今回はVSヤロー。では、楽しんでいただけると幸いです。
『本日のターフスタジアム第一の挑戦者は、背番号064!ここまで一匹のみ、一撃でジムトレーナーを打ち倒してきたラウラ選手!対するはジムリーダー、ヤロー!2VS2のシングルバトルです!』
大枚はたいて買ったむしタイプのユニフォームに身を包み、スタジアムに入ると実況の名乗り上げと共に歓声が上がる。ウールーの群れを誘導して先に進むとかいうジムミッションを、途中待ち構えているジムトレーナーを一蹴しながらクリアして辿り着いたスタジアムで待っていたのは温厚な顔に似合わずガタイがいい麦わら帽子の青年。確か、背番号831。ファイティングファーマー・ヤロー。戦う農家か。…虫の天敵かもな。頭上のバチュルもなんか威嚇しているし。
「ぼくのポケモンジムは初めのジムなので次々にチャレンジャーが来るのです。ですからジムミッションも割と厳しめにしとるのですが…それをあっさりクリアしたどころか、見た所虫統一という珍しい構成。ぼくが草タイプの使い手と知ってか、それとも本人のこだわりか…どっちにしてもこりゃあ手強い勝負になる!ぼくもダイマックスを使わねば」
「御託はいい。さっさと始めようぜ」
▽ジムリーダーの ヤローが 勝負を しかけてきた!
「行くんじゃい、ヒメンカ!」
「蹂躙しろ、テッカニン!」
豪快な振り上げと共に繰り出されたのは、はなかざりの様なポケモン。体力的、相性的に問題ないと思った俺はいつも通りに指示をする。
「ヒメンカ、りんしょうじゃい!」
「テッカニン、上空に避けてかられんぞくぎりだ!」
初手ノーマル技。さすがに覚えているよな。だったらこっちは空飛べる飛行タイプのアドバンテージを利用するまでだ。だがさすがジムリーダーのポケモン、一発耐えられてしまった。積んでから行くべきだったか。
「むう、さすがに制空権を取られるとどうしようもなさそうじゃ。マジカルリーフ!」
「つるぎのまいで弾き返せ!」
放たれる、不可思議で不可避な魔法の葉っぱを、つるぎのまいを利用して迎撃する。なにもゲームじゃないんだ、こういうこともできる。それに上空に向けて放たれて威力が減衰されたマジカルリーフぐらいなら訳ない。
「むっ、避けるんじゃヒメンカ!」
「避けられるかな?かげぶんしんしてから…れんぞくぎりだ!」
すばやさが三段階、攻撃が二段階上がり、かげぶんしんで取り囲んで四方八方からのれんぞくぎり。避けきれず、ヒメンカはダウンする。よし、準備完了。これで次に来るであろうアレにも耐えられる。
「ウオオ!僕たちは粘る!農業は粘り腰なんじゃ!さあダイマックスだ!根こそぎ刈り取ってやる!」
「まあ、くるよな」
バンドから送り込まれるエネルギーで巨大化したボールを収穫した野菜のように撫でて後ろに投擲、現れるのは超巨大なワタシラガ。ダイマックス。この地方独自の文化で、ポケモンが一時的に巨大化する現象を指す。空模様がマゼンタ色の渦巻く暗雲へと変わるのも、もはや見慣れた光景ではあるが、怪獣映画さながらの巨体にたじろぐ。俺も使うべきか迷うが、作戦通りに行くとする。
「驚けよ、たまげろよ!これがダイマックスの技じゃあ!ダイソウゲン!」
「はっ!空に逃げろ、襲ってくる植物はつるぎのまいで迎撃だ!テッカニン!」
放たれる巨大な種の様な物が地面に撃ち込まれ、巨大なキノコや草が生えてテッカニンを襲うが、襲いくる草をつるぎのまいでいなしながらそれよりも上空に逃れる。
「頃合いか。バトンタッチだ、テッカニン!」
「むっ、ダイアタックじゃ!」
上空のテッカニンがボールに戻り、その直前に頭から飛び出したバチュルと交差、そこを突いて地面が罅割れる攻撃を叩き込んでくるが…関係ない。すばやさとこうげきが四段階、回避率が一段階上がっているんだ。
「バトンを受け取った俺のバチュルに敵はいねえ!避けてこうそくいどうで壁を這い回れ!」
さらにこうそくいどうですばやさを上げつつ目にも留まらぬスピードでダイアタックを避けて観客席下の壁を小さな姿で這い回ってワタシラガを翻弄する。元々ちっこい上に、あの巨体だ。追い切れるはずがねえ。そして、ダイマックス中に使える技は三度までだ。あと一発凌げばほぼ勝ちだ。
「くっ、ぼくのヒメンカはうっかり起点にされていたと…本当にジムチャレンジ初参加かい?」
「生憎、知識だけはあるもんでね。追い切れないだろ?さらにこいつだ、連続でエレキネット!」
雷光の如くすばやさで壁を這い回るバチュルから放たれる、四方八方からの電撃帯びた蜘蛛の巣。相手のすばやさを下げ、その場に拘束する。そして目いっぱい加速してから空中に飛び出すバチュルを、ヤローは見逃さなかった。
「そこだ!ダイソウゲン!」
「掻い潜れ!きゅうけつだ!」
わざレコード、というものがある。ブラホワ時代のわざマシンより以前のわざマシンと同じく、一回使うと壊れてしまうわざを覚えさせるツールだ。テッカニンを捕まえた時にそれの“きゅうけつ”を手に入れていたのだ。かげぶんしんで回避率を上げ、すばやさも上げ、さらに複眼で複数の情報を処理できるバチュルを捉え切れるはずもなく、巨大なワタシラガは四段階上がった攻撃力の“きゅうけつ”が炸裂。
大爆発を起こし、ワタシラガは縮んでボールに戻って行く。そして着地し、俺目掛けて飛び込んできたバチュルを受け止める。
「よくやったバチュル!お前は強い!最強だ!」
目一杯の笑顔でわしゃわしゃと撫でていると、参った、といった顔でヤローが近づいてきた。
「草の力みんなしおれた…ダイマックスも使わずに勝利するとは、なんというジムチャレンジャーじゃ!」
「むしタイプの持ち味は素早さによる翻弄だからな。それができないダイマックスは極力使わないようにしているんだ。やるとしても相手のダイマックスが終わってから…です」
「むしタイプの事を理解しているんだな。これは完敗じゃ…今度は本気で戦いたいもんじゃ」
「私も、次があったらぜひ戦いたいです」
「かしこまらなくてもいいよ。君は自然体の方が一番だ。うん、いいチームだ。ジムチャレンジにおいてジムリーダーに勝った証としてくさバッジをお渡しするんだわ!」
その言葉とともにバッジを受け取り、握手する。くさバッジ…むしバッジはないのかな?ないかあ…
「ジムバッジを8個集めるのがジムチャレンジ突破の条件。むしタイプだけで頑張るならこれから苦労もあるだろうけど、他のジムリーダーにも挑み見事、勝利を手にするんじゃ!」
「当たり前だ。俺は、いや私は、蟲たちでチャンピオンのリザードンに勝って虫タイプの素晴らしさを証明するために参加したんだからな!」
「おや、思っていたより目標は大きいんだな。個人的にも応援しとるよ」
そうして、俺の初めてのジムチャレンジは勝利で幕を閉じたのだった。
ヤローの口調がとにかく難しかった今回。
・ラウラ
むしタイプのユニフォームを愛用している蟲好きトレーナー。テッカバトンの使い手。ダイマックスの殴り合いはむしタイプは逆に不利になると思ってるため回避に重きを置いている。
・バチュル♂
とくせい:ふくがん
わざ:エレキネット
こうそくいどう
きゅうけつ
いとをはく
もちもの:ぎんのこな
備考:れいせいな性格。物音に敏感。ラウラと最初に出会ったポケモンにして一番の相棒。むし好きなオーラを察知して懐いた。翻弄して相手を拘束してから確実に仕留める生粋のハンター。
・ヤロー
くさタイプジムリーダー。むしタイプを極めようとするラウラに好印象。ダイマックスを使わずダイマックスを攻略する手法に度肝を抜く。作者的にはむしタイプが農家的に天敵なのでは?と思ってる。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。