今回はシリアス回となります。感想でさんざん言われてるけどダフネは許されたとはいえ犯罪者ですからね。本人も悩んでいたのです。楽しんでいただけると幸いです。
「ところでなんですが」
宿屋の同じ部屋で、ダダリンの舵輪を修繕していたジュリさんを手伝いながらふと、思ったことがあったので尋ねる。
「んー?なに?」
「ダダリンを捕まえたところで相手はあくタイプのジムリーダーなんですが勝算あるんです?」
「……………そういやそうだね」
まさかの無策らしい。思わず呆れると、接着剤でパズルの様に舵輪をくっつけながら天井を仰ぐジュリさん。
「とりあえず今回はさすがにみちづれは使う予定。てか使わないと多分勝てない」
「ですね」
「モルペコはゴビットで何とかする」
「はい」
「切札のオーロンゲもダダリンのアンカーショットでどうにかする」
「フェアリーでよかったですね」
「レパルダスとズルズキンはミミッキュで何とかなる。ほら完璧」
「それミミッキュ落とされたら不味くありません?」
「そうなんだよねー」
複合タイプの強みであり弱み。ミミッキュにはあくタイプの技が等倍で入る。私が喰らいそうになったわるだくみバークアウトを連打されたらひとたまりもないだろう。
「例えばですね…ゴビットのメガトンパンチをかくとうわざにするとか」
「メインウェポンがじだんだだからメガトンパンチが有効だったんだけど…ばくれつパンチに変えようかな。当たれば確定で混乱できて強いし」
「のろいを外せばいいのでは?」
「シャドー、メガトン、ばくれつ。三種のパンチとじだんだはありかもしれない。だがしかし、のろいは正直外したくない」
「その心は」
「呪いで倒すの楽しい」
「ええ……」
まあ確かに、のろいとみちづれはこの人の代名詞だ。特にのろいのダメージ計算は私の知る限りこの人にしかできない特殊な技能だ。その強みを失うのは駄目なのはわかる。理由は駄目なやつだけど。
「ゴースト以外にまんべんなくダメージを与えられるノーマル技の利点と、こうかばつぐんが入るが苦手なタイプもあるかくとう技の利点、どちらを選ぶかですね」
「決めた。メガトンパンチをやめてばくれつパンチにする。やっぱり確定混乱は強いよ。朝一でポケモンセンター行かないとなあ」
「舵輪、直りそうです?」
「徹夜で何とか。そのあと仮眠してジム戦、かな?」
「私のイオルブのサイコキネシスの練度が高ければもっと早く済んだかもしれませんね…申し訳ない」
「大丈夫大丈夫、パズルは好きだし、ジム戦もなるようになるでしょ」
まあ狙いのダダリン、それもぬし級の個体をいきなり見つけるのはラッキーすぎますが。幸運なだけで勝てる程ジムリーダーは甘くないと思うのですが。そういえば、ラウラさんに言われてジムチャレンジに参加したと言ってましたが…ジュリさんにも私の様な目的があるんでしょうか。
「そう言えばジュリさんは何か目標でもあるんです?」
「え?あ、言ってなかったっけ。勝手にいなくなって心配させたお兄ちゃんを、本気の状態でぶっ倒すことだよ」
「ラウラさんを…?」
「うん、まだ許して無いもんね。ジム戦のお兄ちゃんを倒したところで意味がない。セミファイナルトーナメントを越えて、チャンピオンカップで勝ち残ってくるであろうお兄ちゃんを完膚なきまでに叩きのめす。それが私の目的」
フフフフフフッと怪しい笑みを浮かべながらカチャカチャと舵輪を組み立てるジュリさんにちょっと引く。事情は分かりませんがラウラさんのことが好き故の行動だということが伝わってきます。
「そういうダフネはなんで?」
金槌で舵輪を打ちつけながらそう尋ねてくるジュリさんに、私は意を決して言うことにした。
「………私、二年前にラウラさんとチャンピオンのユウリさんたちを襲ったことがあるんです」
「ほえ?」
「私、普通になりたくて…蟲ポケモンが好きな私はそのことを否定して、普通になりたいと…どういうわけか驚きの三方論法で普通になりたい、普通は蟲ポケモンより伝説ポケモンの方が好ましい、伝説ポケモンを手に入れようと、こうなりまして」
「はえー、なんというか……馬鹿なのかな?」
「返す言葉もございません…」
いやほんとどうしてそうなった。我ながら謎である。冷静に考えれば普通にピカチュウとかを捕まえればよかったのだ。
「…それで、ムゲンダイナとザシアンと言う伝説ポケモンを連れているユウリさんに会うべく兄さんを唆してラウラさんがいると思われるカンムリ雪原まで…そこで、誰にも捕まってない伝説ポケモンを見つけまして」
「バドレックスか。……あ、今のは忘れて?」
「ラウラさんが教えたんですか?まあいいですけど、その時、魔がさして……さいみんじゅつを、ユウリさんにかけてしまったんです。邪魔してきたラウラさんにも……」
「拝啓父さん母さん、私が親友だと思っていた子が犯罪者だった件について」
「うぐっ」
親友だと言ってもらえて嬉しいけど拒絶されそうで泣けてくる。でも、ラウラさんの従姉妹だというこの人には言っておかないといけない。
「結局、さいみんじゅつをラウラさんに自力で破られて完膚なきまでに敗北して。でも、ラウラさんもユウリさんも一緒にいたモコウさんも……私が反省しているとして警察に何も言わないでくれたんです。おかげで出頭したのですが証拠不十分で解放されて…この二年間、罪を清算すべく自主的に奉仕活動をしてました」
「お兄ちゃんは化け物かなんかなのかな?心も広すぎない?」
「それは正直同感です。それで私、蟲ポケモンが好きな自分を肯定して、前向きに生きて行くためにジムリーダーになったラウラさんに頼んで推薦状をもらって…チャンピオンユウリさんの元へ、あの時はすみませんでしたと謝り、今の自分の力を証明すべくジムチャレンジに参加しました」
そこまで言いきると、黙々と舵輪を組み立てるジュリさんの反応を無言で待つ。静寂が恐ろしかった。
「…なるほどね。さっきはちゃかしたけど、お兄ちゃんたちが許したならいいんじゃないかな。反省しているならもうしないだろうし」
そう笑うジュリさんに、泣きそうになる。なんでこの同じ顔の人達はこうまで優しいのか…
「でもさ、こう言っちゃなんだけど証明したいだけなのに、焦りすぎてない?まるで、どうしても強くならないと、って突き動かされてるような…もしかして、前に言っていたプラズマ団に奪われたポケモンと関係ある?」
「推薦状をもらいに行った日。ポケモン研究所を襲ったプラズマ団の幹部と遭遇しました。かつてのこともあったので見過ごすこともできず、交戦し……私は敗北しました」
「それってまさか…」
「はい。クワガノンとアーマルド。イオルブと共に私の手持ちだった二体を奪われてしまったんです。イオルブだけはラウラさんが取り返してくれました。私はそれを取り返したい、でも今のままではあのシュバルツと名乗ったプラズマ団の幹部には勝てない……だから、私は…!」
「それで、ヘラクロスがぶっ倒れるぐらいに焦ってバトルし続けてたんだ。……決めた。私、ダフネが強くなれるように手伝うよ。元々プラズマ団との戦いで無茶しない様についてきたんだし、無茶しない程度に手伝うよ。ポケモンを強くする方法ならいくらでも知ってるしね」
「ジュリさん……」
「だからさ、私を頼ってよ。私もダフネを頼るからさ。っと、できた。さっさと寝て明日に備えよっか」
涙を堪えきれなくなったのを隠すためか、舵輪を修繕し終えると部屋の明かりを消してベッドに入るジュリさん。睡魔に負けそうになるまで私は声を押し殺しつつ泣いた。
翌日。あっさりジムミッションをクリアしつつマリィさんと対峙するジュリさん。金網越しにその光景をはらはらと見守る。
「ゴーストポケモンだけでよくうちのジムトレーナーたちに勝ったとね!でも、その快進撃もここまでたい!レパルダス!」
「生憎と、親友に頼ってもらうために負けられないんです。ガチで勝ちに行きます、ゴビット!」
そして、不敵に笑ったゴースト好きの少女とあくタイプつかいの先鋒がぶつかった。
2人の「妹」が真の意味で親友となる話。
・ダフネ
ラウラへの愛?を爆発させるジュリに隠し通すことこそ罪だと暴露した主人公。受け入れてもらえた喜びと過去の自分が情けないという感情とプラズマ団への怒りでどうにかなってしまいそう。
・ジュリ
片手間にダダリンの舵輪を修繕したダフネの親友。のろいとみちづれはアイデンティティ。頼られるために、苦手なあくタイプ相手に立ち向かう。過去に何があっても今がいいならそれでいい、過去は過去と割り切るタイプ。兄に実害(怪我とか)が出ていたら許して無かった。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。