「ヘラクロス…」
「落ち着いてダフネ、大丈夫だから」
カブさんからバッジを受け取り、慌ててポケモンセンターに駆けこんだ私と、ついてきたジュリさん。ジョーイさんに預けてしばらくすると、結果の書かれた紙を持って戻ってきた。
「短期間に慣れない過剰なエネルギーを何度も受けたことと筋肉の酷使による疲労が溜まった様ですね。当分は安静にした方が良いかと。バトルすることはおすすめしません」
「そんな…」
メガシンカのことをろくにわかってないのに馬鹿みたいに毎回使うからこうなってしまったのかと落ち込んだ。とりあえずヘラクロスをポケモンセンターに預けてジュリさんの提案で共に公園に移動する。
「他の地方のポケモン図鑑に載ってたけど、ヘラクロスはメガシンカが終わると酷い筋肉痛に悩まされるんだって。今、思い出したよ」
「そんなの、ヘラクロスは一度も…」
「ダフネに心配かけたくなくて、見せなかったんじゃないかな。信頼されてるんだね」
「…そんなにきついのなら教えてほしかった。ヘラクロスは思う存分戦いたくて私の手持ちになった、はずなんです。メガシンカで強くなって、ここまで最前線で戦い抜いて…彼に頼りすぎていました、限界なのにも気付かなかった…トレーナー失格です」
「私達はポケモンの言うことがわからないからね。しょうがないよ」
そう笑うジュリさんに対してますます落ち込む私。やるべきポケモンのケアを怠った。トレーナーである私のミスだ。このままヘラクロスを、蟲ポケモン達を使い続けていいのか、そうとさえ思えてきた。
「…このまま使ってていいのか、とか思ったらダメだよ」
「なんで…」
「それは貴女を信じて戦ったポケモン達への裏切りも同然だってことだよ。ポケモン達は私たちトレーナーを信じて危険な作戦でも実行してくれるんだから、その信頼に応えなきゃ嘘だよ」
そう言って立ち上がり、私の手を取り立ち上がらせるジュリさん。引かれるままにジュリさんについていく。
「ど、どこに?」
「見せてあげるよ。ポケモンとトレーナーの信頼関係を。トレーナー歴二ヶ月ちょいの私がね」
「に、二ヶ月ですか!?」
それは聞いてないのだが。え、私が修業のためにヨロイ島に行っていた時期じゃないか。そんなトレーナーがいるんですか…?すると自信満々だった顔が失言に気付いたのか口を押えるジュリさん。
「…あ、今の無し。今のは冗談、ね?こっちに来たのが二ヶ月前ってだけだから、うん」
「あ、はい」
冗談とは思えない。二ヶ月で培ったというポケモンたちとの絆、ぜひとも見せてほしい。
『続きましてのエンジンスタジアム挑戦者は、背番号000!不気味な戦法でラウラとルリナを破ったゴースト使いジュリ選手!対するはジムリーダー、カブ!3VS3のシングルバトルです!』
観客席からジュリさんとカブさんが睨み合うのを見守る。そこまで言うなら見せてもらいます、トレーナーとポケモンの信頼の形を。
「ダフネ君とは友人らしいね。彼女は…大丈夫だったかな?」
「問題ないですよ。そこで私の試合を見守っているはずです。…あれは、貴方のせいじゃない」
「そうかい。ならば心置きなく、君を倒させてもらおう。努力がそう簡単に実るとは思わない事だ」
「ならば、こちらも容赦なく呪い殺させてもらいます」
そう言って離れて、ジュリさんはまるでゾンビの様な動きをするとピタッと固まり、手にしていたボールのスイッチを押してゴビットを繰り出した。カブさんはコータスだ。ひでりがフィールドを照らす。
「やけどをさせている暇はなさそうだ。こうそくスピン!からのかえんほうしゃ、ふんえん!」
「メガトンパンチ」
甲羅に籠って高速回転、頭部の穴からの炎と頭頂部からの炎を吐きながら突撃するコータス。それに対して拳を振るうゴビットだが、回転しながら避けられてしまい、回転する炎の直撃を受ける。回転し続けるコータスと、炎の凄まじい勢いに耐え凌ぐゴビット。そしてジュリさんがにやりと笑う。
「じだんだ!」
「むう!?」
「メガトンパンチ!」
コータスを押さえつけながら地面を何度も踏みつけて振動を起こすゴビット。メガトンパンチが失敗した故の高威力だ。コータスは逃げられずに直撃を受けて回転が止まり首を出し、そこに鉄拳が叩き込まれ、戦闘不能となる。
「なかなかやるね。ならばこれはどうだ、キュウコン!おにび!」
「今更遅いよ。その場でメガトンパンチ、からのじだんだ!」
キュウコンの繰り出したおにびに直接拳を振るい、空ぶるゴビット。次の瞬間凄まじい振動がキュウコンを襲う。ジュリさんの指示を信頼してその通りに行動している。そこには確かな信頼関係が見て取れた。
「ごめんね。のろい!」
「なんだって!?」
そしてゴビットは倒れ伏し、同時にのろいを受けて残りの体力を削られたキュウコンが倒れた。…なんの疑いもなく、勝つために自滅を選んだ…。これが、ポケモンの信頼?
「…まさか、のろいのダメージ一回で落とせる圏内に体力を削るなんてね。どうしてわかったんだい?」
「ちょっとアバウトだけど計算して…あ、いえなんでもないです」
また失言したのか口を押さえるジュリさん。あの人は何度失言したら気が済むんだろう。
「よろしく、プルリル!」
「ひでりもあと少し、だな。ならば勝負と行こう、マルヤクデ!キョダイマックスだ!」
キョダイマックスするマルヤクデに対してダイマックスもしないジュリさん。龍の様な姿でプルリルを見下ろすキョダイマルヤクデの雄姿は、試合中にはそんな余裕はなかったが心底美しいと思う。
「ダイマックスしないというのなら容赦はしない!キョダイヒャッカ!」
「交代、ミミッキュ」
プルリルでなにをすることもなく、放たれたひでりで威力が上がったキョダイヒャッカを、ミミッキュのばけのかわで受け止めるジュリさん。
「ならば、ダイアーク!」
「ミミッキュ、ダイマックス。ダイウォール」
恐らく隠し玉であろうダイアーク…おそらくかみつくかかみくだく…が襲うも、ダイマックスさせてダイウォールで受け止めるミミッキュ。ダイマックスを枯らせるのが目的か?だけど連続のダイウォールは失敗しやすいはずだが…
「ダイアーク!」
「交代、プルリル。じこさいせい!」
ほのおのうずに巻かれていたものの、ゴーストタイプならば抜け出せることを利用した、再びのプルリルとの交代。出すと同時にじこさいせいさせて受け止める。それだけでボロボロだ。しかし心配するそぶりも見せずジュリさんを見て頷くプルリル。そこには確かな信頼関係があった。
「…タイプ一致ではないとはいえ効果抜群を耐えた上で回復するとは。だがここまでだ。ダイマックスが終わろうと、僕のマルヤクデは強い!」
今のは、ごく自然にプルリルを出して体力を上手く一撃圏内に調整してダイマックスを終わらせたんだ。一度戦った私には彼女たちがなにをしたいのか、わかってしまった。既にカブさんは彼女の術中だ。
「かみくだく!」
その指示をしたその瞬間、カブさんの敗北は確定した。恐ろしいその指示を、ジュリさんは顔色一つ変えずに死神の宣告の如く告げた。
「みちづれ」
かみくだくが直撃する寸前、プルリルの目が見開かれ……かみくだかれたプルリルと共にマルヤクデは崩れ落ちた。沈黙がフィールドを、観客席を支配する。
「…馬鹿な、この僕が……乗せられた…?」
『と、共に両者戦闘不能……ミミッキュを残しているチャレンジャーの勝利です!』
カブさんが信じられないとばかりに膝をつき、客席がざわつく。一方ジュリさんはボールに納めることなく歩み寄ってプルリルを抱きかかえ、放心しているカブさんからバッジを受け取ると一礼してその場を去って行き、私も席を立ってロビーへ急ぐ。
「ジュリさん」
「あ、ダフネ」
普段着のパーカーに着替えて出てきたジュリさんを出迎える。ひそひそとロビー内はジュリさんを見て囁く人が多かったので、ジュリさんの背を押して外に出て公園に向かった。
「あれが、ポケモンとトレーナーの信頼関係、ですか?」
「そうだよ。勝つために、私の指示に従ってくれる。どんな指示でも応えてくれる。信頼がないとできないよ」
そう断言するジュリさんに、思わず押し黙る。確かにあれは、それぞれが信頼しないとできないことだった。なんでそんなに信頼できているのかわからないが、少し羨ましいと思った。だけど…
「…貴方の戦術、多分反感を買うのでこれからは控えた方がいいかと…」
「え、なんで?」
「事前に言われてないとポケモンを平気で犠牲にして勝利を掴む人にしか見えませんよ…」
「ええ…」
翌日、ネットニュースで「冷酷なゴースト使いジュリ」と紹介されてジュリさんが遠い目になったのは言うまでもない。
ラウラとそっくりな顔で黒髪だから「ラウラのダークサイド」とか掲示板で言われているジュリ。
・ダフネ
ヘラクロスが倒れたことを自分のせいだと責め立てる主人公。ジュリの戦い方でちょっとだけ「ツッコミ」という元気を取り戻した。
・ジュリ
すぐ口を滑らすラウラの妹分。ゲーム感覚が抜けておらず、罪悪感はあれどのろいみちづれ戦術をすることに忌避感はまるでなく、認識が世間一般とずれてることに気付いてない。駆け引きが上手い。手持ちとの確かな信頼関係がある。
・カブ
メガシンカの次は番外戦術にも程があるみちづれで倒されてついに膝をついてしまったジムリーダー。勝利を確信していた故に心労が酷い。
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