「……私に、ですか?」
「ああ、藍染様の命だ。名指しでな」
ゾマリ・ルル―は虚夜宮を歩いているところを
「………確かに現世には何度か行っていますが……」
「すぐに済む。お前もそう虚圏を留守にするわけにもいかんだろう。別に特別なことをしろとは言わん。付いて来るだけでいい」
困惑するゾマリを他所に淡々と言葉を続けるウルキオラ。いずれにせよ藍染の命であれば従わざるを得ないので、ゾマリはおずおずと了解の意思を示す。
「……まあ、藍染様の命であるなら……」
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「……ハア…」
深いため息を漏らすゾマリ。その視線の先では
「ぶっはーーっ!まじィ!」
「当たり前だ。そんな薄い魂、美味い訳がないだろう」
仲睦まじく(?)語り合うウルキオラとヤミー・リヤルゴの姿があった。
(疎外感やべーー………)
ゾマリは内心辟易していた。ヤミーがついて来るのは原作の流れで予想できたことだが、それより何より二人きりの時には最小限の反応しか返さなかったウルキオラがヤミーが来た途端饒舌になったことで居た堪れなさを感じていたのだ。
ヤミーの口数が多いのもあるだろうが、仕事中に差ほど親しくもない人間と二人きりになってしまい、気を遣って話しかけるも最低限の返事しかしない不愛想な相手が、親しい人間が現れた途端にそいつと饒舌に語りだすというのは仕方ないことと分かっていながらも一抹の寂しさと怒りをもたらすも
(……そんなに私との会話は不快だったのか?ええ?大体こっちもテメエと話してえわけじゃねえんだよ!凍った空気を和ませてやろうっつう気遣いなんだよ、馬鹿。テメエ心がねえとかスカしてんじゃねえよ、テメエにねえのはなあ……)
のどころではなかった。前世の記憶でも刺激されたのか、ゾマリの心は荒れに荒れ、珍しく本気でキレていた。この沸点の低さ、暴走ぎみの思考は虚の性によるものだろう。彼女が生来狭量であるからではない…と思いたい。
しかしゾマリ自身、このままではいけないとも思っていた。
「………まあ、いいんじゃないですか…騒ぎを聞きつけて目標も来るでしょう…」
よって吐き捨てるように呟いた後にその場から少し離れようとする。とにかくストレス源から離れ、観光でもして精神を落ち着けてこようと意識を別の方向へと逃がしている最中に
「…どこへ行く?」
背後からストレス源の声がした。思わず斬りかかりそうになるが何とか踏みとどまる。やっぱり沸点低いな。
「……二人だけで充分でしょう?…私は周囲を警戒してきますよ」
絞り出すように言葉を発し、何とかその場から立ち去る。ウルキオラもその言葉に納得したのかそれ以上追求してくることも無かった。
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「貴様っ?!」
「………また、お会いしましたね」
その場から立ち去り、仕事を放棄して市内観光でもしてくるかと考えた穀潰しゾマリはその道中で見知った顔に出くわした。
浦原喜助と四楓院夜一は破面の出現を探知し、ウルキオラ達の元へ向かう最中であったようでその顔には焦りが滲んでいた。
ゾマリとしても今は観光が大事で、いや、宣言通り索敵に務め、ここでこの二人を足止めするのが正しい行動なのだろうが、とにかくこの二人をどうこうという意思もなかった。故に無気力な態度でそっけなく応じる。
「ええ、お久しぶりです。……まあ、ゆっくり話している暇もなさそうですが」
そうこうしている内にウルキオラ達のいる場所に霊圧の揺らぎが生じた。
どうやら会敵したらしい。
「……っ!喜助!!」
夜一は焦りから浦原へと声をかける。
「……どうぞ?早く行ってあげてください。でないと……死んでしまいますよ?」
ゾマリを無視することは出来ないが、浦原は味方の危機にやむ無く見逃す選択をとった。
その背を見届けると、ゾマリは悠々と観光に向かった。
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「…よしっ……もう一回だ!」
空座第一高等学校一年、浅野啓吾は一人、市内のゲームセンターでUFOキャッチャーに興じていた。彼とて友人がいないわけではない、寧ろ多い方だがその全員に誘いをすげなく断られ、現在一人悲しくやけくそ気味にぬいぐるみと格闘している。
あまり欲しくもない景品だが、取れたら後日話の種にでもなるだろうと考えて気軽に初めてみたところ、彼にはUFOキャッチャーの才能があったらしく、面白い程に景品が取れ、現在獲得した数が二桁に向かおうとしている。
そんな中、ふと店内にいた一人の女性が目についた。
女性は180cm以上はある高身長で、顔つきから外国人らしくそれだけでも目立つのだが、その髪色は白く、対して肌は褐色、そして何よりその服装は全身白でどこか聖職者を思わせる格好をしていた。
女性は何やらじっと一つのUFOキャッチャーの台を熱心に見つめていた。
(…不思議な人だな)
啓吾も初めは特に関わるつもりもなかったが、
「……………」
あまりに熱心に見つめていたため
「…あの、欲しいんですか?」
思わず声をかけてしまった。近頃奇妙な人間ばかり見ていた弊害とも言える。
女性は少し驚いた様子を見せた後、
「…ああ、いえ、見ていただけですので」
と断ったものの、やはりあの様子を見るに嘘だろう。
「……良かったら、俺が取りましょうか?」
何故そこまでする気になったのかは啓吾自身にも分からなかった。恐らく友人全員に誘いを断られたのが、かなり堪えていたのだろう……度々あることとはいえ傷つかないわけではない……寂しさから無意識に人との関わりを求めていたのかもしれない。
「…あの、私…持ち合わせもなくて……」
と固辞する女性に
「ああ、大丈夫っス。俺の自己満足なんで」
と、そこまで話して彼は女性がなかなかの美人であることに気づいた。先程までは格好があまりに奇抜すぎてそちらにしか目が向かなかったのだ。
尚も遠慮する女性にややキザったらしい態度で
「……大丈夫、俺に任せて」
と囁き、やや面食らった女性を他所に台に向かう。
無駄のない動きで景品のぬいぐるみを勝ち取ると女性へと渡す。
「…さ、どうぞ……」
と言ったところで少し冷静にそのぬいぐるみを見てみれば、頭頂部に触角、頭部に三つの目、胴体にも顔がついた奇妙奇天烈なデザインをしていることに気がついた。
「……なんスかこれ」
啓吾は自分が取ったくせに思わず呟く。
「…さあ?……恐らく、めろんか、くっきー」
「はあ…?」
「いえ、何でも……ふふっ」
何が面白いのか女性は口元に手をあて、上品に笑う。
「……面白い人ですね…ありがとうございます。大切にしますよ」
その笑顔が自棄に艶めいていて、啓吾は少し気恥ずかしさを覚え、顔を背けた。
少し間を置いてから、下を向きつつ啓吾は呟く。
「あの、良ければなんスけど……この後一緒に…」
とそこまで言ったところで顔を上げると
「…あれ?」
女性の姿は既に無かった。
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「…遅かったな」
ゾマリがウルキオラの元へ戻ると既に彼は黒腔を開き、虚園へ戻る直前であった。
「……ええ、まあ少し…そちらは?」
「………ああ、もう充分だ。藍染様には報告しておく、貴方が目をつけた死神もどきは
殺すに足りぬ、
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藍染への報告終了後、
「…何故だ?」
「はい?」
ゾマリはウルキオラに呼び止められた。
「……何故浦原喜助と四楓院夜一を見逃した」
ウルキオラがいつもの無表情で問いかける。するとゾマリは何でもないような調子で今さっき考えた言い訳を答える。
「……ああ…貴方が例の死神もどきを気に入ったようでしたので」
「…どういう意味だ?」
ウルキオラが怪訝そうな声音で尚も問いかける。
「あのままでは彼はヤミーに殺されていたでしょう?貴方もだからあのタイミングで退いたではないですか?」
「……」
「……気づかないうちに身を侵し、いつの間にやら全身に回ってどうしようもなくなる、それが、愛、というものですよウルキオラ。貴方がそれと気づいていないだけです」
クソサボり魔が得意気な調子で意味不明なことを語る。
「…理解できん」
「ですから、理解しようとして出来るものではないのですよ。……ああ、それと先程は庇っていただきありがとうございました。」
先程の報告会、ウルキオラの視てきたものを共有したのだが、その内容において、彼はゾマリの動向に気付いていながら、視線はヤミーの方に合わせたままで、そこに意識を割くことを努めて避けていた。
「…庇ったつもりはない。理由を聞く前に罰することもないと考えたまでだ」
「それでも、です。…貴方がいつか愛を…心を知るときが来ることを心から祈っていますよ」
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ウルキオラ・シファーにとってゾマリ・ルルーは理解に苦しむ存在であった。
破面、例え人型になろうとその性は虚と大きく変わるものではない。
それはウルキオラも例外ではなく、落ち着いた態度ではあるが、言動の端々に残虐な本性を滲ませている。
故にこそ、理解できない。
ヤミーが
故にその場から離れようとした際も頭を冷やそうとしていることが分かっていたために見逃したのだ。
何故、怒る?
食料か玩具に過ぎない人間が死に、何故……。
浦原喜助と四楓院夜一を見逃した際、その意図が理解できなかった。
理由を聞いても、尚理解できなかった。
しかし、確かに思い返せば、自身があの死神もどきに何らかの関心を抱いていたのは事実だ。
心とは、何なのか。
奴なら分かるのだろうか。
それより奴が持っていた何かの生き物を象ったあの謎の物体は何なのだろうか。
やはり理解できない。