腰まで伸びる豊かに波打つ赤い長髪。
目元を隠すマスカレイドマスクから覗く長いまつげに縁どられた、やはり大きな赤い瞳。すらりとした鼻の下には真っ赤なルージュの蠱惑の唇。露出の多い赤いボンテージファッションで身を包み、肌の白さと服の赤。その対比が目に焼き付く。そしてなにより、こぼれるような胸、ぎゅっとしぼられた腰、むっちりとした太もも。凄まじいまでのプロポーションの持ち主だった!
不穏な微笑みを浮かべるその女の両手には巻かれた鞭が、ぴしり、ぴしり。伸ばしたり縮めたりするごとに、乾いた音を立てる。
「ねえ。綺麗な薔薇には棘があるって、知ってる?」
女は楽しそうに小首を傾げる。
「いけない子にはお姉さん、お仕置きしちゃうんだぞ?」
女はにまりと微笑み、ちろりと唇を舐めた。
*****
「薔薇の魔女っていったら、こーゆーもんだろうがー!」
薔薇の魔女結界、最深部。
美神達と別行動をとっていた横島とほむらだが、結界主である薔薇の魔女を目の前に横島が血の涙を流して絶叫していたのだった!
あまりの慟哭に、横でほむらはぽかんとしている。
「そして勝った俺にべた惚れて付き纏うようになり、ヒロインと喧嘩なんかしつつハーレムの一員に!そこまでがなろうのお約束だろうがー!」
横島の青年の主張は止まらない!
「それがどうだ!なんだあれは!」
横島の指さす先には薔薇の魔女。
芋虫のような体には無数に触手状の脚が生えており、その背には大きな蝶の羽。特筆すべきはその頭部にあたるであろう部分だ。緑色のだらりとたれるゲル状のそれにいくつもの薔薇が咲いていた。
「なんだありゃ!正気の沙汰じゃあないだろうがっ!なにが薔薇の魔女だ!あんなのウンコ虫じゃねえか!しかもでかいんだよ!あんなのもうゴーストじゃねえ!怪獣だっての!管轄外なんだよ!自衛隊かシン・ウルトラ警備隊でも呼べ!」
「……私がやるわ。あなたは下がっていて」
「おう!そうさせてもらうわ!がんばれよ!」
どんどん!ぷー!ぷー!
正気にもどったほむらが前に出るのを、横島はへらへらしながらいつのまにか取り出した鳴り物で応援しつつ見送った。
かしゃん!
ほむらは固有魔法である時間停止を発動させる。左手に装着した盾の砂時計が回転し、世界は時を止め灰色に染まった。
そうして無造作に薔薇の魔女に近寄りつつ盾に収納していた手榴弾をいくつか取り出し、ピンを外しては、ぽいぽいと魔女に投げつけた。ほむらの手から離れた手榴弾は色を失い空中に停止する。
「んっ?」
そんなほむらが目を瞬かせた。その視線の先にはいつの間にか魔女の背後にまわり、霊波刀を構えつつダッシュの恰好で固まる横島がいたのだった。
「下がったはずの横島さんがなんでこんなところに……。刀で斬りかかっているのかしら?このままだと爆発に巻き込まれるわね……」
ほむらは首を傾げた。
――ほんとカンベンなんだよね。何度巻き込まれそうになったことか!
脳裏に浮かぶ青い人物の悪態に、ほむらは顔を顰める。
「はぁ……。やなこと思い出しちゃった。ずらしておこう……」
かしゃん!
魔法の効果がきれ、時は動き出す。
「下がったとみせかけてー!ほむらを囮にしての奇襲斬りィ!ウリィー!」
得意絶頂に絶叫を放つ横島は壁を目の前に固まった。
ちゅどーーーん!
「なっ!」
背後で起こった激しい爆発に振り返えれば、強襲しようとした魔女が炎に包まれ、その前で何食わぬ顔でほむらが手櫛で髪をなびかせていた。
「俺は魔女に斬りかかったはずなのにあさっての方を向いていて、魔女が突然大爆発?」
横島は茫然と、ぼつぼつと独り言ちる。
「なにをいっているのかわからねーと思うが、俺もなにをされたのかわからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなものじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を……」
ゴゴゴゴ……。青い瞳に柱のような金髪。ハートの半分に割れたイヤリングといった格好に濃い画調で描かれた横島は、桃色の脳細胞をフル回転させる。
「はっ!まさか時間停止魔法なのか?」
「……」
閃いた横島からの問いかけを、ほむらは無視をした。
「そうなのか!すげえ、すごすぎる!時間停止なんてできたら……、あんなことや……こんなことも……ぐへへ」
視線を宙にさ迷わせ、だらしがない恰好で妄想しだす横島に、ほむらは眉をよせる。
「結界が解けたわ。先に戻るわね」
ほむらはグリーフシードを回収しその場を立ち去った。
「時が止まった隙に、好き放題…………うほっ」
「ままーあのひとへんだよー!」
「しっ!見ちゃいけません!」
気持ちの悪い笑みを浮かべ立ち尽くす不審者の出現に、街中は騒然となった!
「ぐふふふ……」
「通報のあった、道路のど真ん中で笑う変質者はどこですかー?」
すみやかに警官が現場に到着。対象を確保の後、ずりずりと連行していくのだった。
*****
「はっ!」
横島が覚醒した場所は、薄暗い取調室のようだった。
「おい。親御さんが泣いてるぜ?とりあえずこいつを食って落ち着きな」
机を挟んで座る老齢のいかつい男が、微笑みながらカツ丼を差し出す。
「あっ、いただきます」
カツ丼うまっ!これもほむらの魔法の効果なのか?凄まじすぎる!
出されたものを取り合えずがっつきながら、横島は戦慄していた!
今時は事情徴収でカツ丼だしたりしないそうです。
カツ丼美味しいのに!