虚夜宮。
不気味なまでに青く澄み渡った偽物の空の下、しかしその日は何処か弛緩した空気が流れていた。
というのも藍染が尸魂界と完全に決別するに辺り、ここ数日中、完全に虚園を留守にしているためである。
よって緩んだ規律を統制する葬討部隊はそれはもう多忙を極めている
はずなのだが
「……また現世か?」
葬討部隊隊長ゾマリ・ルルーは黒腔を開き、密かに現世へ向かおうとしていた。
しかし、褐色の肌に金髪長身の女性破面、
「……ハリベル……ですか」
彼女の出現にゾマリは露骨に辟易した表情を浮かべるもそれ以上言葉を続ける気もないようで、彼女の存在を完全に無視してそのまま現世へと向かおうとする
と
「オイ!ゾマリてめえ、ハリベル様が声を掛けて下さったんだから、気の利いた返事の一つや二つ返せや、カスが!!」
ハリベルの従属官が一人、エミルー・アパッチがゾマリに噛みつく。
しかし当のゾマリはどこ吹く風で、完全に無視を決め込む。
それにアパッチが一層いきり立ち、声を荒らげる前に
「……そこの馬鹿に賛同する訳じゃないけど…実際何のために現世に行くわけ?……このタイミングでさ」
アパッチと同じくハリベルの従属官であるフランチェスカ・ミラ・ローズが奇行の真意を問う。
「………ハア……面倒な……」
それに対し、ゾマリはうんざりした表情でミラ・ローズへと向き直り、如何にも面倒臭そうに返す。
「……当然ながら全ては藍染様の為です…それに、ルドボーンは優秀ですから、私が抜けた程度で支障を来す筈もありません…それでは失礼」
それだけ言うとすぐ様再び黒腔を潜らんとするゾマリ。
しかし
「…答えになっていませんわよ?受け答えもまともに出来ないんですの?」
ハリベルの従属官最後の一人シィアン・スンスンが、その背に吐き捨てるように呟いた。
その言葉にゾマリの動きがピタリと止まる。
「……ピイピイとよくもまあ…小娘どもが」
ポツリとその言葉が紡がれた瞬間、
突如としてゾマリを中心に砂ぼこりが巻き上がる。
やがてそれが晴れると、ゾマリへと斬魄刀を抜き放ち斬りかかっているハリベルとそれを同じく斬魄刀で受け止めているゾマリの姿があった。
「…何のつもりですか?」
ゾマリが額に汗を滲ませながら問いかける。
「…一つ、警告しておく……私の部下に手を出してみろ………貴様の素っ首叩き落とす」
それだけ言うとハリベルは剣を引き、従属官を伴ってその場から立ち去る。
ゾマリは暫くその背を見つめていたが、やがて黒腔の中に消えた。
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第7十刃ゾマリ・ルルーは虚園の大多数から藍染の忠臣と見なされている。その死の形、陶酔もまた藍染への陶酔と捉えている者が殆どであろう。
しかし、ティア・ハリベルは違った。
思えば、ゾマリのハリベルへの態度は初対面の頃から悪かった。
藍染のことを第一に考えるのならば、ゾマリと同じだけ忠義に厚いハリベルの存在は歓迎すべきであるだろう。
にも関わらず、いつも最低限の言葉しか返さないどころか、同じ空間にいるのも苦痛であるかのようにハリベルとの接触を避けていた。
故にハリベルは理解した。
この女が陶酔しているのは藍染にではない。
この女は藍染に仕える、自分自身にこそ陶酔しているのだ。
よって自身と同じく藍染に忠実なハリベルを、自身の株を奪うような相手を、目障りに感じているのだろう。
命令には額面通り忠実に従うハリベルやゾマリと異なり、自身の裁量権内でだが、比較的自由を利かせるウルキオラには穏やかな態度を示すのが、その証左であろう。
故にハリベルはゾマリに気を許すことはない。未だ具体的な行動には出さないものの、いつか自分達に牙を剥く、そう強い確信を持っていた。
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黒腔内を駆けるゾマリ。
その心の内では恐らくハリベルをどう始末するかのおぞましい算段が
(ハリベルかあー…アイツと並ぶとコンパチみてえでやなんだよなあ~)
巡らされていた方がいろんな奴の気苦労が報われていたことだろう。こいつにハリベルを疎ましく思う気持ちなど微塵もない。
(褐色長身女破面って、キャラ被り過ぎじゃん……好きなキャラだけど、一緒にいると収まり悪いし………完全にこっちが下位互換だしなあ…)
こいつの態度の裏にあったのは、ただ並んだときに見映えが悪いからあんま近くに居たくないというだけの謎ポリシーのみであり、深い考えも強い負の感情も一切無かった。
だが、一方で
(あの三人娘…好きだけどウザ絡みは勘弁だわー……間に合わなかったらどーすんのさ)
ハリベルの従属官へのイラつきは、理由はどうあれ、本物であった。
果たしてそれほどまでに急いで現世へと向かう目的とは
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「クク…フフフ」
ゾマリが不気味に笑う。
その視線の先では
空き地で子供たちがサッカーをしていた。
いや、よく見ると小学生ぐらいの中に高校生っぽいのが一人紛れているし、つーか何だったらサッカーというより取っ組み合いに発展しているのだが。
やがて高校生と取っ組みあっていた子どもが巨大な棍棒を何処からともなく取り出し、高校生へと振りかぶった。
と、その瞬間、
「ジーン太ーどのー!!!」
眼鏡をかけた謎の筋肉ヒゲダルマが現れ、空き地に高校生と棍棒小学生の悲鳴が響く。
「あはっ、あははははは!」
その様子にゾマリは満足げに笑う。
そう、ゾマリの目的、それは原作単行本においてオマケ的に描かれていた尸魂界篇時の現世の一場面を、実際に観ることであった。あれだけキレてこれかよ。
と、一人過呼吸気味に笑うゾマリの背に
「いやー、あの人ら観てて飽きないっスよねー」
一人の男が声をかけた。
「フフッ、ええ、本当に…私もつい笑っ……」
ゾマリはその言葉に思わず応えてしまうも、すぐに我に返り、口を紡ぐ。直ぐに相手から距離を取り、改めて口を開く。
「………貴方、何者ですか?」
その下駄に緑と白のラインが入った帽子が特徴的な男が、わざわざ分かりきっていることをかっこつけて訊いた目の前の愚者の問いかけに、答える。
「…こりゃどーも、ご挨拶がまだでしたね
浦原喜助、以後お見知りおきを……破面のゾマリ・ルルーサン?」