私の響転は十刃中最速です(ソプラノ)   作:バラフバフ

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第4話

「……浦原………死神が一体何の用ですかね?」

 

突如として現れた謎の人物、浦原に対し警戒心を顕わにするゾマリ。

 

その問いかけに浦原は意外そうな表情を浮かべる。

 

「アラ?…この義骸、霊圧が漏れない特別製なんスけどねー……ボクの事、誰かから聞いてたりします?

 

例えば……アナタの飼い主とか」

 

核心を突いたようなセリフを意味深な笑みと共に発した浦原。

 

対してゾマリは訝しげな表情を見せるだけで大きな変化はない

 

ように見えた。

 

(……浦原さんやん!なんで!?ちょっ、えっ、ちょっ、ど、どーしよ!心の準備出来てねえし!!生、生浦原さんじゃん!!!序盤じゃ、いっちゃん好きなキャラなんすけど!!カメラとか持ってくりゃ良かったぁー!!チックショー!!!)

 

彼女の内心は大荒れでロールプレイの趣味がなければサインを求めて不用意に近づいていたことだろう。

 

「………こちらに争う気はありません……今回もまた様子見に過ぎませんから、大人しく…」

 

取り敢えず一旦気持ちを立て直すために、一時撤退を目論むゾマリ。しかしその言葉は浦原の呆れたような言葉にかき消され、最後まで続けられることはなかった。

 

「……様子見、ねえ………そちらがどうであれ、コチラはそうはいかないんスよ………のうのうと敵地のど真ん中に忍び込んだんだ…覚悟は出来てるでしょ?」

 

先に動いたのはゾマリだった。

 

響転を用いた高速移動で浦原の背後に回る。

 

浦原の目の前に分身を置いたまま。

 

「!?」

 

ゾマリの斬魄刀が浦原の首へと横凪ぎに振るわれるも、間一髪腰を落として回避する。

 

そのまま距離をとる浦原。

 

「…おっと……これは…驚いた」

 

目の前にいる二人のゾマリを見据えながらそんなことを呟く。

 

「…白々しい……貴方のことだ…どうせ見当がついているんでしょう?」

 

ゾマリは眉をひそめながら吐き捨てるように言った。

 

浦原は肩を竦めながら答える。

 

「…響転、破面が用いる高速移動術っスね……瞬歩とはまるで異なるんで、夜一サンが分からなかったのも道理っスね

 

「そう、響転と貴方達死神の移動法との違い…肉体構造の違いというのもあるが、何より大きいのは…」

 

「…響転は霊圧を感知出来ない、ってとこでしょ?」

 

「……本当に忌々しいですね、貴方」

 

ゾマリは不愉快そうに歯噛みするも、一度鼻を鳴らすと余裕そうな笑みを浮かべる。

 

「…そこまで理解しているならば…どうです?私を追うのは諦めて素直に退いていただけませんか?」

 

「ご冗談を…」

 

それに対し、浦原は不敵な笑みで応えた。

 

と、同時に

 

 

「それは残念」

 

「ッ!」

 

再びゾマリが背後へと出現する。

 

しかし

 

「!?な、これは……!」

 

今度はゾマリの周囲に6つの光の塊が出現し、その身を拘束した。

 

「…縛道の六十一、六杖光牢…確かに気配を察知することは難しい……しかし、貴女の戦い方はあまりに単純です…来るのを見越して鬼道を用いることは容易い……ご安心を、すぐには殺しませんから」

 

「くっ…こんなもの」

 

ゾマリは額に汗を滲ませながらも直ぐ様拘束を脱しようとする、しかし、

 

「縛道の六十三、鎖条鎖縛」

 

「なっ!」

 

浦原の攻勢が止むことはない。

 

「縛道の七十三…」

 

そして、遂に王手をかけんとしたその時

 

「…ハア……単純なのは貴方では?」

 

「!?」

 

浦原から少し離れた場所からゾマリの声が響いた。

 

直ぐ様のその場所へと視線を向ければ既に黒腔の内部にいるゾマリの姿があった。

 

鬼道を放っていた地点に向き直れば、相手の姿は影も形もなかった。

 

「……では失礼、賢しい死神よ…またいつか」

 

「くっ!」

 

浦原はゾマリへと斬魄刀を振るうもその直前で黒腔が閉じてしまう。

 

浦原は夜一からの情報、そして先程までの隙だらけで笑い転げていた様から、相手は自身の力に酔い、常に敵を侮る姿勢でいるタイプだと考えていた。

 

しかし、どうやら侮っていたのは彼の方であったらしい。

 

「……クソッ…」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

(あっぶねー!!!)

 

危機感ゼロで常時お客様気分のゾマリは黒腔の中を移動しながら心底安堵していた。先程は狙って縛道から逃れた訳でも無く、無駄に響転を駆使して広範囲にかっこつけて移動していたがために運よく逃れたに過ぎない。そのことも含め、これまでの軽率な行動を反省し、ようやくこの女も危機感というもの覚えるようにな

 

(………いやー、しっかし、浦原さんはカッコいいなあ、やっぱ!!)

 

らなかった。反省もほどほどにお気にのキャラのかっこよさを脳内で称え始めた。黒腔を抜ける頃には落ち着いていたが、その日は矢鱈と機嫌がよく、そのことでハリベルに警戒され続けることとなった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

(…成体の破面、それもあれほどの実力者……これは………不味いっスね)

 

ゾマリが去った後、浦原は内心焦りを見せていた。成体の破面であるゾマリの背後には藍染がいるとみて間違いはないだろう。前回のゾマリの出現の際、彼女は何かを狙っていたがそれに間に合わず落胆している様子だった。あの場で狙うに足る物、即ち崩玉。藍染が既に彼自身が作成した崩玉を有している可能性はあれど、完全なものではなく、それゆえ浦原が朽木ルキアの霊体に隠した崩玉を狙っているのだろうと考え、破面のレベルも決して高くはないだろうと見積もっていた。

 

しかし、そんな甘い考えは、元隊長格二人を以てして、二度も逃亡を許したことで粉々に打ち砕かれた。

 

戦闘に移行してすらいなかったものの、相手の実力が相当のものであることは疑うべくもない。

 

そして何より

 

(……あそこまで会話が可能とは………)

 

虚とは、常に破壊衝動、殺戮衝動に駆られている存在であり、基本的に会話が成り立つことは稀で、また例え成り立ったとしてもまともなものは望めない。

 

それがあそこまで冷静に、さらには傷も負わないうちから戦いを避けるような様子すら見せていた。

 

虚には死神の斬拳鬼走に相当する技術は存在しない。代わりに彼らにあるのは死神をはるかに超えた肉体性能である。

 

死神は知性で、虚は膂力で対抗する。

 

破面が何故脅威であるのか、それは死神の知性と虚の膂力を併せ持つからだ。

 

それがあれ程の完成度を持って現れた。

 

 

声をかける前に彼女が覗かせた、破壊以外に見せる喜色、虚の性から外れた感情の発露。

 

 

その朗らかで不吉な笑い声が浦原の耳にいつまでも残っていた。

 

 

 


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