今回はVSサイトウ前半戦。楽しんでいただけると幸いです。
グルグル回って目が回る。ラテラルジムのジムミッションを踏破した俺は、激しく酔っていた。平衡感覚が狂って足取りがおぼつかない。ドラピオン戦でれんぞくぎりを忘れたテッカニンが新たに覚えた「つばめがえし」でジムトレーナーを一蹴したが、思わぬ強敵だった。吐き気がする。気持ち悪い。なんで回って跳ねて縦横無尽に吹っ飛ばされないといけないのか。それともどんな状況でもポケモンを扱えるのかテストしているのか。こんな状態でポケモンバトルが出来てたまるか。
バトルフィールドに入る前に通された選手控室で回復を待ちつつ、ポケモンたちのコンディションをロトム図鑑で見やる。テッカニンが道中の戦いで結構ダメージをもらったから、極力温存しないといけない。初手はバチュルで様子見がいいな。かくとうタイプだから、力比べができるオニシズクモをメインに考える。おにびでやけどにして攻撃力を半減できるマルヤクデの使いどころも大事だな。
「…大丈夫だ、俺はみんなを信じて指示をすればいい」
そう思い立って選手控室を後にする。バチュルを頭に乗せ、バトルフィールドに足を踏み入れた。
『本日のラテラルスタジアム第一の挑戦者は、背番号064!数日間行方不明だと噂されていたむしつかい、ラウラ選手!対するはジムリーダー、サイトウ!4VS4のシングルバトルです!』
行方不明だったのは三日三晩ドラピオンと戦ってたからだな、反省してます。中心で待つのは少し焼けたような褐色の肌に灰色の髪。上着のジャージを結び、筋肉が浮き出た中の黒いシャツを出している、女性にしてはがっしりとした印象の少女。たしか背番号193。ガラル空手の申し子・サイトウ。テレビで彼女の使っていたタイレーツを見て虫!?と思ったのが懐かしい。しかし4VS4か…ドラピオン以外のメンバー総出撃になりそうだ。
「ようこそチャレンジャー。私はサイトウです。貴方がラウラさんですね、お噂はかねがね。貴方達の心、どんな攻撃にも騒がないのか私が試すとしましょう」
▽ジムリーダーのサイトウが 勝負を しかけてきた!
ピッチャーのように腕を大きく回してからのアンダースローで投げられたハイパーボールから飛び出したのは、カポエラー。頭の角を地面に立てて回転する姿に、俺はあることを思いついて頭の上のバチュルを掌の上に乗せて突き出した。
「行って来い、バチュル!いとをはくだ!」
「でんこうせっか!」
絡ませようと糸を繰り出すが、凄まじい速度で回転しながら回避行動を取り突撃してきたため失敗に終わる。
「周囲にエレキネットだ!」
ならばと、エレキネットをばら撒いて身動きを制限させる。搦め手を使うこちらに、恐らく常套手段なのだろう「カウンター」や「リベンジ」を指示できないのか、表情を苦々しく歪めたサイトウは、深呼吸してカッと目を見開いた。
「突撃ですカポエラー!トリプルキック!」
「真正面からエレキネットだ!」
エレキネットを物ともせずに放たれたのは蹴りの三連撃。少しでも勢いを弱めるため直接エレキネットをかけて痺れさせる。回転が遅まり、ぐらついたところにチャンスと見た俺はバチュルをボールに戻し、テッカニンと交代する。
「テッカニン、つるぎのまい!」
「させません!リベンジ!」
「かげぶんしんだ!」
でんげきのダメージを上乗せした強烈な蹴り上げがテッカニンを襲うも、つるぎのまいを中断してかげぶんしんで回避。空中でつるぎのまいを再開し、着地したカポエラーに好機を見出す。
「つばめがえし!」
「待っていました!カウンター!」
鋭い一撃と、逆さまの下段から繰り出される拳が交差する。わずか先にリーチの差でこちらが先に炸裂し、戦闘不能になったその拳の威力は減衰してテッカニンに当たるも、ちょっとふらつくだけですんだ。
「鋭く、速いですね。ならばこちらは…いきなさい、ゴロンダ!」
「っ、ならこっちはバトンタッチ!オニシズクモだ!」
出てきたのはたしかあく・かくとうタイプのゴロンダ。むしタイプが有利なポケモンだが、ただものではない雰囲気を感じる。テッカニンではあの巨体に分が悪いと感じ、パワー勝負が得意なオニシズクモに交代する。ジリジリと対峙するオニシズクモとゴロンダ。埒が明かない、先手必勝だ。
「そこだ、とびかかる!」
「バレットパンチ!」
不思議なことが起こった。オニシズクモのとびかかりを、ゴロンダはまるで分っていたかの様な動きで回避、鋼の様な拳をオニシズクモの腹に叩き込んで殴り飛ばしたのだ。
「負けるな、アクアブレイク!」
「ともえなげ!」
強力な一撃も、軽く横に避けられて持ち上げられ、地面に向けて巴投げで叩きつけられるオニシズクモ。何とか受け身を取ってダメージは避けているが、それでも、何かが可笑しい。
「逃がすな、壁を利用してとびかかる!」
「バレットパンチ」
「かみついてやれ!」
壁を利用して上空に跳ねて、襲いくるオニシズクモをゴロンダは的確に拳で迎撃。ならばとかみつかせるがそれも避けられてしまう。こちらのダメージが蓄積される一方で攻撃がまるで当たらないことに驚愕する俺に、深呼吸したサイトウが語る。
「ゴロンダは口に咥えた竹の葉っぱで敵の動きを察知する能力があります。そして私から見ても、貴方の考えていることはわかりやすい。私達は明鏡止水の心でそれに応じればよいだけのこと」
「っ…バブルこうせん!」
「つじぎりで迎撃し、ともなえげです!」
そんな生態があるのか。そんなに俺は分かりやすいのか。距離を取ってみるが、放たれた泡攻撃は十字を描く手刀で斬り裂かれて防がれ、突進からの巴投げでフィールドに叩きつけられオニシズクモがダウンしてしまう。慌ててボールに戻すが、動きを読まれるなんて冗談じゃない。考えろ、どうすれば…待てよ?あの葉っぱで動きが読まれる?なら、やることはひとつだけじゃないか。
「初陣だ、暴れろマルヤクデ!」
マルヤクデを出すと同時に、しろいけむりが辺りに充満する。あんまり意味はないが、これで能力低下は無くなった。やる気満々と言うように体を発熱させるマルヤクデに頷き、指示を出す。
「えんまく、からのほのおのうずだ!」
「っ、避けなさい!」
「ならまきつく攻撃!」
えんまくを纏って攻撃の瞬間を悟られないようにしつつ、蜷局を巻いて放たれたほのおのうずを分かりやすく全力で回避するゴロンダに、えんまくから飛び出したマルヤクデが蜷局を巻いた勢いのまま全身に巻きつく。発熱してるからそのままでもダメージはあるだろうが、目的は葉っぱのみだ。
「くっ、ふるいたてなさい!ともえなげ!」
「離れるなマルヤクデ!おにびからのほのおのうず!」
まきついた状態からのおにびと、ほのおのうずがゴロンダの全身を焼き尽くす。葉っぱが燃えて目に見えて意気消沈するゴロンダをしめつけ、焼き続けるマルヤクデ。体力が尽きたのかゴロンダは崩れ落ちた。
「どんな攻撃もゴロンダで受け切ると考えていましたが…どうやら驕りだったようです。私も本気で貴方に挑ませてもらいます!ネギガナイト!」
「こっちだって負けられないんだ、虫ポケモンの強さを証明するために!」
繰り出されたのはガラル地方のカモネギの進化系、ネギガナイト。ネギの様な槍の様な武器と、盾が特徴のポケモンだ。アレとやり合えるのは俺の手持ちには一匹しかいない。
「がんばれ、テッカニン!つばめがえし!」
「ネギガナイト!ぶんまわす!」
そして、テッカニンの刃とネギガナイトのネギがかち合った。
ネギ。それはとてもすごいネギ。地面に刺して呪文を唱えたら通信できそう。
・ラウラ
三半規管が弱い人。ドラピオン戦で快進撃が止まった上にワイルドエリアに三日三晩いたため行方不明扱いされていた。ドラピオン戦でテッカニンに念願のつばめがえしを覚えさせることに成功。つばめがえしはひこうタイプが使って必中なのだと認識を改める。
・サイトウ
かくとうタイプのジムリーダー。明鏡止水を心がける空手家。その心持ちがゴロンダの生態と相性が良かった。ラウラに対しては心の起伏が激しい楽しい人という認識。ちなみにモコウ相手にはパッチラゴンのつばめがえし一辺倒で倒され激しく動揺したとかなんとか。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。