という訳で今回は原作イベント介入回。VSビートです。いつもより長いですが楽しんでいただけると幸いです。
ルミナスメイズの森を抜け、ラテラルタウンに戻ってきた。そらとぶタクシーでもよかったのだが、のんびり市場で掘り出し物のどうぐでもないか見て回るつもりだ。ちなみに頭にデンチュラを乗せてみたが普通に重すぎたため、しかたなくボールに入れている。頭の軽さが寂しいなあ。そんなことを考えていると、ジム前をすれ違った時、見覚えのある顔と遭遇した。
「もしかして…ユウリか?」
「あれ、ラウラさん?」
「ユウリ?こちらの人ってまさか…」
そこにいたのはユウリだけでなかった。ハートの飾りを散らしたオレンジ色のサイドテールで頭の上にサングラスをかけている、丈が若干短いへそ出しの緑色のニットと茶色の上着、水色のジーンズとブーツを身に着けた、傍らにワンパチを連れた女性がいた。
「あ、どうも…ラウラです」
「やっぱり!むしポケモンだけでジムリーダーを撃破してるっていう噂のチャレンジャー!あ、私ソニアと言います。ポケモン博士の助手…をやってるわ。よろしくね」
「はあ、よろしく…ユウリはラテラルジムを突破したところか?」
「うん!ラウラさんはアラベスクジム帰り?あれ、バチュルはどうしたんですか?」
「前に言い忘れたけど呼び捨てでいいよ、同い年だろ?バチュルは進化して頭に乗せられなくなって…」
「ああ…私もココガラが進化してから大変だったからわかる。ラウラも大変だね…」
しみじみとユウリと2人して語り合っていると、ソニアさんがなにやらいいことを思いついたように顔を輝かせた。
「そうだ、ラウラも来る?これからユウリとラテラルタウンの遺跡を見ようと思ってたんだ。貴方の視点なら面白い意見も聞けるかもだし、一緒にどうかな?」
「まあ、ナックルシティに戻るだけだったんでいいですけど…」
その時だった。ドウーン!!という爆音が聞こえてきたのは。
「今のは!?」
「遺跡の方から聞こえたけど…行ってみよ!おいで、ワンパチ!」
「ええ…」
ソニアさんとユウリが駆けて行くので、慌てて追いかける。…まさか、今更になって悪の組織でも暴れ出したのか?エール団がそうじゃないかと思ってたがこんな派手な悪事まで起こすようには見えなかったが…過去にプレイしたポケモンの、ロケット団、アクア団、マグマ団、ギンガ団、プラズマ団といったテロリスト紛いのことを平気で行っていた悪の組織を思い出して焦燥する。行かなくてもいいんだろうが、知り合ったばかりとはいえ知り合いだけを危険な場所に行かせるわけにもいかない。
長い階段を登り終え、目にしたのはダイオウドウと言われる象の様なポケモンを連れた、いつしか見たウールー頭の少年。そこにあるよくわからない落書きの描かれた遺跡の壁を破壊しようとしている光景だった。
「もっと!もっと壊しなさい!ねがいぼしを掘り出すのです!ねがいぼしを集めれば委員長が認めてくれます!ダイオウドウ!あなたも委員長のポケモンならばねがいぼしを探せることを心から喜ぶべきなのです!」
「お前、たしか…えっと…」
「ビート!一体何してるの!?」
「そうだ、ビートだ!盛大な独り言言ってたがよくわからないぞ!」
「ん?やれやれ、たしか…むしつかいのラウラさんとユウリさん、でしたか。今からでもねがいぼしを集め委員長に気に入られたい…そういうことですか。なるほど、考えたものですね」
「え?」
「いや、俺そんなことに興味ないけど」
「わ、わたしも…」
こちらに気付いたかと思ったらなんか見当違いなことを言ってきたビートに、二人して首を傾げる。ユウリはチャンピオン、俺はジムリーダーから推薦をもらえているけど、委員長から推薦状をもらったとか言っていたビートがなんでそこまで固執するのかよくわからない。
「委員長なんかより蟲ポケに好かれたくないか?え、違う?」
「ラウラさん、あなた…委員長が虫けら以下だと?愚の骨頂ですね!貴方達の言い訳も聞き飽きました。ですがそんなことは認めません!誰にも邪魔はさせないのです!」
「あ?ユウリとソニアさんは下がってろ。蟲を馬鹿にしやがったこいつは許せん」
「「う、うん…」」
▽ポケモントレーナーの ビートが 勝負を しかけてきた!
「フッ、リベンジマッチですか。いいでしょう。いきなさい、ダブラン!」
「リベンジマッチ?いいや、これは蹂躙だ。ドラピオン!」
キラキラした目で俺を見るユウリと、困惑しているソニアさんを置いて始まったポケモンバトル。ビートが繰り出したのは、以前出したユニランが進化したであろうダブラン。対して俺はポプラ戦から変えていないドラピオン。勝負は決まったといってもいいだろう。
「くっ…サイコショック!」
「こうかがないと知って撃ってくるか、それもまたよしだ!つじぎり!」
物理ダメージもある念動力で大地を砕いて物理で攻撃してきたが、ドラピオンは物ともせずに突っ込んで十字の斬撃を叩き込む。あっさり戦闘不能になったダブランを戻し、苦虫を噛み潰した様な顔になるビート。それもそうだろう、なにせあくタイプにエスパータイプの技は効果がないのだから。
「あなたたちの実力…今のでほぼほぼ理解しましたよ。以前と何もお変わり無いようで。愚直に突っ込んでくるだけとは」
「その何もお変わり無い奴の蟲ポケモンにお前は負けるんだよ。宣言する、俺はこの一匹だけでお前に勝つ」
「はっ!言ってなさい!そんな口ぶりでいれるのも今だけです!行きなさい、テブリム!」
繰り出されたのはミブリムが進化したのだろうテブリム。さすがにエスパー技だけじゃなさそうだ。
「僕の相棒が放つわざはさぞかしご機嫌でしょうよ!マジカルシャインです!」
「こおりのきばで防御だ!」
放たれる眩い光を、ドラピオンは冷気を纏った牙を大地に突きたてて氷壁を展開。完全に防ぐと氷壁を砕きながら突撃し、爪を振りかぶる。
「なっ…!?」
「つじぎりだ!」
戦闘不能になるテブリムに、ギリリと唇を噛み締めるビート。むしタイプもそうだが、あくタイプとエスパータイプ程優劣の差がはっきりしているタイプ相性もそうないだろう。まあ、マジカルシャインもあくタイプには効果抜群だがどくタイプで半減できるので急所に当たらない限り効かないんだろうが念のために防がせてもらった。よし、フェアリータイプをなんとか理解できてきたぞ。
「ご、ゴチミル!がんせきふうじです!」
「ミサイルばりで打ち砕け!」
次に繰り出したのはゴチムが進化したであろうゴチミル。こちらのすばやさを下げようとしたのか、岩石を降らせてきたが、ミサイルばりで打ち壊しながら攻撃。岩を砕いても衰えない威力で全弾命中し、戦闘不能。ユウリとソニアさんも顛末が見えたのかビートを哀れそうに見ていた。
「委員長のために勝ちます!僕の生きる道を塞がせるか!ポニータ!」
そう叫んで繰り出したのは、新顔であろうガラル地方のポニータ。たしかエスパータイプだったはずだ。ポニータはドラピオンの周囲を走り回り、翻弄しようとしてきた。不思議な風が吹き荒れる。これは…
「ようせいのかぜです!あくタイプ対策をしてないはずがないでしょう!」
「…あー、悪い。ドラピオンはどくタイプでもあるんだ。地面にクロスポイズン。そのあとこおりのきばだ」
俺の指示に、毒滴を纏った爪を振り下ろすドラピオン。すると毒飛沫が周りに飛び散り、ようせいのかぜを打ち消した。そして走り回るポニータに、再び大地に突きたてられた冷気を纏った牙から氷結していきポニータを拘束。動けなくなったところにのしのしと歩み寄ったドラピオンは両手を振りかぶる。
「つじぎりだ」
「…!これはなにかのミスです!やり直しを要求します!」
戦闘不能になったポニータをボールに戻し、俺に掴みかかってくるビート。それを止めようとユウリが引きはがそうとし、それには目もくれずビートは続ける。小さい体が持ち上げられてぐわんぐわんする。ドラピオンも止めようとしたので手を制した。さすがにダイレクトアタックは駄目だ。
「あなたは!貴女という人は!僕から自信も、勝利も、心も、委員長からの信頼も、全てを奪っていく!なんなんですか貴女は!この悪魔め!」
「ビート、それぐらいにしようよ!ラウラが困ってるって!」
「…いやまあ、前回も今回も圧勝して悪いとは思っているけどさ…蟲を馬鹿にしたのは許してないぞ」
「なぜ…どうして僕が邪魔されるのです!?委員長に選ばれ、いずれはチャンピオンにも勝つ…いわばガラルを背負って立つエリートの僕なのに…!」
「ビート選手!」
そこに聞こえてきたのは、聞き覚えの無い女性の声。やってきたのは、リーグスタッフを数人引き連れたローズ委員長と、たしかその秘書であるオリーヴさんだった。どうしてここに…?いや、ガラルの文化遺産だとかいうこの遺跡が壊されそうになったんだから当然か。冷静になったのか俺を下ろして振り向いたビートに、続けるオリーヴさん。
「ローズ委員長のダイオウドウをお借りしたいって何事かと思えば…まさか遺跡を壊すだなんて!」
「1000年先の未来に比べ遺跡が何だと言うんですか!?そのようにあまいかおりよりも甘ったるい考えで委員長をサポートできますか?なぜ秘書をしているんです?」
ちょっと待て。なんで1000年後の話が出てくる?と尋ねたかったが、掴み上げられた影響で呼吸が整わずへたりこんで見上げることしか出来ない。そんな俺を介抱してくれるユウリとソニアさんには感謝してもし足りないな。すると黙っていたローズ委員長が静かな面持ちで口を開いた。
「ビートくん。声を絞り出すけれど本当に残念ですよ。たしかに幼い頃、孤独だった君を見出した。才能を伸ばすためトレーナースクールにも通わせたし、昔のわたくしを思い出しチャンスも与えましたよね。ですが遺跡を壊すような、ガラルを愛していない…君のような選手はジムチャレンジにふさわしくない!追って処分を決めるからすぐナックルシティに戻りなさい」
「嘘………ですよね?」
その言葉に目を見開き、ぷるぷると身体を震わせるビート。…事情は分かった。恩人である委員長に報いようとしたら暴走しすぎた。なんというか…同情はできないな。やったことがやったことだ。あと蟲ポケを虫けら言うな。
「僕が失格ということは選んだ貴方のミスですよ?100ある選択肢の中でもっとも最悪のチョイスです!あ、あいつなんかより劣っているというんですか?この僕が!?あんな、病弱だから委員長に取り入れた女に!?」
「君にムツキくんを悪く言う資格はないよ、ビートくん。本当に残念だ」
「ビート選手。貴方が集めていたねがいぼしは預かっておきます」
その言葉と共にリーグスタッフに連行されていくビート。…というかムツキも委員長の推薦だったんだな。
「ソニアくん。ユウリくん。そして初めましてだね、ラウラくん。とんだトラブルでしたね」
「俺のことを知って…?」
「もちろん。ガラルを盛り上げてくれるであろう期待のジムチャレンジャーだからね。こんな形でジムチャレンジャーが消えていくのは寂しい限りだが、大会はフェアでないとね。じゃあ二人とも、期待しているよ」
そう言って去って行くローズ委員長とそれに続くオリーヴさん。…悪い人じゃなさそうなんだよな。
「ビート…なんであんなことを…」
「いつだったか、ビート選手の試合で実況が言っていたけど身寄りがなくて引き取ってくれたローズ委員長のために戦うって」
「なるほどね…」
「ビート…もう戦えないのかな…」
なんか言ってるユウリはバトルジャンキーなのは間違いない。俺と戦いたいのかうずうずしているし。
「それよりも、遺跡は無事かしら?」
そう、ソニアさんの台詞に振り向いた矢先だった。ガラガラと音を立てて遺跡が崩れ、中から異様なものが姿を現したのは。
色々初登場が多かった回。
・ラウラ
完全復活して調子がいい我らが主人公。さすがにデンチュラを頭に乗せることは叶わなかった。蟲ポケモンを虫けらとバカにしたビートに怒り心頭。ドラピオンで蹂躙した。粗暴ながらも目上の人にはさん付けするいい子。ローズ委員長にも目を向けられていた。ビートに悪魔呼ばわりされるが全く気にしてない。
・ユウリ
久々登場原作主人公。3回目のビート戦をラウラに取られる形に。相変わらずラウラの強さに興味津々。ラウラと呼び捨てに言い合える友人になれて嬉しい生粋のバトルジャンキー。
・ソニア
初登場、マグノリア博士の孫にして助手。元ジムチャレンジャーなので、むしポケモンでジムチャレンジを勝ち進んでいるラウラを尊敬している。
・ビート
1話以来の登場ライバルの一人。ラウラに自信を砕かれ結構気にしていて素直にリベンジマッチを挑んだが、せっかくテッカニン他むしタイプ対策はしていたのに最悪な相手であるドラピオンに全タテされてラウラを悪魔と罵倒し殴りかかった。同僚?のムツキが気に入らないが、あちらからは認識すらされていない。暴走したことにより委員長直々にジムチャレンジ失格を言い渡される。ピンク(重要)
・ローズ
名前だけ出ていたけど初登場、ガラルリーグの委員長にして大企業マクロコスモスの社長。ビートとムツキに推薦状を渡した人。一応ムツキの親にもマクロコスモスの関係者だったため連絡を取って仮の保護者になっている。ラウラのことはガラル地方を盛り上げてくれる人間だと期待している。最近、エリート社員の一人が従順すぎて怖いらしい。
・オリーヴ
初登場、ローズ委員長の秘書。ビートとムツキへの連絡係でもある。直接の部下であるエリート社員の方が仕事ができて秘書の座を奪われそうになっているとかなんとか。
布石は大事。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。