空飛ぶタクシーでエンジンシティに直行してもいいのだが、修行するべく第二鉱山に通ることにする。なにせ次はむしタイプの天敵タイプの一つ、ほのおタイプのジムだ。そのあとにはひこう、フェアリー、ドラゴンと蟲が苦手なタイプが続くのだ。有利なはずのみずタイプ相手にあんな苦戦するなど、今後が不安でしかない。
「であいがしら!」
次にメインウェポンとなるであろうグソクムシャを鍛える。野生ポケモンと出くわすたびに一蹴していく。まだだ、これではグソクムシャの経験が増えるだけで私自身なにも強くなれない。トレーナーと戦いたい。ポケモンの強さで足りないなら私自身が強くなるしかないんだ。
「……ここで待ってみますか」
わざわざここを通る人だ、腕自慢か強くなりたい人間が多いだろう。そう思って広場の様になっているここでキャンプを張る。それで丸一日、野生ポケモンの相手をしながら待っていると、人の気配。ぶつくさ文句を垂れながらその人物は現れた。
「お兄ちゃんもお兄ちゃんだよなー。せっかくだからジムチャレンジを楽しめばどうだ?って。プラズマ団が暴れている時期にしなくてもいいじゃん、私の強さは保証するって言われたけどさ。確かにお兄ちゃんにもルリナさんにも勝ったけど本気じゃないジムリーダーに勝ってもなあ」
「あの…」
「あ、はいなんですか?ってビート君がいないと思ったらまさかのライバル枠!?」
「ライバル?私なんかがです?」
サタリアと違って戦うことなくいきなりライバル言ってきた少女に首を傾げる。…何故か、ミミッキュを抱えていてラウラさんとそっくりな顔の人だった。血縁なんですかね?
「あ、えっと、違くて…私のライバルになってくれないかなあって」
「いいんですか?私こそ、強くなるために強いトレーナーと戦いたかったんです。ラウラさんやルリナさんに勝った貴方なら、相手にとって不足はない」
そう言うとにやりと笑う少女。ラウラさんにそっくりな笑みだ。血縁者で間違いなさそうだ。
「私はジュリ。貴女は?」
「私はダフネ、蟲使いを名乗ってます」
「お兄ちゃんと同じか。わざわざ蟲を使ってジム戦を越えたってことは強いね」
「お兄ちゃん?……ラウラさんのことですか?」
年齢は間違いなくこのジュリと名乗った少女の方がラウラさんより上だ。兄と呼ぶ理由はわからないが、男勝りなあの人ならそう呼ばれていても不思議じゃない。
「よくわかったね。お兄ちゃん…ジムリーダーラウラは私の従姉妹なんだ。小さい頃間違えてお兄ちゃんと呼んでからこの呼び方が定着しちゃって…他の地方から戻ってきたらジムリーダーになってて驚いたんだよね。ジムチャレンジ勧められて、やることにしたんだ。でもやるなら、ライバルがいた方がいいよね」
「はい。そう思います…!そのボールの数…3VS3でよろしいですか?」
「うん、そうしてくれると嬉しいな。……6VS3とかゲームだとザラにあるから助かるなあ」
「何か言いました?」
「ううん、なにも?それよりも、やろうか」
ミミッキュを手にしたダークボールに戻し、別のボールを手に構えるジュリさん。私もボールを手にして、同時に投げた。
「お願いします、アブリー!」
「いってらっしゃい、プルリル!」
私が繰り出したのはアブリー、ジュリさんは青い♂のプルリル。ミミッキュにプルリル…ゴースト使いか?
「可愛いよね、ゴースト。私ホラー映画大好きでさ。お兄ちゃんとはちょっと趣味が合わないんだよね。蟲も少し怖いし」
「それはちょっと同意しかねます。ようせいのかぜ!」
「あら残念。シャドーボール!」
ようせいのかぜを突き破って襲いかかるシャドーボールを宙返りで避けるアブリー。この子もようやく戦闘慣れしてきた。
「みずのはどう!」
「しびれごな!」
地面に叩きつけられて小さな波となって襲いかかる攻撃をプルリルの頭上を飛びながらしびれごなを振りまくアブリー。ちょこまかとした攻防はアブリーの得意分野だ。ジュリさんは思うように戦えないせいか焦った顔だ。
「やっぱりリアルなポケモンバトルは違うなあ…どうしようこれ」
「周りを飛びながらマジカルシャイン!」
「じこさいせい!」
周囲を舞うアブリーの攻撃を受けながら再生し続けるプルリル。でも時間の問題だ。痺れが入ってじこさいせいが止まり、致命的な一撃が入る。
「マジカルシャイン!」
「…なんてね?みちづれ」
「なっ!?」
プルリルが倒れる瞬間、目を見開いてそれに釘付けになったアブリーは一緒に崩れ落ちてしまった。やられた…!
「アブリーを倒せるポケモンがうちにはいなかったからこうするしかなかったんだ。次だよ、ゴビット」
「くっ…グソクムシャ!」
次に繰り出してきたのはゴビット。私はグソクムシャだ。相性はいいはずなのに、不気味さが抜け出さない。
「であいがしら!」
「のろい……シャドーパンチ」
「ダイビング!」
こちらの攻撃を受けながら拳の幻影を飛ばしてきたので水たまりを形成し潜って回避。しかしジュリさんは不気味な笑みを崩さない。
「失敗したね?じだんだ」
「しまっ…!?」
攻撃が失敗した時威力が上がる技。ゴビットに地面を揺らされ、ダイビングが解除され現れた水たまりから飛び出すグソクムシャに、拳を振りかぶるゴビット。
「メガトンパンチ」
強烈な一撃が顔面に炸裂。吹き飛ばされ、崩れ落ちるグソクムシャ。ききかいひが発動するかしないかの体力圏内にいつの間にか減らされてのとどめの一撃に愕然となる。
「さっき出した時にのろいを使わせてもらったんだ。逃げられたら厄介だからね」
「…そう、でしたか。貴女は強い、まるでラウラさんと戦っているような末恐ろしさです。でも負けない、負けていたら私は…大事なポケモン達を取り戻せない!ヘラクロス!メガシンカ!」
出すと同時にメガペンダントを握りしめ、メガシンカしたヘラクロスに驚愕するジュリさん。でもその驚きは、なんでここに?という顔だった。
「メガシンカ……ガラルにも普及してるなんて…でもやることは変わらない、のろい!」
そうジュリさんが言うとバタリと倒れるゴビット。同時にうぐっと苦しむメガヘラクロス。そして最後のポケモンであるミミッキュが繰り出される。またのろい…!
「さあて、メガヘラクロスが倒れるのが先か、ミミッキュを倒しきるのが先か。チキンレースしようか」
「貴女…性格悪いですね?」
「確実に勝てるならその方法を使うよね。ミミッキュ、かげぶんしん!」
分身してメガヘラクロスを取り囲むミミッキュ。それを従えるジュリさんの姿は悪魔の様だ。心底恐ろしい。だけど、ミミッキュとメガヘラクロスの相性は抜群だ。
「シャドークロー!」
「上に避けて分身全てにタネマシンガン!」
全ての分身が下から影の爪を伸ばしてきたのを、翅を広げて天井付近に浮かびタネマシンガンを高速乱射。かげぶんしんが次々と掻き消え、本体を炙り出す。
「そこお!」
「特性ばけのかわ、一撃なら…」
「ロックブラスト!」
「っ、かげうち!」
一撃目でばけのかわを剥がし、二撃目から五撃目でミミッキュを打ちのめす。一撃入れられたが大ダメージは与えた。あと少し…!
「じゃれつく!」
「上に避けてメガホーン!」
ミミッキュの突進を、翅を広げて上に回避。メガホーンを上から叩き込んでミミッキュを叩き潰した。その光景に呆けた顔を浮かべるジュリさん。信じられない、という表情だった。
「…ああ、負けた。のろいで倒れるまで時間稼ぎすればよかったなあ」
「実際かげぶんしんし続けられたら私が負けてました。…なんで、直接攻撃を?」
「なんだろうな、真っ向勝負したくなったのかな。…やっぱりそっちの方がポケモンバトルは楽しいもんね?」
そう笑顔で語り手を差し出すジュリさんと、私は自然に握手していた。ああ、この人となら。私は強くなれる。そう思ったのだ。
ゴースト使いジュリ。ラウラがポケモン廃人代表ならジュリは陰キャ戦法代表。
・ダフネ
初めて戦う陰キャ戦法に翻弄された主人公。目的のためなら坑道内でキャンプも辞さない。グソクムシャを育てるつもりがあっさり倒されてしまって頭を悩ませている。ジュリと言う強力なライバルを得た。
・ジュリ
ラウラに言われてジムチャレンジに参加することにしたポケモンプレイヤー。年齢的にはラウラより年上だが変わらずお兄ちゃんと呼ぶ。ホラー映画が大好きでゴーストポケモンを好み、蟲ポケモンは怖いから苦手。ラウラの家に居候中はポケウッドのホラー映画ばかり観賞していた。
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