三人称side
十三束に連れられシュテルはマーシャルマジックアーツ部の見学に来た。そこでは肘やひざなどにプロテクターを装着した生徒が、魔法による体術の試合をしていた。
魔法といっても、何かを撃ちだすのではなく、自分の体に作用するような術式を使ってだが。
シュテルはそんな選手たちを観察していた。
(皆さん技量がすさまじい。高校生にしては出来過ぎてますね。これならプロは無理でもセミプロはいけるかもしれない・・・・・・・・)
と、評価していた。それだけこの部の体術のレベルが高いという証拠だった。シュテルが辺りを見回すと、見知った姿があった。
「おぉ!シュテル君ではないか。どうしたんだい?まさかこの部活に興味があるのかね?」
「沢木先輩、こんにちは。それもあるんですけど、一番は他の部の干渉を避けるためですね。もうしつこくてしょうがないので。」
「そうかそうか。それは大変だったな。で、この部の興味はあるかね?」
「正直言って、あります。」
「おぉ、言い切ったね。何か理由はあるのかね?」
「私はある先生に体術を習っています。そのせいなのか、そう言ったものに”興味”がありまして。」
「なるほどな・・・・・・・・おい、早瀬。相手をしてやってくれ。」
沢木がそう言うと、呼ばれた生徒、早瀬隼人がシュテルの前へ出て来た。
「いいんですか?沢木さん。自分、手加減できないですよ。」
と、自信満々な早瀬をよそに、シュテルは制服のスカートに自分で切れ込みを入れ,その艶やかな足を露出させる。
すると十三束がシュテルに近づいてきた。手にはプロテクターが握られていた。
「頑張ってねシュテル。僕も応援するよ。」
「ありがとうございます。頑張りますね。」
シュテルは笑顔でそう返した。十三束の顔は心なしか赤らんでいた。
シュテルは十三束から借り受けたプロテクターを装着し、フィールドに立つ。すると沢木がその中央に立つ。
「勝負は一回。どちらかがダウンしたらその場で終了。二人とも分かったな?」
「了解です。」
「分かってますよ。」
沢木の問いに、二人はそれぞれ返答を返す。
「よろしい。では・・・・・・・・始め!」
早瀬は自己加速術式を発動、シュテルに一気に近づいてきた。そのまま拳を突き出し、その勢いでノックアウトさせるのが狙いなのだろう。
現に、シュテルの目の前まで来た早瀬はその拳をシュテルの顔面へと突き出している。その顔は勝ち誇ったような顔をしていた。しかしその顔は絶望の色へと染まることとなる。
シュテルはその拳を片手で防いだのだ。そのままシュテルはその腕を弾き、その顔面に右ストレートを放つ。
早瀬はそれでよろけ後ろに下がる。意識がもうろうとしているようだ。シュテルはその好機を逃さなかった。
そのままがら空きとなった顔面に次々と打撃を放っていく。そして意識が消えかかっているというところまで来た時
シュテルはとどめとばかりに右ストレートを放つ。衝撃を余すことなく脳へと伝えられた早瀬はもはや意識を保っていられなかった。
早瀬はその場に倒れてしまった。
「勝者、シュテル・シバ・スタークス。」
沢木がそう言って、その試合は終了した。周りからは歓声が贈られた。そして次々と称賛の声が上がった。
シュテルはプロテクターを外す。そして部員に返され、腕につけた時計を見る。その時刻はすでに風紀委員会の見回り時間を過ぎていた。
シュテルは近くにいた部員にプロテクターを渡し、部室を後にする。部屋を出て、実技棟の出口から出ようとすると、声をかけられた。
「シュテル、待って。」
「ん?どうしました?」
「いや、君って本当に強いんだと思って。一応あの人次期エースって呼ばれたひとだったんだよ?」
「そうなんですね。しかし今回は相手が悪すぎました。恨むなら、沢木先輩を恨むべきでしょうね。」
「アハハ・・・・・・・・ほんと、シュテルはクールだね。」
「そうですか?というか、私のはクールではなく無関心という方が正しいのでは?」
「うん、そうとも言うかもね。」
「むっ、なんですか?その含みのある言い方は。」
「おっ、ようやく表情を変えたね。やっぱりシュテルはもう少し表情を前に押し出したほうがいいよ。その方が可愛いんだからさ。」
「なっ!?ななな何を言い出すんですかっ!?」
「アハハッ!面白いなぁ、ころころ表情が変わるじゃないか。」
「むー!」
(やっぱりシュテルも、深雪さんに負けず劣らず可愛いよ。そして僕は・・・・・・・・そんなシュテルが好きなのかもしれない。)
そんな十三束の心の声を知ってか知らずか、その日、シュテルは十三束と一緒に帰ったのだった。
それからしばらくたったある日の放課後、シュテルはカフェに赴いていた。やることがなく、達也は風紀委員会の仕事で、深雪は生徒会の仕事でいないため、暇になったからやってきた。
シュテルは働きすぎと言われたのだ。理由は簡単、魔法の不正使用者を目に付く限り確保し続けたためだ。しかもその渦中にいたのは深雪をはじめとするシュテルの知り合い・・・・・・・・というか関係者だったのでなおさらだ。
検挙率は達也とどっこいレベル。というか少し勝っている。シュテルは自分にかかわりを持つ人物全員の火の粉を払ったのだ。幸いにも勧誘週間は昨日の時点で終わっていたため、これ以上巻き込まれることもない。
しかし、面倒ごとに巻き込まれやすい達也は使用者の方から寄ってくるが、シュテルは校内をくまなく探し、見つけたら即確保という軍人でも根を上げるようなハードワークをこなし続けたために
今日の授業中に疲労困憊で倒れてしまったのだ。幸いにもすぐに目を覚まし、動ける状態となったが、深雪が本気で泣きながらやめてくれとお願いしたために、摩利が今日は休んでろとシュテルに言ったのだ。
さすがのシュテルでも深雪に泣きながらお願いされると勝てないようだ。それだけ深雪の向ける愛情というかなんというか・・・・・・・・まぁそう言うたぐいのものが強い証拠なんだろうが。
「我ながらかなり無理をしていたようですね。自分の体のことにこれほどまでに鈍感になっているとは。深雪にも心配をかけました、あとで謝らなければ。」
シュテルがそんな独り言をつぶやくと、突然声をかけられた。
「・・・・・・・・えっと、あなたがシュテル?」
「えぇそうですが、あなたは?」
「私は二年の壬生紗耶香、剣道部に入っているの。あなたのことはいろいろと噂になっているわ。風紀委員のダークホース、赤鬼のシュテルってね。」
「そんな呼ばれ方をしてたんですね・・・・・・・・はぁ、やりすぎた感はありましたがまさかここまでとは・・・・・・・・」
「まぁまぁ、そう落ち込まないで。」
「いえ、落ち込んでなどいません。それで、何の御用でしょうか?」
「今日はあなたに聞きたいことがあってきたの。」
「聞きたいこと、ですか。私に答えられる範囲であればお答えしましょう。」
そこから紗耶香の雰囲気が変わる。どうやら真面目な話のようだ。
「あなたは今のこの学校の制度をどう思ってる?」
(なんだ、
「まぁ、大筋はあってると思いますよ。結局本末転倒な感じは否めませんが。」
「ふぅん。やっぱり、あなたもそう言う考え方なのね。」
「そう言う考え、とは?」
「やはりあなたも所詮は他の一科生と同じ、という意味よ。」
「言っている意味は理解しかねますが、私もこの制度にはあまりいい印象を持ってはいませんよ?現に私の妹が色々されそうになりましたからね。」
「そうなの?」
「えぇ。実力で分けるのには賛成ですが、それで天狗になるということを容認、いえ黙認しているというのは少し違うと思っています。実力で分けられている以上、上の者は下の者の見本になることが求められます。
決して上の立場の者が下の立場のことをないがしろにしたり、蔑み陥れていいという訳ではありません。そういう部分で言えばこの学校の運営方針は少し変わっていると言わざるおえません。」
「・・・・・・・・つまり、あなたはこの学校の運営方針が気に入らないと思ってる。そう解釈していいのかしら?」
「えぇ、そういうことになりますね。」
「じゃあ、変えて見ない?」
「なにをですか?」
「決まってるじゃない、この学校の制度をよ。あなたがいれば百人力よ!」
「・・・・・・・・えっと、いいんですか?というより、分かってるんですか?私は風紀委員ですよ?あなたのことを三巨頭の前に連れ出すことも可能なんですが・・・・・・・・」
「あなたならそんなことしないってわかってるから。これ、私の電話番号ね。もし協力する気があったらここに連絡頂戴ね。じゃあね。」
「あっちょっと!・・・・・・・・行ってしまいました。」
(それにしても、会話の時に感じた違和感。あれは何だったのでしょう?)
「・・・・・・・・深雪からですか。終わったようですね。では、私も行きましょうか。」
シュテルは静かにカフェを出たのだった。
「達也、壬生紗耶香という人物について、心当たりはありませんか?」
「んっ!?」
現在、シュテルは達也たちと帰路についている。いつものメンツには今日は三人で帰らせてほしいとシュテルがお願いしたのでいない。
キャビネットに乗ったタイミングでシュテルは達也にそう切り出した。するとそばの深雪が何やら噴きだした。
「ん?深雪、どうしました?」
「いえ、何でもありません。」
「そうですか。それで達也、心当たりはありますか?」
「あぁ、声をかけられたからな。電話番号渡すねと言われて無理やり渡されたから、番号も知っている。」
「今日、彼女と会いました。多分達也の時とおおよそは一緒です。」
「そうだったのか。で、それがどうした?」
「それが、少し彼女の喋り方に違和感があった気がしてならないんです。」
「違和感?」
「えぇ。なんというか、そう思ってるのは本当だけど、それが増長しているという感じで。」
「ふむ・・・・・・・・叔母上に聞いてみれば何かわかるんじゃないか?もし先ほどの話が杞憂ではないのなら叔母上が何か知っているかもしれん。」
「分かりました。後で母さんに聞いてみます。」
「・・・・・・・・それでな、前々から気になっていたんだが。」
「ん?どうしました達也。」
「何故、叔母上のことを母さんと呼んでいるのだ?」
「あぁ・・・・・・・・」
「それは私も気になります。いつの間にか呼んでいたのに妙にしっくりくるから今まで気に留めませんでしたが、疑問です。なぜそうなったのか、教えてください!」
「・・・・・・・・入学式の前日、おぼえていますか?」
「あぁ、確か本家に行っていたな。」
「その時に、真夜様と深夜様に押し切られまして。呼んでくれないと高校に入学させないってまで言って、です。」
「・・・・・・・・そうか、すまない。変なことを聞いたな。」
「いえ、気にしていません。」
そうして何とも言えない違和感に包まれながら三人は帰路についた。これから起こる波乱の渦は静かに、しかし確実にシュテルたちに忍び寄っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。物語もついに終盤に差し掛かりました。もうすぐ入学編が終わります。そのあとは九校戦編となります。ではまた次回お会いしましょう。