「あれがパピリオちゃんのおじいちゃん?お猿さんぽいけど……」
そのまどかの言葉に猿は反応し、まどかに顔を向けた。
「ウキー」
猿は近寄るようにと首を揺らす。それに応えて二人はおずおずと歩を進める。
「ええと。こんにちは!私、鹿目まどかっていいます!こちらは暁美ほむらちゃんです!よろしくお願いします!」
まどかが前に出て声を掛けて、二人でぺこりと頭を下げた。
「ウキッ」
猿は二人を見つめて小さく頷く。
「ええと。パピリオちゃんがよろしくっていってましたよ?ん?」
まどかなりに張り切って声を掛けながら近寄ると、猿はゲームのコントローラーを突きつけてきたのだ。
「えーと。テレビゲーム……?」
まどかは灰色のコントローラーを受け取りつつ。床の上に置かれたブラウン管テレビ、それに繋げているであろう同じく灰色の四角い機器などをしげしげ見つめた。
「セガ?ニンテンドウじゃないんだ……」
「!」
「喧嘩のゲーム?スマブラじゃないの?なんだかカクカクで、かわいくないな……」
「ウキー!」
まどかの呟きに猿が騒ぎ出し、それにびくりと反応したほむらが臨戦態勢を取る。
「えーと、なに?なにがいいたいのか全然わからないよ」
そんな猿の訴えをまどかは溜息をつきながらを見やる。
「ウキ!ウキッー!」
「ええと一緒に遊びたいの?なら騒いだらダメだよ。びっくりしちゃうから」
ほむらは全身が潰されそうな圧を猿から感じていた。間違いない。あの猿はとてつもない存在のはずだ。
その荒ぶる猿に対して、再びお姉さんスイッチの入ったまどかは腰に手を当てて説教しだす。その様子をほむらは茫然と見つめるのだった……。
*****
そうして。大人しくなった猿とゲームをする流れとなり。
「ほむらちゃん、やる?」
コントローラーを持ったまどかは困り顔でほむらに問いかけた。
「ごめんなさい。私はそういうのぜんぜんわからないわ」
「そっか。私も喧嘩のゲーム得意じゃないけれどやってみるね」
コントローラーを握って猿の横に座ったまどかはブラウン管TVを見つめつつ。いかにも強そうなドレッドヘアの黒人をチョイス。
「いくよ!」
まどかが決死の覚悟で画面を見つめる。
『レディ!ゴー!』
『KO!』
「えええ!」
次の瞬間。速攻で決着はついていた。
猿の操作する胴着のキャラは、まどかの操作する黒人に背中をぶつけて吹っ飛ばし、お手玉のように連撃を食らわせつつ場外に運び叩き落してしまったのだ!
「ウキウキ―!!」
「…………」
得意絶頂に騒ぐ猿の横。俯くまどかは無言……。
そして。
そうしたワンサイドゲームが延々と続く。
「ま、まどか?」
さすがにほむらが心配そうに声をかけた、その時。
「だから喧嘩のゲームはやだっていったのに!」
「!!」
荒ぶるまどかが叫んだのだ!ほむらと猿がびくりと身を震わせる。
「自分が得意なのばっかり!ずるいよ!もっとこう、ちがうやつ……」
ぷりぷり憤りながら、まどかはゲームソフトを漁りはじめる。
「ガーディアンヒーロズ?」
「ウキー!」
「知らないや」
「ウキイイー!」
「エイリアンソルジャー?怖そうだしいいや」
「ウキキー!」
「マリオはないんだね……。ソニック?んーとげとげで可愛くないね」
「ウキャーー!」
「もうー!うるさいなあ!」
ほむらはそんなまどかと猿のやりとりを、震えながら見つめる……。
「あ!ぷよぷよだ!これにしようよ!」
満面の笑みでまどかは『ぷよぷよ』を掲げて大喜び!
「わたしね?これすっごい得意だから!さやかちゃんに負けたこと、ないんだよ?」
まどかは得意満面に宣言しつつケースからとりだし、ゲーム機にセットする。
「ウキー!」
猿もどうやらまんざらではなさそうだ。
二人の対決に、ほむらは息を呑む。
『レディ・ゴー!』
『ばたん・きゅ~!』
「えっ……」
そして。あっという間の決着。
目を瞬かせるほむら見つめるブラウン管では、まどかが灰色のぷよに押しつぶされて完封されていた……。
「ウキキー!」
「……」
得意絶頂な猿の横、固まるまどかが息を呑み。
「も、もう一回!こんなの絶対おかしいよ!」
「ウキィ」
まどかが勢いよくリベンジを叫び連戦行われるが、面白いように瞬殺され続ける。
――そうして。
「ぐぬぬ……」
「ウキィ……」
ほむらは明らかに手を抜いた猿の動きに対しても、連敗を喫するまどかを呆然と眺めていた。
「ええと……」
大敗に俯くまどかを見つつ。ほむらはもとから口下手なのはわかっていて、こうなるともうどう声を掛けたらいいのかわからなくなっていた。
「ウキィ……」
流石の猿も困惑の極みのようだ。
この事態に首を傾げるほむらは、ふと思い出す。
『さやかちゃんに負けたことないんだよ』
まどかはそういっていた。
それはつまり。さやかがまどかより弱かったか、忖度して手を抜いていたか。ということなのだろうか。
ほむらは思う。
あのさやかがそんな忖度をするだろうか?いいや、しない(反語)。
ならばつまり。さやかはこの激弱のまどか以下の実力ということになる。
ぷよぷよは最強を競う世界大会なんかもある世の中らしい。そうなると最弱ランキングを競うのならば、さやかがブッチギリするのではなかろうか?
「ぷくくっ……」
ほむらの口から失笑が漏れる。
『ぷよぷよ世界最弱ランカー!美紀さやかさん!』
世界大会表彰台で乾いた微笑みを張り付けるさやかをほむらは脳内に妄想し……。
「うふふっ!」
思わず口を押えて笑いだす。
「!!!!」
その突然のほむらの笑いに驚き、しげしげとまどかはほむらを見つめ。
「もう!そんなに笑うなんて!ひどいよ!ほむらちゃん?」
「うふふっ!だって!だって!さやかもまどかも……!うふふっ!」
ほむらはよくわからないことを口走りつつ、お腹を押さえて身をかがめ、笑い続ける。
「うふふ!あははははっ!」
いつも無表情なほむらのその反応に驚きつつ。
「もう!ぜんぜんわからないよ?」
別の一面を見れた喜びにまどかはほむらに抱き着き、一緒に大笑いして転がり出す。
「ウキイ」
猿はそんな二人をあきれて見つめるのだった。
*****
「お爺ちゃんー!ほむらちゃんー!ごはんだよ!」
食事の準備をおえたまどかが声を掛ける。
ほむらはTVゲームの経験はなかったが、優れた魔法少女の視力でもって猿の手の動きを見つめ、真似ることにより急速に上達していた。そのようなトライアンドエラーはほむらの得意とするところなのだ。勝率も五分に引き上げていた。
そうして。ゲーム全般苦手なまどかは、ゲームの猿相手はほむらにまかせて食事準備等を担当するようになっていた。
そんなのどかな日常が過ぎていく――。
猿は勿論。言葉は少ないほむらとも、日々打ち解けているのをまどかは実感できる楽しい日々。
――本当に困ったときは、これを使ってね?
就寝時。おキヌに渡された白い珠。まどかはそれを手で転がしつつ。
「ううん。だいじょうぶ。もっとなかよくなれるといいな……」
胸元でそれをぎゅっと握り、目を閉じるのだった。
*****
――だが。そんな平和な日々は唐突に終わりを迎えることになる。
「なんで……」
震えるまどかを庇うほむら。二人の前には、長い棒を持つ巨大な影が覆いかぶさり。
「さて。準備運動は終わりじゃ。行くぞ。小娘ども」
そしてそれは。ぎろりと二人をねめつけるのだった。
*****
「えーと、おまえらなんなん?」
詰め寄ってきた二人に、横島はしり込みしながら問いかけた。
「あんた、最難関試練の試験を最短タイムクリアしたんだって?」
白髪が横島を値踏みしつつ答えた。
「え?そうなのか??俺のときは二人がかりだったし?」
「俺らも二人がかりなわけ」
横島の言葉に白髪の眉が跳ねる。
「いやまぁあれは雪之丞のやつがさ?俺なんて全然!運がよかっただけでさあー。まじ、あんたらのほうが上だって!」
まずい解答をしたのを察し、横島はなんとか誤魔化そうとへらへらと言葉をこぼす。
「ともかくさ。この小竜姫があんたらの方が上っていうわけさ」
そんな横島の前で。白髪は小竜姫の肩に手を置いてそう話しかけたその時。
「おい。なにやってんだよ」
横島はすかさず白髪の手をバシリと叩き落とし、白髪を強い視線で睨んだのだ。
「……小竜姫『様』だろ?」
「えっ?」
その横島の呟いた言葉に白髪は首を傾げた。
「『様』をつけろっていってんだよ!デコスケ野郎!」
いつもなら無駄な戦いなんて土下座してでも回避するであろう横島が、態度を急変させて怒髪天な怒りに全身を震わせて白髪に啖呵を切ったのだった!
横島は本人が思っている以上に自分を導いてくれた小竜姫を恩神として崇拝していたようで。その尊い女神を(イケメンの)白髪がチャラい態度で軽く扱う様が横島の逆鱗に天元突破にぶっ刺さったのだった。
「ボコボコにしてやんよ」
俯いて陰になり、その表情はわからないが。横島の白く光る両眼が白髪をねめつける。
「いいね!楽しくなってきた!」
急変して臨戦態勢になった横島に驚きつつも、白髪は嬉しそうに口角を上げた。