ダイバーネーム:クーリエ
GBNではどちらかというとエンジョイ勢に分類されるダイバーで、あまりバトルはしないタイプである。
それは何故かというと、彼女がGBNに来る目的の一つが“自分の脚で歩く事”なのだ。
「それにしてもあのグレイってダイバー、変わっていたわね」
知り合いから「このキャラそっくりですね!」と言われて親近感を持ったキャラクターの容姿を真似てラベンダー色の膝の辺りまで伸ばした髪にサファイアのような瞳をしたアバターを使う。
ただ、顔がリアルとあまり変わらない為普段は長い髪まで黒白のパーカーにしまい、サンバイザー付のフードを被ってサングラスまで着用している。その下にはリアルでは着る機会が無かったからという事で黒と白のゴスロリチックな服を着ている。
一応リアルは成人女性なのだが、150cmと小柄な方で顔も童顔な為かよく若く見られるので違和感はほとんどない。
「カメラの前で踊ったのなんて久しぶりね」
踊ったのは自身ではなくガンプラではあるが、自身の分身とも言える程に作り込んだ機体なので自身も同然と彼女は思っている。
「さて、そろそろログアウトしようかしら」
***
「ふう」
VRゴーグルを外し立ち上がろうとしたところでクーリエこと
「まだこの切り替えに慣れないわね」
松葉杖を使って立ち上がった梨恵はそう言って自室の棚に置かれたフォトスタンドを手に取る。
そこにはかつて自身が最も輝いていた頃の写真が飾られていた。
「未練が無いと言えば嘘にはなるけど、これで良かったのかもしれないわね」
篠宮梨恵はかつて日本代表とも言われたフィギュアスケートの選手であった。
幼い頃に見たフィギュアスケートの大会の映像を見て親に無理を言って始めたそれにのめり込んだ梨恵はそれまでの半生のほぼ全てを注ぎ込む程に熱中した。
その甲斐あって日本代表という一握りの存在まで駆け上がった梨恵。
そんな彼女には後輩が一人いた。名前は
その美南という少女は所謂天才というやつだった。
梨恵よりも遅くにフィギュアを始めたというのにメキメキと実力を付けて梨恵の後を全力疾走というかのようなペースで追いかけてくるこの後輩を梨恵は悪く思う事が出来ず、かと言ってすんなり追いつかれてたまるかと練習の密度を上げて常に彼女の目標であらんと振る舞っていた。美南もそんな梨恵を慕っており、よく「梨恵に懐いてるワンコ」と関係者達には言われていたくらいだ。
しかし、美南がドンドン迫る中、知らず知らずの内に無理を重ねていた梨恵の脚が限界を迎え、とある大会の演技中に梨恵は転倒。左足首の靭帯を裂傷し、例え手術をしても前のような演技は不可能だと診断された。つまり梨恵の選手生命はここで途絶えてしまったのだ。
その後は何とか松葉杖を使いながら歩ける程度には回復し、それまでの経験を美南に伝えるべく彼女のトレーナーへと転向した。
そこからは美南の成長は止まる事を知らず、今では美南が日本代表選手に選ばれる程となった。
すると、そこで梨恵はふと思ってしまった「私はこれから何をすればいいのだろう」と、それまでの半生をフィギュアに注ぎ込んできた梨恵は唐突に目標を見失ったのだ。
そんな時に出会ったのがGBNだった。
『先輩!GBNって知ってますか!』
美南が言うにはその仮想世界でならばまた自分の脚で歩く事が可能なのだと言う。
当時はGBNはおろかガンプラすらろくに知らなかった梨恵ではあったが、美南の強引なまでの誘いには抗えず仕方無しにログインしてみる事にした。
初めてログインした時の事は今でも忘れはしない。あの再び自分の脚で立っているという感覚に感動し、思わず泣いてしまったのは恥ずかしかったが、それも含めていい思い出である。
ちなみにクーリエのアバターのモデルとなったキャラクターを梨恵に教えたのは美南で、無類のペンギン好きである彼女がとあるソーシャルゲームのキャラクターのぬいぐるみを見つけたのが切っ掛けで、美南は早速そのゲームを始めたが、そのキャラクターは期間限定キャラであった為に復刻するまで地道に石を貯めてガチャで出た時は号泣していたくらいだ。
梨恵自身もそのキャラクターには惹かれるものがあって美南と一緒にゲームを始めて復刻ガチャで一緒になって一喜一憂している様子は関係者達の間では「本当の姉妹のようだった」言われている。
美南もGBNには時々ログインしているのだが、選手としての練習の疲れであまりログイン出来ていないらしい。
「今度の夏フェスには絶対参加すると意気込んでたけど、大丈夫かしら?」
すると、その美南からメッセージアプリに連絡が入った。
『夏フェスの時間にログイン出来るようにスケジュールの都合なんとかなりました!』
「はしゃいでるわね、あの子」
美南の顔が目に浮かぶようで、それを想像して笑みを浮かべた梨恵は「おめでとう」と返信するとすぐにレスがつく。
『先輩先輩!一緒に回りましょう!』
『それは構わないけど、この前みたいな事はやめてね?』
『その辺は抜かりありません!』
この前の事とは、美南のアバターは美南本人の姿から髪色を変えただけの姿をしていたせいで本人とバレて大騒ぎになった事件の事だ。
何やら対策はしたようであるが、梨恵は本当に大丈夫なのかと少し心配になる。
『あと、宝探しも参加してみませんか?』
『あ〜、あのトライエイジガンダムが景品のアレよね?』
『はい!他にも色々と景品は盛り沢山らしいので!』
『水中となれば美南と私のガンプラはそこそこ有利だものね』
『ふっふっふ、私のペンゾックちゃんの実力を見せる時!』
『私は程々にしておくわ。今のマスカレイドで割と満足しているもの』
『あっ、ならマスカレイドはオフ装備ですか?』
『いいえ、自衛の為にもアッチでいくわ』
『先輩、程々と言いつつやる気満々じゃないですか………』
その後も他愛ない雑談をしながら梨恵はある事を思い出していた。
「(この時期に水中用装備の点検をしてたって事は彼も夏フェスに来るのかしら?)」
それは今日出会ったグレイというダイバーの事だった。
「(フレンド登録もしたし、また会えたらいいわね)」
夏フェスの楽しみが増えたとそう感じる梨恵なのであった。
という訳でクーリエはグレイと似たような境遇の持ち主です。
後輩ちゃんこと美南は裏表が無いワンコ系です。
彼女についてはまた別の機会に………