今回はVSサイトウ後半戦。楽しんでいただけると幸いです。
「テッカニン!」
つばめがえしとぶんまわすがかち合い、勢いよく振り回されたネギでテッカニンが弾き飛ばされる。リーチを活かした遠心力を加えた一撃だ、威力が今一つでも体勢を崩す効果がある。しかし、テッカニンは空を飛ぶポケモンだ。すぐに体勢を建て直し、ネギガナイトに刃を振るう。
「つばめがえし!」
「みきりなさい!」
しかし構えられた盾で防がれ、押しのけられる。駄目だ、攻めきれない。すると空手の様な動きを取るサイトウと連動して構えを変えるネギガナイト。
「叩き落としなさい、つるぎのまい!」
「つるぎのまいで迎え撃て!」
得物の乱舞がテッカニンを巻き込むように放たれ、同じ技で対抗。本来攻撃技ではないが、舞いに使われるのは鋭い得物だ。必然的に壮絶な斬り合いを演じるテッカニンとネギガナイト。それぞれにダメージが蓄積されて行き、一撃で落とせるであろうダメージ圏まで追い込まれたことを察知。おそらくサイトウも同じだろう。ならば先に仕留める!
「下段からつばめがえし!」
「耐えなさい!リベンジです!」
かそくで上がったスピードで地面すれすれを飛び、ネギガナイトに肉薄するテッカニン。対してネギガナイトは左手の盾を押し付けて対抗し、盾で押し止めれてしまったテッカニンに得物を振り下ろす一撃が炸裂。テッカニンは叩き潰される。勝利を確信したように笑みを浮かべるサイトウ。だが、俺の不敵な笑みを見て怪訝そうに首を傾げた。
「…かげぶんしん」
「なっ!?」
潰されたテッカニンの姿が掻き消え、ネギガナイト共にその顔が驚愕に歪む。指示も無く、かげぶんしんを行使する。これはドラピオン戦で身に着けたテッカニンの危機回避行動だ。かそくのとくせいで速度を上げて、分身といつの間にか入れ替わる。騙し討ちとして最適だ。
「つばめがえし!」
「っ、みきり!」
そして天井近くの上空に上がっていたテッカニンの、超高速の急降下からの一撃がネギガナイトに炸裂。みきりで一撃目は防がれるも、急旋回して返しの二撃目が腹部に炸裂。ネギガナイトの体力を削る。
「負けないでくださいネギガナイト!リベンジ!」
「なっ!?」
しかし、攻撃を浴びせた直後は回避行動をとれるはずもなく、渾身の勢いで振りかぶられたネギが後頭部に炸裂。沈むテッカニン。かくとうタイプに対する切札を、失った。まさか根性で返してくるとは。さすがジムリーダーのポケモンだ。
「…おつかれ、テッカニン。やれるか、バチュル?」
テッカニンをボールに戻し、取り出したネットボールの中にいるバチュルの意思を確認する。カポエラー戦でのダメージが残っているが、こいつはやれる子だ。やる気満々といった表情のバチュルを確認し、ボールを投げて繰り出す。相手は疲弊しきっているとはいえ、あのテッカニンの猛攻を凌いだネギガナイト。相手にとって不足無しだ。
「こうそくいどうで懐に潜り込め!」
「ぶんまわす!」
かなり小さいバチュルの、こうそくいどう。見切れないと踏んだのか、ぶんまわすで迎撃を指示するサイトウ。だがこちとら蜘蛛だ。地上からの攻撃だけが能じゃない。
「奴のネギにいとをはく!そのまま振り回されろ!」
「なっ!?」
ネギガナイトのネギに糸を引っ掛け、ぶんまわすを利用して糸を巻き取らせ懐に飛び込む。これで決める!
「きゅうけつだ!」
巻き取られた勢いのままに、どてっ腹に飛び込み牙を突きたてるバチュル。ネギガナイトの残りの体力を奪い取り、戦闘不能にした。
「ここまでとは…ふんばりどころです!私も一緒に頑張ります!カイリキー!」
最後に繰り出されたのは、カイリキー。ここまでこちらはテッカニンのみ戦闘不能、バチュルとオニシズクモは結構ダメージをもらっていて、ほぼ無傷なのはマルヤクデだけ。有利とはいえ厳しいけど、やるしかない。
「がんばれ、マルヤクデ!ダイマックスだ!」
「もう全部壊しましょう!尊敬を込めてキョダイマックス!」
テッカバトンによる高火力攻撃が出来ないので、ダイマックスを選択。サイトウもキョダイマックスを発動し、カイリキーの姿が大きく変わる。巨大な腕と強面の威圧感が凄まじい。すると、マルヤクデに不思議なことが起こった。カブさんのマルヤクデと同じように姿を変えたのだ。
「キョダイマックス…!?カブさん、アンタはどこまで…!」
「いきます!私のカラテとパートナーの技を重ねるッ!キョダイシンゲキ!」
「ええっと、たしか…キョダイヒャッカだ!」
繰り出される拳の一撃に、キョダイマルヤクデの火球で対抗。火球は巨拳に触れると破裂してほのおのうずとなりキョダイカイリキーを拘束。
「再び、キョダイシンゲキ!」
「キョダイヒャッカ!」
キョダイマックスワザをぶつけ合い、ド迫力の戦いが繰り広げられる。あと一回しかキョダイマックスしたまま技を使えない。何か策を考えないと。そして、勢いを増したほのおのうずがキョダイカイリキーを拘束しつつダメージを与えているのを見てあることを思いついた俺は、本来はあり得ない指示を出すことにした。
「マルヤクデ、巻き付いてやれ!」
「なっ!?」
技でもなんでもない、単に巻きつくという行動。キョダイマックスしたことにより長大化した全身でキョダイカイリキーをその四本の剛腕ごと締め上げ、客席から歓声が上がる。技の撃ち合いしかしてこなかったダイマックスで、初ともいえる格闘戦になったのだから当たり前だろう。キョダイカイリキーは逃れようと暴れるが、赤熱するキョダイマルヤクデの拘束は外れず、ほのおのうずと共に逆にダメージを与えていく。超高熱の身体とほのおのうずによる拘束だ。逃れようとすればするほど、ダメージは倍増する。
「くっ、自分の体にキョダイシンゲキ!」
「離れろ!ダイアタックだ!」
キョダイマルヤクデの巻き付いている自分のボディに攻撃を加えようとするキョダイカイリキーから離れ、自身の攻撃で揺らいだところに強烈な一撃が叩き込まれ、大爆発。キョダイカイリキーはみるみる縮み、ボールに戻って行った。
「よくやった、マルヤクデ!お前、キョダイマックスできるなんて聞いてないぞ、このこの!」
元のサイズに戻ったマルヤクデの身体を、火傷しそうになりながらもワシャワシャ撫でていると、カイリキーをボールに戻し終えたサイトウが歩いてきた。
「参りました。まさか、ダイマックスポケモンでわざもなにもない格闘戦を行うなんて…目から鱗です。貴方が率いるポケモンから武芸の魂を感じました。ええ、どのポケモンもよく鍛えられている」
一礼したサイトウがそう言って笑みを浮かべる。武芸というか、今回は力でぶつかるしかなかったというか…テッカニンの搦め手を使っても負けそうになったからな。
「手合わせして分かりました。貴方達との立ち合いで私…思わず心が躍っていた様です。騒がないのも勝負であれば楽しむのも勝負ですね」
「私も、何が起こるかまるで分からない戦い、楽しかったです」
「こちらこそ、ありがとうございました。かくとうバッジをお受け取りください」
握手を交わし、差し出されたかくとうバッジを受け取る。これで、ドラピオンが言う事を聞いてくれるといいんだが…そこはこれからだな。
「これからも様々な出会いと試合があるでしょう。それら全てが貴方達の心の糧となりますように」
サイトウの言葉には思うことがある。虫たちは成長が早い。色んな経験を力にして、育っていく。俺も、そうできればいいんだけどな。…俺は、虫ポケモン達と共に成長できているだろうか?
そんなことを考えながらジムの外に出ると、ちょうど入ろうとしていた少女と向かい合う形になった。俺を見て驚く少女。傍らにはにめんポケモンのモルペコがいた。
「あっ」
「ん?」
知り合いだっただろうか?と首を傾げ、会ったことのないはずの少女にどこかで見たような気がしてあるぇー?と悩む俺に、同じく何かを悩んでいた少女が意を決して話しかけてきた。
「あ、あの!あんた、ラウラ選手とね?よかったらちょいとあたしにつきあってほしか!」
「お、おう…?」
…ビートといい、ユウリといい、モコウといい、ジムチャレンジャーによく勝負を申し込まれるなあ、と遠い目になる俺の頭上で呆れた様な鳴き声を上げるバチュル。俺はそれを撫でつつ、マリィと名乗ったどこか聞き覚えのある彼女に続いて6番道路に向かうのだった。
ダイマックス同士で格闘戦してもいいじゃない。マリィの口調ってこれであってるかな?
・ラウラ
勝手にかげぶんしんを使うようになったテッカニンを扱える人。かげぶんしんと何時入れ替わったかわかる蟲限定眼力の持ち主。カブさんと同じキョダイマルヤクデにテンションフォルテッシモ。ダイマックス状態で格闘戦するという暴挙に出た。
・サイトウ
明鏡止水を心がけつつ、全然心が落ち着いていられなかった人。穏やかじゃないですね。カブさんに続いてラウラを大苦戦させた実力者。ダイマックスの認識がちょっと変わった。
・マリィ
ついに登場。エール団のアイドル。ラウラは天敵と言ってもいい存在。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。よいお年を。