翌日。見滝原中学校。
「まどか!屋上でお昼しようよ!」
授業終了のチャイムが鳴る中。沈んだ表情のまどかに、さやかは明るく声を掛けた。
「う、うん」
さやか的に思うところはあるのだろうが、努めて普段通りに振舞っているようだった。まどかもそれを理解していたので、おずおずとさやかの申し出に答える。
二人はいつものように過ごすことで、突然巻き込まれた非日常から遠ざかることができるのではないか?との思いもあった。言葉少なく移動をする……。
*****
「こんにちは。ちょっといいかしら?」
屋上に到着した二人に声が掛かった。
「あなたは……」
「三年の巴マミよ。よろしくね」
二人がその発言主へと視線を向けると、金髪縦ロールに大人の雰囲気の少女が佇んでいた。
「えっと、なんですか?」
さやかがまどかを背に庇い、眉をよせて返答する。
「あなた達、キュウべぇが見えるのでしょう?キュウべぇに頼まれて、魔法少女のスカウトにきたのだけれど」
警戒している二人を安心させようとマミは、はにかみながらゆっくりと要件を切り出す。
「……巴さんは魔法少女なんですか?」
「ええ、そうよ」
その返答にさやかとまどかは眼を見開く。
「わ、私たち、魂が破滅するほどの願いとかってありませんから!」
「え?魂の……破滅?なんのこと?」
想定外の反応にマミは眼を瞬かせる。
「昨日聞いたんです。魔法少女は魔女になって破滅する存在だって」
「?」
「やっぱり知らなかったんですか?その白いキュウなんとかが、いいことばっかりいって契約を結ぼうとしてるって、聞いたんです!」
怯えた様子でまくしたてるさやかにマミは気圧される。しかし。魔法少女が魔女になる?訳が分からない。そんなこと、ある訳がない。
「キュウべぇ、居る?今の話は本当なの?」
マミはたまらず問いかけた。
「うん。おおむねそのとおりだよ」
マミの問いかけに、屋上の手摺りに現れたキュウべぇが答えた。
さやかとまどかはその存在を目にすると肩をびくりと震わせ、その尋常でない反応がマミをさらに動揺させる。
「そ、そんな……」
「結果はそうかもだけれど、人間は過程を大事にするのだろう?ベテランの君なら、魔法少女のよさを教えてくれると思ったのだけれど」
「そんなことできるわけないじゃない!今知ったもの!そんな酷い事!」
真実を理解したくない自分と、冷静に情報を解析する自分と。マミの中で様々な想いがぐるぐると回り始める。
「やれやれ、君もか。人間は不思議だなぁ」
「巴さん、知らなかったんだ。やっぱりアイツ、悪魔だ」
「酷いよ……こんなのってないよ」
彼女達のいうことをキュウべぇは否定していない。つまり。魔法少女が魔女になるのは、本当のこと?ベテランといわれるまでに魔法少女をしていたマミには思い当たることもあった。目をつぶっていた事だが、そうだとすれば全て納得できてしまう……。
周りの音が無くなり、視界が真っ黒になる。マミは絶望へと追い込まれていった。
「ごめんなさい、私の事は忘れて……」
マミは小さくさやか達に断り、光を失った瞳でふらふらとその場を立ち去るのだった。
*****
「もしもし?さやかちゃん?ええっ?真実を知ったマミちゃんがやばそう?」
マミの尋常でない反応に、さやかは美神に連絡したのだった。
「わかったわ。こっちで捜してみる。2人はちゃんと授業を受けて、ね」
さやかに安心するようにと電話を切ったものの。
マミはかなり衝撃を受けているはずだ……。早く見つけないと!
厳しい表情で美神はスマホをダイヤルする。
「あ、クロエ?女の子を捜してほしいの。大至急よ。え?ジャック?そんなのは後にしなさいよ!」
美神の怒号が響いた。
*****
夕日に染まる見滝原公園のベンチに、マミはぽつりと座っていた。
マミにとってここは特別の場所だった。
魔法少女になってはじめて魔女と戦った場所。ぼろぼろに負けて、結界に取り込まれた少年も救えなかった。
だから。それから。負けないように、救えるようにと努力を重ねてきたのだ。
なのに……。
あの子を襲ったような魔女になる?魔女になるくらいなら、いっそ……。
こぼれる涙を拭いもせず、マミは唇を噛む。
うん。助けることのできなかったあの子の眠るこの公園で終わりにしよう……。
魔法で作った銀の短銃をこめかみに構える。
「まてまてまてーい!」
土煙を上げつつBダッシュの横島が急行!
「い、いいか?お、おちついて、そ、そのじゅうを、お、おろせっ!」
尋常ではないマミの様子に動揺しまくった横島は、それでもなんとか、わたわたと言葉を発した。
「横島さん、落ち着いて!」
次いで到着したおキヌが横島に言葉をかける。
「お、おれだって、お、おちちつきたい!」
「横島さん!」
錯乱する横島をおキヌがサポートする。
「はっ!う、うむ。なんとか説得しなくては……」
「…………」
どんよりとこめかみに銃をかまえるマミを前に、横島は動揺した!
「横島さん!頑張って!」
「このヘビーな状況を、どうすりゃいいってんだっ!」
絶望に打ち震え、自殺しようとしている少女の説得?!あまりの無茶ぶりに横島の処理能力は追いつかない。
「お……」
「……」
わなわなと震える横島を、光のない瞳でマミは見つめる。
「お、おお……」
「……」
「おっぴょぴょーん!」
「だぁああ!」
あまりの極限状態に、横島は珍妙なポーズに特段のヘン顔で奇声を発する一発ギャグの一手!
後ろでおキヌが盛大にズッこけていた!
「……」
「……」
珍妙なポーズをプルプルと震え維持する横島と、それを静かに見つめるマミ。
奇妙な緊張が続く。
「…………」
「…………くすん」
かちゃり。
マミは小さく鼻をすすり、短銃の撃鉄を起こす。
「ノーーーーーーーーーーッ!デメッ!!」
説得の失敗にのけ反った横島の絶叫が響き渡った!
ジャックバウアーの「デメッ!」って、なんなん?不思議だったので、英語が堪能な知人に聞いてみました。
がっでむいっと!なのだけれど、恐れ多くて「G」を抜かすため、そうなっちゃうんですって!
まめしばー!