翌日、放課後。
ほむらを先頭にまどかとさやかはレンガ造りの大きな洋館の前にいた。入口の看板には『美神令子除霊事務所』とある。
「わぁ……」
「転校生、この古いお屋敷?」
「この業界だとトップクラスの事務所だそうよ」
怯む二人に、ほむらは肩ごしに振り返り首を傾げた。
*****
「いらっしゃいっ!私は美神令子っ!この事務所の所長よっ!」
応接室に通された三人を、美神はにこやかに迎え入れた。
美神なりに挽回しようと張り切ってるのだろう。わざとらしい笑顔になっていた。
「やは!お兄さんは日本最高GS美神さんの右腕である横島忠夫!コードネーム『ミギー=ライトハンド』!ミギーと呼んでくれ!あと、お姉さんを紹介してくれていいよ!」
「なによそれ?」
「や、いまどきのJCに受けそうかなって?」
「……このアホがバイトの横島ね。で、そっちがー」
「助手の氷室キヌです。よろしくね」
横島の自己紹介に美神はあきれ顔。お茶を給仕をしつつ、おキヌは二人に微笑みかけた。
「随分若い人たちなんだね」
「んー……。あ!」
「まどか?」
対面時から物思いに眉をよせていたまどかに、さやかは声を掛ける。
「あ、うん。美神さんと横島さん……。ほむらちゃんの夢を見たときにいた人たちかなって」
「なぬっ!」
まどかの呟きに、一同は驚愕した!
「怪物と闘ってるほむらちゃんをどうしても助けたくって。でも躊躇してた私を横島さんが応援してくれて。私、決断できた気がするの……」
「…………」
まどかは目を閉じ胸元で手を合わせ、静かにつぶやいた。
それと共に異様な圧のこもった視線が、ほむらから横島へ向けられる!
ほ……ほむらにムッチャ睨まれてる!というか、これは殺気?!なぜ?その刺さるような視線にさらされ、横島は冷や汗を流していた……。
「おおまかにはほむらちゃんから聞いたと思うけど、あなたたちの見た白い生き物はこれよね?」
本題を切り出した美神は二人にタブレットの画面を向ける。それには赤い目と頭頂の三角耳から長く垂れた耳もあり、もふりとした大きい尾を持つ白い四足獣が表示されていた。
「あ!はい、これです!」
「キュゥべえと名乗るこいつはね、インキュベーターといって願い事と引き換えに魂を要求する悪魔よ」
「あ、あくま!」
「ええ。太古の昔から思春期の女の子の前に現れるという存在なの」
知らされる事実に驚く二人に、美神は小さく頷く。
「こいつの言い分はこう。ひとつの願いを叶える代わりに魔法少女になってくれって。童話みたいでしょ?そうして契約した女の子は魔法少女に変身できるようになって、こいつのいう人間の敵である魔女と命をかけて戦わなくてはならなくなる」
「に、人間の敵であるおばけを退治するのは、いいことじゃないんですか?願いも叶えてくれて……」
美神の言葉に、さやかが疑問をぶつける。
「その魔女も、こいつが生み出しているのよ」
「……え?」
「まず。こいつのいう魔法少女は人間ではないの。魔法少女という存在なの」
「?」
美神は首を傾げる二人に頷く。
「わかりにくいかしらね。やつと契約すると魂は抜き取られ宝石にされてしまうの。人間としての肉体はその外付けの操り人形ってかんじかしら?それだけじゃない。その宝石が負の感情によって濁りきった時。宝石は砕け魂は破滅し、化け物である魔女そのものになってしまう」
「えっ!」
「魔女になった魔法少女は自我を失い人間を襲う。魔法少女だった魔女と、魔女になる魔法少女を殺し合わせているのよ?これだけ凄惨で悪趣味なサイクルもないでしょ?」
美神の語る恐ろしい内容に、二人は身を固めた。
「この悪魔、インキュベーターの本当の目的はこのサイクルの維持。その為に女の子を魔法少女という魔物にしてまわっているのよ。こいつはひとつの願いと引き換えに、魂の破滅を要求する存在なのよ!」
「やれやれ、酷いいわれようだね」
「!」
その場に居合わせた面々の視線の先。いつの間にか現れたキュゥべえが赤い目を光らせていた。
「人工幽霊壱号?」
「結界を破られた形跡はありません」
目を細める美神の問いかけに、何者かが答える。
「この程度の結界をすり抜けることはわけないよ。知っているだろう?」
キュゥべえはとことこと近寄る。それだけみれば愛らしいが、その場の全員がそう思う事は無かった。
「なんすか?なんかへんな気配がしますね」
「その動物……」
横島とおキヌの反応を美神は確認する。
「さて。随分悪者にされてしまったけれど、僕の話も聞いてもらおうと思ってね。そうじゃないとフェアじゃないだろう?」
「その必要はないわ!」
がちゃり!
真ん中に居座ったキュゥべえに対し、ほむらはいつのまにか取り出した右手に銀、左手に黒の二丁の自動拳銃を構え臨戦態勢!
「待って、ほむらちゃん!」
すかさず美神はほむらに待ったをかける。険しい顔で止まるほむらに、美神は小さく頷いた。
「いいわ。いってごらんなさい?」
「令子はあいかわらず冷静だね。助かるよ」
キュゥべえは説得対象である、まどかとさやかに視線を向ける。
「令子から話は聞いたみたいだね。でもよく考えてみてほしいんだ。見かたによっては命を差し出すことなのかもしれない。でも実現不可能な願いが奇跡となって叶うんだよ?人は『命を賭ける』という言葉を使うけれど実際、命を賭けたって成しえない事のほうが多い現実でこれは破格の対価といっていいんじゃないかな」
「…………」
震えながら手を繋いでいるまどかとさやかに、キュゥべえは静かに語り続ける。
「僕達インキュベーターはこの星の歴史に有史以前から関わってきた。願われた奇跡によって君達人類が格段に進歩をとげたこともある。そして、魔法少女が魔女化する時に得られる感情エネルギーは宇宙の破滅を回避される事に使用されるんだ。人類にとってもとてもいいことのはずだよ。君達も宇宙の一員なわけだしね。あらゆる意味で、これほど理想的な契約はないと思うのだけれど」
「………………」
キュゥべえのプレゼンテーションによって二人の少女はその衝撃にすっかり怯えてしまっていた。
「おほほほほ!これでいつもの聞かれなかった詐欺は通用しないわよ?」
その様子を見つめていた美神は、高笑いをして勝ち誇る!
「何百年先の宇宙の話なんか、知ったこっちゃないわ!人口減少が深刻化してる日本にとって、思春期の女の子を食い物にされるのは大問題だっての!おとといきなさい!インキュベーター!」
「うーん、君達人間はわけがわからないよ」
「貴様のようなもんがいるから、俺に彼女がいないのか!俺の彼女を返せ!」
「わ、わけがわからないよ……」
あさっての方を向き絶叫する横島に、その場の全員が氷点下の視線を向ける……。
「聞いたとおりよ」
美神はまどかとさやかに顔を向ける。
「女の子を狙うインキュベーターは国際的にも賞金が懸かっている存在でもあるの。契約しちゃダメ!破滅するわよ?」
「は、はい……」
二人はがくがくと頷いた。
「とくに、まどかちゃん」
「はい!」
「あなたは魔法少女として優れた素質を持っている。優れた魔法少女はそのぶん強力な魔女になるのよ」
「!」
「いい?地球を滅ぼす存在になりたくなかったら、絶対契約しちゃ駄目よ!」
美神に畳みかけられたまどかは思わず座り込み、そのまま俯いて動けなくなってしまう。その様子をキュゥべえは赤い目を瞬かせて見つめていた。
「やれやれ。最後に質問していいかい?暁美ほむら」
「……」
「君はぼくと契約したはずだけれど、ぼくは君を知らない。だからなにを願ったのかもわからないのだけれど、君は魔法少女になったことを後悔しているのかい?」
キュゥべえの問いかけにほむらは視線をまどかに向け、奥歯を噛む。
「……ええ、後悔しない日はないわ。魔法少女なんて碌なものじゃない」
ほむらは絞り出すように答えた。
*****
「あの二人、さすがにショックだったみたいですね」
「あの調子なら契約はしないっしょー」
想定外のキュゥべえ乱入ではあったが、美神の思惑以上の契約への警告となった。打ちのめされた二人の様子に横島とおキヌは気の毒ながらも効果を確信していた。
「いいえ。あの2人は自分の事を差し置いてでも奇跡を願ってしまう。そんな娘達なのよ」
その言葉にほむらは小さく首を振る。
「さやかは幼馴染の想い人のために。まどかは……誰かを助けるために」
「とにかく、契約しそうな要因を潰しましょ」
唇を噛むほむらを見つつ、美神は思案を巡らせた。
キュゥべえの言い分が、そうなーとか思っちゃったりはしますのん
→OVA観たんですが、ええっ!右銀左黒?慌てて直したのですけどー
漫画は基本右黒左銀ぽいのですがーあの時だけ、右銀左黒のようなんです
OVAはそれにあわせて、右銀左黒にしたのかもしれませんね。
このこだわりに、すっかり唸ったのでした
わけわからん人は、ごめんなさいー。ウィリス。