この話は本編よりほんの少し先のお話です。
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バレンタインが近付いてきたこの日、梨恵はスケートリンクで後輩にして今は教え子でもある美南にある頼み事をしていた。
「美南、ちょっと手伝ってほしいことがあるのだけど」
「あ〜、もしかしてバレンタインチョコですかぁ」
実は美南はお菓子作りが趣味なのだ。
「そんなハッキリ言わないでよ!」
「灰原さんにあげるんですか?」
「か、彼だけじゃなくてお世話になってる人達にもよ!」
「まあまあ、先輩が灰原さんにホの字なのは知ってますから」
「うぐっ」
「おや、噂をすれば………」
そんな時だった。取材の為に入ってきたカメラマン達の中に見知った顔を見つけたのだ。
「えっ、俊也さん?」
「やぁ」
すると、俊也の方から車椅子で二人に近付いてきた。
「どうしたんですか?」
「うん、ほんとは知り合いのカメラマンが受けるはずの仕事だったんだけど、その人が体調を崩しちゃってね。その代理で俺が取材の仕事をね」
「なるほど」
「って訳でだからまた後でね」
そう言って俊也は取材陣の元へ戻っていった。
***
その後、取材の打ち合わせを終えた俊也は少しだけ梨恵達と話してから帰っていき、梨恵は美南を自宅に呼んでチョコ作りを始めた。
「大森さん曰く、『俊は結構甘党』という事ですからジャム入りチョコにしましょう!」
「そんな難しそうなのを!?」
「大丈夫ですよ!私達には頼れるクックパッド先生がいるんですから!それにジャム入りくらい簡単ですって」
用意したのはシリコン型と各種板チョコ、そして各種ジャムである。
「それにしてもハロ型の型なんてよく見つけたわね?」
「フッフッフッ、これは去年ガンダムベースで配ってたんですよ。使う機会が無いなぁ、と思ってたらこんなところで活躍する事になるなんて」
という訳でチョコ作りが始まった。
「まずはチョコを溶かしましょう」
湯煎でチョコを溶かす。
「次に型にチョコを塗ります。この時、窪みが残るぐらいにしておくのがポイントです」
シリコン型に底は厚め、横はジャムを入れる窪みを残すぐらいに小さなスプーンでチョコを塗る。
「固まったらジャムを入れて」
チョコが固まったら窪みにジャムを入れる。
「最後にもう一度溶かしたチョコで蓋をして固めれば完成です!」
あとは漏れないようにチョコで蓋をして固めたら完成である。
「私でも、出来た」
「ね?簡単でしょ?」
チョコの色に合わせてジャムの種類を変えたり、チョコも様々な味を使ってカラフルなジャム入りハロチョコが完成した。
「あとはチョコ同士でくっついたりしないように包装してハロ型の丸缶に詰めたら完璧です!」
「ほんと、こういう頼もしさを演技にも活かしてほしいわね」
「うぐっ」
「まあ、今回は助かったわ」
そう言って出来たチョコの一つを美南の口に入れる。
「先輩、そういうのは灰原さんにやって下さい」
***
そして、2/14バレンタインデー。
梨恵は俊也をガンダムベースシーサイド店にてバレンタインイベントでのキャンペーン品をもらいに行こうと誘い、送迎を担当した樹はニヤニヤと笑みを浮かべながら梨恵と一緒に来ていたニヨニヨ顔の美南とカフェスペースへと行ってしまい、梨恵と俊也だけが残された。
「樹のやつ………ごめんね、梨恵さん」
「ううん、こっちこそ」
「それで、どうしよっか?」
「せ、せっかく来たのだからキャンペーン品を貰いましょう」
そう言って梨恵は俊也の車椅子のグリップを握りお互いに支え合う形で受付に向かった。
だが、二人は気付いていなかった。何故樹と美南が列に並んでいなかったのかを………
そう、このイベントの対象が『カップル限定』であるという事を………これは並んでいたお客が女子同士のカップルもいたためで、これに関しては店員の一人であるチィが「ウチのフォースにもそういうカップルがいるので同性カップルもアリにしては?」と提案したからだ。
「何だか注目されてないかしら?」
「多分、俺が車椅子だからじゃないかな?」
そうこうしていると梨恵と俊也の番が回ってきた。
受付には先の提案をした小さな店員であるチィがおり、俊也の顔を見ると少し驚いたような顔をする。
一方で、梨恵と俊也もこれがカップル限定イベントだとようやく知って顔を真っ赤にしている。
「灰原さんがこのイベントに参加するなんて思いもしませんでした」
「樹達にハメられたんだよ」
「なるほど」
しかし、ここまで来て「間違えました」と列を抜けるのは余計に恥ずかしい。その為、二人はキャンペーン品を貰うまではカップルで通そうと無言のアイコンタクトを交わす。
「では、カップルと証明するものを提示してください」
「「えっ?」」
だが、チィの方がまだ上手であった。
偽装カップル防止対策としてカップルとしての証明、要はキスなり抱き合う等の行為を示せと要求してきたのだ。
「キ、キキキ、キスゥ〜!?」
これに過剰に反応してしまった梨恵をチィは被っている猫が剥がれかけるニヤニヤとした笑みを浮かべて見ている。
「はぁ………チィちゃん、そのキスって特定の場所にしないとダメとか決まってないよね?」
「ええ、そこまでは流石に」
「なら………梨恵さん、ちょっとごめんね」
「えっ?」
すると、俊也は梨恵を少し屈ませてその頬に軽くキスをする。
「〜〜っ!?」
「これでいいかな?」
「ええ………灰原さん、意外にやりますね」
そしてキャンペーン品を貰うとショートしている梨恵を何とか正気に戻してその場を後にした。
***
「さっきはごめんね」
「い、いえ………私は別に………」
列を離れた後、俊也は勝手に頬にキスをした事を謝罪するが、梨恵は未だに顔を真っ赤にして俯いている。
しかし、それは俊也からのキスが嫌だったのではなく、不意打ちでそんな事をされたからなだけである。
「それにしてもキャンペーン品って赤と青にカラーリングされたパーツライナーだったんだね」
「しかも単独でも使えるけど、組み合わせて使うタイプの武器ばかりね」
赤と青のライナーが一つずつ、その中にはツインバスターライフルやシザーブレード等の『二つを組み合わせて一つの武器にできる装備』やお揃いの武器等がまとめられた正にカップル用のアイテムであった。
「これ、どうしよっか?」
「せ、せっかく貰ったのだし、お互いに持っておきましょう」
「そうだね」
「さて、樹達のところへ行こうか」
「ちょっと待って!」
目的の物も貰ったので樹達と合流しようと俊也が提案すると、梨恵はそれに待ったをかけた。
「どうかしたの?」
「あ、あの、これっ!」
そして、梨恵は意を決して持っていた手提げの紙袋を俊也に渡す。
「これって………」
「………チョレートよ、初めて作ったからあまり自信は無いけれど」
「そうなんだ………ありがとう、梨恵さん」
ここまでくれば俊也も梨恵がどういう気持ちでチョコを渡したのか察し、少し照れながらお礼を言う。
「へ、返事は来月で!」
「ホワイトデーで、って事だね。うん、わかった」
俊也としては今すぐ返事をしても良かったが、梨恵の方が今日は一杯一杯のようなのでそれを了承する。
「じゃあ、カフェスペースに行こっか?」
「………はい」
という訳で二人はカフェスペースへと向かったのだが、店内にいたチィを含むお客達はそんな二人の様子を見てニヨニヨしたり『リア充爆発しろ!』と心の中で思ったりしていたんだとか………
尚、カフェスペースで待っていた樹と美南にはハメた罰としてバレンタイン限定メニューを奢らせるという方法で仕返ししてバイト店員の優しそうな男性が苦笑していたんだとか。
チョコの作り方は実際調べたものなので来年かホワイトデーのお返しに試してみてください。
守次 奏のところのリビルドガールズよりチィちゃんを再びお借りしました。この場をお借りしてお礼申しあげます。
最後のバイト店員さん?まあ、明言はしませんが、彼です。