今回はラウラの夢のできごと。楽しんでいただければ幸いです。
目を覚ますと、そこはいつもの俺、
「落とした時にゲームカードが抜けてるとかはないな。よかった」
2020年現在。ポケモンXY、サンムーン、オメガルビーアルファサファイア、ウルトラサンムーン、ピカチュウイーブイ、ソードシールドと新作が続々出る中で、今時BWをプレイしているのは日本中でも俺ぐらいだろう。家が微妙に貧乏でDSしか持ってないのである。ダイパプラチナ、ハートゴールドソウルシルバー、ブラックホワイト、ブラックホワイト2、GBAのルビーサファイアエメラルドにリーフグリーンと結構ポケモンはできるが、その中でもやはりBWが一番だ。
ダークなストーリー、四季を楽しめるゲームシステム、トリプルバトルにローテーションバトル、バトルサブウェイみたいなやり込み要素、シリーズでも数多い伝説ポケモン、特別な扱いを受けている蟲ポケモンであるウルガモスと、好きなところが多すぎる。ダイパも好きだけどな、とか関係ないことを考えながらバトルサブウェイを周回する。
「おっ」
ペンドラーのハードローラーが決まったことに何故か感慨深くなる。やっぱりペンドラーと言えばハードローラーだよな。ポケモンセンターのおっさんに聞いた時にハードローラーを覚えないって聞いた時の衝撃よ。……何の話だ?技を思い出すにはハートのうろこを使ってフキヨセシティで…だよな?ポケモンセンターでできるわけないよな?ましてや無料でできるわけがない。なんの記憶だ?
「ま、いいか」
ここなら痛い思いをすることもないし、いつものように引き籠もろう。飼っている蟲達に餌をやって、ポケモンやって、飯食って。ポケスペや蟲が出てくる漫画を読んで。妹の勉強を見てやって。何か言いたげな両親を無視して。風呂入って。寝て。日曜日だけ特撮やら見て。その繰り返し。何も変わらない毎日のルーティンだ。
なのになんで、十数年ぶりという感覚になるのだろう。なんで、風呂場で見る俺の体に違和感を感じるんだろう。なんで、ゲームの中のデンチュラ達が必要以上に動かないことに不満を覚えるのだろう。なんで、ターンごとに技を撃ちあうだけのポケモンバトルが酷くつまらないと感じるのだろう。なんで、妹がいることに違和感を感じるんだろう。なんで、人がいなくて寂しい部屋に違和感を感じるのだろう。まるで、誰かがいつも側にいたような…そんなはず、引き籠もりで友人関係も断った俺にはないのに。
なんで、なんで、なんで、、、、?
つまらなくなってしまったDSを投げ出して本棚から漫画を引っ張り出す。最近アニメになったらしいがこっちでは放送されてない鬼を狩る剣士たちが描かれた漫画だ。そろそろ次の巻を買ってもいいかもな。お気に入りの蜘蛛一家が倒されて、蜘蛛って色んな能力を持っていてすごいなあと感服しながら、次の舞台である列車の話を読み進める。夢を操る鬼との戦いだ。…なんで、その内容が引っかかるのか。催眠……夢………夢?
「………夢か」
そうだ、俺は長い夢を見ていた。ポケモンの世界に転生して、女子になって、相棒のデンチュラと共にジムリーダーやライバルと競い合い、主人公の前に立ちはだかったけど惜しくも敗れてしまった、そんな夢。夢なのだから主人公に勝ってもいいじゃないか。まるで現実の様にシビアで……………。
「どっちが夢だ?」
思わずぼやくが、すぐに気を取り直す。いや、意識が覚醒している今が現実だろう。ポケモンなんて実在しないし、こんな引き籠もりでコミュ症の俺に仲のいいライバルが沢山できるなんてのもありえない。…ありえない、はずだ。
「お兄ちゃん、いるー?」
そこに扉をノックして入ってきたのは、我が妹の
「間違ってないか確認してくれない?」
「ああ、いいけど……なあ樹里。俺って桂樹月だよな?」
「なに言ってるの…?」
ドン引きした表情の妹から目を逸らす。だよな、どう考えても変な質問だった。妹は呆れたように溜め息を吐いて、こう言った。
「お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ。ポケモンが得意で、蟲が大好きな、変人のお兄ちゃんなんて他にいないよ?」
「そう、だよな…俺は俺だよな」
その時、掌がバチッと痺れて我に返る。ああ、これは夢だ。思い出した。俺は妹と仲よくなんてない。俺が引き籠もって蟲を集めだしてから、妹には嫌われたんだった。これは俺にとって都合がいい夢だ。前世の、こうだったらいいという願望だ。妙に現実っぽいから騙されるところだった。これが夢ならどうすればいい。答えはさっきまで読んでいた漫画が教えてくれた。
「お兄ちゃん?」
「樹里。現実のお前は俺の死なんか乗り越えて幸せに過ごしていると信じてるぞ」
樹里にそう言って部屋の隅に置かれた虫籠の蓋を開き、掌に乗せたのはシドニージョウゴグモ。俺が死んだ原因。そう、目を覚ますには夢の中で死ねばいい。もしも現実だったらとは思うが、先程から右手が痺れてしょうがない。アイツが呼んでいる。俺の相棒が。
「…リアルに味わったあの苦しみをもう一度感じるかもしれないが」
それがどうした。最高のライバルがあんな目に合わされて、呑気に眠っている場合か。そして俺はシドニージョウゴグモの毒にかかろうとして…
「駄目!」
だがしかし、俺が死のうとするのをこの世界は許さないらしい。樹里に取り上げられてしまった。涙目の妹の姿に、ウッとなる。
「ねえ、幸せでしょお兄ちゃん。苦しんでまで戻ることないよ。ここにいようよ。ムゲンダイナに襲われて、アルルカンに殺されそうになって、お兄ちゃんを苦しめるあんな世界に戻る事なんてない!」
「……そうかもしれない、ここにいた方が幸せかもしれない。だけどな、俺は知ったんだ」
ジムリーダーからは期待を。
ライバルからは温もりを。
手持ちの皆からは信頼を。
あの世界の住人から向けられるものが、心地いいんだ。
生きている、蟲ポケモンたちが好きなんだ。愛してる。もう、モニターの向こうのデンチュラ達を見るだけじゃ満足できないんだ。
「…どうしても、俺を死なせてくれないか?」
俺の問いかけに、涙を浮かべながら首を横に振る樹里。……俺が死んだあと、現実のあいつはどうしたんだろう。こんなに泣いてくれたのだろうか。
「…デンチュラ、ほうでんだ」
「!?」
掌のバチバチが広がる。現実がどうなってるかは知らないが、指示は届いたらしい。電気に包まれ、痺れる中で俺は、ラウラに戻りつつある姿の笑顔で告げる。
「悪い。俺、行くわ」
その瞬間、体に電撃が駆け巡り、俺は覚醒した。
「ばか、なっ…!?」
黒焦げで目を覚ました俺を、信じられないという表情で見つめるダフネ。掌には、眠る前に手にしていたデンチュラのボールが握られ、中にはふんすっと一仕事終えた様な顔のデンチュラがいた。またお前には助けられてしまったな、相棒。
「私のイオルブのさいみんじゅつは決して目を覚ましたくないほど幸せな夢を見せて延々と眠り続けさせる代物ですよ!?兄さんで試したのに、なのになんで起きれるんですか!?」
「今のユウリもそんな感じか。なるほどね、確かに起きたくはなかったさ。でもな、虚構の夢より、現実の方がいいんだよ」
俺はこの世界が好きだ。蟲ポケモンが生き生きと生息しているこの世界こそが俺のいるべき場所だ。そう、改めて認識した。
BWは神作。トリプルバトル復活して、どうぞ。
・ラウラ
前世の名は桂樹月。死にかけることになってもラウラとして生きることを選んでデンチュラのほうでんのショックで起床。一人の兄としても、ダフネとの決着に挑む。
・桂樹月
ラウラの前世。蟲が好きなこと以外はごく普通の引き籠もり。愛読書はポケスペとムシブギョーと鬼滅の刃。ある時、うっかりシドニージョウゴグモの毒にかかって死亡。享年17歳。
・桂樹里
樹月の妹。兄と違ってよくできた優等生で、中学二年生でありながら高校の問題にも挑んで樹月に答え合わせしてもらっていた。自分よりも蟲を好く様になった兄を忌避していた。樹月が死した後は神のみぞ知る。
・ダフネ
兄で人体実験していたことをさらっと暴露した妹。彼女のイオルブのさいみんじゅつは決して目を覚ましたくないほど幸せな夢を見せて延々と眠り続けさせる代物で、起こすにはイオルブの任意が必要。ラウラが寝ている間に色々していた。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。