真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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106話 こうかん

 刑天(シンティエン)との戦いのため、完成しているらしい試作品のATもどきを受け取りに4面へと移動する。

 相変わらずこの面はモブさんが多い。人だけじゃなくて、犬猫もいる。今はペキンからまだ帰ってきてないけど明命がいたら羨ましがるんだよね。早く4面にもモブ猫が導入できるように稼がなきゃね。

「あれ? あんな建物あったっけ?」

 開発部の工場のすぐ近くに見覚えのない巨大な建築物が建っていた。

 

「まるでコロッセオね」

 見たまんまの華琳の感想に頷く軍師たち。その辺の知識はバッチリらしい。

 円形闘技場のような外見をしているけど、壊れかけみたいなあっちと違ってこっちは新品ぽい。

「なんだろうな? イベント用に建てたのかな」

 まさか同人誌の即売会のためじゃないよな? ……本物のコロッセオと同じく屋根がないように見えるからそれは無理か。

「ミシェルたちに聞けばわかるのだ。さっさと開発部に行くぞ!」

 クランに促されて開発部へと急ぐ。

 

 

「あれは訓練場ですわ」

 ワルテナがあっさりと教えてくれた。使徒やファミリアを鍛えるための施設らしい。

「スキルや(アーツ)を使っても壊れないので気兼ねなく訓練ができるのですわ」

 そりゃすごい。俺たちは大技の訓練はセラヴィーんとこ行かなきゃできなかったもんなあ。今度使わせてくれないかな?

 

「訓練場ってあんなにでかかったのか」

「あれでも中型ですわ」

 ……中型でも剣士じゃ買えそうにないな。大型ってどんだけでかいのが建つんだろ。

「ATならいいけど大きなロボができたらあれじゃ小さいかもな」

 そうか? ヘンビットの欲しがってるザクでも余裕そうな大きさだけど。

 それとももっと巨大なロボまで予定してるのか、この開発部は。

 

「その時はその時考えるしかあるまい。今はあそこでATのデータを集めるのが先だ」

「たしかに周りを気にしないでぶっ放せるというのはいいですな」

 当初の予定通り、ベルゼルガのパイロットは桔梗。パイルバンカー使いだしね。彼女もやる気のようだ。

 

「煌一もきたことだし、さっさと始めよーぜ」

 バシンと両手を打ち鳴らすカミナ。

「え、俺待ち?」

「ああ。正確にはお前の修理だ」

 修理? なにか壊れてるってこと?

 

「MPの貯蔵は十分か?」

「それだけがとりえだからね」

 むう、今の台詞はアーチャーから聞きたかったな。まだ忙しいのか、ろくに会話もしたことがない。

 

「ならばこれから見せる魔法を覚えろ」

 スタッシュから斧を取り出すドライツェン。斧を構えてじっとしている。

 気練り(チャージ)? なにか技を出すのだろうか。

 

 おもむろにそばに置いてあった充電中のEXギアに斬りつける十三。

「なっ?」

 爆発のような大きな音がして、EXギアが壊れる。

 

「ふむ。さすがワシらが作ったEXギアだ。真っ二つにはできん」

 凹んだEXギアと斧を交互に確認しながら満足そうなドワーフ。防御力の確認のためにわざわざこんなことをしたんだろうか。

 でもまだEXギアも完成形じゃないよね。装甲材もオリハルコンにして聖衣(クロス)っぽくなる計画だ。

「魔法って、今のは技だよね?」

「お前が覚える魔法はこれからだ」

 壊れたEXギアに手をかざし魔力を放出しながら十三が叫ぶ。

修理(リペア)!」

 

 魔法をかけられたEXギアが徐々に直っていく。これはまるで回復魔法のようだ。しかし自然修復しない機械には回復魔法は効果がない。

「修理魔法なんてあったんだ」

「うむ。だが、生産スキルだからGPを消費する。GPを使いたくない場合は物理的に修理するしかない」

 なんだ、修理魔法も有料なのか。……これを俺に覚えろってことはもしかして。

 

「GPのかわりにMPだけで修理した場合、効果時間が切れたらどうなる?」

「こうなるだけだ」

 目の前で、再びEXギアが破損状態へと変わった。なるほど、生産スキルでもGPをMPで代用できるのか。時間制限つきで。

 

「これから宣伝用にAT同士の戦いを撮影する。ATの損傷が予想されるがそれをイチイチ修理していては部品も時間も足りん」

「宣伝? 時間が足りないって、刑天のこと言ったっけ?」

「刑天? まさかマーケットのこと忘れてないわよね?」

「……あ!?」

 そういえば交流イベントの市場(マーケット)が近いんだっけ。やべえ、すっかり忘れていた。

 

「い、いや、俺はなんかクレーンゲームをやらなきゃいけないはずだったんだけど、連絡まだきてないんでもっと先かと思ってたよ」

 チ子が額に指を当てて「はあ」と大きくため息。さらに首ふりで、なっちゃないとアピール。

「あのね、マーケットは3日後よ、今は追い込みなの。瀬良ちゃんだって忙しいはずよ」

「そ、そうなのか」

 そんなに近かったのか。最近本拠地でTVや新聞見てなかったもんなあ。こまめにチェックしておくべきだったか。今は改装中で無理だけどさ。

 

「まあ、俺の方は準備することもないから当日行けばいいだけなんだろうけど、開発部(こっち)はいいのか? ATやEXギアは参考出品でまだ売らないんだったよな」

「まあね。けど販売する新製品がビニフォンのアプリだけじゃ、ドワーフたちが肩身の狭い想いするでしょ」

「エルフの小娘に気を使われるとはのう」

 そう嘆きつつもドワーフたちの顔は嬉しそうだ。各面の里じゃエルフとドワーフの仲はあまりよろしくないらしいが、開発部の連中は寝食と苦労をともにしているせいか、仲はいい。

 

「アプリってもうできてるの?」

「ふっふっふ。実用的なものからゲームまで十分に取り揃えてある」

 エルフ特有の長い耳にかけた眼鏡をくいっと持ち上げて得意気なこいつは……誰だっけ? 開発部のメンバーまた増えてる?

 

「そうか。いいのあったら俺たちもほしいな」

「そう? おススメはスワップアプリよ」

「な、なんだって!」

「あんたのにも入れておく?」

 ドヤ顔のチ子に両手でバッテンを見せる俺。

 

「断固拒否する!」

 なんてものを勧めるのさ!

「え? 結構便利なのよ」

「便利とかそういう問題じゃないだろう! 俺は嫁さんたちを交換するなんてことは絶対に許さない!」

 夫婦交換アプリなんてなにを考えてるんだ。エルフの性ってのはそこまで乱れているのか。全く嘆かわしい。

 

「は?」

 キョトンとした顔のロリエルフ。その後、ジト目。

「アンタ、自分の武器を嫁扱い?」

「嫁さんたちは武器じゃない!」

「……そこまで変態だったなんて」

 ええっ、エルフって嫁イコール武器なの? 否定したら変態扱いされるの?

 

「あー、煌一、そっちじゃない」

 ミシェルがニヤケながらビニフォンを取り出す。新型の方だ。もちろん、立体表示時にスカートの中は表示しないように調整済みのモデルである。

「そっちって……」

「まあ、見てろ」

 おとなしくビニフォンを操作するミシェルを見ていたら、彼の姿が一瞬で変わった。

 それまではワルテナの趣味で決められているのか、2面の連中共通の学生服を着用していたミシェルが、EXギア用のインナースーツに着替えているのだ。

 

「わかったかい、スワップアプリって夫婦交換じゃなくて装備交換なのさ」

「なんだ、そっちか。エルフって子供できにくいとかあってそういうのが当たり前なのかと焦ったよ」

 なんだよ、装備が一瞬で変わるアプリかよ。よく考えたらゲームでもよくあるじゃん。物理無効の敵が出てきたら裏装備にスワップして戦うとかさ。

 あー、いらん恥かいてしまった。

 

「ふーふ交換ってなんなのだ?」

「クランにはまだ早いよ」

「子供あつかいするなー!」

 ミシェルをポカポカと殴るクランにいつのまにかチックウィードも混じっている。彼女もわからなかったのか。だからさっきみたいな誤解されちゃったのね、うん。

 

「全身鎧なんてものは1人じゃ着るのも大変だからな、こいつは売れるぞ」

 ふむ。たしかに言われてみればそうかもしれないな。武器だけじゃなくて、全身の装備を一瞬で変更できるなんて。

「だけどさ、それがあればEXギアが椅子からパワードスーツになる必要ないんじゃないか? 脱出する時に装備をスワップさせりゃいい」

「あ……い、いや、EXギアはパイロットの操縦の癖を覚えてくれるし、椅子が専用になるから盗難防止にもなる」

 梓の鋭いつっこみに思わず焦る俺。みんなでがんばって開発してるのが無駄だったかと思ったじゃないか。

 

「ああ、なるほど」

「それ、髪形も変えることができるのか気になるの!」

 沙和が目をキラキラさせている。たしかにEXギアを使う時は髪を纏めておかないと稼動部にはさんでしまって意外と危ない。アップにしておく必要があるのでそこのところは嫁さんたちから不評だったりする。

 沙和の目論みは別だろうけどさ。

「もちろんできる。設定した時より髪の長さが極端に違ったりすると、変になるけど」

「沙和もほしいの!」

 嫁さんたち全員が欲しがるんじゃないかな。というか、ビニフォンの基本機能にほしいぐらいだ。

 

「スワップアプリの実行にはMPを消費する。変更する装備はスタッシュから出し入れさせられる。セットできるパターンの数はシステムツールのスキルレベルによって変わる」

 眼鏡エルフが新型ビニフォンで図解を立体表示させながら教えてくれた。使いこなしてるなー。最大MPを増やすために新型ビニフォンを多めに成現(リアライズ)して渡しておいてよかった。

 

「気に入らねえ」

 そしてなぜか不貞腐れているカミナ。

「まだ言ってるのか」

「おうよ! そんなのは変身じゃねえ! いいかミシェル、男の変身ってえのはなあ、こう、もっと美しく、そして、燃え滾る熱い魂なんだー!」

 ええと、それ、合体の時の説明じゃなかったっけ。グレンラガン全話視聴済みの嫁さんたちも呆れた顔で見て……うんうんと頷いているのも数名いるな。まあ、わからんでもないけどさ。

 

「変身じゃなくて装備変更だから地味なのはしょうがないのかもしれないけど、もうちょいエフェクトがあってもいいんじゃない?」

「だが、その分MPを消費するぞ」

 この眼鏡エルフは男の浪漫がわからんのか。ってあれ、ひょっとしたら女の子なのか。エルフは基本的に細いから性別がわかりにくいんだよな。アゴルフみたいな例外もいるが。

 

「背後で爆発とは言わないけど、せめて装備変更の時に全身輝くとか」

 敵から隠れているときは使えないけど効果音が出るのもいいな。

「ふむ」

「あと、ビニフォン持ったままだと装備変更後に両手使えないから、コマンドを登録しておいて、それを認識したら装備変更できるのもほしいでしょ」

「コマンド?」

「ポーズと台詞、かな」

 俺の案が出た瞬間に、「それだ!」と開発部のほとんどの男たちが手を叩く。当然のようにカミナもだ。

 だって、これなら「変身」や「蒸着」がほぼ完全に再現できるもんなあ。

 

「やはりお前さんはこの開発部には必要な男だ!」

 男たちにバンバンと肩や背中を叩かれる俺。痛いってば。

「はあ、わかった。アップデートしておこう」

「機能増やした分、値段も上げようか?」

「そっちはプロ仕様ってことで別バージョンにしておこう」

 プロってなんのプロなんだか。

 

 

 

 その後、修理魔法を練習してすぐに覚えた。うん、『大魔法使い』のスキルでも魔法習得にプラスの補正がちゃんとかかっているな。

 

 訓練場(コロッセオ)へ移動して宣伝映像の撮影開始。

「で、宣伝用ってなにするんだ? 俺が直しまくんなきゃいけないほど壊す予定なんて」

「決まっておるだろう、バトリングだ」

 観客席で質問したらそんな答えが返ってきた。

 バトリング、『装甲騎兵ボトムズ』で出てきたATによる賭け試合だ。

「もちろんリアルバトルでな」

「ああ、そりゃ壊れるな」

 リアルバトルとは、バトリングの試合形式の1つで銃器を用いて実戦さながらの戦闘を行う。

 場内で向き合ったAT、たぶんミシェル機の方だろうそれも大型の銃を装備している。

 

「……ちょっと待て、下手したら死ぬじゃないか!」

 いくら使徒やファミリアが死んでも復活できるとはいえ、宣伝映像で命がけってのはおかしい。

「ああ、訓練場ではな、死ぬことはないんだ」

「え?」

「安心して訓練できるようになっているんですわ。死ぬような攻撃を受けても死亡一歩手前で医務室の治療ベッドに転送されるのですわ」

 なんて至れり尽くせりな施設だ。4面(うち)にもほしい! けど、きっと高いんだろうなあ。

 

 ミシェル機はライフルを装備している以外はほぼオリジナルと同じ外見のベルゼルガ。対するカミナ機は外装を大きく変えたグレンイミテイトとなっている。

「わしも戦いたいですな」

「桔梗はまだATを動かしたことすらないでしょ。今は訓練してた方がいいんじゃない?」

「しかしこの戦いも気になりましてな」

 桔梗だけではなく、武将たちの多くがかぶりつきで観戦してる。

 

 もしかして4面に訓練場があったら、毎日手加減抜きの血みどろの訓練が行われるのか。訓練場、ほしいけどちょっと怖い。

 

 


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