今回はヤユイとの決着。楽しんでいただけると幸いです。
「ブラッキー、あくび!」
夕方から夜になる。暗くなると目立つ赤い瞳を煌々と輝かせ、負けられない、と叫んだ二重人格の少女の一手はあくび。次に技を出したあとに眠り状態になってしまう凶悪な技だ。だが交代すれば、とボールを構えると、ブラッキーの目が全て黒に染まる。
「くろいまなざし!」
「なっ!?」
ボールに戻せない、逃げれなくなったメガヘラクロス。ならば、ブラッキーだけでもここで落とす!
「メガホーン!」
「つきのひかり!」
やられた。ブラッキーは確か、防御の堅いポケモンとして有名だ。耐えられた上で、つきのひかりで完全回復されてしまった。そんな馬鹿な…そして眠りに落ちるメガヘラクロス。かといって戻すこともできない。できるのは、早く目を覚ますことを願うだけだ。
「うわあ、凶悪コンボ…あの子、ブラッキーのことよくわかってるなあ」
「くっ…起きて、ヘラクロス!」
ジュリさんが感心する中で、私の悲痛な叫び声が木霊する。しかしヤユイは笑っていた。
「こうなったらもう、なにもできない!じっくり蜘蛛の巣に絡め取るように…イカサマ!」
鋭い一撃がメガヘラクロスに炸裂する。効果は四分の一のいま一つ、だがしかし攻撃力が高いほど威力が上がる技だ。メガシンカしたことで攻撃力が向上しているメガヘラクロスではそう何度も耐えられない。完全に相手の策にはまってしまった。
「…これ、メガシンカ対策だ。メガシンカすることで必ず攻撃力が上がるから…」
「そうだよ!あの時も、こうすれば!こう、できれば!私は、大事な友達を失うことはなかったんだ!イカサマ!」
ジュリさんの合点が行ったような言葉に返す様に悲痛な声を上げ、イカサマを連打してくるヤユイ。話が、見えてきた。そしてつい最近、私は似た様な話を下手人の口から聞いた。まさかとは思うが、恐らく間違いない。
「……ヴァイス、と言う名に聞き覚えはありませんか」
「!?」
私の口から語られた言葉に、指示する口が止まるヤユイ。ジュリさんは首を傾げているが、ビンゴだ。少しでも、ヘラクロスが目覚めるまでの時間を稼ぎたい。
「なんで、その名前を……やっぱり、アイツの仲間か!」
「違います!正真正銘、ヴァイスの敵です!私は先日、プラズマ団の幹部ヴァイスを名乗った女と出会いました。その際嬉々として語っていたんです、昔カロスで相手のポケモンを死なせて追放されてしまったと。その相手とは、貴女ですね?」
「っ…!」
この世の全てに憤怒を抱いているような少女にあるまじき表情を浮かべるヤユイ。相当怨みが深いらしい。茫然としつつ、バトルしていることを忘れたのか天を仰いでぶつぶつと呟き始める。
「待って。アイツが……ガラルにいる?アローラ、ガラルと何度も引っ越して、もうアイツと出会う機会すらないと思っていたのに……プラズマ団として、いる…?」
今の間にメガヘラクロスを起こそうと呼び掛けていると、突如笑い始めたヤユイがその手に新たなボールを取り出したことに気付く。ルガルガンか?と思ったが違うらしい。
「はは、ははははは!やったよ、ヨハル!私達、ヴァイスとまた会える!しかもプラズマ団だってさ!完膚なきまでに叩き潰して、思う存分痛めつけても犯罪にはならない!私達なら許されるよね!あの子の仇が取れるんだよ、ヨハル!」
その狂ったように笑う姿に、不味い情報を与えてしまったと確信する。まだ私より幼いと言うのに、自分のポケモンを殺されたなんて、どれだけ深い闇を抱えてるんだろうか…私なんかの過去なんて比べ物にならない。
「…教えてくれてありがとう、ダフネお姉さん。この世で一番大嫌いな女の事を教えてくれたお礼に………全力で、叩き潰すね」
背中に感じるひやりとした殺気と共に、莫大な冷気を放ちながら繰り出されたのはアマルルガ。特性はゆきふらしなのか、晴れていた夜空にあられが降り始め、あまりの寒さに目を覚ますメガヘラクロスだが、その巨体にたじろぐ。ブラッキーが戻されたことでメガヘラクロスを戻せるようになったが、これはやばい…!
「戻って、ヘラクロス!お願い、グソクムシャ…!」
ヒレが赤く輝くのを、私は前にカンムリ雪原で見たことがある、攻撃の予兆だ。そして図鑑によれば、アマルルガはマイナス150度の冷気を操るという。そのふぶきの威力は、ブリザードと呼称される程に他のこおりポケモンとは桁違いの強さを誇る。しかもあられで必中だ。ここでヘラクロスを失う訳にはいかない。
「であいがしら!」
「うん、戻すよねお姉さんだったら!フリーズドライ!」
やられた。ふぶきが来ると思って少しでもダメージを与えようと試みたら、放たれた冷気でこおりつけになってしまった。フリーズドライは例外的にみずタイプにも効果抜群になる、戦闘不能だ。
「くっ…ヘラクロス!インファイトです!」
「無駄だよ。ふぶき!」
メガヘラクロスを再度繰り出し、四倍弱点であるかくとうわざで一気に決めるべく突貫するも、全身から放たれた凄まじい威力の吹雪により巨大な氷塊に閉じ込められ、動かなくなる。強すぎませんかね…!だけど、メガヘラクロスならば!
「さっさと最後のポケモン出してよ。お姉さんは勝てないから」
「…それは、なんでですか?」
「私は、軽い気持ちで応じたバトルでポケモンを死なせてしまったヨハルの後悔が生み出した、誰にも負けることはない最強の自分だからだよ」
そう語るヤユイの目には、自信があった。今の自分は誰にも負けないという自信が。勝ち誇っている様であるが、まだだ。まだ、メガヘラクロスは負けていない。
「メガヘラクロスが倒れてしまって…あれから調べました。ヘラクロスはメガシンカすることで急激に体温が上昇すると。冷やしてくれてありがとうございます。ロックブラスト」
「…!?」
ドドドドドン!と連続した破壊音とともに砕け散る氷塊。内部から現れたのは、両腕から岩を連続射出するメガヘラクロス。そのまま砲口をアマルルガに向け、連続した打撃音とともにその巨体が崩れ落ちる。
「そんな……!?それなら…ブラッキー!あくび!」
「カラクリが分かれば!タネマシンガン!」
今度は小回りが利くタネマシンガンで、ちょこまか動きながら発動しようとしていたあくびを封じる。あくびさえなければブラッキーは脅威ではない。
「タネマシンガンで体力を削りつつ、メガホーンです!」
「つきのひかり!」
体力を一撃で落とせる圏内まで持っていきたかったが、回復される。ならば、倒れるまで殴り続ける!
「インファイト!」
「つきのひかり…!」
回復し続けるブラッキーを殴り続けるメガヘラクロス。耐久には耐久だ。こっちもどんどんぼうぎょととくぼうが下がって行くが、知ったこっちゃない。そしてついにブラッキーは倒れ伏し、メガヘラクロスが勝鬨を上げた。
「私は…負けるわけには、いかないんだあ!ルガルガン!」
「タネマシンガン!」
「いわなだれ!」
まよなかのすがたのルガルガンが繰り出されると同時に両手に抱えられた岩石の山が振り下ろされ、ぼうぎょが下がりに下がりまくったメガヘラクロスは耐えきれず、叩き潰され慌ててボールに戻す。やはり残ったか、ルガルガン。アマルルガもそうだが、むしタイプで挑むにはいわタイプはあまりに天敵過ぎる。クワガノンで勝てるだろうか。いや、勝つしかない。
「クワガノン!ほうでんです!」
「がんせきふうじで受け止めて!」
「それを、待ってました!ねばねばネット!」
ほうでんを防御した岩石の山に、クワガノンの口から放たれた粘々した糸が網の様になって岩石を中に閉じ込め、飛翔するクワガノン。ほうでんが防がれるのは分かっていた、ならば勝機はこれしかない!技を利用した技じゃない攻撃!
「そのまま空中から叩きつけて!」
「か、カウンター!」
岩石の山を持ち上げて天高く飛翔し、急降下したクワガノンの即席鈍器が、咄嗟に振るわれたルガルガンの拳と激突。しかし勢いを殺しきれず、ルガルガンは叩き潰され戦闘不能となった。私の勝利だ。
「わ、私が、負けた……?」
「ヤユイ!?」
「いや、ヨハル!?ああもう、どっちですか!」
負けたことがショックだったのか、ルガルガンをボールに戻すと目の色が青く戻り気を失って倒れてしまうヨハル(多分)に慌てて駆け寄る私達だった。
アマルルガの図鑑設定が明らかに最強な件。
ダフネ
以前出会ったヴァイスの言葉とヤユイの言葉が紐づいて真実に行きついた主人公。自分の抱えていたことなんてそんなでもなかったことを思い知る。
・ジュリ
ヤユイのブラッキーの扱いにゲームを思い出したダフネの親友。正直戦わなくてよかったと思ってる。
・ヨハル
元々カロス地方に住んでいた少女。過去にヴァイスにポケモンを事故で殺された張本人。親の配慮でアローラ(ジム制度がない)、ガラル(他の地方よりもスポーツとしての側面が強い)と引っ越しを繰り返した。詳しくは次回にて。ブラッキーとアマルルガとマニューラはカロス時代からのポケモン。
・ヤユイ
ポケモンを死なせてしまったことに後悔しヴァイスに怨みを抱いたヨハルが生み出した「誰にも負けない、自分のポケモンも死なせない、最強のトレーナー」としての人格。その本質はヨハルのトレーナーとしての才能が凝縮された存在で、夜中の自主練を偶然目撃したユウリが推薦状を渡すぐらいに強い。ルガルガン(ヨロイ島ではなくアローラで)とタチフサグマ(ガラルで)はヤユイとして捕まえたポケモン。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。