Persona 5 / Your Friendly Neighborhood 作:あおい安室
本作に登場するスパイダーマンは様々な設定を流用しています。
原作コミック、アニメ、ゲーム、映画などから色々と採用しております。
そのため、明確に原作と言える作品がありません。
強いて言うなら知名度が一番高いであろうゲーム『スパイダーマン(PS4)』から採用している設定が多いです。
ただし年齢が高校二年生であったりと細かいところで違いが多いのですが、映画『アメイジング・スパイダーマン』等で描かれてきたスパイダーマンと同じと思っていただければ。
長々と前書き失礼しました。
大いなる力には、大いなる責任が伴う。
この言葉を君は聞いたことはあるかい? そっちの世界でのボクの地元なら子供や大人もみんな知っているかもしれないけど、今君がいるであろう日本での知名度はどうなんだろうね。最近そっちで有名なボクはその辺りのエピソードをかっ飛ばして物語を始めてるって聞いたんだけど。
ボクはこれがきっかけで今の自分があるわけだからその辺もきっちりやってほしいけど、何度も物語になって語られてたら飽きるかぁ。そういうのって有名税ってやつかもしれないけどさ。
よし、念のためこの言葉について語るとしよう。くどいって思うのなら聞き流し、もとい読み飛ばしてもらってOK。初めての人にはこれを聞いてボクのことを知ってほしい。二回目以降の人には改めて始まりのエピソードを思い出してくれると感謝カンゲキ雨嵐! あれ、なんか違う?
ボクはアメリカのニューヨーク市、一番東の方にあるクイーンズってところに住んでいる高校生だ。おっと、アメリカ住まいだからってそっちと大差あるわけじゃない。メガネをかけて運動が苦手、できるのは勉強だけのどこにでもいる高校生だよ……自分で言ってて悲しくなってきた。
そんなボクはある日学校の社会科見学で訪れた研究所で特別な蜘蛛に噛まれて強大な力を手にした。視力が上がってメガネはいらなくなり、いじめっ子にも負けない身体能力を手に入れたボクはこう考えた。
「この力でお金を稼ごう」
って。ボクは両親を亡くして叔父さんの家族と一緒に暮らしていて、少しでもお世話になっている叔父さん達の生活を楽にしたかったんだ。新聞広告に載せられていた『3分間プロレスラーと戦い続ければ多額の賞金!』という記事を見た僕はすぐに応募した。
生まれ変わったボクにとってそんな勝負は赤子の手をひねるようなものであっさり1万ドルを手にしたけれど、それ以上に僕はかけがえのないものを失った──叔父さんが、殺されたのだ。
「そこの強盗を捕まえてくれ!」
「ボクの役目じゃないね。せいぜい頑張って」
試合前、控えの廊下で強盗とそれを追いかける警備員と出会った。試合のために体力を温存したかったから強盗を見逃した結果、強盗は逃げ出すことに成功してしまった。そして、強盗は逃走途中に叔父さんを殺したのだ。ああ、わかっているとも。
これはボクが一生かけても償うことができない罪である、と。
皮肉なものだよね。大切なものを失って初めてボクは力をどう使うべきかということに気付いた。常人を超えたこの力を自らのために使わない。使ってはならない。力を持たない者、力を必要とする者のために使わなければならない。叔父さんが口癖のように呟いていた言葉が脳裏に蘇る。
大いなる力には、大いなる責任が伴う。
大いなる力を助けを求める誰かのため使う責任を背負い、僕は今を生きている。ここまで話せば僕のもう一つの名前に気付いたかな? それでは名乗るとしよう──
ボクの名前はピーター・パーカー。またの名をスパイダーマン。あなたの親愛なる隣人さ!
20XX年9月9日:日本時間
さて、ボクの物語はアメリカ、ニューヨークから始まる。スパイダーマンことピーター・パーカーは生まれながらに結構な不幸に見舞われている。自称だけど、マジなんだよ。
「はいこれ。ひったくりから取り返したバッグだよ」
「やかましい! お前も警察に逮捕されればいいんだ!」
とか。
「よーし、今日もヴィランを捕まえて大活躍っと。おっ、デイリービューグルの夕刊だ」
『スパイダーマン、今日もヴィランと町を破壊!』
とか。
「この写真……うん、完璧。構図もピントも最高。売れること間違いなし!」
「没だ没! こんな写真小学生でも撮れるぞ!」
とか。いいことをしても上出来に終わってもオチに大抵ケチがつくのがスパイダーマン、なんてね。ぶっちゃけ半分くらいは同一人物が引き起こしてるんだけど、ボクの身に降りかかる不幸であることには変わりない。そんな毎日を送っていると、ちょっぴりラッキーなことがあった。
「ふん、今日の写真はボチボチだな。4枚買ってやる」
「ありがとうございます」
「給料の振り込みは週末だ。分かったらとっとと次の写真を撮ってこい! ……ああ、私だ」
目の前のちょび髭親父は不愛想な顔でボクが撮影した写真を買い取ると、どこかに電話をかけ始めた。なんだと!? とか罵声を飛ばしているあたり今日もジェイムソンの怒りは絶好調。
彼はジェイ・ジョナ・ジェイムソン。新聞会社デイリービューグルで編集長を務めており、スパイダーマンの写真──事件を解決する前に設置した小型カメラで撮影した物──を買い取ってくれている。ただしその写真は大抵スパイダーマン批判に使われるのが泣き所。
そう、彼は大のスパイダーマン嫌いなのだ。妻を覆面強盗に殺されたから覆面している奴はとにかく信用してない。理由はわかるけど、もう少し批判記事を手加減してくれてもいいと思うよ?
「そうか、わかっ……いや、待てよ? おい、パーカー。お前の学校はどこだ?」
「ミッドタウン高校ですが」
「ミッドタウンか。わかった、ブラント、そのチケットはまだ売るな。使い道を思いついた」
ジェイムソンは電話相手のブラント──ジェイムソンの秘書にそういうと、電話を切って向き直った。なんだか嫌な予感はするけど危険察知能力スパイダーセンスは反応していない。
「パーカー、私の記憶が確かならミッドタウン高校は数日前に校舎が大破。二、三週間程臨時休校だと聞いている」
「ええ。その分課題も増えましたけど」
「いらんことは聞いてない! 今のお前は暇かどうか聞いてるんだ!」
「……暇ですけど」
「それならお前、明日からしばらく日本に行ってこい」
「日本? ジャパン? 忍者、芸者、テンプラの?」
「それは昔の話だ馬鹿者! 今の日本といえば怪盗団だろう!」
「怪盗団……?」
「ええい、新聞会社で働いてるなら世界の話題くらい知っておけ! 日本は今心の怪盗団とかいう連中が活動しているんだ。なんでも心を盗んで悪人を改心させるらしい」
「なるほど。こっちでいうスーパーヒーローみたいな感じですね」
「一見そうは見えるが、今のところ連中は悪人を改心させたという結果以外は一切不明だ。どうせ蜘蛛男に負けず劣らずな悪事を働いているに決まっている。そこでうちも来週心の怪盗団に関する特集記事を書くことにして、日本へうちの記者を派遣する予定だった」
ところが。そう前置きしたジェイムソンの眉間にしわが寄る。
「最近シニスターシックスが暴れたせいでのせいでうちの記者も大なり小なり身動きが取れない状況だ、クソ! おかげでせっかく取った日本行きチケットも無駄になるところだ」
シニスターシックス。スパイダーマンを恨むヴィランたちが結成した集団で、メンバーは結構入れ替わったりする*1けどどっちにしろ厄介な集団であることに変わりはない。先日の激しい戦いの果てにほとんどを捕まえることができたけど、ニューヨークは大きな被害を受けてしまった。
ジェイムソンもかなりの批判をスパイダーマンに浴びせてきたけど、今回ばかりは反論の余地がない。ボクがもっと上手くやれていればこんなことにはならなかったはずだ。
「そこでパーカー、お前の出番だ。にっくき蜘蛛男の写真を何枚も撮るお前だ、お前なら心の怪盗団に関する写真や情報を掴むことができるだろう。すぐに準備して明日日本に出発しろ」
「あ、明日ですか? そんなすぐには……」
「やらなければ今後スパイダーマンの写真は買い取らんぞ。代わりにやってくれるのならボーナスをはずんでやろう。まーあ、私とて鬼じゃない」
夕方まで時間をやる。ゆっくり考えるんだな。ジェイムソンのある意味死刑宣告に近い言葉を背にボクはオフィスを後にした。やれやれ、どうしたものかな。ひとまずは……路地裏に入って着替える。何にって? 決まってるさ。
「The AMAZING SPIDER-MAN is Coming !」
掛け声とともに、ウェブシューターから蜘蛛糸一発! ニューヨークの空にウェブスイング……
おっと、翻訳が切れてたね。さっきの台詞は「アメイジングスパイダーマン、参上!」ってところかな。 え、さっきから読者に語り掛けるスタイルはなんだって? 第四の壁、物語と現実の壁を破る能力だね。と言ってもこんな感じで一方的に語り掛けるだけなんだけど。
実はこれアニメや漫画でのボクは結構持ってるケースが多い*2んだよ、調べてみて。で、この力を使うのはここがアメリカだから。英語の会話は読みづらいだろうし日本語に変えてるのさ。
「ウェブヘッド、独り言が多いぞ。黙って手を動かせ」
もっともこれは独り言にしか聞こえないから周りからは不審にみられる。これからは頻度を減らしておくか。蜘蛛糸を飛ばしてガレキ──シニスターシックスに破壊された建物の成れの果て──を運んでいると、同じようにガレキを運んでいる人、黒人の警官が隣に並んだ。
「そうは言うけどさ、ジェフ。あなたも結構戦闘中は独り言ぼやいたりしないの?」
「全く言わないわけではないが、なるべく少なくしておいた方がいいんじゃないか? 特に今は復興作業中なんだからな。市民に口うるさく言われたくないなら黙っておくといい」
「本音は?」
「君みたいにうまい冗談を言ってかわす自信がない。そういう面は流石だよ、スパイダーマン」
「うわー、褒められちゃったよ」
本当なら今頃家で温かいスープでも飲みながら息子と遊んでいたところだったんだがな、と愚痴るのはデイビス巡査。黒人の警官で、マイルズという息子がいるらしい。何度か事件解決に協力してもらったことがある警察内の頼れる仲間の一人。
「しかし今回の惨状は酷いな。ダメージコントロール*3は何やってるんだ? 警官が後始末に駆り出される頻度が多すぎるぞ」
「シニスターシックスが最初からダメコン狙いで暴れ回ってたせいでニューヨーク市内では機能不全起こしてるんだってさ。市外から駆け付けてるチームもあるって聞いたよ」
「なんてこった……ん? ちょっと待て」
こちらデイビス巡査。警察無線に連絡が入ったらしく通信を始めた。普段なら警察無線を間借りして犯罪を追跡してるけど、この惨状では混乱に繋がるからやめろと言われてる。
「ああ、わかった。スパイディ、伝言だ!」
ユリコ警部が警察署の屋上で待ってる、行ってやれ!
ごくまれに捕まって連れてこられることもある警察署。今では知名度もいい意味で広がってきたからそれなりには協力関係があり、何度か捜査情報を教えてもらいに来たこともあったり。
「やあ、ワタナベ警部。君のコーヒーがあるんだ。一緒にどうかな」
「あなたはいらないの?」
「それ、ぶら下がり健康法試してる僕への嫌味? 流石に飲めないよ」
近場のコーヒーショップで買ってきた一杯を見せると黒いスーツの女性はため息で返した。とか言いながらもコーヒーを受け取る辺りが彼女の憎めないところ。
「……なんだか苦すぎるんだけど。どこで買ったの?」
「二丁目にあるカフェ『レイス』ってところ」
「名前はともかく味はいまいちね。次はもっとおいしいところにして」
ユリコ。ユリコ・ワタナベ警部。女性警察官で厳しい態度と悪を許さない正義感、そしてボクに負けず劣らずな体術と度胸で戦っているこれぞ警察官!な女性*4。
「で、ボクを呼んでるって聞いたんだけど。それってやっぱり……シニスターシックスの件?」
「一応はそうなるわね。ああ、緊張しなくていい。責めるためじゃなくて、称賛するために呼びだしたんだから。よくやったわね、スパイダーマン。お手柄よ」
「気にしないでください、ニューヨークはボクの街ですから守るのは当然です。ただ、今回は失敗しちゃいましたけど」
屋上から一望した街はすでに火災は収まった物の爪痕が大きく残っている。復興にかこつけて犯罪を働こうとするマフィアもいるし状況は決していいとは言えなかった。
「責任を感じるなとは言わない。私も何度かミスを犯して大切な人々や仲間を失ったことがあるから。ミスをしないに越したことはないけれど、あなたはまだそういう年でしょう。失敗から学ぶことは必要だけど、失敗で失った物の重みをあなたは知っているのよね?」
その問いに頷く。脳裏に浮かんだのは大切な人、ベン叔父さんの姿。
「それに今回の事件で、助けられなかった女の子がいるって聞いた。名前は確か――」
「グウェンです。グウェン・ステイシー。去年殉職したステイシー警部の娘です」
「名前まで知ってたの? ということは、そのマスクの下は彼女のボーイフレンドかしら」
「あはは……そんなところです、はい」
目元を覆って肩を落とす。普段ならワタナベ警部のからかいに若干怒り気味に返すところだけど、その気力がわかなかった。
グウェン。グウェン・ステイシー。ボクの同級生で戦友だったステイシー警部の娘。彼女の父を死なせてしまったショックで上手く立ち直れなかったときに支えてくれて、同時にその罪を許してもらえた。これがきっかけで交際していたボクの彼女であった。
シニスターシックスとの戦いに巻き込まれて、もうこの世にはいない。
ボクの素顔を知らないワタナベ警部でも考えていることが分かったのか、肩を小さくたたいた。
「失敗から挫折することもある。そこから立ち直ることだってできるけれど、あなたはまだ若い。これからのことを考える時間はある……ねえ、スパイダーマン」
一度休んでみるのはどうかしら。
幸い今回の事態で警察もかなりの数が集まってるし、シニスターシックス逮捕でヴィランも減少傾向にある。ニューヨークの平和は警察に任せて、一度考えてみたらどう? 優しさに満ちたワタナベ警部の言葉はボクを安心させようとしたものなのだろう。それはわかっていた。わかっていたけれど。心のどこかでこう考えてしまった。
スパイダーマンはもう戦わなくていい。と。
ボクもヒーロー二年目だからかなりの数のヴィランと戦ったし傷を負ってきたけど、「もうそろそろやめていいんじゃないか」とどこかがささやいている。どの道ジェイムソンの依頼を受けなければピーター・パーカーは生きていけない。スパイダーマンを続けることは出来ない。
デイリービューグルのビルに戻ったボクは、編集長室のドアを叩くと依頼を受ける旨を伝えた。珍しく罵声は飛ばなかったが、本気で喜んでいた。これ、多分ボクが集めた情報を基に怪盗団の批判記事を書くパターンだな。なるべくそういう方向につながらない情報を集めるか。
翌日、ボクは日本の東京にいた。旅行カバンの中には着替えや身だしなみセット、カメラを始めとした取材道具、そして──スパイダーマンスーツ。大いなる責任を肩から降ろすために持っていかない方がいいのかもしれないけど、これがないとボクがボクでない気がするから。
「どこにいたってボクは変われない、か」
ボクは、スパイダーマン。どれほどの責任が積み重なろうと、大いなる力がある以上戦うしかないのだ。ボクはその生き方しかできないのだから。呟きながら蜘蛛糸を放ち駆ける日本の空は心なしか冷たかった。
20XX年9月16日
それから時間が流れ、取材期間は後一週間くらい残っている。
「はいこれ、手放しちゃった風船だよ」
「ママー! スパイダーマスクが僕の風船盗んだ!」
「こら! 危ない人に近づいてはいけません!!」
「……ダメだこりゃ」
日本で怪盗団の取材を進めながら、相変わらずスパイダーマン活動していた。困っている人は世界共通でいるものだしね。幸い勉強したおかげで日本語は読み書きは苦手だけど、喋るくらいならどうにかなるからお得意の軽口さえ使えれば特に支障はない。ないんだけど評判は最悪な状況だ。
「見ろ! あれスパイダーマスクだぞ!」
「ついに空飛ぶ奴まで出てきやがったか」
「おい、誰か警察に通報したのか?」
ボクのマスクを使って犯罪を働く連中、スパイダーマスクが出回ってるせいで評判はがた落ち。下手するとアメリカよりもひどい状況かもしれない。一人ずつ何とか捕まえているけど事態が鎮静化するのはいつになることやら。
「はいそこ、喧嘩売らない! スパイダーマンのマスクで強くなれると思ったら大間違いだぞ!」
「う、うるせぇ……」
サラリーマンに絡んで襲おうとしていたスパイダーマスクを手早くなぎ倒して腕に装備したウェブシュータ──―糸状にもなる特殊な粘液を発射する装置──からウェブを発射して拘束。通報をサラリーマンに頼もうとしたけれど、ボクを見た彼は既に逃げていた。
はあ。公衆電話探さないとなぁ。下手にスマホから通報してアシがついたら困るし。
「お腹空いたしご飯食べようかな。えーっと、あれは……ああなるほど、ハンバーガーショップの広告か」
辺りを見渡すと日本語で書かれた大きな看板を見つけた。こんなこともあろうかとマスクのレンズに自動翻訳機能を付けておいたのだ。分からない文字でもレンズ越しに見れば仕込んでおいたプログラムが解読して表示してくれる便利機能。
「どこの国でも広告っていうのは変わらないものだね。さて、食事したら次の犯罪を探そう」
アメリカなら警察に協力者がいるから犯罪探しもお手の物なんだけど、日本だと昔ながらの足で探すしかないのが泣き所。せっかくのマスクに着けた新機能も使い道がないのは残念……ゲッ。マスクの電話機能に着信が入ってきたよ。イヤホンとマイク仕込んでるから脱がずに電話に出られるのは便利なんだけど……
「もしもし、パーカーで……」
『パーカー! お前が送ってきた資料を見たぞ、なんだこれは!』
はぁ。ジェイムソンの愚痴聞くためにつけた機能じゃないのになぁ。
「ああー、見ての通りです」
『そうだな。どう見てもスパイダーマスクの記事だな! 確かにスパイダーマン関連の記事は書きたいが今書きたいのは怪盗団なんだ。その情報が一週間経ってもほぼないのはどういうことだ?』
「怪盗団は良くも悪くもファンが多すぎるんですよ。信憑性がない情報しか知らない人が多くて詳しく知る人となかなか出会えなくて……でも大丈夫です、昨日怪盗団の情報通と出会いました」
『下手な言い訳だな。まあいい、今晩は少しはマシ情報をよこせよ、じゃあな!!』
乱暴に電話を切られた。やれやれ、これは不味いことになりそうだ。大宅さんと雨宮君は昨日挨拶と連絡先を交換しただけで詳しい情報は聞いていない。今日はきっちり取材しないとろくに眠れなさそうだ。ため息を吐いているとまた着信だ。この番号は……うん、今日は運が向いてるかな。
「雨宮君、グッドタイミング! 連絡待ってたよ」
必要な時に、必要な人の連絡。ボクにしてはラッキーだね!
……この程度で喜ぶボクはどうやら幸運に飢えているらしい。
雨宮君からの連絡は、ちょうど学校が終わったからどこかで会えないかという物でボクもそれに同意。と、いうことで渋谷のセントラル街にあるファミリーレストランを訪れた。
「いらっしゃいま……えっ、外国の方?」
「あー、日本語話せるから大丈夫。友達が先に待ってるって聞いたんだけど行ってもいいかな?」
戸惑う店員と何度か経験したやり取りを済ませて店に入ると、バイクが展示されている近くの席で雨宮君が手を振っていた。その隣にはおどおどした同い年くらいの少年。昔の自分を思い出すなぁ。
「やあ、雨宮君昨日ぶりだね。そっちの子は?」
「は、はじめまして! 三島由輝です! ねぇ、ちゃんと通じてるかな?」
「外人だからって緊張しないで、ボクも同じ高校生だから。それと、会話は普通にこなせるけど読み書きはまだ駄目なんだよね。良かったらおすすめを注文をしてほしいんだけど頼める?」
「へ? あ、ああ。任せてくれ。雨宮君の分も注文するけどいいよな?」
雨宮君はその問いに頷く。おどおどした少年こと三島君が注文する横で彼は事情を説明し始めた。
「三島は怪盗団に関しては俺以上に熱烈なファンで、ネットで話題の怪盗お願いチャンネルを運営している。怪盗団について話すのなら詳しい人間がいた方がいいと思って連れてきた」
「いいね。情報源は多いに越したことないし、頼もしいよ」
「そういってもらえるとありがたいよ。実は最近怪盗お願いチャンネルでもスパイダーマンやスパイダーマスクが話題の中心でね。俺もスパイダーマンについて詳しく聞きたいところだったんだ」
「なるほどね。わかった、ニューヨーク1スパイダーマンに詳しい自信がある。何でも聞いてくれ。その代わり──」
「約束通りこちらも怪盗団の情報を提供しよう」
雨宮君はニヤリ、と笑みを浮かべた。いいね、こういう取引関係。
それからボクらはお互いに情報の取引を始めた。スパイダーマンが活動を始めた時期、解決した事件、ニューヨークでの評判等。逆にこっちからも怪盗団に関して同様の情報を聞き出していく。
「スパイダーマンの写真で一番うまく撮れたのはこれかな。『スパイダーマン、グリーンゴブリンを御用!』ってね。一番高く売れたのは別の写真なんだけど」
「何の写真が高く売れたんだ?」
「ヴィランのロボットを止める過程で街が破壊される写真。うちの編集長はスパイダーマンを悪党にしたいからそういう写真は高値で買い取るんだよ。ファンとしては何とも言えないよ」
「うわぁ……そういう意味では俺、怪盗お願いチャンネルを運営しててよかったかも。出来る範囲だけど悪評とかが広がらないようにしてるし」
「公正とは言えないけど、確かにそれもありだろうね。たとえるなら戦略的広報担当って感じ?……うん、このハンバーグ美味しい。正式に取材を申し込めるんだったら写真も撮っておくんだけどなぁ。『ぼーいもビックリ、そこには懐かしの母の味』なんて見出し付きで」
「ふむ、悪くないセンスだね。だけど個人的にはもう一押し欲しいかな」
「怪盗の宣伝役のお眼鏡は高いね……」
時には物品のやり取りもこなしたりと。
「──我々は全ての罪を、お前の口から告白させることにした。その歪んだ欲望を、頂戴する』なるほど。これがアメリカでも話題になってた班目一流斎へ送られた予告状ね。もらっても?」
「構わない。現場には結構な数が貼り付けられていてこれはその中の1枚だからな」
「俺も何枚かコレクションしてるんだよね、予告状。最高にかっこいいだろ?」
「わかるよ。ロゴの怪盗っぽさと燃え盛る瞳に確固たる意志を感じる代物だ。ところで、最初の犯行とされている鴨志田卓宛の予告状はないの?」
「あー、あれはー、そのー……」
「ニャア、ニャオーン……」
『特別翻訳:リュージが作ったへたくそなやつを渡すわけにはいかねぇだろ……』
「ん? 猫の鳴き声が聞こえたような……気のせいかな」
といったようにお互いに情報を交換し合って、ついにあの問題について話し合うことになった。
「それで、スパイダーマスクについてなんだけど。雨宮君の言う通り陰謀説の可能性が高いと思うよ。確かにスパイダーマンは正義の味方とは言い切れない。彼も失敗することがあるし、それで街を壊してしまったことも少なくない。だけど、彼は親愛なる隣人なんだ」
「親愛なる隣人……? 不思議な言葉だな」
「Your Friendly Neighborhood.日本語に訳すとあなたの親愛なる隣人。スパイダーマンのキャッチフレーズさ。スパイダーマンはヒーローではあっても完璧な存在ではない。平穏な日常を守り、日々を生きてゆく人々と共に歩む存在である……っていう意味が込められているんだと思うよ」
本物がそれを言ってるこの光景はシュールだけど。
「だからこそ平穏を乱そうとするヴィランにとってスパイダーマンは障害だ。彼の評判を落とそうとする手段に出る奴はこれまでにも何度かいたよ」
「ってことは今回の事件はそいつが起こした事件ってことか」
「犯人の目星はつかないのか?」
「無理とは言わないけど、難しい。恨みを持ってる連中なんてごまんといるからね」
三島君はあちゃー、と言って頭を抱えた。今のボクもそんな感じなんだよね。それとは対照的に雨宮君は顎に手を当てて考え込み──何かを閃いたようだ。
「ピーター。今回の事件、前例になりそうなものはないのか?」
「前例?」
「ああ。この事件はただスパイダーマンの評判を落とすだけが目的ではない気がする。
相手が使っているスパイダーマスク、つまり偽スパイダーマンという手段に意味があるんじゃないかと考えた。ここはスパイダーマンのホームであるニューヨークじゃない。遠く離れた日本なんだ。そんなところでわざわざスパイダーマンの評判を落とす意味なんてあると思うか?」
俺がヴィランなら日本で手を出さず、アメリカでスパイダーマンが帰ってきたと同時に襲撃する準備を進める。日本で手間がかかる偽スパイダーマン軍団を使ったことに意味があるはずだ。
「……なるほど。確か、スパイダーマンのコスプレセットは早期に販売停止されてるから、偽スパイダーマンを新たに増やすのは難しい。それなのに一向に数が減ってる気配がないのはわざわざ念入りに準備をして偽スパイダーマンを用意しているから、ってことか」
「その通りだ、流石スパイダーマンの専門家だな」
「あはは、まあね」
スパイダーマンの専門家、というかスパイダーマン本人だけど。
「偽スパイダーマンはスパイダーマンにたたきつけた『予告状』だと考えている。心の怪盗団は予告状をターゲットに送ることで『お前を狙っているぞ』と伝える。偽スパイダーマンを作り出した存在も同じように『お前を狙っているぞ』と言いたいんだろう。あくまでも俺の仮説だが……」
「ありがとう、十分参考になった。偽スパイダーマン使いとなると候補は絞れるな……」
「ちょっと待って、それならわかるかもしれない。当ててみせるよ」
三島君がストップをかけてスマホを操作し始める。真剣な表情と手慣れた操作で瞬く間に彼は情報の検索を行い──答えにたどり着く。
「あった、これ見てよ!」
表示したのは先程会話している時に見せてもらった怪盗お願いチャンネルの掲示板。その中の書き込みの一つで、偽スパイダーマンを使ったヴィランについて触れられていた。
062 .名無しの怪盗 ID:rl8CroW
偽スパイダーマンか。確か使ってたヴィランはほとんど刑務所にいるな
カメレオンはこの前捕まったし、今行方が分からないのは……ミステリオか
「すぐにレスで流れて話題にならなかったんだけど、印象に残ってたんだ。当たってるかな?」
「可能性は……高い、いや、ほぼ確定かも。ミステリオは最初の悪行が偽スパイダーマンに変装して悪事を働いてたんだよ。そして悪党スパイダーマンを正義のヒーローとして倒すというマッチポンプ作戦を企ててた。偽物戦法を得意とするミステリオが犯人の可能性は高いはずだ」
「やるな、三島。見直したぞ」
「怪盗団の戦略的広報担当としてこれくらいはね」
「ありがとう三島。ちょっと調べてくるよ。あ、お代はここに置いてくね」
「待ってくれ、ピーター」
既に残額が心もとない財布からなけなしの金を取り出し、店を出ようとしたところで雨宮君に呼び止められた。
「ミステリオはあくまでもヴィランとしての名前だろう? 本名はわからないのか?」
「ああ、それならわかるよ。ミステリオの正体は──」
クエンティン・ベック。
普段なら本名を聞かれても、ミステリオについて調べて危険な目にあう可能性があるから教えなかった。焦っていてうっかり教えてしまったボクのミスなんだけど……これが禍を転じて福と為すんだから何があるかわかったもんじゃない。
「聞いたかジョーカー?」
「ばっちりだ。改心に必要なターゲットの本名はわかった。後は──パレスを見つけるだけだ」
スパイディ・アイテム・コレクション
・ウェブシューター
スパイディメモ
ボクにとっては誰よりも頼れる相棒。改良を加えて小型化したり糸の容量を増やしたりとか日に日に便利になってる。ただ、肝心なところでよく壊れるんだよね……
心の怪盗団メモ:モナ
なかなかに便利そうな道具だぜ。こっそりこういうのを作っておけば良かったか? まあ、今となっては時間もないし諦めるか。もしも、心の怪盗団をもっと高貴に、ロイヤルにやり直すことがあったら作っておくとしよう。
……いや、何考えてるんだワガハイ。やり直すことなんてできないだろ、うん。
・スパイディベル
スパイディメモ
クリスマスの時期に偶然助けた作曲家が作ってくれた歌。一応CD化されてて収益はボクももらったんだけど……正直あまり売れてない。でも、メイおばさんとのクリスマスパーティー資金になったしいいか。
心の怪盗団メモ:ナビ
スパイダーマンの生歌が聞けるって意味ではレア物なんだけど、後半から結構愚痴混じりがすごいぞ。作曲家のセンスヤバいけど、愚痴の内容は割と好み……ハッ、もしやそういった層を狙ったのか!? ……いやいや、まさか、なぁ。
・斑目宛ての予告状
スパイディメモ
心の怪盗団がロゴと共に有名になったきっかけの一品だ。こういうのをコレクションしたくなる気持ちがわかる気がするよ。芸術家宛てだからか、どことなくオシャレな雰囲気がグッド。
心の怪盗団メモ:スカル
俺は別に前のやつでもよかったと思うんだがなぁ……文面のセンスがないのはわかってたけど、ロゴまで描きなおさなくてもいいじゃん!? ……まあ、そっちの方がカッコいいとは思うけど。でも、基礎のデザインを考えたのは俺だし、やっぱりセンスあるんじゃね?