激突する、BWキュレムとレシラム。鬩ぎ合っていたこごえるせかいは青い炎を飲み込んで、何にも守られていないダフネを襲わんとした。咄嗟に、動く左手で握ったボールを渾身の力で投擲する。お願い、ヌケニン!
「これは…ジュリさん!?」
まもるを発動したヌケニンに守られたことで助かったダフネがこちらに振り返り驚愕の視線を向けてきたので、ボールを手渡し、動く左目だけ瞑ってウィンク。生きてるよ、と伝えることに成功した。とはいっても動けないのは変わりないのだが。
「お借りします…ヌケニン!力を貸してくれますか?」
頷くヌケニン。蟲使いのダフネとヌケニンが力を合わせる。その前で組み合い、殴り合う二体のドラゴン。
「「ドラゴンクロー!」」
クロスカウンターで同時に顔面に叩き込まれ、レシラムだけが爆発を受けて吹き飛ぶ。劣勢。トウヤさんとレシラムは劣勢だ。体格でさえレシラムの1.5倍あるのだ、殴り合いじゃ分が悪い。かといって距離を取っても…
「距離を取ろうと無駄だ!コールドフレア!」
「クロスフレイム!」
冷気と熱気が合わさり大爆発が起きて、レシラムの放った火炎も飲み込まれてしまう。どうすればいいんだあれ。ゲームにいないポケモンだから全然わからない!
「二匹とも、あなをほる!」
するとダフネが動いた。クワガノンとヌケニンにあなをほるを指示したのだ。爆発が立て続けに起こる中、鉄の床の下に潜り込む二体に、BWキュレムとグレイは気付いてない。目の前のレシラムとトウヤさんにかかりきりだ。
「フリーズボルト!ドラゴンクロー!」
「あおいほのおで溶かせ!ドラゴンクローで受け止めろ!」
BWキュレムの放った電撃を纏った氷柱を青い炎で蒸発させ、ドラゴンクローの爆発をドラゴンクローで受け止めるレシラム。技量でBWキュレムに対抗している、さすがトウヤさんとレシラム。ほぼ互角のゼクロムとNに勝利しただけ真実の英雄と呼ばれるだけのことはある。
「そこです!」
床からBWキュレムに弾丸の様に飛び出したクワガノンとヌケニンが直撃。でんき・ほのおタイプがある故に効果抜群の攻撃を受けたBWキュレムは仰け反り、その隙を突いて組み伏せるレシラム。
「ナイスだ、ダフネ!さすが勝ち残ったジムチャレンジャーだな!零距離ならひとたまりもないだろう!あおいほのお!」
「なんの!氷壁展開…そしてドラゴンクローだ!」
クワガノンとヌケニンがそそくさに離れると、グレイを巻き込むことも厭わず、あおいほのおを叩き込むレシラム。対してレシラムの腹部に爪を突き刺し、大爆発がBWキュレムとレシラム、その上に乗るグレイとトウヤさんを飲み込んだ。
「トウヤさん!」
やったか?と一瞬思ってしまう。さすがのBWキュレムも、効果抜群を立て続けに受けたら…しかし現実は非情で。爆発が晴れた時、立っていたのは全身に薄い氷の膜を張っていたBWキュレムと、その背に展開された氷壁に隠れていたグレイで。レシラムとトウヤさんは力なく倒れ伏していた。
「フハハハ!俺が乗ることを想定して生み出したこのBWキュレムが防御手段を持ってないわけがないだろう!」
「…グレイが乗ることを想定した…?」
何が引っかかったのか、首を傾げるダフネ。グレイが制御することを想定したってことじゃないのか?…いや、あんなに爆発を起こすのに乗るのはおかしくないだろうか。
「残るはお前だ、小娘。ユウリももうすぐ果てる」
「くっそぉ…!回復させる暇さえないなんて…!」
見てみれば、この広い空間で爆発が立て続けに起こる横でずっと正体不明の何かとユウリさんが戦っていた。ウーラオス共々、完全になぶり殺しにされてる。あのポケモンも私が知らない何かなのだろうか。それにしてはデジャヴを感じるんだよなあ。
「私は小娘じゃありません。バウタウンのダフネです!」
「そうか。私はサンヨウシティのグレイ。ダフネよ、王の前に立つことは褒めてやろう。だが蟲しか使わないお前がどうやってこのBWキュレムに勝つというのだ!コールドフレア!」
「蟲をなめないでください!ヌケニン、まもる!クワガノン、あなをほる!」
コールドフレアによるだいばくはつを、ヌケニンのまもるで自分の身を守りつつ攻撃に転ずるダフネさん。
「こごえるせかい!」
「かげうち!アーマルド!まもる!」
BWキュレムを中心に吹き荒れる冷気、炎、雷。普通のこごえるせかいなら何もしなくとも耐えられたはずの一定範囲の全方位攻撃が、ヌケニンとダフネを巻き込む直前、ヌケニンのかげうちが炸裂。ヌケニンは崩れ落ちた物の地道にダメージを増やしていくのと同時に、繰り出されたアーマルドがダフネの身を守った。
「アーマルド、げんしのちから!」
上からはアーマルドの浮かぶ岩の波状攻撃、下からはクワガノンの突撃。共に効果抜群の攻撃を受けたBWキュレムは怯む。上手い、技の合間に攻撃を立て続けることで追い詰めている。
「ぐぬぬ…ならば!フリーズボルト、全力展開!」
「なっ…!?」
クワガノンとアーマルドを侍らせるダフネ。その眼前に、BWキュレムの背後に次々と展開されていく雷を纏った氷柱の山。まるで、元の世界で見たことあるFateシリーズのギルガメッシュの宝具「
「ゲート・オブ・キュレム!」
(まんまだったー!?)
そう言えばグレイも転生者だった。忘れていた。その力は前世のポケモン知識や転生特典だけじゃない、前世で見たありとあらゆる戦術も加算されているんだ。え、勝てるの?
「きゃあああああ!?」
容赦なくダフネもろとも狙って放たれる雷を纏った氷柱の束が次々と降り注ぐ。アーマルドとクワガノンが何とか破壊しているけど、床に突き刺さった瞬間放電してダフネと二匹にダメージを与えてボロボロにしていて、何時まで持つか……アレは洒落にならない。直撃したら串刺しと同時に放電だ。人間だろうがポケモンだろうが死んでしまう。誰か、誰かダフネを…私の親友を、助けて…!
「テクノバスター」
「むっ、氷壁展開!」
すると、部屋の隅から放たれた光線を氷壁で防ぐBWキュレム。同時にフリーズボルトの射出が止まり、グレイとBWキュレムは下手人に振り返る。そこに立っていたのは、さっきまで情けなくウツロイドの手で泡を吹き白目をむいて倒れていた、私の兄。ニートで蟲狂いでポケモン廃人でろくでもなかったけど、この世界では間違いなく英雄の一人。ゲノセクトを傍らに連れたその人物を見て、ダフネとユウリさんが歓喜の声を上げる。
「ラウラさん…!」
「ラウラ…!」
「悪い。迷惑かけたな二人とも」
むしつかいのラウラ。むしタイプのメジャージムリーダーにして、チャンピオンユウリに唯一勝てる女。私のお兄ちゃん。グレイはお兄ちゃんが目を覚ましたことに狼狽えた。
「馬鹿な…本当にあんなので洗脳が解けただと…!?」
「あんなの言うな。全部覚えてるんだぞ、あの脳を弄られる嫌な感触に……お前の親友として、プラズマ団幹部として何もおかしいと思うことなく振る舞っていた愚かな俺自身を。お洒落な格好にしてくれてありがとうなご同類さんよぉ!」
あ、その格好気に入ってたんだ。そういや男の子だもんね、今は女の子だけど。
「だがお前は俺に負けた。その事実は変わらん。また負かして俺の
グレイの指示を聞いて、襲いかかったのはBWキュレムではなく正体不明のあのポケモン。しかしお兄ちゃんはまるで分っているかのように半歩引いてそのポケモンの攻撃を避けた。
「グレイ。お前があのレジエレキを差し置いて最速と謳うポケモンだなんて、プラズマ団の関係者って時点で一択だ!そいつはお前に似合わねえ!」
その言葉で分かった。あのポケモンの正体。
「赤いゲノセクト!お前には過ぎた宝だぜ、グレイ!」
ポケモン映画に登場した、お兄ちゃんも持つゲノセクトの色違い。それがあのポケモンの正体だ。
ラウラとダフネ、W主人公ここにあり!というわけで赤いゲノセクトでした。気付いてた人は多いと思います。
・ダフネ
ヌケニンを借り受け蟲ポケモンで最強のポケモンに挑む主人公。結構善戦したがグレイを怒らせピンチに陥った。
・ラウラ
ジュリの呼びかけに応えたのか、伴侶のピンチに応えたのか、とにかく復活を果たしたもう一人の主人公。赤いゲノセクトを看破する。ぶっちゃけ欲しいし、蟲ポケモンの良さを知らないグレイに使ってほしくない相変わらずの蟲狂い。
・ジュリ
氷漬けながら、余裕のない他の面々の代わりに視点主になった転移者。親友のピンチの際の兄の復活に感極まる。ヌケニンでダフネをサポートした。
・ユウリ
爆発の余波を受けながら赤いゲノセクトに弄ばれていたチャンピオン。ラウラの復活に思わず涙。あとウツロイド使った罪悪感。
・トウヤ
レシラムと共に技術で善戦したBWの主人公。氷の防御壁があるとは露とも思わず、爆発をもろに受けて気を失ってしまう。
・グレイ
何故かずっとBWキュレムの背から離れないプラズマ団のボス。氷の防御壁を使って己とBWキュレムを危険から身を守る。前世の知識でポケモンの技を更なる強化させることが可能。ついに念願のトウヤに勝利し脳汁がヤバい。
・赤いゲノセクト
BWキュレムと共にグレイの切札なポケモン。プラズマ団驚異の科学力により、通常のゲノセクトと共に現代に復活した古代の蟲ポケモン。ラウラのゲノセクトとは兄弟の関係。性格が悪く、なぶり殺しにしてすぐには倒さないで楽しめるだけ愉しんでから倒すという悪癖を持つ。元ネタはポケスペのアクロマの赤いゲノセクト。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。