真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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108話 リラクゼーション

 マーケット当日、打診されていたクレーンゲーム攻略を行おうとしたら、男の娘神(ポロりん)の登場、アポロンとはとても思えないそのキャラに戸惑っていたら、対魔忍のアサギさんからの緊急連絡が入った。中国軍がペキンへの攻撃を開始したとのこと。

 

「なんでこのタイミングで……」

 よりにもよってマーケットの日、俺がクレーンゲームを攻略できるのは今日しかないというのに。

「それこそ、AAA(こっち)のスケジュールを知ってるやつらが裏で動いたからでしょ?」

 ポロりんのもっともな指摘。

「干吉たちか」

 やつらは前回、交流戦の時も仕掛けてきた。あの時はスタッフ面して紛れ込んでいたぐらいだから、こっちの事情も筒抜けなのかもしれない。

 

「だけど中国軍を動かすことになんのメリットがある?」

「さあ? 僕はそっちのことには詳しくないからわからないってば」

 わけ知り顔してたのに。今までのは予言の神としての神託ってこと?

 

「中国軍にも聖水は渡しているとはいえ、異世界魔族に勝てるとは思えん。キョンシーの材料にされるだけじゃ」

 アサギさんとは別口でビニフォンで情報収集していた光姫ちゃんいわく、特に新装備もあるわけでもないらしい。それでなんで攻めに行くんだ?

 

「わたしたちのフォローを期待してるのではないでしょうか? わたしたちや対魔忍のペキンへの進入を禁止してるわけではないようですし」

「まだ支援の要請はきてはいない」

「これで支援したら、こちらが勝手にやった……いや、自国の使徒が救援にきてくれた、と発表するか」

「そこまで厚顔無恥なこと……」

 やりかねないかな? シャンハイに出現したもう1人の孫策を自国の使徒だって発表したぐらいだし。冥琳の言う通り、言ったもん勝ちとか、発表しちゃえばこっちのもんだとか考えてる可能性もある。情報規制はお得意な国だ。

 

「もう1つの可能性。ボクらを誘き出して中国軍に攻撃させるつもりなのかもしれない」

 眼鏡を光らせるのは詠。

「ボクらが現れたらミサイルや爆弾で攻撃。支援要請はしていないから、ボクらがいることは知らなかったといいわけもできる」

「ですが、それなら軍を動かす必要がわかりませんぞ。わざわざ軍を動かさなくとも、いずれ恋殿が刑天を倒すのです。その時に狙えばいいのですぞ」

 ねねの疑問ももっともだ。

 俺たちは隠形を使うので動きを掴むのは難しいが、刑天たちのマークしていれば、戦っているのはわかるはずだ。

 

「じゃあ、今は動くなって言うの?」

「こうしている内にも兵隊さんがキョンシーになってるんじゃ……」

 不満そうな雪蓮と不安そうな桃香。

 

「とにかく、情報が足りない。光姫ちゃん、ニホン政府からの情報を集めてくれ」

「それと、ニホン政府から中国政府への問い合わせを。ペキンに兵が侵入しないように要請していたのを蹴ったのだから答えてもらいましょう。それがない限り、要請があっても私たちは支援は行わない、そう正式に発表させて」

 華琳、政府を動かしちゃうの? いいのかなあ。

 ……現状、あっぱれ対魔忍世界での俺たちの窓口ってニホン政府しかないから他に方法がないか。

 

「桔梗、いつでも出撃できるように開発部でATを受け取ってきて。スタッシュに入るよね」

「もちろん。神話にうたわれし武将との戦い。腕が鳴りますな」

 言いながら本当に指を鳴らす桔梗。美少女はあんまりそれやらないでほしいな。指が太くなるっていうし。

「桔梗だけずるいのだ」

「仕方あるまい。宣伝映像の撮影で壊しすぎて、()()()に動くのはわしのベルゼルガだけだ」

 わが666開闢の間開発部でのマーケットの会場は、撮影にも使われた2面の訓練場(コロシアム)。混雑が予想されるため、大きな場所を用意している。予想というか、申し込みが多かったから確定なんだけどね。

 その入り口にミシェルとカミナ仕様のATが飾られているが、戦闘には使えないだろう。どんな仕掛けがあるかわかったもんじゃない。

 

 やっと念願のロボができて開発部の連中も張り切ってるのはわかるんだけどさ、宣伝映像撮影中にグレンイミテイト4号がアームパンチならぬロケットパンチを放った時は驚いたよ。射出ギミックだけで誘導装置なんてついてなかったから戻ってこないでカミナが困っていたけど。

 ミシェル機6号は頭部のターレットレンズから光線が出て、出たのはいいんだけど眩しかったんだろう、ミシェルが「目が、目がぁ!」ってお約束。その後、ヘッドギアのバイザーの保護回路を調節していた。

 他にもまだまだあるけど、巨乳ミサイルを内蔵させるのはなんとか阻止したよ。あれはボディラインが美しい女性型ロボじゃないとね。

 

 中国軍の目がある中でそんなイロモノ使うわけにもいかないでしょ。使徒として評判を下げるようなことはしないように、ってワルテナにも言われてるしさ。

 その点、桔梗のベルゼルガはほぼオリジナルと同じ仕様なはずだから安心だ。

 

 桔梗たちに小隊を組んでもらって、開発部に出発させた。ペキンの状況次第では現地に直行してもらう。

「本当なら俺も行きたいところだけど……」

 今の俺ならATのプラモを設定改竄してEXギア対応型のAT、通称EXATも成現(リアライズ)できる。刑天と戦ってる間くらいはもつはずだ。

 操縦だって、ミシェルとカミナに扱かれて(ボコられて)覚えている。

 

「それは困る。キミにはやることがあるんだよー」

「はいはい。わかってますって」

 ポロりんに言われなくたって、状況は理解しているつもりだ。今はクレーンゲーム攻略を優先させなければいけない。

 

「さっそく始めるよ。打ち合わせ通りにこれを使うけど、いいよね?」

 牢屋に入る前にスタッシュから取り出したものを瀬良さんたちに見せて確認を取る。後でクレームがきても困るからね。

「はい。……本当に本物のメダルと違いませんね」

「鑑定すると残り時間が見えるねえ」

 俺が出したメダルを手に取って確かめている。ポロりんがかじって確認してるのはなんか可愛いな。

 ……はっ、いかん、これがやつの手か。ポロりんの動きは全て計算づくと思ったほうがいいかもしれない。

 

「でもさ、メダルぐらいなら僕が出してあげるよ。たいして高いもんでもないしねぇ」

 さすがアポロンお金持ち。ポロりんも課金兵なのか。

「だからって、干吉たちに渡すのは馬鹿らしいでしょ」

 この、人間をぬいぐるみにした景品を入れているクレーンゲームは、干吉たちが用意した物のようで、使用したメダルは運営ではなく干吉たちの元へ転送されるらしい。

 そんな無駄メダル、払うつもりはない。

 だから俺は運営に許可を貰ってメダルを成現したのだ。かなりの数を成現したからEP低下を乗り切るの、大変だったよ。嫁さんたちが慰めてくれなきゃ無理だったろうね。

 

「それに、せっかく干吉たちのとこに転送してくれるんだからさ、利用しない手はないって」

「この偽メダル、時間が切れて元に戻ったらマーカーになるんですよ」

 運営側でもメダルの転送先を調べるために高レベルのマーキングを施したメダルを試したが、対策されていて筐体はそのメダルを受け付けなかったそうだ。

 

「ですが、煌一さんの固有スキルは非常に珍しいものです。対策はされてないはず」

 偽メダルの実物でも見たことがない限り、対策などできないらしい。

「すごいすごい。制限時間が切れるまではマーキングされていない本物のメダル、ってわけだね!」

 成現時間は1日。明日にはマーカーに戻る。それで、干吉たちの居場所、少なくともメダルの転送先がわかるはずだ。

 

「ただ、この牢屋、魔法やスキルを無効化するんでしょ、ちゃんと転送されるのかな?」

「それは……やってみないことには」

 やるしかないか。時間もないし。

 それに。

 

「冥琳?」

 雪蓮も気づいたらしく、牢屋にとびこみ、クレーンゲームの1つにひっつくようにして中を覗き込んでいる。

 そう。その中には見覚えのあるぬいぐるみが入っているのだ。

「どうやらもう1人の私はここにいたようだな」

 周瑜ぬいぐるみ。以前に俺が救出し、今は俺の嫁さんの1人になった冥琳がぬいぐるみだった時と全く同じぬいぐるみ。それが景品の中にいた。

 

「よく見ればまだ他にもいそうね」

「早く助けなきゃ!」

 雪蓮をどかしてメダルを投入する。偽メダルは吐き出されることなくゲームが開始された。

 焦っちゃだめだ。周瑜ぬいぐるみを救出するためには上にのっている他のぬいぐるみの救出が先になる。無駄のない手順を見極めないと。

 

 ……だが、景品になってるぬいぐるみ全部でいくつあるのか考えると気が遠くなりそうだ。少なく見積もっても百はあるよね。

 最低でも紛れている恋姫ぬいぐるみは救助しないと。いや、全員救助が目標だけど。

 

 失敗。……また失敗。

 落ち着け、落ち着かないと。

 もしかして干吉は俺の集中力を乱すために中国軍を利用した?

 考えすぎか。でも……。

 

「煌一、力みすぎよ」

「わかってる!」

 華琳に思わず怒鳴ってしまって自分でも驚く。そんなに余裕がなくなっていたのか。

 ビニフォンで状態を確認しなくても緊張してるのがわかる。確認したら落ち込んでさらにEPが減りそうなので見ない。

 

「煌一、交流戦の時だってうまくやっただろ、あの時よりメダルも多いんだからさ、もっと気楽にいけって」

「リラックスできるよう、あの時と同じく浴衣でも見せましょうか?」

 華琳たちの浴衣姿、よかったなあ。あれのおかげでリラックスできたんだろうか?

 ……待てよ。リラックスなら他にも方法あるじゃないか。

 

「レーティア、しすたぁず、歌ってくれないか?」

 牢屋の外で待っている彼女たちに頼んだ。

「歌?」

「君たちの歌ならリラックスできると思うんだ」

 スキル等が無効化されるこの牢屋でも外からの声は届く。歌を聴けば、少しは緊張はとけるはず。ましてや嫁さんたちの歌声ならなおさらだ。

 

「うん。よくわからないけど、まかせて! ちーちゃん、れんほーちゃん、れーてぃあちゃん、歌おう!」

「ちぃの歌で煌一を気持ちよくさせればいいのね!」

 天和と地和はすぐに了承してくれたけど、レーティアと人和は顔を見合わせて戸惑っている。

 

「あ、あの……アポローンの前で歌うのか?」

「たしか芸能、芸術の神でもあると。そんな神の前で歌うんですか?」

 アポロンは司るものが多すぎるなあ。

 チラリとポロりんを見る2人。人和、さっきビニフォンをいじっていたからアポロンのことを調べたのかな。

 

「僕も手伝おうか?」

 質問ではなく確認のようで、すでに竪琴を手にしているポロりん。

 そのせいで2人はますます緊張しているようだ。そりゃ音楽の神の前でどころかいっしょに歌うとなると緊張もするな。

 俺で例えるなら、完成したプラモをストリームベースに品評してもらう感じだろうか? うわ、めっちゃ緊張しそう。

 

「だいじょうぶ、君たちの歌ならポロりんも満足するって」

「ハードルを上げるな!」

 怒られた。今のフォローは失敗だったか。

 

「レーティア、間違えないで。あなたが聴かせなければいけないのは、神ではなく夫よ」

「……そうだった」

 華琳のアドバイスを受け、大きく深呼吸するレーティア。

「歌おう人和。夫を助けてやるのも妻の務めだ」

「妻……わかりました。不甲斐ない夫を支える時のようですね」

 不甲斐なくてスマン。

 でも、ポロりんよりも俺の為に歌ってくれるみたいだから落ち込みはすまい。

 

 スタッシュからマイクを取り出すレーティアと数え役萬☆しすたぁず。

 ビニフォンの換装(スワップ)アプリで衣装を変更する美羽ちゃん。……え?

「妾も歌うのじゃ!」

 ステージ衣装かな? 以前の巫女服アレンジのものとも違うアイドルコスなんていつの間に……七乃がニヤケているから彼女が用意したのかもしれない。

「なら、シャオも!」

 シャオちゃんまでがアプリで変身。準備いいなあ。

 

「なに、春蘭? じっとこっちを見て」

「い、いえ、華琳さまはその、お着替えにならないのかと……」

「あんな衣装は持ってないわ」

 その言葉を聞いた沙和が眼鏡を光らせる。今度は沙和の番か。

「まかせるの!」

 スタッシュホールから次々と衣装を取り出す沙和。彼女のスタッシュはクローゼットになっているみたいだ。

 

「試着室もあるの!」

 仮設トイレのようなユニットまでが出現、沙和はそのまま華琳を引きずり込んだ。いつになく手際がいいな、手馴れているのかも。

「ああ、ずるいぞ! 華琳さまのお着替えはわたしも手伝う!」

 春蘭と秋蘭、桂花までもがそこに入ろうと扉を叩いている。俺もクレーンゲーム攻略がなければいっしょに着替えを手伝いたい。

 

 うん。なんだか緊張が解けてきた気がする。

 ポロりんの伴奏に合わせて歌い始めた嫁さんたちの歌声を聴きながら、俺はチャレンジを再開した。

 

「そういや周瑜も音楽得意だったっけ」

 早く助け出してあげないといけないね。

 

 


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