ナザリック地下大墳墓廊下内――
「オイ、サキホドノハナシキイタカ?」
「先程の話とはなんのことです?」
「ドウヤラ、イチジカンゴ二ダイロクカイソウデカイソウシュゴシャサマゼンイントダレカガタタカウラシイゾ」
今、話をしているのはナザリックに勤めるタキシードを着たメイド指導長のスタチュー・レイフォールドとハデス様の秘書兼幻夢城全域守護者(ナザリックでは、守護者統括の地位にあたる)ルシファーだ
立場上はルシイファーの方が上だが、この2人実はとても仲が良く、2人きりのときになると時間を忘れるくらいよくしゃべるのだ。因みに、スタチューの生みの親はもちろんハデスだ
すると前方からなにかが飛んでくるのがわかり、即座にルシファーは戦闘態勢に入ったが、すぐに敵ではないとわかると戦闘態勢を解いた
よく見ると前から飛んできたのは敵でもなんでもなく、このナザリック地下大墳墓の主人モモンガの使い魔バットくんだった。バットくんは蝙蝠種の悪魔だ。見た目は完全に蝙蝠だが強さ的には中くらいのカテゴリーに分類される。
「ヴィクティム様ガルガンティア様を除くナザリックにいる全ての者ヨ。一時間後に第六階層までコイとのお達しダ」
バットくんは、言うことを言うと奥の方に飛んで行ってしまった
どうやら、他の僕たちにも知らせに行ったらしい・・・だが、ここで親切にしてやるのが上司たるものだ
ルシファーは自分の口前に赤黒い魔法陣を展開させて先程バットくんが言っていたことを振動波でナザリック全体に拡散させた
「私は、幻夢城全域守護者のルシファーだ。ナザリックにいる全ての僕達よ、今から一時間後に第六階層に来い。これは、モモンガ様の命令だ。遅刻者は、その場で即刻処分する」
言い終えてホッとしていると、横にいたスタチューが「マタ、オソロシイコトヲ・・・」と呟いていたが華麗にスルーした
「では、私はこれで失礼させてもらうわ」
そう言い残し、ルシファーはバットくんが来た道を奥に進むのだった・・・
ちなみに、ルシファーとは頭に二本の角を生やし、髪は黒のロングヘアー、背中には6つの漆黒な羽根が付いており、黒のワンピースドレスを着ている女悪魔である。そして目は両目とも赤く、胸はアルベドより少し大きめだ。
★★★
一方、ルシファーがナザリック全域に命令を伝達していた頃、ここ会議室では支配者2人が席に座って重い溜め息を吐いていた
「はぁ、面倒なことになりましたね」
「そうですね、まさか守護者全員と戦う羽目になるとは・・」
「それはハデス様のせいですからね?」
「はいはい・・まぁ、殺さないから心配しなさんな」
「それなら・・・いいですけど・・・」
支配者2人は先程のピリピリした雰囲気から脱出するためにここ会議室まで転移してきたのだ。今の時間なら誰もいないから素の面を出しても誰にも聞かれる心配はなかった。
モモンガは先程のやり取りとピリピリした空間で痛めた――胃、ないけど――胃をなんとか落ち着かせたかったが、この後の展開を想像するとさっき以上にもっと痛くなった気がしたのだった
すると、そんなことお構いなしにハデスは壁にかかっていた時計を見ると「もうすぐ時間なんで準備してきますね~」と軽い足取りで会議室をあとにした。その時の姿には、緊張感や恐怖感といった感情は感じられずに軽い感じしか感じ取ることができなかった
一時間後、
そして、中央に目を向けると既に完全武装した各階層守護者たちが輪を囲うように集まりなにかを話していた。一方のハデスはまだ来ていないみたいだった。本来なら来ていても可笑しくないし、時間を破ることもしないハデスに(どうしたんだろうか?)とモモンガが心配しているとハデスが転移してきた。ハデスは普段通りの黒い服装に、両手には指輪を隈なく付けている、ただそれだけだ。武器を持っているとか、防具を付けているとか鎧を着ているとか、そういうのが全く見当たらない・・
「遅れて悪いな。待たせたか?」
「いえ、そんなに待っておりませんわ。それより、丸腰で来るなんてなにを考えておいでですの?それとも、私たちをバカにしてます?」
「いやそんなことはないぞ?それに言ったろ?これはあくまで『手合わせ』だと。手合わせなのにお前たちを殺してしまったらそれはもう『手合わせ』ではなく『殺し合い』だ」
ハデスは返答と同時にスキルも使わずに単純に濃厚な殺気を守護者に向けて放った。その殺気からは、死を覚悟した。本来ならその場から逃げたいが、恐怖と畏怖から動くことができずまた守護者という立場から後退ることもできないでいた。その殺気は、観客席にいた僕達にも届いており、その中には震えている者や気絶・湿疹しかけそうな者などが多数いたが、モモンガや
「おい、ルシファー。今回の説明をしてくれ」
『畏まりました、ハデス様。今回、司会を務めさせて頂く幻夢城全域守護者のルシファーです。今回の対戦は幻夢城城主のハデス様VSナザリック地下大墳墓の各階層守護者となっております。各階層守護者には完全武装して頂いておりますし、武器の持ち込みもOKにしてあります。そして、今回の勝利条件は相手が戦闘不能あるいは戦意喪失、武器破壊、寸止めのどれかになった時点で試合終了です。それとこれはあくまで『手合わせ』であり『殺し合い』ではないので相手を殺すことは禁止とさせて頂きます。それでは、試合開始!!』
ルシファーの合図に合わせてアルベド、コキュートス、シャルティア、デミウルゴス、アウラは見事な連携でハデスに攻撃を仕掛け、マーレはアタッカーの彼らに
「《悪魔の諸相:鋭利な断爪》」
「俱利伽羅剣」
「スキル!レインアロー《天河の一射》」
デミウルゴス、コキュートス、アウラはスキルを使い、アルベドとシャルティアはまだ使うタイミングではないと感じたのかそのまま自身の身体能力だけで突貫していった。が、ハデスは無詠唱でデミウルゴスが使用した《悪魔の諸相:鋭利な断爪》を発動し、デミウルゴスの攻撃を喰いとめてみせた。その後も続くシャルティア&アルベドの怒涛の攻撃とコキュートス&マーレによるスキル攻撃をなんなく捌いていった
「そんな攻撃では、俺に傷一つ付けることもできんぞ」
ハデスは事実をただ言っただけだったのに、守護者たちにはそれがバカにされたと感じたのかさらにヒートアップしてしまった
「なんで。あの悪魔に当たらないでありんすか!」
「カテルキガマッタクシナイノダガ・・」
「デミウルゴス、なんかいい手はないの?」
「そんなのがあったら教えて欲しいものですね」
ハデスのあまりの強さに守護者たちもお手上げ状態で、どうしたものかと困惑していると目の前にいたはずのハデスがいつの間にか姿を消していた。誰も彼から目を離していないのにいつ視界から消えたのか、どうやって消えたのか誰も視認できていなかった。デミウルゴスは、自分たちが玩具のように遊ばれていることに腹を立てていたのにそれに加え自分の理解できない現象が起きたことに更に頭に血が上っていた
「彼はどこに消えたのですか!」
「わからないでありんす・・」
「クソっ!」
代表してシャルティアが答えるとデミウルゴスは普段は聞かない荒げた声を出して怒りを爆発させていた。そんなデミウルゴスを無視して他の守護者たちは周囲の警戒をしながらデミウルゴスの醜態とでもいえる姿を見ないようにした。その行為は、傍から見れば仲間想いだと見えるが彼ら守護者たちはそれを見たあと怒られるのが嫌だからという理由で見ないようにしていただけだ
一方、ハデスは姿を隠しながら今の戦況を見ていた
(んー今のところ俺が有利なのは間違いないし、このままやれば俺が勝つけどそろそろ飽きて来たしな・・・次で終わらせる?それとも片っ端から始末してくか?・・んー・・・・決めた終わらせよう)
考えが纏まるとハデスは手に付けていた《クリアー・リング/透明色の指輪》の効果を切って守護者たちの後ろに姿を現した
「俺は、ここだ。守護者たるものこんなことがわからなくてどうする。こんなことがわからないようじゃ俺に勝つのは不可能だと知れ!」
守護者たちはハデスの言葉に唇から血が出るくらい力強く下唇を噛み締ていたが、ハデスはそんなことお構いなしに更に言葉を続けた
「次で最後にしよう。この攻撃で死ぬことはないから安心するがよい」
すると、ハデスの両手には2つの禍々しく黒い渦が集まっていた。その手に集まっているものを見る限りヤバそうだと感じたアルベドとシャルティアは咄嗟にスキルを発動させて守りの体制に入っていた
「ウォ―ルズ・オブ・ジェリコ!」
「不浄衝撃盾!」
「《フォンセテネーブル・タンタシオン/闇への誘い》」
ハデスの両手から放たれた2つの黒球はゆっくりと中間まで進むと、そこで球同士がぶつかった。球同士がぶつかるとその球は一つに合わさりこの第六階層全土を飲み込んだ。このことに守護者たちも見に来ていた一般メイドや幻夢城の者、モモンガまでもがここがどこなのか、なにが起きたのか全くし理解できていなかった・・・ただ、わかっているのはハデスのみだった
しかし、ハデスはこのことについて全く説明する気がないらしくずっと黙ったままだった
暫くして、この魔法がなんなのか説明し始めた
「この魔法はな、この領域内にいる全ての者から魔力を奪い取る魔法さ。俺やモモンガさん、幻夢城にいる大半の僕は奪われたってほんの少ししか奪われない。それはなぜか?それはな、さっき黙っていたときがあったろ?あの時、この会場にいる者の数名を領域の対象から外したのさ。まぁ、外せるのは数名なんだがな・・・だから、お前たちの魔力なくなってきてるだろ?あ、でも、安心しな。数日、そうだなお前らなら2,3日で元に戻るから」
「(そんな恐ろしい魔法あったの!?これ、この世界じゃ最強魔法なんじゃないの?)」
「(さすがハデス様です!こんな魔法を扱えるなんて!)」
ハデスの説明を聞きていたモモンガやメイドたちはそれぞれ心の中で思っていることは違えど、顔に出している表情はなぜか同じ驚いている顔だった
しかし、守護者たちは(なら、魔力がなくなる前に倒せばいいのでは?)とでも思ったのかハデスに向かって攻撃を仕掛けようとしていた。が、それはできなかった・・・
動こうとするたびに足元にある闇の渦がドンドン中に引きずり込もうとしてくる
「あー言い忘れたが足元に渦は動こうとすればするほど中に引き込まれるぞー・・引き込まれたら最後、出てこれなくなるからな?中で魔力や肉体、衣類その他諸々溶かされてこいつの養分になるのさ。でも、逆に言えば動かなければ引き込まれずに済むってことさ」
その言葉を聞いた瞬間守護者たちはピタリと動くのを止めてジッと立ち尽くしていた
立ち尽くしていると、急にどこからか声が聞こえて来た。その声は、司会者のルシファーの声だった
『守護者の皆様が戦闘不能だとみなし、試合終了です。勝者は、ハデス様!』
そう言い残すと、ルシファーの声は聞こえなくなった
それと同時にハデスは魔法を解除した。結局、守護者が奪われた魔力は半分近かったが、観客席にいたアンデットやメイドは何名か泡を吹いて倒れていたり、グッタリしていた。どうやら魔力を全部持っていかれたらしい・・
手合わせが終わると観客席からモモンガが降りて来て闘技場内に降り立った
「守護者たちよ、お疲れ様だな。まぁ、無理もない。わたしですらハデス様に勝ったことはないのだから・・さて、今の試合で彼の実力は証明されたと思うがどうだ?私と同じくらい敬意を払い敬ってくれるか?」
モモンガが闘技場にいる全ての僕に聞くと観客席にいる僕たちは手を胸元までもっていき腰を折っていた
一方、守護者たちはハデスに向かって跪いていた
「ハデス様、一言」
「うむ。我はこのナザリック地下大墳墓の至高の42人の一人かつ『幻夢城』兼第10階層の守護者ハデスなり!以後、見知りおけ!」
「「「は!!」」」
その後は、ハデスの周りに守護者やメイドたち、幻夢城の者たちが集まり和気あいあいとおしゃべりをしていた。その楽しそうな姿を見たモモンガは自分が入る隙間がないことを悟りこっそり《ゲート/転移門》を開き自室に戻った
こうしてハデスはナザリックの皆に受け入れられ、ギクシャクした雰囲気は消えたのだった
よくよく考えてみたら至高の41人じゃなくハデス入れたら42人でしたので、文中では42人になっています