真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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105話 K10

 ガンメン。『天元突破グレンラガン』に登場するロボット。

 顔面(ガンメン)の名は、巨大な顔を胴体として手足が生えた形状――頭部はない場合が多い――に由来する。

 ペキンへ行った偵察班から送られてきたメールに添付された画像に写っていた巨人はこれによく似ていた。

 

 ……ただし、機械ではなく生物のように見えたが。

 大きな斧と盾を持ち、頭部は無く、裸の上半身に両目と口があった。

「生ガンメン?」

 思わず口に出てしまった。それと同時に華琳も呟いていた。

刑天(シンティエン)……」

「え?」

「これは刑天。神農大帝の配下だった者よ」

「神農大帝って華佗の五斗米道を編み出したっていう古代の人だっけ?」

 その配下がなんでこんな……まさか生体兵器? 五斗米道で改造手術を受けたのだろうか。

 

「ええ。黄帝との戦いですでに敗戦が決まっていながらも、たった1人で黄帝に戦いを挑み、首を落とされた巨人。常羊山に埋葬されたのだけど、それでも戦いたかったようね、乳首を目に臍を口にして生き延び、兵を鼓舞し暴れ続けるの」

 五斗米道の改造じゃなかったのね。あとさ、巨人は元からなの?

「中国妖怪か。……そりゃキョンシー以外にも出てきてもおかしくはないか」

「中国兵の目がなければ私の出番なのだがな」

 腕を組みしたまま唸るクラン。

 トウキョウでの『がしゃどくろ』との戦いでは、巨大化のスキルを持つクランが活躍した。だが、今回はそれに頼れない。

 

「そうね。クラン姉さんまで妖怪扱いされても困るわね」

「ララミアにもその説明はしてるから巨大化はしてないよな?」

 ペキンの駅を拠点として起動させようと柔志郎の小隊も偵察班として中国に行っている。このメールも彼女たちから届いたものだ。

 クランと同じゼントラーディであるララミアにも変身アイテムを渡してあるから彼女も巨大化して戦うことができる。が、前述の理由のためよほどのピンチでもない限り巨大化することはないだろう。いざとなればポータルで撤退すればいいのだし。

 

「あ、大魔神」

 立体映像に刑天とは別の巨人が現れた。

 某ガレージキットメーカー本社に飾られているあれによく似たその巨人は比良賀(ひらが)(てる)の造った巨大ロボット。名前もそのまんまの『大魔神』である。身長は人間のざっと3倍以上だったはず――ファンディスクではもっと巨大化してた気もする――だから、5、6メートルってとこか。刑天も同じくらいの大きさのようだ。首があったら、刑天の方が大きくなるのかな?

 

 輝め、いつの間にあの大きさのものを収納できるまでにスタッシュエリアを拡張(レベルアップ)していたんだろう? もしかしたら開発部から色々とちょろまかしてスタッシュで運んでいたのかもしれない。ちょっと不安だ……。

『ダイマジィィン、ゴー!!』

 輝の指令で大魔神が刑天に攻撃を開始する。あの大魔神にコアとして人間を使ってはいないはずだから、完全に輝の無線によって操縦されているはず。

『大魔神スラッシュ!』

 録画された映像の輝の声が弾んでいる気がする。大魔神の初陣で浮かれているのかもしれない。

 

 輝の指示通りなのか、装備していた剣を刑天にむかって振るう大魔神。思っていたよりも鋭い攻撃だ。やはり開発部作の部品を使用している可能性があるな。

 だが、刑天はその鋭い斬撃をやすやすとかわし、お返しとばかりに巨大な斧を打ち付ける。斧の切れ味はそれほど良くないのか、真っ二つにこそされなかったが大魔神の頭部は陥没。輝の自信作は哀れにも起動してすぐに秒殺されてしまった。

 

『だいまじぃぃん!』

 輝の泣き声に気づいたのか、刑天がこちらを向き、ぴょ―んとジャンプ。一瞬で目の前に移動した。

『ちっ、速いッス!』

 柔志郎の嘆きの直後に響き渡る銃声。

 以前に柔志郎がトウキョウで入手した拳銃ではない。俺が新たに成現(リアライズ)した大型拳銃である。

 

 正式名称バハウザーGMA-571。通称アーマーマグナム――アーマ・マグナムとも――『装甲騎兵ボトムズ』に登場した兵器だ。拳銃(ハンドガン)ではあるが銃身を切り詰めた散弾銃(ショットガン)のような外見の通りに散弾を用いれば対人用として使える。

 基本は対AT用徹甲弾を使用する対AT戦用の銃。ATが使用する重機関銃の炸薬と同じ液体火薬を使用しているため、発射時の反動が半端でなく大きく、扱うのは大変だがその威力は折り紙つきだ。弾数は3+1発しかないけどね。

 反動が大きく短銃身もあって命中精度の低い難しいこの銃を、柔志郎は使徒としての高い能力やスキルで使いこなし、試射ではかなりの命中率を誇っていた。彼女が泣き女(バンシー)を拳銃で仕留めたのはまぐれではない。

 

『マジッスか!?』

 必中の弾丸はしかし、刑天の持つ巨大な盾によって阻まれていた。

 設定上では20ミリの装甲板を貫通するはずなんだけど……。当たり所さえよければATを倒せる弾丸に耐えるなんて、あの盾は首なし騎士(デュラハン)の着ていた鎧のように高性能なマジックアイテムと見て間違いないだろう。

 こんなことなら弾丸も対異世界魔族用の強力な物を作っておくべきだったか。でもアーマーマグナムはAT製作のついでに成現しただけだからそこまで気が回らなかったんだよな。柔志郎が帰ってきたら用意してあげないと。それとも魔法銃の方がいいかな?

 

『撤退や! ……シャボン・スプレー!』

 かなわないと判断した智子マーキュリーの必殺技でシャボン玉が溢れて視界が全くなくなって、そこで映像が終了した。

 必殺技ではあるがシャボン・スプレーは殺傷能力が皆無といってもいいのでこのような煙幕としての使い方が正しい。

 

「どうやらこのまま逃げきったようだね」

 メールを確認しながら補足する。逃走はしたが、拠点を起動させるまでは戻ってこないとメールには書かれていた。

 早く帰ってくればいいのに。心配だ。空気も悪いようだし。

 こっちのペキンにもやはり大気汚染がある。皮肉なことにゾンビタウン化でその原因と見られる火力発電所や自動車、石炭による暖房が使用されなくなったため、それはかなり改善されているらしいがそれでもやはり心配。メールによれば『耐性・毒ガス』のスキルを入手した子もいるみたい……。

 

 

「大魔神は人間や剣魂で勝てるとはいえ、パワーアップしていたようなのにあんなにあっさり負けちゃうなんて……」

 しかもたったの一撃で。よほどのパワーと技量を持っているのは確実だろう。

 いくら恋姫嫁さんたちが人間離れした武将とはいえ、あの攻撃をくらっては無事でいられそうにはない。

 

「正直、あれはちょっと厳しそうね」

 わずかな映像でその強さを実感したのか、雪蓮もいつもとは違う緊張した表情になっていた。

 トウキョウ解放後も武将たちは鍛錬を続けて強くなっている。がしゃどくろ程度なら数人がかりであれば倒せそうだけど、刑天はやはりキツイか。

「あれが異世界魔族の魔人と見ていいだろう」

「元になる人物がいる分、がしゃどくろのように何体も出てくることはなさそうなのがせめてもの救いね」

 あんなのがうじゃうじゃ出てこられてたまるか。……なんかフラグっぽいし備えておいた方がよさそうだな。

 

「まさかこんなにも早くATの実戦投入をすることになるとはね」

「もう完成したの?」

 身を乗り出して聞いてくる唯ちゃん。それに答えるのはレーティア。新ビニフォンを操作する。

 

1面(エルフ)6面(ドワーフ)、それに2面の連中(ワルテナ)たちのおかげで、素材がかなり集まったからな」

 空中に投影される巨大生物の骸たち。なんかドラゴンっぽいのも混じってるんですが。あれに勝てるならATいらないんじゃ?

「あんなのがおるんか。ウチも()りたいわ」

 霞もなんだかATなしで刑天に殴りこんでいきそうでちょっと怖い。

 

「その中から厳選した素材をドワーフが腐敗防止の加工をして、ATに使用されるマッスルシリンダーとポリマーリンゲル液の代用品が完成した。これらはオリジナルの物と比べても性能は劣っておらず、しかも爆発しにくい」

 むう、安全性の高いATか……。いや、そっちの方がいいんだけどさ。ロマン度は下がってしまったな。

 

「試作1号機は操作系をEXギアに対応させた他はほとんど元にした機体と同じになっているぞ」

 試作1号機に切り替えられた映像はベルゼルガそのもの。動きも悪くなさそうだ。EXギアになれているミシェルが動かしてるのかな? 色も青いし。

 

「試作2号機はテストパイロットの意向でこんな感じだ」

 ああ、こりゃ間違いなくテストパイロットはカミナなんだろうな。ガンメンの操縦経験があるから選ばれたんだろう。映像に映っているのは真紅の機体だ。

「そりゃ手足のバランスはグレンっぽいけどさ」

 顔もついていない胴体部にグラサンまで装備してるのはやりすぎだと思う。

「ATはシンプルな構造だからアレンジがしやすいとドワーフたちも喜んでいるぞ」

 マジですか。こんなグレンイミテイトみたいな魔改造ATが増えるのか……。アゴルフなんてザクイミテイト注文しそうだ。

 俺は普通のベルゼルガでいいな。いや、それとも改修型のスーパーエクスキュージョンの方がいいか。

 

「けどさ、これなら勝てるの?」

 梓の質問ももっともだろう。刑天は強敵だ。

「ふっふっふ。ウチらが作ったATはな、大魔神とは違うんや」

 今度は真桜がビニフォンをいじっている。

「見い!」

 ベルゼルガがヘビィマシンガンを発射して目標を破壊する映像だ。あっという間に目標にされた中古車が粉々になっていく。……あれ?

「気づいたようやな。これがスロー映像や」

 ヘビィマシンガンから放たれた弾丸が分身している? 連射しているからそう見えているんじゃないよね、これって。

 

「使徒やファミリアが操るATは、スキルや(アーツ)が使えるんや!」

「なるほど。たしかに無人の大魔神とは大きな違いね」

 これなら勝てるかもしれない。

「あとは操縦か」

 EXギアの操縦にはみんな少しずつ慣れてきてるし、『操縦・人型機械』のスキルを習得した者もいる。でも、ATはまだ乗ったことないし、実戦に参加させるのは早い気もするなあ。

 

「満月前には刑天(こいつ)をなんとかしないといけないわよ」

「刑天は兵を鼓舞するという。その能力も持っていると見るべきだろう」

 雪蓮と冥琳の言うこともわかる。満月でパワーアップしてるゾンビやキョンシーがさらに強化されるなんてのは考えたくない。

 

「とにかく、開発部に行ってATの確保と操縦訓練だな」

「刑天の情報も集めましょう。いつでも倒せるように位置も追尾しておくように」

 マーキングのレベルが高ければ、目標が移動しても長持ちするらしいけど、うちのメンバーでマーキングスキルの一番高い俺でもそこまで保てないので対魔忍頼りになってしまうかもしれない。

 対魔忍にもおフダや聖水を納入してるけどもっと渡しておくか。

 

「こんなにも早く実戦データが取れるとはな」

 なんかレーティアがすごく楽しそう。ドイツっぽいATでも作る気なんだろうか。……ドイツっぽいのってレオパルドン? それは弱そう。グオゴゴゴ。

 蜘蛛男のなら最強秒殺ロボなんだけどさ。

 

 俺も開発部に頼らないで自分用のを成現しようかな?

 ここは最強の機体、テスタロッサだろうか。……いや、あれはGがすごすぎるから対G機能を持つEXギアを装備しても身体が持たなさそう。

 VF-25に使われてるISC(慣性蓄積コンバーター)を使えればなんとかなるか。いやでもそうすると、さらに成現コストがかさみそうだしなあ。

 

 なんにしても開発部のATを何度か操縦してからの方がいいか。成現するにしてもその方がイメージも籠めやすいはず。

 いかんな。強敵との戦いの準備だというのに、俺もなんだか楽しくなってきたかもしれない。

 

 


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