シュテルside
私は今、あまり・・・・・・・・いや、とても不思議な感覚に陥っています。視界ははっきりしているのに感覚がおぼろげで、まるでこの世ではないような感覚を感じています。
不思議といえば景色もそうです。何もないただ真っ白な空間が続いています。
ふと、視線を変えると視界が一気に変わります。そこはまるで映画館のような場所でした。私はそこで椅子に座り、スクリーンの方を見ています。
すると周りが暗くなり、スクリーンに映像が映し出されます。そこには男性と少女が映っていました。男性の方はなぜかよく見えませんが、少女の方ははっきりと見えます。
5歳ぐらいでしょうか?暗い茶髪をしていて、髪型はショート。そしてその手には、何故かナイフが握られていました。そんな他人が見ると訳の分からない映像ですが、私には見覚えのある映像です。
そう、それは紛れもなく・・・・・・・・私の記憶なのです。そこに映っているのは紛れもなく私自身なのです。そしてその少女は、突然目の前に現れ、横たわるオレンジ色の服を着た瀕死の女性の胸元にナイフを向けます。ここは処刑場で、目の前に横たわっている女性は死刑を言い渡された犯罪者だったのです。その横で先ほど少女の隣にいた男性が、少女に何かを言っています。すると、少女の体がぎこちなく動いて行きます。しかしその少女は、まるで体の動きが自分の意思に反しているかのような、そんな表情を浮かべ、それとは対照的に少女の体は女性の胸元へナイフを近づけます。
そのナイフはだんだんと近づいて行き、それと同時に声が聞こえ始めました。ただしどれも同じ言葉です。ただ、やめてと、その少女は繰り返すばかりです。その声を聴いて私は頭痛を覚え始めます。
そして私の口からは少女と同じ言葉が漏れ始めます。
(・・・・・・・・やめて)
その刃が止まることはありません。すでに刃先は5cm程度まで迫っていました。
(やめて!)
その刃は完全に胸元を捉えています。そして吸い込まれるようにナイフは胸元へと向かいます。
(やめてぇ!)
「っはぁ!」
刺さる直前に私は目覚めました。時計の時間はまだ4時を示しています。私は昨日、CADの調整をして、そのまま眠ってしまったようです。
「いやな夢を見ました・・・・・・・・」
私はボソッと呟くと、ルシフェリオンとレイジングホーンをもって部屋を後にしました。
私は外に出ると、レイジングホーンとルシフェリオンを待機状態のまま玄関のところに置き、そのまま格闘術の反復練習を始めました。
しかしそれは半ばやけのようなもので、動きにキレがありません。とにかく私は先ほどの夢を忘れたいがために体を動かしていました。
しかし、先ほどの夢のせいなのか、一向に体がうまく動く気配がありません。そんな状態で動き続けていれば、体もだんだんついていけなくなるのが普通です。
それは私も例外ではなく・・・・・・・・
「うわっ!」
足をもつれさせ転んでしまいました。幸いにも地面は柔らかい芝生の地面だったので、顔を強打することはありませんでしたが、変にひねったのか右足が少し痛みます。
すると転んだ音を聞きつけてなのか、達也と深雪が扉を開けて出てきました。
「お姉様!?大丈夫ですか?」
「シュテル、大丈夫か?」
「えぇ。少し、足をひねってしまっただけですから。」
「そんなっ!治癒魔法をかけます、お姉様はそこで安静にしていてください!」
深雪はCADを取り出し、私の足に治癒魔法をかけてくれました。その最中に私は達也に、なぜか体が動かないことを伝えました。
「ふむ、それはおかしな話だな。分かった、お前の中を”視てみよう”。」
達也はそう言った後、私に
「これは・・・・・・・・麻薬か?」
「麻薬?私そんなもの吸った覚えはありませんが・・・・・・・・」
「原因はおそらく昨日のスモークグレネードだろう。煙の中に微量に麻薬を混ぜて、強力な幻覚作用を起こせるようにしたものがあると聞いたことがある。それを使ったのだろう。」
幻覚・・・・・・・・納得がいきました。恐らく私の記憶の中で一番焼き付いているものを頭が呼び起こし、あのような夢を見たのでしょう。全く、人騒がせな煙ですね。
「今、”分解”で麻薬の作用を消した。これで普通に動けるだろう。」
「感謝します。深雪も、ありがとう。」
「いえ、別に大したことはしておりません。それよりも、やはり昨日の下衆な連中の仕業ですか・・・・・・・・私のお姉様になんという行為を!」
「落ち着いてください深雪、アイツらは今頃本家です。死よりも恐ろしい経験をしているでしょう。だからあなたが怒る必要はもうありません。現に私はもう動けます。」
「しかしっ!」
「いいんです。私はもう普通の人間として生きていくには手を汚し過ぎました。これはそんな私への罰なんですよ。だからあなたが気にすることはないんです。」
「・・・・・・・・はい。分かりました。」
「では朝食を取りましょう。おなかがすきました。」
私たちは、そのまま朝食をとることにしました。
三人称side
朝食を食べ終わったシュテルたちは学校へと向かった。ただし、シュテルの手には銀色の横長なジュラルミンケースが握られていた。やはりその姿は異質だったようで
第一高校の前の通学路を歩いていると、他の生徒たちが興味ありげにシュテルたち・・・・・・・・いやシュテルを見ていた。
「お姉様、それは一体・・・・・・・・?」
深雪が質問してきた。やはり中身が気になるのだろう。
「これですか?これは試作型の遠距離用汎用型CADです。今日は足をひねって走ることができませんから、ちょうどいいかなと思って持ってきました。」
「名前はないんですか?」
「アーミリッヒという名前を付けましたが、これはあくまでも仮付けなので。何なら深雪が名前を付けますか?」
「いえ・・・・・・・・私にはネーミングセンスがありませんから・・・・・・・・」
「そうですか。残念です。」
そんなことを話していると、正門前についた。ここで三人はそれぞれ別となる。
「では二人とも、また後でな。」
「はい、お兄様も頑張ってください!深雪は応援しております。」
「私もです、ではまた後で。」
「あぁ。」
三人はそれぞれの教室へと向かうのだった。
その昼、深雪は生徒会室へ行くといったので、シュテルは雫とほのかを誘ってお昼を食べに来ていた。すると達也がひとりでに昼食を食べていた。
「達也、今は一人ですか?」
「あぁ、今日は誰もここで食べようとしなかったからな。それに、弁当を作るのを忘れていたしな。」
「・・・・・・・・すっかり忘れていました。」
「まぁ、それはそうとして、お前も昼食か?」
「えぇ。でも今から席を取りに行くのは面倒なので達也と一緒に食べてもいいですか?」
「俺は構わないぞ。」
「ほのかたちもそれでいいですか?」
「うん、別にいいよ。」
「私も大丈夫。」
4人は昼食を食べ始める。しばらくすると達也が口を開いた。
「そう言えばシュテル、朝来たメールは呼んだか?」
「読みました。確かクラブ活動新入部員勧誘期間が始まるから、風紀委員会はそれの監視と取り締まりをやると。」
「だから今日から見回りだ。足の方は大丈夫か?」
「走ると少し痛みますが、この程度なら問題ないです。」
「そうか。そうそう、二人も気を付けたほうがいい。」
「えっ?何でですか?」
「二人だけがそうってわけじゃないが、A組の生徒はもれなく勧誘の対象に入るからな。強引な手を使われないとも限らない。だから用心するに越したことはない。」
「分かった。ほのか、気を付けようね。」
「・・・・・・・・うん。分かったよ、雫。」
「では俺は行くぞ。また後でな。」
「えぇ、また後で。」
達也は行ってしまった。その後シュテルたちも食堂を後にするのだった。
放課後、シュテルと達也は風紀委員会に集められていた。そこにはほかの風紀委員の生徒も集まっていた。ミーティングをやるから来てほしいといわれ、参加したのだ。
しばらくすると摩利が話し始めた。
「さて、今年もまたあの馬鹿騒ぎの一週間がやってきた。 クラブ活動新入部員勧誘期間だ。いや… 新入生獲得合戦と言うべきかな? 原因は魔法科高校ならではのクラブと九校戦だ。
九校戦の結果は 学校全体の評価に反映されるのはもちろん活躍した生徒とそのクラブは学校側から優遇される。というわけで有力な新人の獲得は最重要課題であり各部間のトラブルは多発する。
しかも勧誘期間中はデモンストレーションようにCAD携行許可が出ているから余計に厄介だ。ヒートアップしたクラブ同士、影で殴り合いどころか魔法の打ち合いになることもある。
学校の将来の九校戦の為か、多少のルール破りは黙認状態。学内は無法地帯化してしまう。この状態を沈められるのは我々風紀委員だけだ。 今日から一週間フル稼働してもらう!今年は幸い新人の補充も間に合った。
紹介しよう。1-Aのシュテル・シバ・スタークスと1-Eの司波達也だ。」
シュテルと達也は同時に立ち上がった。
「本当に役に立つんですか?」
一人の男子生徒がそんなことを聞いた。
「腕は保証する。司波は服部を模擬戦で倒しているし、単純な近接戦ならシュテルは私とやりあえるぞ?お前もやってみるか?」
「いえ・・・・・・・・遠慮しておきます。」
「ほかに質問のあるやつはいるか?」
誰も手をあげる者はいなかった。
「よろしい。ならば、出動!」
風紀委員の生徒たちが一斉に立ち上がった。それにつられるような形で、シュテルと達也も立ち上がった。
他の委員会のメンバーが出ていく中、シュテルと達也は摩利に止められていた。
「この前説明していなかったことを伝える。風紀委員はその仕事の性質上、学内でのCADの常時携行が許されている。しかし、不正行為などに使った場合一般生徒より重い罰が課せられるから注意することだ。
さて、ではこれから二人には見回りをしてもらう訳だが、その前にまずこれを渡しておく。」
摩利から渡されたのは薄い板のようなものだった。上はアーチ状になっている。
「これは?」
「風紀委員会用の超薄型カメラだ、上部のスイッチを入れることでカメラが起動し、撮影を始める。これは風紀委員会が不当な取り締まりをしていないという証拠として使うから、何かを取り締まる前または問題が起きそうなときは
必ずこれを付けてくれ。といっても風紀委員会の証言は基本的にそのまま証拠として通されるがな。」
「了解です。」
「さて、質問はあるかね?」
「いえ、自分はありません。」
「私も特にはありません。」
「よろしい。じゃあ二人とも、よろしくな。」
「「了解しました。」」
シュテルと達也は本部を出た。
シュテルside
私は今、CADを取りに来ています。今日は二つ。一つは私の愛機であるレイジングホーン、そしてもう一つが、昨日の夜に最終調整が終わったばかりの試作モデルのアーミリッヒです。
私は事務室の前で、二機(アーミリッヒはジュラルミンケースの中に入ったまま)を受け取り、そのまま外へ出ました。すると見覚えのある人が二人、歩いていました。ほのかと雫です。
私は二人に声をかけようとしましたが、その後ろから、サーフボードのようなものに乗った二人組の女性にさらわれて行きました。しかもそのボードはどんどん加速していきます。
ただでさえ足を負傷している私が、自己加速術式を使って追いつこうとしても追いつけないでしょう。するとその後ろを摩利先輩が行くのを見ました。私は通信機を起動し摩利先輩に聞きました。
「先輩、あの人たちは?」
「去年のOBだ。全く自分の部活が心配だからってここまでのことをしでかすとはな。」
「摩利先輩。自分は今あまり走ることができません。ですから彼女たちに追いつくことができません。」
「了解した。あいつらは私が何とかする。でももうしばらくかかりそうだ。なんせなかなか追いつかないからな。」
「・・・・・・・・足を止めれば、何とかできますか?」
「あぁ、出来る。最も、そんなことができればだがな。」
「先輩、それならお手伝いできるかもです。」
「なにっ!?」
OBだとか魔法の不正使用だとか、それ以前にあの速度で走っていること自体が危険です。しかし、レイジングホーンでは射程が足りず
足りたとして流星弾丸を使えば、腕に抱えられている雫たちに何が起こるか分かりません。そこで私はアーミリッヒを試してみることにしました。
ジュラルミンケースを開けると、そこには黒色で狙撃銃のようなフォルムをしたCADと、照準用の眼鏡型補助デバイスが入っています。
私はまず、眼鏡をかけました。すると右のレンズに、航空写真のような映像が表示されました。これは、民間で使われている通信衛星からの
衛星映像をリアルタイムで表示するようになっています。その後私はCADを起動し、眼鏡と同期します。するともう片方のレンズにレティクルが表示されました。
その照準は先ほどの女性OB二人を捉えました。
「流星弾丸は使えない。障壁にぶつけるのはもってのほか。ならば、ボードを止めればいい。発動するのは重力制御術式。」
私は引き金を引きました。するとOBの方々の乗ったボードが急に動かなくなりました。しっかりと魔法が発動した証拠です。
私は通信機を再び立ち上げ、摩利先輩に言いました。
「摩利先輩、今です!」
「感謝するぞシュテル!」
摩利先輩はそのままOBの方々を確保しに向かいました。私はほのかと雫のもとへと向かいました。
今回もまた短くなってしまいましたが、何とかここまで書ききることができました。これはひとえに読者の皆様のおかげです。今回出て来たアーミリッヒですが、これは作中でもあったように本決まりではありません。なのでもしこの名前がいいというものがありましたら、コメントで書き込んでもらえるとありがたいです。もしい多いようなら作者がその中から選ぶ形となりますが・・・・・・・・という訳で次回もよろしくお願いします!