「え。ここ、どこ!?」
目を覚ますと、そこはだだっ広い草原で。辺りを見渡すが夜の様で真っ暗でしかも霧がかかっておりなにもわからない。なんでこんなところにいるのか、最後の記憶を辿ってみる。
「昨日、お兄ちゃんが死んじゃって………ぐすっ」
そこまで言って涙が出てきた。仲がいいとまでは言わないけど、兄なのだ。引き籠もりでポケモン廃人で蟲狂いでいいところがまるでなかったけど、それでも家族だ。死んだら悲しいに決まってる。
「それで…葬式でお兄ちゃんの亡骸を見ていたら悲しくなってきて、外に飛び出したらトラックがやって来て…轢かれた?」
後追いはするつもりはなかったのだけれど、図らずもそうなってしまった。だとするとこれは夢、なのかな?にしてはリアルに寒いんだけど。制服姿で上着を羽織ってないから夜風が冷たい。現実だとしたらどういうことなのか。もしかして
「うん?」
すると近くの草むらがガサガサと鳴り始めた。動物かな?と見ていると、出てきたのはぬいぐるみの様な何か。ボロボロのピカチュウのぬいぐるみの様で、お腹に点々が付いている、去年までプレイしていたウルトラムーンに出てきたミミッキュみたいな………なんでそのぬいぐるみが草むらから出てきたんだ?
「もしかして…ミミッキュ?」
そう尋ねたら、下から手の様な布の様な物が飛び出して襲いかかってきた。ミミッキュだ、間違いない!?
「なんでホンモノ~!?」
全速力で走って逃げる。すると追いかけてきたミミッキュの伸ばした触手(?)が足に掠って転倒してしまう。痛い。見てみると、掠った場所から血が流れていた。間違いない、これは夢じゃない、現実だ。ジリジリと迫ってくるミミッキュに、私は恐怖に駆られて手元にあったものを手当たり次第に投げつけた。
「こっちに来ないで!」
するとコツン、と投げた何かがミミッキュのおでこに当たり、ミミッキュの姿が消えてしまった。恐る恐ると見てみると、転がるのは見覚えがありすぎる黒と緑のカラーリングのモンスターボール…ダークボールがあった。
「え?」
ぷるぷる震えていたそれがカチンと音を立てて静まったのを見て、思わず呆ける。えっと…ここはポケモンの世界で?ミミッキュがいて、今投げたのはダークボールで…?もしかして、捕まえちゃった…?
「ど、どうしよう…」
拾い上げてオロオロするが、とりあえず出してみる。出てきたミミッキュは襲ってきたのが嘘の様に大人しかった。思わず抱き上げると嬉しそうに揺れた。かわいい。
「…ポケモンの世界なら危険がいっぱいだし、手持ちが出来たのはよかった…のかな?」
ゲームと違って覚えている技とかなにもわからないんだけどどうすればいいんだろう?とりあえずここがどこなのか知りたい。草むらからミミッキュが出るってことは剣盾っぽいからガラルなのかな?そんなことを考えながらとりあえず落ちていたものを拾いつつ、キテルグマなどに気を付けながら歩く。ポケモン世界なら拾ったものは私のものだよね?
「霧が晴れてきた…うん?」
霧が晴れると、目の前に聳え立つ赤い壁があった。これを辿ればもしかして……そう思って壁を辿り、見つけた入り口の階段を上がると、そこには赤レンガと歯車と蒸気が特徴の、エンジンシティと思われる街が広がっていた。…当たり前だけど、ゲームより広い。圧倒された。
「とりあえずポケモンセンターかな」
入り口から比較的近い場所にあるこれまた見覚えがある建物に入る。ジョーイさんにミミッキュの入ったボールを渡して一休みしていると、モニターでポケモンバトルが放送されていた。そこには、私のよく知る姿より背が伸びて髪が少し伸びた少年が映っていた。
『おおっと!ジムリーダー、ビート!ステルスロックに翻弄されるー!これは二年前の再来か!?』
「ビートがジムリーダーってことは本編から少し経った時系列なのかな…」
じゃあ私の知識はまるで役に立たないな、と肩を落とす。これからどうしよう。戸籍もないから寝る場所もどうにかしなきゃいけないし、食料もなんとか確保しないと死んじゃう。…死んだかもしれないのに死んじゃうとはこれ如何に。
『先日メジャージムリーダーになったラウラ!これまでのダーティプレイが嘘の様な活躍だあ!我らが蟲の女王が戻ってきたか!?』
「ラウラ?蟲?」
全く知らないワードと聞き覚えのありすぎるワードが出てきて思わずモニターを食い入るように見ると、そこには
「はい、貴方のミミッキュは元気になりましたよ」
「ど、どうも…」
「それにしてもお客さん、ジムリーダーのラウラさんにそっくりですね。姉妹だったりします?」
「い、いえ、赤の他人です…多分」
首を傾げながら、とりあえずワイルドエリアで拾っておいた換金アイテムを売り払って外に出て、喫茶店に入り一息つく。………私によく似た女の子が、蟲ポケモンを使っている…それがどうも脳裏に引っ掛かる。喫茶店内のテレビにもさっきの放送が映っていて、人気の番組なのだとわかった。
『よくやったデンチュラ!』
全力でデンチュラを撫でて褒めまくるラウラの姿が、何故か知っている誰かと重なる。その誰かとは…私に似ていて、蟲が大好きで、ポケモンが上手い……そんな人、私は1人しか知らない。
「お兄、ちゃん?」
明らかに年が違うし、そもそも性別からして違うんだけど、何故かそう思った。私がこの世界に来たのは偶然じゃない、そう考えれば納得できる。信じられないけど、ラウラはお兄ちゃんだ。きっとそうだ。そう考えたら、すぐさま喫茶店のマスターにテレビを指差しながら捲し立てる。
「これ、生放送ですか!?」
「そうだよ。そこのエンジンスタジアムの試合さ」
「ありがとうございます!」
今いけば、会えるかもしれない。この世界での戸籍もなにもない私には、頼れるのはラウラがお兄ちゃんだという可能性しかない!
ミミッキュを抱きながら街中を走り抜けて昇降機に乗り、エンジンスタジアムに入ると関係者入り口を見つけ、スタッフに止められながらも乱暴に突破して第一控室と書かれた扉に飛び込むと、そこには驚いた顔のジムリーダー、ラウラがいた。
「お兄ちゃん!……だよね?」
「
年下の女の子を兄と呼んだ、明らかに不審者な私の名前を呼んでくれた少女の胸に、私は飛び込むのだった。
「ラウラさん。ここに不審者が来ませんでしたか?」
「いいえ、知らないが?」
「そうですか、お騒がせしました」
「………もう出てきていいぞ」
私をロッカーの中に隠してスタッフに受け答えした14歳の少女が私を呼ぶ声が聞こえて、外に出ると明らかに困惑した表情のラウラ…じゃない、兄が立っていて。私はここまでの経緯を話して、助けてと懇願する。
「俺みたいに転生じゃなくて…なんて言うんだ?そうだ、転移だ。転移したのか樹里は」
「そうみたい……ねえ、戸籍とかどうにかならない?」
「ダンデに記憶喪失の子だって頼めばなんとかなるかもしれないが……住むところはどうするんだ?」
「ゲームみたいにキャンプするとか…かなあ。キャンプセットもないけど」
「あ、やっぱりポケモンのゲームの舞台なのかこのガラル地方は」
そう尋ねてくる兄に、そう言えばこの人はBW2までしかやってなかったことを思い出す。フェアリーも知らないのによくジムリーダーになれたな…しかし可愛いな。妹みたいだ。兄じゃなかったらひたすら愛でたい。
「そうだよ。ポケモン剣盾の舞台。お兄ちゃんがジムリーダーになってたり違うところもあるけど」
「これでも頑張ったんだぞ。………しょうがない、とりあえず今日はうちに泊まれ。何とか説得する」
「え、いいの?実家?」
「いいや、実家とは離縁した。今は親友…じゃない、彼女の家に居候している」
「なんて?」
彼氏じゃなくて、彼女って言いましたこの兄は?引き籠もりでボッチで蟲狂いだった兄が恋をした?精神が男だからか女の子同士なのはちょっとツッコみたいんだけど。
「俺の彼女だ。お前も多分知ってるんじゃないか?多分、そのポケモン剣盾の主人公…だと思ってる、ユウリだ。今はチャンピオンだが」
「ええええええええええええ!?」
拝啓。お母さん、お父さん。異世界来たら兄が姉になっててチャンピオンの姉ができました(?)
思わず力いっぱい抱きしめてしまったミミッキュがぷぎゅっと声を鳴らして我に返る。けれど大混乱だ。なにがどうしてこうなった!?
その後、私は「小さい頃に間違えてラウラを兄と呼んでいた、ちょっと身長が大きいラウラの従姉妹のジュリ」としてこの世界に生きることになった。お姉ちゃんになったお兄ちゃんとどう接すればいいかはわからないけど、元の世界での冷めた関係からやり直せると思えば、いいことだと思う。
ジュリはそのうち本編にも出るかもです。
・桂樹里/ジュリ
今回の主人公。兄の樹月の葬儀の最中飛び出してトラックに轢かれ、転生ではなく転移してきた。実年齢はラウラが二歳年下になっていて複雑。兄(姉)に彼女ができて姉が増えて、しかもチャンピオンで主人公だったためさらに複雑。
パートナーは偶然拾ったダークボールで偶然クリティカルが出て捕獲できたミミッキュ。蟲を好み始めた兄とは敬遠し冷めた関係だったが決して嫌いではなかった。ポケモンはダイパから全シリーズ網羅しているがストーリー勢で廃人って程ではない。
・ラウラ/桂樹月
吹っ切れて初の試合を終えたら前世の妹が乱入してきて本気でビビった元主人公。この後ジュリを連れて帰ったらユウリに「浮気か!」ってキレられて宥めるのに苦労した。
・ビート
3VS3とはいえ吹っ切れたラウラと接戦を興じた挙句に敗北したが、元のラウラが戻ってきたので内心嬉しいエリート。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。