「今宵は我らだ」
「よろしくなのですよ」
今夜の当番は星、稟、風の仲良し3人組だ。
「ちょいとまてや兄ちゃん、俺を忘れてねえか?」
「心の声を読むなよ。あとさ、宝譿とはないでしょ!」
謎の人形はカウントしたくない。
こいつ、もしも
「……稟は初めては華琳といっしょだと思ってた」
「私を殺す気ですか?」
「興奮抑制のスキルあるよね?」
稟を成現する時に追加したそのスキルで彼女は鼻血を我慢できるようになったはずだ。
「まだまだレベルが足りません。それに最大MPも鍛えなくては」
「どれどれ……レベル7? けっこう上がってない?」
鑑定スキルで稟の興奮抑制スキルを鑑定したら7レベル。これって高いレベルなんじゃないのかな。
華琳との夜にどれだけの戦力が必要だと予想しているのだろう、この軍師は。
「最近は慣れてきてしまったのか、妄想ではあまり熟練度がたまらないのです。MPは消費するというのに」
ああ、難易度が低いことしても熟練度はたまらないのか。
「それで稟ちゃん、インターネットでエロ検索をして、妄想を鍛えようとしているのですねー」
「なっ、なぜそれを……」
「検索履歴はクリアしておくべきだぞ。ちなみに調べたのは私だ」
なんて酷いことを……俺も自分のパソコンを調べられないか気になってきたじゃないか。
「ふふ、すでに
「いつの間に?」
あれか、旦那の浮気を調べるために携帯やスマホの発信、着信の履歴やメールをチェックするっていうやつか?
俺は浮気なんて……あ、嫁さん追加したばっかだった。
「でもよく履歴やメールに気づいたね」
「対魔忍に講習を受けたのですよ。さすがニンジャ!」
よかった。大江戸学園探偵団に浮気調査を依頼したわけじゃなかったか。
……でもさ、対魔忍のスパイ能力に関してはあまりあてにしない方がいい。
ゲームのせいで潜入操作は失敗する印象しかない。
お
対魔忍から魔族に情報が漏れても困るしね。
ゆきかぜちゃんの母親の不知火さんがまだ見つかってないからその情報もほしい。そのためにもチョーカー量産しておくか。
「でもさ、怪しいのなんて見つからなかったでしょ」
確認はとっておく。身に覚えのない冤罪をおしつけられても困るからね。
「残念ながら証拠は見つかってないのですよ」
「残念ってなに!? 俺が浮気なんてできるわけないのに」
俺のこの呪いがとれなければ、そんなことは不可能だろう。
それに呪いがなくたって浮気なんかするつもりはない。
「私としては、佐東はじめ殿が怪しいと思うのですが」
「はじめちゃん? ないない。呪いが発動しちゃってるもん」
俺好みのロリだし、いい子なんだけどねえ。……べ、別に残念とか思ってないからね。
「ほう。では桃子殿は?」
「彼女は今はお兄さんにべったりでしょ、星」
鬼島桃子はかなりのブラコンを発揮していて、見てると羨ま……微笑ましい。
「風は吉音ちゃんを寝取ると面白いと思うのですよ」
「面白いってなにさ? そんなことしたら詠美ちゃんに怒られるでしょおが。ってか、寝取るなんて俺には無理! 不可能!」
恋姫ヒロインたちを一刀君から奪ったような気もしないではないが、みんなや一刀君は漢ルート出身。くっついていたわけではないので寝取ったんじゃない。セーフなはずだ。
……あからさまにアプローチしてきている越後屋山吹の名が出てこないのは、女の子から見ればそうは思えないってことか? やっぱりあれは、からかわれているだけだったのか。
「では主、浮気などしてないという証拠を見せてもらいましょうぞ」
「あ、うん。おじさん今日はがんばっちゃうぞ!」
「…………」
沈黙が痛い。
やめて、そんな目で見ないで。
「せめてツッコんでよ……」
「ツッコむのは兄さんの方だろ」
いきなりシモネタか宝譿、このタイミングでは勘弁して。
「つ、ついにあれが私に突っ込まれるのですね。荒々しくも猛々しく……」
「稟、スキルを忘れるな」
「そ、そうでした」
稟が妄想で鼻血を噴出す前に星の警告。さすがに連携はいいなこの3人。
今夜は疲れそう。……いろんな意味でね。
「今夜こそシャオの番よ!」
翌朝、食後にシャオちゃんたちが騒いでいた。
朝っぱらから元気がいいね。俺は寝不足なので寝なおしたくらいなのに。
「お姉ちゃんたちばっかりズルい!」
「きょ、巨乳さんだけでなく貧乳にも目をむけて下さい……!」
いや? 騒いでいるのは貧乳党か。
初夜がすんだのって貧乳党のメンバーはいなかったっけ?
「でも、昨日は風もいたよ」
風は貧乳党のメンバーだったよね。
「裏切り者!」
「誤解なのですよ。風は貧乳の素晴らしさをお兄さんに説明したのです」
そうだっけ?
……さんざん触らせてもらったか。
「いや、説明されるまでもない。貧乳は素晴らしい!」
俺は元から貧乳派だってば。
最近は巨乳もアリなだけで……。
俺の宣言を横目に蓮華がシャオちゃんを牽制する。
「シャオ、夏休みの宿題は終わったの? 終わらなければ順番はナシよ」
「ぐっ、卑怯よ!」
……俺もやらないといかんな。最高学年で出された量は多くはないけどさ。
大江戸学園の生徒は進学や就職活動なんてどうしてるんだろう?
「煌一、今日はどうするんだ?」
「今日は聖水やお札を作ろうかな。その後、開発部」
聖水とお札は対魔忍やニホン政府に卸していて、わりといい収入になったりする。効果はトウキョウ解放時に実証済みだ。
「だから巫女装備で何人かきてほしい」
「ならば我らが!」
凪たちが立候補してくれた。真桜もどうせ開発部に行くつもりだったろうから問題はないか。みんなの巫女レベルも上がってるし3人もいれば足りるかな?
「うん。頼むよ」
他のみんなもサンダル世界で鍛錬や、図書館での調べ物などがあるようだ。子住姉妹はねずみやの営業があるし、朱金も奉行の仕事が溜まってると真留ちゃんが怒っていた。
で、一部は夏休みの宿題を教えてくれと軍師たちに泣きついている。
俺も写させ……教えてほしい。せっかくだからヨマコ先生に。あ、でも女教師ルックなら冥琳も似合いそうだ。
「ふう、こんなもんかな? みんなご苦労さん」
ペットボトルから大型ポリタンクというさらにありがたみが感じられないものに変更した容器ごと、完成した聖水をスタッシュに保管する。
スタッシュもレベルが上がってかなり入るようになった。これならMSも入ったかもしれない。トウキョウ解放前にお台場のアレを貰っておけばよかったな……。
「あとは開発部に行ってお札の印刷……凪、どうかした?」
いつもなら凛とした返事が返ってくるところだが、凪は赤い顔をして俯いたままだ。
熱中症か? 今の2面の季節は秋だけど、あっぱれ対魔忍世界は夏だからそのせい?
「ともかく、どこか涼しいところへ!」
「えっ、あ、あのっ!」
凪を抱き上げて神社を飛び出す。
今朝のニュースでも熱中症の死亡者が出たといっていたので俺は焦っていた。
「隊長、落ち着くんや!」
「で、でもさ……。そうだ! 真桜、救急車を呼んでくれ。この面にならいるはずだ」
「だから落ち着くの! 凪ちゃんはちょっと緊張しちゃってるだけなの!」
「そうなのか?」
凪の状態をビニフォンで確認してみる。……そういやファミリアの状態異常の
「だいじょうぶなのか?」
真っ赤な顔のまま無言でゆっくり、こくんと頷く凪。
「隊長、慌てすぎや」
「そうなの、お姫様抱っこなんて、ずるいの!」
ビシッと俺たちを指差す沙和。言われてみれば凪をお姫様抱っこしていた。……うん、前だったら俺が小さくてできなかったな。
「隊長が抱いたままだから、余計に凪の緊張がとけんやんか。そんなん、ちょっと休めばすぐ治るで」
「ご休憩なのー!」
沙和が再び指差す。今度は俺たちではなく建造物を。
「城? ……あれってまさか……」
「ご休憩なのー!」
さすが2面。ラブホテルまでバブル期っぽいのか……。そして、こんなものまであるのか……。
「凪もそれ言い出そうとして緊張してるんやで」
「そ、そうなのっ?」
またもゆっくりゆっくり、こくん。
「このチャンスを逃すワケにはいかないのー。隊長、巫女さん大好きだから我慢できないの!」
そりゃ巫女さんは好きですけど。
俺、ラブホテルなんて使ったことないのに。
……そう思いつつも、俺の足はお城にむかって歩いていて。
「巫女さんをお姫様抱っこしたままお城に凱旋やな!」
真桜と沙和もついてきていて。
「隊長、抱っこしてー」
沙和が両手をこっちに伸ばす。
3人はすでに巫女服ではない。スタッシュで着替えも持ち運んでいるからね。ちょっと残念だけど。
「ウチかて、歩くのしんどいわー」
「真桜まで?」
そこまで激しくは……しちゃったかもしんない。みんな巫女服が悪いんだ。巫女さんの処女をもらえるとなって、興奮して暴走してしまった。
俺の方こそ興奮抑制のスキルを覚えるべきだったか。
「みんなモトスレイヴ持ってるんだから、モトロイドに抱っこ……はいはい、わかりましたよ」
そんな目で見ないでよ。
「ジャン、ケン……ポン!」
「負けた!」
「沙和の勝ちなのー! 真桜ちゃん、こーたいこーたい!」
次の電柱までという小学生のランドセル持ちのようにジャンケンで抱っこされるのを決めながら移動。
抱っこするのはずっと俺だったけどね。腰、着くまで持つかな? さっき酷使したし……。
内装までバブリーなお城を出て開発部になんとか到着。
「ずいぶん遅かったね」
ちゃんとお風呂――金の浴槽だった――にも入ったというのにミシェルは察したらしく、ニヤニヤしている。石鹸の匂いでばれたのか?
「ヤボ用でね。そっちはどんな感じ?」
「お前さんが置いていったベルゼルガ、元に戻っちまったぞ」
「成現時間が切れただけだよ」
GPではなく、MPで成現した場合は時間制限があるのが俺の固有スキルだ。
消費MPはバカ高いのに。『魔法使い』でなかったら使い物にならない死にスキルだったと思う。GPでやろうにも剣士は貧乏駄神だったし。
「ずいぶん短いのう」
「成現コストが低いように、小さくて構造がシンプルなATを選んだんだけど、ベルゼルガは特別なんで思ったよりはコストがかかってね」
「たぶんあの槍のせいじゃろう。単結晶合金だった」
「儂は肩のセンサーが高い原因と見たぞ」
「感覚神経制御システムもある」
スキャンしたのだろうドワーフたちの推察の通り、コスト高の原因は、そのへん。
やはりまずはスコープドッグがよかったかな?
でもスキャンは終わってるから、物がなくてもなんとかなるでしょ。
「もう1回成現する? 今度はパイルバンカーなしならもっと長くできるけど」
前回も全MPを使ったわけじゃないしね。
「ならザクを!」
あいかわらずヘンビットはジオニストだねー。
「ザクかー。サクならなんとかなりそうだけど……」
「サク?」
「超量産型MS。繭玉みたいなボディでヒートロッドみたいな手足が生えている」
「そんなMSがあるか!」
知らなかったか。今度コミックを持ってきてあげよう。
あ、みんなの前世の没年を聞いて、それ以後のロボットアニメの上映会をやるのもいいかもしれない。
「D・Dザクならいけるんじゃないか?」
今度は十三。またマニアックなところをついてくるね。
「たしかにコストは足りるけど、ダイレクトドライブはないでしょ!」
ダイレクトドライブザクはボタン3つ以上あるメカが使えないジオン体育大学の生徒でも使えるというMSだが、実態はただのザクの着ぐるみである。
「ならMS少女でいこう!」
この男エルフは……誰だっけ?
開発部のメンバーがまた増えているのかもしれない。
「女性用はいいとして、自分で使いたいか、それ?」
俺は太腿むき出しで戦いたくはない。
「……まあ、スキャンは終わってるしデコードもすんだ。物はなくてもなんとかなるだろ」
「デコードって、異星語にも使えたのか。便利だなー」
ATのコンピュータのプログラムに使用されているのはギルガメス語なはず。それでもスキルが使えるのはレベルが高いのかな?
「EX-ギアの方は、お前さんの作ったロボ掃除機改と同じ機構を組み込む作業中だ」
「直接くっつけるわけじゃないんだ?」
「掃除機機能はいらん」
そりゃそうか。もし、EX-ギアの飛行ユニットのかわりにくっつけるとしたら背中にくることになるから、掃除機としては使えそうにない。足だったらなんとかなるだろうに。……そこまでして掃除しなくていいか。
「このままいけばマーケットでATを参考出品できそうね」
「EX-ギアじゃなくて?」
「大きい方が目立つじゃない!」
なに言ってんのこの
「ビニフォンのアプリの方は?」
「すでにライターが完成済みよ」
ディスクライターもどきがもう完成してるのか。
やっぱりこの開発部、技術力がすごいな。
「よしっ、マーケットにATを間に合わせるぞ!」
「おおっ!」
「間に合わなかったらガワだけ作って、ロム兄さんのケンリュウに被せて動いてもらおう」
……それは体型的に無理がありそう。