今回はVSネズ戦。楽しんでいただけると幸いです。
キルクスの温泉を(ポケモン達が)満喫して、9番道路の氷海をオニシズクモに乗せてもらって抜けてきたわけだが。なんか、締め出されていた。七番目のジムがある田舎町、スパイクタウン。その入り口がシャッターで締め切られていた。……いや、中の人が外に出るための出入り口がどっかにあるだろ。
「みんな、でてこい」
六個のネットボールとダークボールを放る。出て来たデンチュラ、テッカニン、オニシズクモ、マルヤクデ、ドラピオン、イワパレスと共に周囲を探索する。デンチュラは壁に張り付き、テッカニンは空を飛び回り、後は俺も含めて地に足を付けて探す。するとデンチュラが一声鳴き声を上げ、俺達がその場所に辿り着くと、裏道が存在していた。
「よくやったデンチュラ」
皆をボールに戻し、一応テッカニンだけ側に侍らせて中に入ると、そこにはたくさんのエール団が屯していた。なるほど、こいつらの仕業か。
「なっ、ジムチャレンジャー!?なんで地元の俺達しか知らない道から来ーる…!?」
「しかもあいつ、この前ボコボコにされたラウラ選手だ!俺達みんなでボコボコにしてやーる!」
「おいおい、俺はただジム戦にきただけだぞ?」
問答無用だとばかりに襲ってくる二十体近くのあくタイプのポケモンを、テッカニンがつるぎのまいで応戦する。デンチュラも繰り出してほうでんしてやろうかと考えていると、奥から一人の青年が出て来た。
「やめなさい、みんな」
猫背で痩せ身の男性で、白黒の凄い髪型が目立つが、それ以上に目元の隈が目立つ。あくタイプのユニフォームを着ていることから、もしかして…
「アンタがジムリーダーか?こいつらはジムトレーナーってところか?」
「ギクゥ!?な、なぜ俺達の完璧な変装がばれーる!」
「いやまあ、あくタイプのポケモンばっか使ってるし?」
「部下が大変失礼をしました。お詫びにジムミッションなしで戦いましょうか」
「いいのか?」
「ええ。アンタには俺も興味があってね…」
なんか暗いというか、不気味な人だな。彼について行くと、いつものスタジアムではなく、ライブ会場の様な開けた場所に出た。なるほど、町全体がジムみたいな感じか。その割には閑散としているが…ここで戦うのかな。背番号は061か。
「さて。4VS4でいいかな。俺…ほんと駄目な奴だからさ。少し前に来たでんきタイプ使いの娘にはあっさり負けちゃうし、それからばったり誰も来なくなってさ。だから誰も来ないんだ、そんな想いが強かったね」
「はあ…」
「ダイマックスが使えないジムスタジアムだからさ。ダイマックスを使わずダイマックスポケモンを倒したっていう君には期待してるんだよね。シンプルな戦いになるんだけどちょっとは楽しんでほしいよね」
「望むところです。俺も、ダイマックスなしのバトルの方が慣れている」
「そいつぁ嬉しいね。気を悪くしてもらいたくないんだけど、君と俺は同類だ。ふぅ…」
そしてどこからともなく取り出したマイクスタンドを握るジムリーダー。その瞬間、雰囲気ががらりと変わった。先程までしなかった強者の気配がビシバシ伝わってくる。金網の外にいるエール団が湧き立ち騒ぎ出す。
「俺は!スパイクタウンジムリーダー!あくタイプポケモンの天才、人呼んで哀愁のネズ!!負けると分かっていても挑む愚かなお前のために、ウキウキな仲間と共に行くぜー!スパイクタウン!!」
▽ジムリーダーの ネズが 勝負を しかけてきた!
「頼むぞ、テッカニン!」
「皆も名前を呼んでくれ!いくぜ!ズルズキン!いかくだ!」
俺はテッカニン。ネズはダークボールからズルズキンを繰り出す。しかしあのパフォーマンスは凄いな。ファンになりそうだ。いかくか…なら攻撃力を上げるしかない。
「つるぎのまい!」
「ねこだましだ!」
ユウリのダーテングの時と同じ、乾いた音がしてテッカニンが怯む。しまっ…つるぎのまいを邪魔された。だがかそくですばやさはあがる。もう一度だ。
「つるぎのまい!」
「すなかけ!」
すなかけで命中率を下げられる。ゲームならつばめがえしで問題はないが、ここは現実。複眼のテッカニンにはただの砂でもダメージになる。目つぶしをされた、これじゃあせっかくのすばやさを回避に使えない。もってくれよ…!?
「もう一度、つるぎのまいだ!」
「そんな悠長にしてると、痛い攻撃が待ってるぜ!しっぺがえしだ!」
今度はすばやさを利用された。後出しの際に威力が上がるしっぺがえしがテッカニンを襲う。なんて人だ、あくタイプの天才を名乗るだけはある。だが準備は整った。
「真っ直ぐ直線だ!つばめがえし!」
目を潰されたテッカニンに指示をして、攻撃を当てる。三段階上がってる攻撃力で繰り出されたつばめがえしは一撃でズルズキンを落とし、なんとか一体目を撃破する。あくタイプだからと油断していたらこれだ。この人は、決して油断できる相手じゃない。
「特性、あまのじゃく!カラマネロ、ひねくれちゃいましょ!」
「テッカニン、バトンタッチだ」
続けて出されたカラマネロに、俺はバトンタッチでデンチュラと交代する。このまま畳み掛ける!
「きゅうけつ!」
「攻撃力は上げるだけ上げてくれて結構だぜ!イカサマ!」
「なっ!?」
しまった、と思った瞬間にはデンチュラのきゅうけつが届く前に長い触手の一撃が炸裂。一撃でデンチュラは戦闘不能となってしまう。失念していた。このカラマネロに、テッカバトンやからをやぶるはむしろ悪手だ。いや、だがイワパレスならがんじょうで…
「イワパレス!からをやぶるだ!何とか避けてくれ!」
「特性はがんじょうか!?いい判断だが俺達のやることは変わらねえ!イカサマだ!」
カラマネロの二本の触手がフィールドを縦横無尽に駆け巡り、イワパレスはすばやさをフルに生かしてそれを回避し続ける。イワパレスはむしわざを持っていない、だから一撃で決める!
「がんせきほうだ!」
「横がお留守だぜ!」
がんせきほうが直撃した瞬間に、横から伸びてきた触手がイワパレスに炸裂。かなあみまで吹き飛ばす。がんじょうじゃなかったらやられていた。
「皆、におうけどいいよな!?ふいうち、どくどくだスカタンク!」
「しまっ…」
と思った瞬間には、瞬時にイワパレスに近づいたスカタンクによるふいうちで沈められていた。手の内を明かしてくれたのはいいが、どくどくもあるだと?なら短期決戦で倒すしかない。
「テッカニン!つばめがえしだ!」
「いやなおとだぜ、轟かせろスカタンク!」
ガラスを爪でひっかいたような、生理的に嫌な音が響き渡りテッカニンの狙いが逸れる。くそっ、ゲームなら当たっていたのに!現実という壁が、俺の前に立ち塞がる。強い、強すぎる。今までのジムリーダー戦がまるで遊びの様だ。
「つばめがえし!」
「そいつは迂闊だ!防御が落ちた所で終わらせるぜ!ふいうちだ!」
「避けろ!?」
いやなおとが効いていたのか、焦って指示してしまった俺の悲痛の叫び虚しく、いやなおとで怯んでいたところをふいうちを受けて倒れるテッカニン。…どくどくされて逃げ回れたら詰みだ。毒が効かないポケモンを繰り出すしかない。
「ドラピオン!」
「いいな!お前もあくタイプを使うのか!なら遠慮なく行こうぜ!バークアウト!」
「ミサイルばりだ!」
捲し立てるように怒鳴りつけられた衝撃波が、ミサイルばりと相殺。ならばと接近させる。急所を狙う!
「近づいてクロスポイズンだ!」
「ふいうち!」
スカタンクのふいうちの方が先に入ったが、きゅうしょに両腕を叩きつけてスカタンクを撃破。ゆうばくでダメージを受けてしまったが、あと一体…!
「ネズにはアンコールはないのだ!歌も!技も!ポケモンも!!メンバー紹介!甲高い唸り声が自慢のタチフサグマ!」
そして繰り出されたのは、タチフサグマ。ガラルのマッスグマが進化したポケモンだ。こいつがネズの切札か。
「クロスポイズン!」
「ここから先は敗北への一方通行だ!ブロッキング!」
「なっ!?」
毒を纏った両腕の振り下ろしは、頭部の前で交差した両腕に防がれ、弾かれてしまう。明らかな隙を、ジムリーダーが突かない訳がなく。俺は敗北を悟った。
「ラストコールだ!シャドークロー!」
影を纏った爪の斬撃が胴体に炸裂。ドラピオンは崩れ落ちた。………俺は目の前が真っ暗になった。
「俺もメンバーも出し切りましたよ。いい勝負でした。またいつか、会いましょう」
「…ああ、アンタは凄いジムリーダーだ。完敗です」
ドラピオンをボールに戻し、ポケモンセンターへと足を進める。ネズ…ネズさんに勝つビジョンが、まるで見えなかった。……いや、俺はムツキに負けた時に学んだじゃないか。俺のポケモンを信じるだけだって。次こそは、必ず。そう俺はリベンジを誓うのだった。
この敗北イベントは最初から決めてました。あくに負けて立ち上がってこそむし(ヒーロー)は映える。
・ラウラ
前回のマクワ見たく、相性有利だからと内心油断してしまった主人公。ねこだましにも弱いしイカサマは天敵。予期しなかったイワパレスの敗北からペースを完全に崩されてしまった。打倒ネズを誓う。
・ネズ
あくタイプのジムリーダーにしてあくタイプの天才、哀愁のネズ。その力を遺憾なく発揮、相性不利を覆した。ラウラをむしタイプの天才だと認識しあらかじめ戦法が分かっていたからこそ作戦を決めて迎え撃つことが出来た。ちなみにモコウ相手は圧倒的なスピードと火力で小手先がまるで通じなかったことが敗因。
・エール団
実はスパイクタウンのジムトレーナー。モコウが来た際は速すぎてシャッターを閉じることが出来てなかった。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。