真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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103話 島の守護神

 僵尸(キョンシー)

 萌将伝では凶屍の字があてられていたそれは、映画の題材にもなっていてポピュラーな中国妖怪である。

 中国版ゾンビといった存在であり、人を襲う。

 死後硬直で身体が硬く、ほとんどの間接が動かないので、跳ねて移動。

 さらにキョンシーによって傷つけられた者はキョンシーになってしまう。うん、ゾンビといっしょだね。

 

「俺の記憶だとこんな感じなんだけど」

 対魔忍情報を持っている紫も頷く。

「だいたいあっている。キョンシーの感染はキョンシーに殺された場合だけのようだ」

 げっ。感染するのか。ゾンビは感染しなかったから安心してたのに。やはり上位種なんだろうか?

 

「ヘタしたらパンデミックがありえるか……」

「そうだ。ニホン政府もそれを懸念している」

 せっかくトウキョウを解放したというのに、そんなのに繁殖されたらたまったもんじゃない。

 

 ……あとさ、顔に符を貼られたキョンシーは道士によって操られる。

 道士か。干吉や左慈も道士扱いだったよな。妙な術を使うし。

 あいつらからんでるんじゃないだろうな?

 おフダ貼ったキョンシーがいないかも確認したい。

 

「幸いと言っていいかわからないが、キョンシーが出現したのはペキンだ。中国政府もそちらでの行動は禁止しないといっている」

「シャンハイへはまだ行けないのか?」

「どうしても孫策を手に入れたいらしい」

 自国の使徒として発表しちゃった以上、後には退けないんだろうなあ。

 もしも万が一その孫策が使徒だとしても、中国政府の言いなりになるかはわからんだろうに。

 

「ん? なに?」

 雪蓮を見ていたのに気づかれた。なんかニヤニヤしてるな。なにを勘違いしたんだか。

「いや、シャンハイの孫策って結局なんだったのかって思ってさ」

「なーんだ。そんなの、もう1人の私に決まってるじゃない」

 事も無げにそう言う雪蓮。『勘』というやつなんだろうか?

 雪蓮のスキルにもそんなのあるし……。

 

「用があるなら出てくるでしょ」

「そんなもんかね」

「そんなもんよ」

 むう。もう1人の自分というわりにはあまり興味がなさそうだ。

「伯符の動きなど考えるだけ無駄だ。それに、どうせシャンハイには入れまい」

 冥琳まで。

 ……ま、それならそれでいいか。

 

「じゃ、ペキン攻略を始めますか」

「現地へは我が国の輸送機が運ぶ。中国政府にも許可はとってある」

 また自衛隊機かな。1度マーキングしちゃえばポータルで簡単に行き来できるようになるんだけどね。

 俺のマーキングのスキルも使い込んでかなりレベルアップしてるから、持続時間も長いし。

 

「その前に聖水でキョンシー感染を防げるか試して貰ってくれ。結果によっては補充が必要だ」

「そうか。聖水で傷口を消毒すれば、それが可能かもしれないね」

 レーティアの案によって、現地の対魔忍に連絡をとる紫。

 

「聖水といえばな、神社をトウキョウに建てることになった」

 だから名前を決めてほしいと光姫ちゃんは言う。

「すでにニホン政府はこの世界の神がいなくなったと発表しておる。新たな神の受け入れ態勢を整えたいのじゃろう。表向きはトウキョウでゾンビにされた者たちの慰霊のためということで進めておる」

「いつまでも2面の神社を借りるというわけにもいかないでしょう? 完成後はこちらでお清めをしてほしいの」

 詠美ちゃんまで。これって徳河の人に頼まれているのかな?

 

「政府の思惑通りに動くのはなんか引っかかるけど、うちの神様の神社ができるってのは有難い。……のかな? 剣士に確認とってみるよ。あと名前も」

 剣士神社じゃ武神っぽいしなあ。そもそも剣士はなんの神様なのかまったくわからないけど。

 

 神社か。剣士が神として崇められたら少しはGPやGMが貯まりやすくなるのかな?

 でも、剣士は信者よりも他の神からの印象の方が重要っぽいことも言ってた気もするし、よくわからん。

 まあ、既存の宗教を駆逐しようとして争いを起こしたりするようなことがなければ大丈夫だろ。他の国だとどうなるかわからないけどさ。

 

 

 ということで情報収集を対魔忍や徳河関係者にまかせ、俺たちは剣士に連絡を取り、4面本拠地(アパート)へ。

 本拠地は相変わらずだったが、ゲートからアパートまでの道に異変があった。

 

「人がいたわね」

「モブさんたちだ」

 そう。4面に人がいる。そりゃ華琳も驚くよね。今まで俺たちのような使徒とファミリア以外は人どころか猫の子一匹いなかったんだからさ。……あ、夏は蝉が鳴いてたな。

 4面は今は夜の季節なので出歩く人が少ないのか、それとも本当に少ないのかはわからないけれど、少ないなりにモブさんが歩いているのだ。

 見渡せば、これまでは無人だった家屋もいくつかに明かりが灯っている。

「剣士が用意したのかな?」

 モブ移住にはGMがかかると駄神は言っていた。つまり、課金が必要らしいけど、いるということは剣士は貧乏を脱出できたんだろうか?

 

「煌一さん! 久しぶりぜよ、元気じゃったか?」

 剣士が華佗と歩いてきた。手に洗面器を持っているから銭湯帰りのようだ。スタッシュやポータルを使わないのは剣士なりのコダワリか。

「おかえり。おかげさまで元気でやってるよ。そっちも元気そうだな」

「おう、モブを導入したせいか知らんが今まで開いてなかった定食屋も営業しだしてのう、そこの飯が美味いんぜよ」

 やはりモブがいるのは、剣士が導入したのか。

 食事はそこでしてるのね。いつまでもセラヴィーの世話になってなくて少しほっとしたよ。

 

「よくモブを導入する気になったな。そんなに寂しかったのか?」

「ち、違うぜよっ! GMがそこそこ貯まったのと、あの世の魂の整理のついでじゃ。魂を流用すればモブは安くなるってワルテナ姉ちゃんに教えてもらったんぜよ」

「あの世の魂?」

「そうぜよ。聖鐘(ホーリーベル)で浄化された魂の中から生前の行いのよかったもんをモブにしたんじゃ!」

 ここのモブさんは元ゾンビ? そして、ここが天国扱いなの?

 むう。ゾンビにされた上にそんなリサイクルをされてしまうなんて……。

 

「それならば、ちょうどいいのではないでしょうか?」

「は、はい。今建てられているという神社と同じです」

 朱里ちゃんと雛里ちゃんに言われて俺も気づいた。ゾンビにされた人たちの慰霊のための神社という建前が、建前でなくなる。

 

「なんじゃ、なんの話ぜよ」

「トウキョウにお前の神社を建てることになった。というか、もう建て始めているらしい」

「わ、ワシの神社ぁ?」

 そんな大声出して驚かんでも。

 ……あれ、動かない。あまりのショックに剣士の意識がどこかにいってしまったらしい。

 

 硬直したままの剣士をほっておいて、嫁さんたちと相談。

「さすがにこの人数じゃ大部屋でも入りきらないよなあ」

「せやから、私たちも情報収集する言うたんや」

 智子の指摘もわかるけど、あっぱれ対魔忍世界は柔志郎担当だから彼女が決定した方がいいような気もしたし、時間が余ったら2面に行ってEXギアの訓練もしたい。だから情報収集や璃々ちゃんの護衛で残った以外はほとんどみんなできたんだよね。

 

「モブさんがいなければ百貨店の屋上で会議できたんだけどね」

高天屋(デパート)の屋上は今、ビアガーデンやってるぜよ」

 やっと再起動した剣士が教えてくれる。

 この4面が夏の時にはやってなかったから、夜の季節限定か、それともモブ導入の影響かもしれないな。

 

「ビアガーデン?」

「屋上や屋外でビールを出すお店。夏の風物詩だよ」

 俺はビアホールしかいったことないけどね。

「いいわね。さっそく行きましょ!」

「もちろんメンマはあるのでしょうな?」

 雪蓮がぐいっと割り込んできた。そして星、気になるのはそこなのか?

 でもね、ビアガーデンにはメンマはないと思うよ。

 

「まだ夏休み気分なのか雪蓮」

 大きなため息を見せる冥琳。

「それともキョンシーという新たな敵に昂ぶっているか。だが、次の戦場は異世界とはいえ我らが大陸。もう少し真剣になってほしいものだ」

「真剣になったら国盗りしなきゃなんなくなるわよ」

 今度は雪蓮がため息。あの国の政治に不満でもあるのかな。

 

「煌一の担当世界の救済が終わったらそれもいいかもしれないわね」

 華琳まで……。国盗りどころか世界征服って言い出しそうで怖い。レーティアも似たようなことやってたし。

「そういえば、煌一さんの担当世界ってどんなとこなの?」

「こないだ説明したのでわかってるのは全部だよ。拠点から出ることができなかったから」

 EXギアやATもどき作製で後回しにしてたけど、いい加減あっちもなんとかしないとなあ。

 拠点を出たら宇宙ってのもありえるから、宇宙服っぽいのも用意しておかないと。EXギア付属のフィギュアからパイロットスーツだけ成現(リアライズ)しておくべきか。

 

 ……他の男たち(ヤローども)に見られる心配がないならマブラヴのエロパイロットスーツ(パイスー)もいいんだけどなあ。トップ部隊も捨てがたい。ゴーダンナーのは対魔忍スーツっぽいよね。

 対魔忍スーツのように簡単に破かれても困るから丈夫な素材を用意したい。ファンタジー素材だと……流行りは蜘蛛糸? 衣類系に詳しい種族ってなんだろう。レプラコーンは靴屋だし……。

 

「モスラの幼虫を成現したらあの糸使えないかな?」

「モスラ?」

「ああ、怪獣映画はまだ観てなかったっけ。巨大な蛾の怪獣だよ」

 あれのラジコンほしかったなあ。

 新作ができたらスカイツリーに繭をはるのだろうか?

「でも、サイズ考えたらコストが半端なさそうか。守護神ってことを考えるとちょっと無理かもしれない」

「それは残念ぜよ……」

 がっくりと肩を落とす剣士。もしかして怪獣が好きなのかもしれない。

 怪獣か。ガヴァドンって俺の固有スキルと相性よさそうだよな。

 

「なぜ、この流れで怪獣の糸がくるのかよくわからないのですが」

「宇宙服の素材のことを考えてたんだ」

 稟の質問に答えて脱線してたことに気づき、頭を切り替える。

「そっちは後回しでいいか。とりあえずは剣士の神社、っとその前に会議場所か。開発部の会議室借りるか?」

「それなら本拠地を更新するぜよ。神社ができるんじゃ! そこの神さんがいつまでも初期の住まいのままではいかんぜよっ!」

 アパートの表札を見れば『第49初期本拠地荘』。まだ初期のままだったっけ。

 

「この前聞いた温泉旅館風のなら、たぶんすぐできるぜよ」

「モブ移住で使ったんだろ、GM足りるのか? それと、後から細かい修正とかもできるのか?」

「どっちもだいじょうぶじゃ。ビニフォンの売れ行きがいいらしくてのう、ワシの評判も上がりつつあって、GMはあるんぜよ」

 笑いながらドンと胸を叩く剣士。

 むう。慣れない大金を手に入れて舞い上がってるんじゃないだろうな?

 けどまあ本拠地のグレードアップは無駄使いでもなさそうだからいいか。しばらく様子を見よう。華佗に剣士の購入物の観察を頼むか。……微妙に不安だ。

 

 

 すぐ、と剣士は言ったが、本拠地更新でその日は終わってしまった。

 申請の書類はビニフォンでも呼び出せたのだが、それの記入で駄神が手間取り、しまいにはワルテナに泣きついた。

「アパートの部屋を増やしたり、柔志郎の部屋を変えるのはすぐにできたじゃないか」

「あれは煌一さんの部屋をコピーしたからすぐにできたんぜよ。今回は思った以上に基本仕様からの変更が多かったんじゃ」

 基本仕様のままだとアパートの次は団地だった。それも昭和臭漂わせる低層のエレベーターのない団地だ。

 

 苦労とワルテナの手伝いの甲斐あって、申請書を送信するとすぐにアパートが光に包まれた。巨大な光の柱の中ではなにが行われているのかは全く見えない。特に大きな音も聴こえない。

「これで来週には完成しますわ」

「そんなにかかるんか?」

 どうやら剣士は申請後すぐに完成すると思っていたらしい。

「工期を早めることもできますわ」

「どうせGMがかかるんだろ」

「当たりですわ」

 それならと、すぐにGMを使おうとする剣士を止める。やはり剣士の財布を管理する使徒かファミリアを探さないといけないかも。

 

「そんなに急ぐ必要はないだろ」

「早く新しい本拠地が見たいんじゃ!」

「1週間ぐらい我慢しなさい。その間は……どこかに宿をとるか?」

 本拠地これじゃ寝れないよなあ。俺の部屋どうなってるんだろ? コンバットさんや積みプラモが無事だといいけど。あ、両さんも置いたままだった……。

 

「泊まるとこぐらいあるぜよ」

「セラヴィーのとこならちゃんと土産持っていけよ」

 販売開始したX(イクス)さんのセットを剣士に渡した。後で金髪縦ロールのパーツも作って持っていくかね。

 なんだかんだで彼には世話になっている。面倒な子も押し付け気味だから感謝しないといけない。

 

「ふふっ。師匠の新居は温泉付きですか。羨ましいですわ」

「ワルテナんとこはもっとでかい超高層ビルじゃないか」

 本拠地内にショップやジムにプールもあるようだったし、大浴場ぐらいついていると思う。

 

「完成したら璃々にも見せてやりたいな」

 ゆり子の呟きが聞こえた。

 璃々ちゃんはゲートが使えないんだよなあ。ここに連れてこれればいいのに。

 

「連れてくる方法はありますわ」

「マジで?」

「ええ。そんなアイテムが販売されていますわ」

 なんでもファミリアの素質がないながらも、役に立ってくれる者のためのアイテムらしい。

「使徒とファミリアが家族や大事な人を連れてくるのにも使われますわ」

 そのため、GMではなくGPで購入可能なアイテムだった。値段は高い。これを買うために頑張るだろうという狙いか。

 高いけど、これは買わざるをえない!

 智子とゆり子もじっとこっちを見ているしね。

 

 

 

 夜。夫婦の時間。

「ど、どうでしょうか?」

「うん。いいんじゃないかな」

 俺が話題にしたせいか、明命ちゃんが対魔忍スーツを着ている。元々忍者のような彼女なだけに違和感があまりない。

 身体のラインがはっきり出るこの衣装は素晴らしい。他の男には見せたくないけど。

「いやらしい目で見ないで」

 同じく対魔忍スーツなゆきかぜちゃんがそう抗議するが、そんなことを言われても……。

 

「動きやすさだけではなく、相手を魅惑し隙をつくる意味もある衣装だ。仕方ないだろう」

 紫の言うとおりだ。思わず見ようとして彼女たちの攻撃をくらってしまうかもしれない。おっぴろげキック理論だね。

 

「問題は強度確認だけど……」

「そう簡単に破けはしない」

 いいの、凛子?

 これって許可って受け取ってもいいんだよね?

 

 本日の担当は明命ちゃん、紫、ゆきかぜちゃん、凛子の4人。

 全員が対魔忍スーツできてくれたのはありがたかった。パイロットスーツの参考と俺の趣味的にね。

 

「そ、そんな簡単に……」

 梓の改竄により俺が手に入れたスキル『鬼制御』のレベルも上がっている。姿を変えないでも筋力アップもできるし、爪を1本だけ伸ばすような部分変身もできるようになっている。

 そのおかげで対魔忍スーツはあっさりと破けてしまった。苦労したのは彼女たちの肌に傷を付けないかの方。

 

 堪能しました。

 たまにはこんなシチュエーションもいいかもしれない。

 破けた対魔忍スーツは、あの洗剤で直っても強度的に不安だから実戦用には別の用意するとして、夜用に保管することにしますかね。

 

 


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