IS。
正式名称、インフィニット・ストラトス。
宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。
開発当初は特に注目されていなかったが、とある事件で有名になった代物。
結果、本来の目的を忘れられて軍事転用された悲しい兵器。
今や宇宙進出よりも、飛行パワード・スーツとしての方が通りはいいだろう。
各国の抑止力の要として、ISは大いに活躍している。
「俺、お前のことが好きなんだ!」
だが、そんなこととは殆ど無縁だった中3の夏。織斑一夏は、意を決してそんなセリフを口にした。
それを聞いていた少女は、しばし手を止め周囲を見渡す。
目に入るのは、夏休みの公園。五反田食堂がすぐ近くにあり、近所の子供たちが元気に遊びまわっている。
肌を焼きつける太陽光に炙られ、一夏と少女とおまけはアイスを食べているわけだが。どうしてそんな話になったんだろう、と少女は首を傾げるばかりだ。
お気に入りのアイス、ハイパーカップのスプーンを咥えながら考えることしばし。一夏と自分の延長線上、そこに友人の五反田弾がいたのを確認して納得の手のひらを打つ。
「なんか邪魔しちゃって悪かったわね。真ん中に座るとか、私も空気読めてなかったわ」
失敗失敗、と呟きながら少女が座り位置を移動する。
弾、一夏、少女という並びに変更された席替えで目を剥いたのは誰か。
言うまでもない、五反田弾だ。
彼は食いかけのアイスバーを一夏に突きつけ、震える声で。
「まさか、お前……」
「そんなわけあるか!!」
だよなーと早々に引き下がる辺り、それはわかりきったいつもの冗談だ。
しかし、こと告白に関しては違う。一夏にとって、こっちは本気である。
なけなしの勇気をかき集めて言った内容を、適当にあしらわれてはたまらない。
「俺は本気で言ってんだ。答えくらいくれよ!」
「えー、そういうのここで言っちゃう時点でどうなの? とりあえず無しよ、私は男より女の子が好きだから」
は? と口が開きっぱなしの一夏に対し、弾は視線を逸らす。
彼もまた、妹がいなければ似たような反応をしていたことだろう。流石に口説いている場面を見てしまったときは、脳みその停止を余儀なくされたが。
「別に男が嫌いってわけじゃないし、バイだとは思うのだけれどね。五反田の妹ちゃんにも最近フラれちゃって、ホント悲しいわぁ」
救いを求めるように弾へ視線を向け、力なく首を振られた一夏はついに崩れ落ちた。
なんだこれ。どうしてこうなった。
そんな思考がぐるぐる回り、いやこれきっと夢だよという現実逃避にまで思考が及ぶ。
一連の加害者は、素知らぬ顔でアイスの続きを楽しんでいるが。一夏の無意識は、その光景を視界から排除することに成功している。
まだISが女性だけのもので、比較的平和な日々が続いていた頃。
半年後に彼は男性初のIS操縦者になるが、今はともかくダウナー系の思考が頭を占拠していた。
‡
濡羽色の少し長いくせ毛をなびかせ、その隙間から緋色の双眸を覗かせる。
切れ長な目と艶やかな唇は人目を引き、彼女を美人と称する輩は少なくない。
周囲を圧倒する運動神経と、学年でもトップクラスの学力。スレンダーな胸をコンプレックスにしているようだが、背も高くスタイルだって悪くない。
むしろ、その引締った太ももやウェストは同世代の憧れだろう。
そんな半完璧超人、折目彩夏は残念ながら変態だった。
「シノちゃん久しぶり! あぁ、大きくなったわね。どこがとは言わないけど」
ずずいとが近寄られた分だけ、篠ノ之箒は後ろに逃げる。
満面の笑顔で手をわきわきする彩夏が、彼女は昔から苦手だ。
思い返してみても、追い回された記憶しか見当たらない。初めて一夏と彩夏が道場にやってきて、もうその日からそうだったのだ。
目が合うと同時に恐ろしい速度で詰め寄られ、驚くべき機動力の元に捕獲される。
仮にも剣術を学んでいた身として、あの絶望感は姉のそれ以来だったろうか。
反射的に竹刀でぶったたいてしまったが、絡みつくような動きで気付けば拘束されていた。
(そこから先は……うむ、覚えてない。記憶から抹消した)
2人のやり取りを微妙な表情で見ている一夏へ、箒は目をやる。
今すぐ助けろ! そんな思いを込めて睨んだが、彼は僅かに視線を逸らすだけでそれに答えた。
これもいつものことだ。
どうせ、一夏では彩夏に勝てない。いや、まじめにやり合って勝てる人間を箒は数えるほどしか知らないのである。
「お、落ち着け折目。今はそういう話で呼び出したわけじゃない。そ、そう一夏だ! なんで貴様はここにいる!」
「今は……なるほど、つまりあとでってことね! 楽しみにしてるわ!!」
違う、そうじゃない。
なにを言っても無駄なのだろうか、そんな思いが箒の中を駆け巡っていく。
そもそも呼んだのは一夏だけのはず。なぜここに彼女もついてきたのだろう。
考えれば考えるほど、箒に頭痛が襲いかかる。
どうしてこうなったと、彼女の中で心の声が叫んでいた。
「なんでって言われても……そりゃあ、なんの間違いかIS動かしちまったからだし? あっ、それよりも箒。お前、剣道の県大会で優勝したってな。おめでとう」
「え? なっ、なんでそれを知っている!?」
いや、そりゃ新聞に載ってたしという一夏の言葉は既に届いてすらいない。
知っていてくれたという事実が脳内を占拠し、嬉しさばかりが込み上げてくる。しかし、すぐに優勝したときの心情を思い出して箒は眉をしかめた。
一夏に祝われるほど、あの結果は立派なものじゃない。
「あらシノちゃん優勝なんてしてたのね。お祝いに甘いものでも作ってあげる。なにか食べたいものとかあるかしら? なんなら、私でもいいわよ!!」
「う、うわっ! 寄るな! それ以上こっちへ来るなぁっ!!」
どことなく卑猥な動きの手で彩夏が迫ると、ついに箒は逃げ出してしまった。
屋上をぐるぐる走りまわる2人を見て、思わず一夏はため息を吐き出している。
彼女が近くにいると、おちおち滅入ってもいられない。
久しぶりに会った一夏と喋りたかっただけで、本当にどうしてこうなったのだろう。
思わず首を捻った箒の耳に、始業のチャイムが滑り込む。
「チャイムが鳴った! 私は先に戻るが。一夏! しばらく彩夏を足止めしろ!! いいいな? わかったか!!」
「ちょ、無茶言うな! 俺じゃ勝てないって知ってるだろうが!!」
それでもなんとかしろ! と捨て台詞を残して、箒は昇降口へ飛び込んだ。
残された一夏は、無駄と知りつつも一応首を巡らせて彩夏の行方を捜す。
彼女はすぐに見つかった。屋上の中ほどで、腰に手を当てたまま止まっている。
口元は緩やかに弧を描き、喉を鳴らすように笑っているらしい。
(あれ?)
追いかけていないことへ疑問を感じると同時に、どうして笑っているのかもわからない。
それに、よく考えてみれば彩夏は箒の優勝を知っているはずだ。新聞を突きだし、自慢気に一夏へ報告したのは彼女である。
なのに、どうしてさっきは知らないようなことを言ったのだろう。
疑問が眉間の皺になって一夏の表情へ現れた。
振返った彩夏がそれを見て、更に笑みを深くする。
「ほら、行くわよ一夏。千冬先生に叩かれたくないでしょ?」
「あー……おう。そうだな。あれ割と痛いんだよ」
でしょうねと微笑む彩夏の先導で、一夏が後に続く。
なんて言うか、心中複雑だなあ……という彼のぼやきは、晴れ渡った青空に吸い込まれて消えていった。
夕方4時1分に、次話が自動投降されるかもしれない!!
あと裏話をすると最近一人称の小説ばっか書いてたから、一人称的三人称の練習なだけだったりしなかったり!?
エイプリルフールフォーーーッ!!