ポケットモンスター蟲【本編完結】   作:放仮ごdz

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どうも、設定を考えるのがとにかく楽しい放仮ごです。今回新たにオリキャラが名前だけ登場しますが設定考えるの楽しかったです。

今回はムツキの過去話。そしてマクワ戦。楽しんでいただけると幸いです。


VSガメノデス

 ずるずると足を引きずるムツキに手を貸しながらホテルに連れていき、夜になりつつあったこともありしょうがないので二人部屋で泊まり部屋に着くと、二つ並んだ備え付けのベッドの一つに横たわるムツキ。…同年代にしては長身かと思っていたが、シークレットブーツだったのか。身長は俺とそう変わらないな。それによく見たら痩せ細っていてお世辞にも健康的とは言えない。こんな体でよく旅しているもんだ。そう観察していると、手で目元を隠していたムツキが、ぽつりと呟いた。

 

 

「…癪ですが、礼を言います」

 

「お前、吐血もしていたし病弱なんだろ。あんなところにいたら悪化するぞ」

 

「いいんですよ、今の私なんか死んだも同然です」

 

「なにがあったんだ…」

 

 

 目元をゴシゴシこすると、こちらを睨みつけるムツキ。その目元は赤くなっていて、泣いていたことがわかった。

 

 

「…私の母親は昔、ジムリーダーだったんです…」

 

「そうなのか」

 

「信じてませんね。グランドウォール・キリエ…知りませんか?」

 

「ああ、子供が病弱だったから看病のためにキバナがジムリーダーになるのと入れ替わるように引退したとかいう、ダンデがジムチャレンジャーだった時代最強のジムリーダー…それが本当なら道理でお前、ポケモンを育てるのが上手いはずだよ」

 

「ええ、貴女みたいな一般人とは違いますので」

 

「口を開けば罵倒しか出来ないのかお前は」

 

 

 元気になった途端罵倒するムツキに、妙な安心感を感じながら返す。そんな出自があるならあのレベルまで鍛えられたのも納得だ。バトルの才能は受け継いでないようだが。

 

 

「私、家出娘だって言いましたっけ…?」

 

「聞いてないぞ」

 

「父親はマクロコスモス所属の病院の医者、母親は元ジムリーダーで現在はマクロコスモスのエリート社員…私が安静にしていれば大丈夫だとわかれば、二人は父親の所属する大きな病院に私を入院させて、私の治療費のために仕事に没頭するようになりました。私はそんな両親が、嫌いだった」

 

「それはまたどうして」

 

「私を、病院に閉じ込めたからです」

 

 

 そう語り上半身を持ち上げたムツキの目には怒りが宿っていた。聞けば、一生を病院で終えるかもしれなかったのだという。治る見込みもない病のために、一生を閉じ込められる…それはたしかに、息が詰まる。空に憧れるのもわかる。

 

 

「私は自分が死のうとも、自由が欲しかった。ひこうタイプのポケモンに夢を見た。自由になるために病院を抜け出したんです。そして、ローズ委員長に出会い…ジムチャレンジに参加することにした。母のいないジムチャレンジなど、取るに足らない物なのだと、証明するために」

 

「んん?」

 

 

 自由になりたい、空に憧れたから抜けだした→わかる。母親がいないジムチャレンジが取るに足らないものだと証明するために参加した→???…お前、実は母親大好きだな?

 

 

「私のためにジムリーダーをやめたことを後悔させてやろうと思ったんです。あと、地を這うじめんタイプよりも自由に空を飛べるひこうタイプの方が好きです。母親とは正反対なひこうタイプだけで全てのジムを軽くねじ伏せてチャンピオンになれば、証明できる…そう思っていたら、マクワに負けました。どんなに練度を上げても、タイプ相性の差はそう簡単に覆せないのです。あの人がいないジムチャレンジで負けた、その事実が、私には…」

 

「…お前がなんであんな死んだ風だったのかと、母親を好きなのはわかった」

 

 

 とりあえず話を聞いてて分かった事実を言ってみる。口では嫌いだと言っていても、言葉の端々に母親への怒りと尊敬を感じる。するとムツキはガーッ!と威嚇しながらキレた。

 

 

「はあ!?あんな母親大嫌いですし!?私を閉じ込めたんですよ聞いてました!?その耳腐ってるんですか!?」

 

「お前口を開くたび罵倒するのやめろって。自分のせいで母親がジムリーダーをやめたことが嫌なんだろ?それが許せないから、その母親がいないジムチャレンジで敗北して落ち込んでんだろ。なら好きなんじゃないか」

 

「うっ…うるせーですよ!どっちにしろ、私はもう終わりです!」

 

 

 そっぽを向いてそう言うムツキ。元気は取り戻したのに随分弱気になってるな。

 

 

「なんでだ」

 

「悔しいですが…あのマクワには勝てる気がしないです。一応鍛えてはみますしなんか六匹目のポケモンを見繕いますが、ひこうタイプだけというポリシーのままだと勝てる気がしません」

 

「一回負けたぐらいで何だ。手の内が分かったなら対策すればいい話だろう。ジムリーダーってのは何度も客の前で試合するから手の内も事前に調べればわかるぞ」

 

「調べるなんて弱者のすることです。私は地に足をつけないひこうタイプを操る強者なのです。それが勝てないなら諦めるしかないでしょう。貴女もむしだけなんてポリシー守ってるとあの人には勝てませんよ」

 

「いいや?俺は確かな勝算を持って勝ちに来たんだが」

 

 

 そう言うと驚きに目を見開くムツキ。しかしすぐに三白眼になって捲し立ててきた。

 

 

「ひこうがいわに勝てるわけない、同じ理由でむしがいわに勝てるはずないんですよ!私にも勝てなかった貴方が勝てるとでも?タイプ相性ご存知ですか虫頭!」

 

「むしろ褒め言葉だが虫を罵倒に使うなキレるぞ。なら俺が勝てばお前を越えたことになるな」

 

「そんなことあるわけがないでしょう!だったら、すぐにでもこの町を出てワイルドエリアに向かうつもりでしたが貴女が負けるところを見届けてやりますよ!」

 

「おういいぞ!…ところで急いでて同じ部屋を頼んだんだがそんな態度で大丈夫か?」

 

「え」

 

 

 言わなくても、ムツキの宿代を俺が担っていると気付いたらしいムツキはそのままベッドの上で縮こまった。…こいつ、恩義だけは感じるタイプなのな。自分より弱い奴は見下しまくるけど、上と認識した相手には大人しくなるのか。他人を見下して罵倒するのも病弱故、ね。許す気にはなれないが納得はした。

 

 

「とりあえず、体を温かくして寝るんだぞ」

 

「余計なお世話です!」

 

「お前も俺のライバルなんだ。リベンジマッチする前に死なれたら困るんだよ」

 

「むっ…私に手も足も出なかった貴女を私はライバルだなんて認めませんから」

 

「へいへい。弱くて悪かったな。明日認めさせてやるから覚悟しとけよ。お前なんかすぐに越してやるからな」

 

「……貴女みたいなチビに越されるつもりはないです」

 

「言ったなこのやろ」

 

「私は野郎じゃないです。黙っていれば美人なのにその下品な口調と来たら…」

 

「よし表に出ろ」

 

「さっき温かくしろと言ったのはどこのどいつですか。記憶力もないんですかあ?」

 

「てめっ…」

 

「あ、図星です?」

 

 

 それから延々と口喧嘩して、あまりの騒々しさにホテルマンに怒られるのだが、それはまた別の話。ちなみに口喧嘩は負けた。罵倒で奴に勝てる気がしない。キリエってジムリーダーは礼儀正しい真面目な人だったはずだが…………似てるのは口調だけだな、この女。

 

 

「なにか失礼なこと考えてません?」

 

「いいから寝ろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日早朝。俺達は二人そろってキルクススタジアムに来ていた。ムツキはいつものひこうタイプユニフォームの上からフライトスーツを着てさらにポニーテールをほどいてフライトキャップを被りマフラーグルグル巻きだ。俺も今回ばかりはこの町のブティックで買ったボルドーの7ぶたけシャツの上からグリーンのもこもこボアコートを上に着ている。もちろん麦わら帽子は外してない。この町は寒すぎる。

 

 

「では私は観客席から貴方の醜態を見させてもらいましょう」

 

「せいぜい蟲ポケモンの雄姿を見届けろ」

 

「貴女の雄姿じゃないんですね…」

 

 

 なんだか呆れられながらムツキと別れる。そしていつものユニフォームに着替えて、落とし穴探知マシンとやらを使って視界の悪いフィールドの落とし穴に落ちないように進みジムトレーナーを蹴散らすというジムミッションをささっと抜けて、ゴールに辿り着く。オニシズクモのおかげでノーダメージで来れた。俺は落とし穴に落ちまくってボロボロだが。ムツキの奴今頃爆笑してるだろ間違いない。

 

 

『本日のキルクススタジアム第一の挑戦者は、背番号064!ご存じ、ここまで負けなし!しかし今回ばかりは怪しいか?むしつかい、ラウラ選手!対するはジムリーダー、マクワ!4VS4のシングルバトルです!』

 

 

 スタジアムの中央に立ちはだかるは、サングラスをかけたチャラチャラした印象の金髪が目立つぼっちゃり体型の男性。背番号188。ハードロック・クラッシャー、マクワ。若手のホープと呼ばれているいわタイプ使いのジムリーダー。間違いなくトップクラスのジムリーダーだ。作戦が決まってるとはいえ油断はできない。…あ、ムツキがいた。踏ん反り返っているがお前、昨日ここで負けたんじゃなかったっけ?あとマフラーグルグル巻きで可愛いだけだぞ。

 

 

「マクワといいます。君の噂はよく聞いてますよ、ラウラさん」

 

「それはどうも」

 

「むしタイプを使うのだとか。貴女には申し訳ないが、僕のポケモンたちの強さをアピールする戦いをしますのでさっさと終わらせましょう」

 

 

▽ジムリーダーの マクワが 勝負を しかけてきた!

 

 

「上等!今日ばかりは負けられないんだ、さっさと終わらせてやりますよ」

 

 

 こちらを完全に侮っていることがわかる。ああ、たしかにひこうタイプと同じくむしはいわに絶対的に弱いさ。だけどな、この世に絶対なんて道理はねえ。

 

 

「デンチュラ!」

 

「ガメノデス!」

 

 

 無駄にアクロバティックな動きで繰り出されたのは、いわ・みずタイプのガメノデス。俺が繰り出したのはでんき・むしのデンチュラ。タイプ相性というのは、そう簡単に覆るものではないってなあ!

 

 

「むっ!?がんせきふうじ…」

 

「最初にそいつを出すのは予習済みなんだよ!ほうでんだ!」

 

 

 すばやさはこちらが上。上から効果抜群を叩き込む。さあ、ムツキ。見ていろよ、前は見せられなかった蟲の底力をなあ!




ちょっとマクワには個人的にデンチュラをやられた恨みがあるので容赦なく行きます。

・ラウラ
因縁の敵であるムツキの宿代も払ったお人好し。雪の町なのでフォルムチェンジ。なお半ズボンのままなので足元がくっそ寒い。前世のポケモンの知識が若干アレなのと、地味にチビなのを気にしている。今回ばかりは情報収集してガチで攻略しにかかってる。

・ムツキ
一回負けただけで挫折した、過去の最強のジムリーダーの娘。病院に一生入院するレベルの大病を患っている。父は優秀な医者で母は最強のジムリーダーというハイブリッドな生まれ。口では恨んでいるが幼少期のかっこよかった母を忘れられずにいる。父については医者のくせに自分の病気を治せないと本気で嫌ってる。実は痩せ細っており、身長はラウラよりちょっと大きいくらいで長身だったのはシークレットブーツだった。恩義は素直に感じるタイプ。ちなみに裏モチーフはポケスペのエメラルド。

・キリエ
名前だけ登場。ムツキの母親でじめんタイプのエキスパート。グランドウォールと称された、ダンデ時代のジムチャレンジ最後の壁。本人も絶壁。ムツキが入院した後の現在はマクロコスモスにスカウトされてエリート社員をやっており、ムツキを保護したローズに忠誠を尽くして粉骨砕身働いている。過去最強クラスのジムリーダーで、ポケモンを強く育てるのが上手くフィールドを支配する戦法を取る。どれぐらいすごいかというとじしんでひこうタイプを倒すほど。切札はキョダイサダイジャ。名前の由来はオトギリソウと、過去作のオリキャラ(由来はギリシア語の主よ)から。ムツキの母親という関係性は知る人からしたら信じられなそうなもの。

・マクワ
いわタイプのジムリーダー。挑発してきたムツキ相手に大人げなくボコボコにした。基本的に礼儀正しい性格の好青年で若手のホープ。自信家で何故かエドモン立ち。ラウラのことは侮る気はなかったが無意識に油断してしまった。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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