の街を彷徨っていた。
――杏子さんをお探しかしら?彼女は魔女と戦って、そして死ぬ運命よ?
――貴方に運命の輪を回せるのかしら?かわいいだけの、役立たずさん。
白い女の囁きがぐるぐる回る。幼女は焦燥に駆られ杏子を捜していたのだった。
「キョーコ!どこにいるの?キョーコ!!」
ぐずぐずと泣きながら走る。
がさり。
「誰かいるの?キョーコ?」
草むらの音に反応し、ごそごそと木に登るものの。枝は折れ、幼女は盛大に地面に倒れ込む。
「あうっ!」
全身に痛みを感じつつも。杏子を失うかもしれないという、それ以上の恐怖に身を震わせていた。
「ううっ。はやくみつけないと、キョーコが……」
「杏子がどうかしたのかい?」
「!」
ふいに掛けられる声に、幼女の見上げた先。街灯の上にそれはいた。
長い耳ともふりとした尻尾を持つ白い小動物。その赤い両眼が妖しく光る。
「千歳ゆま。君が望むなら、ぼくはなんでもひとつ、願いを叶えてあげることができるよ」
「ほ、ほんと?!わ、わたしっ!キョーコの……」
震える幼女――ゆまが祈るように願いを口にしようとした、その時。
「インキュベーターよ。儂の目の黒いうちは、やらせはせんといったはずだぞ?」
ゆまの声を遮り、その言葉が投げかけられた!
「!」
ゆまと白い生き物の視線の先には……。身に纏った黒いコートを靡かせる銀髪の老人と、黒い装束に赤いショートカットの娘が佇んでいた。
「ドクター・カオス。きみなのかい?」
「ああそうよ。不愉快じゃ。まったくもって不愉快じゃ。貴様らが、のうのうとしているのを見るのはな」
カオスは不機嫌そうに息を吐いた。
「人間はそんなに生きられないはずなのだけれど……」
「人間はそうじゃろう。だが儂はドクター・カオスじゃ」
カオスは敵意を込めた視線で、白い生き物――キュゥべえをねめつけた!
「いつの間にやら活動を再開していたか……」
「君の妨害のおかげで僕の活動は著しく阻害されることになったのだけれど。それの解消にどれだけの労力が必要だったことか……」
「ちっ……」
首を傾げるキュゥべえに、カオスは苦虫を潰しつつ、あの日を思いだしていた。
*****
「マリア。君の望みをなんでもひとつ、叶えてあげる。だから、魔法少女になってよ!」
その日。マリア姫の前に現れた白い動物は一つの取引きを持ち掛けてきたのだった。
「ふざけるな!私は貴様のような邪なものの口車にはのらぬ!どうせその契約とやらは、魂を差し出すようなことなのだろう?」
「え?まあ、正確ではないよ。はずれてもいないけど?」
すーんと、すっとぼけるキュゥべえに姫は怒気を纏う!
「ほらみろ!私の夢も願いも!貴様の力なぞ借りなくても実現してみせる!そうでなくてはならないのだ!そして私のカオス様が助けてくれる!邪な者よ、去れ!」
キュゥべえに啖呵を切ったマリア姫を、カオスはまぶしげに見つめた。
「ふふっ!話は決まったな!失せろ!」
「残念だよ。ドクター・カオス。君とも宇宙のために協力できると思ったのだけれど」
「ははっ!知ったことではないな!だいたい、自分より劣る存在と組んでも何も利益はないからな!」
そして。さも愉し気だったカオスの口角が不吉に上がる。
「まったくもって度し難い」
静かに圧倒的圧力を増しつつカオスは呟く。
「そしてなにより。なによりお前は姫を怒らせた。侮辱した。手痛いしっぺ返しを覚悟しろよ?」
魔人は怒りに細めた目で白い獣を見下したのだった。
*****
カオスはあの日のやりとりを思い、小さく息を吐き。
「マリア」
「イエス・ドクター・カオス」
マリアと呼ばれた女性はキュゥべえに右腕を向ける。その肘から先が勢いよく飛び出し、掌がキュゥべえの頭を鷲掴みにする。そしてそのまま握りつぶした!白い破片が撒き散らされる!
「10分じゃ。マリア、その娘を連れて近くの魔女を潰せ」
「マリア・了解!」
ワイヤーで繋がっていた右腕を回収し、マリアは幼女を抱え、すっ飛んでいく。
「……シフトに遅れてはかなわん。さて。とりあえず娘、お前に話がある」
小さくなるマリアから、ドクター・カオスは物陰に潜んでいた人物へ視線を向ける。
「……」
ゆっくりと姿を現す人物。白く長い髪と、白い装束を纏った背の高い少女だった。
「お前、魔法少女なのじゃろう?そしてその様子だとその仕組みも知っておろう?手短に説明するぞ」
カオスの言葉に少女は小さく頷く。
「インキュベーターの目的は魔法少女の精神を破滅させることじゃ。その年頃の娘が精神的に不安定なのは当たり前だが、魔法少女へ変換する過程でその不安定さを増しているのじゃよ。自覚は無いかもしれんが、視野は狭くなり、思い込みは激しくなり、そうして判断能力は失われ。ほうっておけば自滅するようになっているのじゃ。理論上永遠に生きられる?それこそやつら得意の言い回しよ」
「…………!」
「なにを企んでいるかは知らんが、お前はまともな判断ができない状態といってもいい。それこそ目的のために手段を選ばないくらいにな」
カオスは少女をじっと見つめる。
「よいか?願いに振り回されてはいかん。そして願いに捕らわれてはいかん。人の願いは時々で変わるものだし、願いを叶えるためと手段を選ばぬことをすれば願いはその本質を失うことになる。一番大切なことは……娘。お前の真の願いを見失うな」
「……真の願い?」
「そうじゃ。その胸に常に問え。今の、お前の本当の願いを」
黒いマントを靡かせ、自分をじっと見つめている老人の眼光に白い魔法少女は息を呑む。
――この老人は……。なに?なにが起こっているの?
白い魔法少女はあまりのことに、目を見開き固まっていた。
ただひとつわかることは、目の前の老人が只者ではないということ。
ばさりとはためく黒装束は夜の闇に溶け、異様に光る双眸で自分を見下ろすその姿。それは少女にはまるで……。まるで闇の魔王のように思えた。
「ドクター・カオス。魔女を・破壊しました」
老人のつれだった女が戻ってきたようだった。マリアはカオスの脇に佇み、短く報告をする。
「そうか。ではバイトにいこう。よいか、娘。なにが大事かを見極めるのじゃ」
そうして。黒い怪人、ドクター・カオスとマリアは足早に去っていった。
「わたしの、ほんとうのねがい……」
夜の公園にひとり取り残された白い魔法少女は、茫然と立ち尽くしていた……。
2021年の黄身白身様の質問に対する答えともなります!
キュゥべえの勧誘を受けた人物はー。じゃーん!マリア姫でしたー!ぱちぱちぱちー!
マリア姫とのやりとりのあと。カオスは魔法少女・魔女・キュゥべえを徹底的に調べ上げ、攻めに転じます!全盛期のカオスは凄まじく、インキュベーターを壊滅寸前まで追いこむのでした。
その影響によりインキュベーターは長期間活動停止を余儀なくされました。
マリアにはこの時の研究成果である様々なギミックが搭載されていたりします。
(インキュベーター感知・魔女結界感知・結界侵入能力・等々)
このためキュゥべえはドクター・カオスを最大脅威と位置づけます。
ほむらと美神が出会うことでまどか魔女化の確立はぐっと下がり、織莉子は『まどか魔女による世界滅亡』という未来予知を見なくなります。
カオスの助言と世界の脅威判定が下がったこともあり、余裕のできた織莉子は新たな目的のため原作のような強硬手段をとらない計画を練りはじめます。
かくして。キュゥべえが織莉子の提案にのったのはカオスの存在が大きかった……。
という裏事情なのでしたー。