今回はダフネの修行回。前回の最後の続きからとなります。楽しんでいただけると幸いです。
「ダフネ!無事か!」
ラウラさんに何があったか話していると、どたどたと音を立てながら兄さんが扉を勢いよく開けて入ってきた。その足元には止めようとしたのかナースの人が倒れている。
「廊下は走らないでください…と私は目を回しながら注意します」
「大丈夫か、リヅキさん?」
「だ、ダフネがプラズマ団に襲われたと聞いて駆け付けたのだが!」
「兄さん。私は大丈夫ですよ、ポケモンに直接攻撃されただけです」
腹部を押さえながらそう言うと、兄さんは緊張が解けたのかその場に崩れ落ちた。
「無事でよかった…」
「正確にはあやしいひかりによる意識の混乱と、翼を腹部に叩きつけられた外傷だけです。安静に、と私は安静にしなくて悪化した患者を見ながら注意します」
「あの時は悪かったよ…」
苦笑いするラウラさん。リヅキさんには頭が上がらないようだ。
「一週間は安静にしてくださいね。お大事に、と私は邪魔にならないように出て行きます」
「…それでだダフネ。どうする?」
「どうする、とは?」
リヅキさんが出て行き、兄さんとラウラさんと三人きりになった途端、話を切り出すラウラさん。年下とは思えない迫力に臆してしまう。
「推薦状のことだ。手持ちが奪われて、それでも挑むのかと聞いているんだ」
「…やります。私は、強くなりたい。有名になればまたプラズマ団に狙われるかもしれません。その時に私はクワガノン達を取り返したい!」
「そんなの反対だ!確かにクワガノン達が奪われたのは問題だが…それでも、お前がわざわざ危険な真似をする必要はない」
「俺も反対だ。運営は今回の事件を重く見て、今後推薦状を渡す場合は細心の注意を払うようにと言われている。俺はお前の実力は認めているが、それはクワガノンやアーマルドありきだ。今のお前に推薦状を渡せない」
「…では、強くなればいいんですね」
反対する二人に、面と向かって言い放つ。私の心は折れていない。二年前のあの時、ウジウジしていた自分は死んだんだ。
「ジムチャレンジが始まるまであと二ヶ月。それまでにラウラさんが認める程強くなればよいのですよね?」
「ま、まあそうだが…」
「それまでに新たな仲間を揃えて鍛えます!なにか、いい場所を知りませんか?!」
「…ダフネ。そこまで言うなら俺はもう何も言わん。ラウラ、何かないか?」
「…まあ、あるにはある。知り合いに電話してくるからちょっと待ってろ」
そう言って部屋の外に出て行くラウラさん。残った兄さんと向かい合う。
「…なあ、ダフネ。やはり…」
「俺も旅に同行する、なんて言うとはったおしますよ。せっかく就職できたのに棒に振るのは賛成できません」
「むむむむ……ならば、俺の相棒を貸そう。それぐらいは、役に立たせてくれ」
そう言って手渡してくる兄さんからモンスターボールを受け取る。中にいたのは……
あれから数日。失意に落ちた私はヨロイ島のマスター道場にいた。少しでもトレーナーとして強くなるためだ。イオルブと兄さんから渡されたポケモン以外にも仲間も増え、今はマスタード師匠と模擬戦中だ。
「ダフネちん。あまり無理はしない方がいいよ」
「いいえ、いいえ!この程度の実力じゃあ、プラズマ団から私のポケモンを取り返せません!師匠!もう一度お願いします!」
イオルブと、新たに仲間になったアブリーで戦いを師匠に挑むが、コリンクもコジョフーも倒せない。師匠と私には絶対的な格差がある。
「うーん、やっぱり手持ちを整えた方がいいんじゃないかな?せめてあと一匹ね」
「あと一匹……ちょっと、外に出てきます」
道着姿で外に出る。ポニーテールに纏めた髪が海風で揺れる。思えば遠いところに来た。ラウラさんに紹介されてきたが、いいところだと思う。傷心が癒される。
「…強く、なれるのかな」
私のメイン火力だったアーマルドとクワガノンが奪われた。以前ラウラさん達と戦ったときだって、二体を前衛にイオルブを後衛にしていたからなんとか相手できていたのだ。なのに、アーマルドとクワガノンを取り返せるぐらいに強くなれるのだろうか。
そんなこんなでやってきたのは集中の森。ラウラさんから多くの蟲ポケモンがいると聞いた場所だ。強くなるには蟲ポケモン以外を使わないといけない、なんてのは昔の私だ。私は私の好きを貫く。そう誓ったんだ。
「うーん、フシデ…メラルバ…」
しっくりこない。アブリーはついてきたので仲間にしたけど、自分から捕まえるにはちょっと抵抗がある。また、守れないかもしれない。そう思うと、無理やり仲間にするのは何か違うのだ。即戦力が欲しい。あのシュバルツにも負けない様な、そんな強力な蟲ポケモンが。
「っ!」
ふらふらとアブリーを連れて森を歩いていたその時だった。突如襲いかかってきた一本角の一撃を咄嗟に飛び退いて避ける。そこにいたのはヘラクロス。好戦的なのか、慌てて避けるアブリー目掛けて角を振り回して暴れ回るヘラクロスに、響くものを感じた。
「そんなに戦いたいなら私と一緒に戦いませんか?…なんて、言葉が通じるなら苦労はしませんね。御して見せましょうとも。アブリー!ようせいのかぜ!」
煌めく風を放って牽制。顔を守る体勢で受け止めるヘラクロス。瞬時に急所を守る構えを取ることから見て戦い慣れている。即戦力だ、ぜひとも欲しい。
「インファイト!?ならば、しびれごな!」
防御を捨てて突撃してきたので、しびれごなで麻痺させることで動きを阻害する。反撃と行こう。
「マジカルシャイン!」
眩い光が防御体勢のヘラクロスに降り注ぐ。しかしそれでも耐え抜くタフネス。強い…!自身にまとわりついた光を振り払うと、黄緑色に輝く角…メガホーンで突撃してくるヘラクロス。直撃を受けてアブリーが吹き飛ばされてしまう。
「こ、交代!イオルブ!サイコキネシ…」
続けて繰り出したイオルブもメガホーンを受けて吹き飛ばされる。…しょうがない、師匠との戦いでは全然言うことを聞いてくれなかったけど……
「おねがい、グソクムシャ!」
繰り出したのは兄さんの相棒、グソクムシャ。ラウラさんをも感服させたききかいひを持つポケモンだ。ただし、私がジムバッジを一つも持ってないからか言うことを聞いてくれない。
「であいがしら!…やっぱり、駄目か」
そう叫んでも構えたまま動かないグソクムシャ。すると動かないグソクムシャに業を煮やしたのかインファイトしてくるヘラクロス。するとその瞬間、グソクムシャはバックステップで空ぶらせると水を纏った強烈な一撃を叩き込んだ。アクアブレイクだ。
「ちゃ、チャンス!」
アクアブレイクを受けてひっくり返ったヘラクロスに、咄嗟にラウラさんからもらったネットボールを構えて投げる。ヘラクロスは吸い込まれて行き、カタカタと暴れていたが諦めたのか大人しくなった。
「やった…!ありがとうございます、グソクムシャ!」
ヘラクロスの収まったネットボールを手にそう言うとぷいっとそっぽを向くグソクムシャ。…この子は、私の悪行を真正面からぶつかり体験したポケモンだ。私への不信感を募らせているのだろう。それでも、兄さんの命令で私を守ってくれた。ありがとう、兄さん。
「…今はそれでいいけど、これからよろしくね、グソクムシャ」
そう信頼を見せるために笑顔を向けるとぷいっと反対を向く。ちょっとかわいいな、と思ってしまったのは許してほしい。ちょっと怖いけど、やっぱりまだ苦手だけど、それでも愛おしいと思うのだ。
「…前途多難だけど、頑張ります」
あんな強力なグソクムシャの出番をあそこで終わらせるわけがなかった。
・ダフネ
ジムチャレンジが始まるまでの二ヶ月間にマスター道場で修行することにした主人公。マスタードにボロ負けしているが、アブリーに好かれるなど手持ちは結構順調。やっぱり蟲はちょっと苦手だけど愛おしい。
・ラウラ
ダフネのことを思って推薦状を渡すのを渋ったジムリーダー。ダフネにマスタードを紹介しヨロイパスを与えた。
・ローレル
ダフネの決意を見てグソクムシャを預けた兄貴。小さい頃から一緒だしよくしてくれるだろうと思っていたが、ダフネの本性を見た相棒が不信感を抱いていたことには気付かなかった相変わらずな人。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。