真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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11話 ヨーコ

 ヨーコ・リットナー――アニメ『天元突破グレンラガン』の第1部のヒロイン。

 見事なプロポーションをビキニとホットパンツで包む悩殺少女。

 俺が数少ない手持ちのフィギュアから成現した少女。

 華琳ちゃんが美しいと認める容姿端麗な美少女。

 

 単純に俺の好みで選ぶなら、グレンラガンからはダリーになるだろう。もしくはキヤル。

 だがフィギュアを持っていない。

 それにヨーコは第3部で教師をやっていたので教えるのには慣れているはず。これが彼女を選んだ一番の理由。

 もう一つは彼女の装備。

 

「煌一に向けているその長物は武器よね?」

 そっちの超電導ライフルじゃなくてね。

 って、いつのまに俺を狙ってるの?

 彼女の身長よりも長大なライフル。その大きな銃口が俺の顔面のまん前に。

「怪しい男。あんたがあたしをここに連れてきたの?」

「お、落ち着いて、ね?」

 慌てて両手を上げて降参の意思を示す俺。

 ……顔がわかり辛い大きな眼鏡してるし、室内でもマスクもしてるけどさ、怪しいは言い過ぎじゃない。ぐっすん。

「今からちゃんと説明するから!」

 

 華琳ちゃんと同じく髑髏の髪飾りをしているから。っていう、たいしたことない理由もあってヨーコを選んだんだけど、やっぱりロリの方がよかったかなあ?

 

 

 軽くかいつまんで説明したけれど、いまだにライフルを手にしているヨーコ。

 いくら病室が大部屋とはいえ、そのライフルはかなり邪魔である。

「あたしが人形だっていうの?」

「ええと……はい」

 華琳ちゃんみたいに別の世界の人ってことにするってのはなんかまずい気がする。

 俺がさらってきたと思われると困る。

 正直に言うしかないだろう。

 

「信じられると思う?」

「あと数時間もすれば確認できるよ」

 ヨーコを成現した時のMPは約198万。華琳ちゃんと同じ成現コストだと仮定すると、19800秒ぐらい。330分だから5時間半か。けっこうあるなあ。

「あなたよりも先に私が人形になるわね」

「あんたは?」

「私の名は曹孟徳。今はこの男のふぁみりあというものらしいわ」

 へへへ。俺の……そう、俺のファミリア!

 ふへへへ。

 

「ふぁみりあ? ……ソーモートク、あんたも人形だって言うの?」

「それに答える前にあなたの名を聞いてもいいかしら」

「あたしはヨーコ・リットナー」

 リットナーをつけて名乗ったってことは第3部以降の記憶もあるってことだよな。よし。

 教師としての知識もちゃんともっているはずだ。

 

「私は気がついていたら人形になっていたわ。ヨーコ、あなたは違うの?」

「あたし? あたしは……!?」

 ヨーコの表情が変わる。驚愕と困惑の入り混じったものだろうか。

 自分の記憶に戸惑っているのかもしれない。

 

「……人形だった記憶はない。でも……」

「今の姿よりももっと先の記憶まである、かな?」

 素材にしたフィギュアは第1部の頃の姿。

 そのせいか今目の前にいるヨーコもその頃の姿だと思う。見分けるポイントは俺が選んだ理由の一つである髪飾り。

 髑髏のヘアピンは第3部以降は使われていない。

「トイレに鏡があるはずだから、自分の姿、確認してくる?」

 彼女は無言で病室を出て行った。

 トイレの場所わかってるのかな?

 

「いい仕事をしたわね」

「どうなんだろう?」

 ヨーコは華琳ちゃんと違って、俺がフィギュアに籠めた想いで成現されたはず。俺が知ってない知識を知っているか確認できない内はなんとも言えない。

 美少女ってだけでも失敗ではないんだけどさ。

 

「ファミリア契約してくれれば、彼女のステータスもわかるんだけど」

「ヨーコが一角の武人であることは、一目でわかったわ」

 スタッシュから華琳ちゃんのファミリアシートを取り出す。

 夢――契約空間で華琳ちゃんに名前を書いてもらったもの。さっき気づいたのだが、いつのまにか赤箱の中に入っていた。

 これで華琳ちゃんのステータスを確認できる。見てみると、鑑定スキルの他に鑑定・人物のスキルも持っていた。他にも鑑定・○○ってスキルをいくつか持っているな。

 人物鑑定? 人間に特化した鑑定スキルみたいだ。

 俺も持ってないかなと思って自分のキャラシートを確認するも、あったのはオタク関係の鑑定ばかり。一番高いレベルのは鑑定・ガンプラだった。そりゃ詳しいけど。

 

「無印の鑑定はどの鑑定にも影響するけどプラス補正が小さくて、分野特化しているのはその鑑定にはプラス補正が大きいのか。で、効果は重複すると」

「ぷらす?」

「加算とか付加って意味」

 華琳ちゃんの方はスゲエとしかいいようがない。

 鑑定関係も多いし、武術、芸術関係も複数。このスキルも武器・剣とか芸術・詩、等のカテゴリに分かれている。

 他にも料理や政治からベッドテクニックまで所有。軍略と戦略が別スキルで互いにシナジーがあったりするからシートの枚数も多い。

 スキルを全部確認するだけで疲れそうなほど。

 これはまさにオール最高評価な上に生徒会長やら全国大会優勝やらが記入されまくった内申書だ。

 

「どうしたの?」

 俺も鑑定・人物は持っていたが0レベル。使えるレベルではない。

 いくらヒキコモリだからって、そこまで人を見る目が養われてなかったのね、俺……。

 少しでも熟練度を貯めようと、華琳ちゃんに鑑定の真似事を続ける。決して視姦ではない。

「その視線、今さら私を値踏みするの?」

 ……鋭すぎる。

 熟練度上げのためにマン・ウォッチングしようにもここには人がいないんだよなあ。

 

「俺も鑑定・人物のスキルほしかったんだよ」

 華琳ちゃんのファミシーのその箇所を指差して説明する。

「このすきるのおかげで、私はヨーコのことをわかったのね」

 ふむ、と頷く完璧超人。

「へえ。どうわかったか聞かせてもらっていいかしら?」

 いつのまにか戻ってきていたおっぱい超人。

 

「そうね。……その長物を使うようだけど、腕はいいようね」

「見りゃわかるでしょ、そんなの」

 いや、まず胸に目が行くので銃の腕はわからないんじゃ?

「教師っていうのも本当のようね。教えていたのは幼い子かしら」

 もしかして華琳ちゃんはキャラシートのようにデータ化された情報を感じているのかもしれない。

「あなたは恋愛経験はあるようだけど、男性経験はないわね」

「なっ!」

 ヨーコは真っ赤になってしまった。

 そこまで当たっちゃうの? 鑑定・人物スキル恐るべし。

「わ、わかったわ……」

「だ、だからヨーコを選んだんだよ。ヨーコなら華琳ちゃんが読めなかった字も教えてくれる」

 これ以上はさすがに可愛そうだと俺も話の流れを変える。

 地下生活から数年で文明社会にも慣れた彼女なら、近代設備の説明もしやすいだろう。

 

「字ってこれ?」

 誤魔化すようにすぐに華琳ちゃんのファミシーを覗き込むヨーコ。

「……古代文字? 読めないわよこんなの」

 あれ?

「煌一?」

 グレンラガンって日本語じゃなかったんだっけ?

 むう。日本刀とか簪とか使ってたからそう思い込んでいたけど、日本語は駄目だったのか。

 

「……俺の思い違いだったみたい。でもそうなると、ヨーコは俺の記憶以外のことも知っている可能性が高い」

 気になっていたことが確認できたのかな。

「ふむ。煌一の記憶よりも作品設定が優先されたということ?」

「たぶん。君が乗っていたのはダヤッカイザーとヨーコMタンクのどっち?」

「ダヤッカイザーよ。そのヨーコMタンクってのはなによ」

 テレビ版の方か。

 劇場版でもヨーコはそんなにかわりはないか。

「君専用のピンクのダヤッカイザー」

 Mはなんの略だったっけなあ。

 

 

 その後しばらく話し込んでいたら、サイドテーブルに置いていた目覚まし時計が鳴った。

 ヨーコ成現直前にセットしておいたんだよね。

「MPが満タンになったか」

「身体の方もだいぶ回復したようね。どうするの?」

 一応、ヨーコが駄目だった時のことを考えて、女教師キャラの候補はいる。

 でも、今はヨーコの方に集中したい。ヨーコがファミリア契約してくれたら、でいいでしょ。

 

「試したいことがあるからね。今度はこれ」

 俺がスタッシュから出したのは小さな剣の模型。

「あの曹操の剣ね」

 そう。曹操ガンダムの武器、炎骨刃だ。

「うん。ヨーコもよく見ててね」

 炎骨刃の模型を右手に、コンカを左手に準備する。

 今回はヨーコにもわかりやすいよう、コマンドオプションによる省略はなしで。

 

「GPのかわりにMPで成現!」

『MPで成現を使用しますか?

 → 炎骨刃(BB戦士曹操ガンダム)』

 うん。ちゃんと選択肢が出たな。

 読めないだろうけど、コンカの表示を2人に見せる。

 

「はい」

 俺の作業がわかるように声に出して選択。

 右手の模型が一瞬にして大きな剣になった。……かなり重いな、これ。

 

「それが……あたしを具現化した力?」

「うん。さっきも説明したけど、GPじゃないと時間制限あるんだ」

 手に持った剣に鑑定を試す。

『炎骨刃

 剣

 MP消費で火炎効果』

 コンカに表示された情報には、ダメージとか消費MPは表示されない。まだ鑑定レベル1だしなあ。

 トゲトゲしい剣を本来の持ち主と同じ名を持つ少女に渡した。

「華琳ちゃん、鑑定してみて」

 高レベルの鑑定と、鑑定・武具スキルの効果はどんなもんかな?

 

「ふむ。……面白いわね」

「あっ、試すなら外でね!」

 華琳ちゃんが炎骨刃を構えたので慌てて止めた。特殊効果を試そうとしたんだろう。炎が出たら火事になっちゃう。

「そうね。この剣を使えば私もえむぴいを消費できそう。威力も耐久力も高くて強い武器というのはわかるわ、いい剣ね。成現の残り時間は……」

「えっ? 残り時間わかるの?」

「ええ。当然でしょう」

 した本人がわからないのに……鑑定スキルスゲエ。

 俺も早いとこ鑑定スキルのレベル上げ頑張らないといけなさそうだ。

 今、自分のキャラシートを確認したら、鑑定・武具スキルを0レベルで入手していたから望みはある。

 

 

「試すから離れて」

 俺たちは病院の屋上に出た。シーツや白衣を干してるかとも思ったけど、そんなことはなかったのでここなら燃えるものもなく安心して実験できる。

「はっ!」

 華琳ちゃんが気合を入れた途端に、炎骨刃の後ろの6本の牙から炎が噴出る。

 持ってて熱くないのだろうか?

 

「煌一、そこに立って」

「え?」

 も、もしかして……俺で試し斬りするつもり!?

「これなら傘よりも強い一撃を与えられる」

「し、死んじゃうってば!」

「安心なさい。峰打ちで我慢するわ」

 いや、その剣、峰の方が痛そうなんですが! そもそも炎噴いてるし!!

 逃げた方がいいかなあ。

 

「大丈夫よ、ヨーコもいるから。動けなくなってもすぐに病室へ運んであげられるわ」

「ちょっと、どういうこと? なんの話よ」

 炎骨刃の炎に「螺旋力とは違うようね」とか呟いていたヨーコが会話に参加する。

「これから煌一を鍛える」

「鍛えるって、それで?」

 炎骨刃を指差すヨーコ。

「ええ。煌一の生命力を鍛えるには、いったん傷を与えなければいけないの。それも死なない程度に大きな傷が最適」

「あの病室のベッドはとんでもない回復力を発揮させてくれるから、死ななければ傷はたぶん完治する。……でも、怖いなあ」

 これが一番手っ取り早いのはわかっているんだけど、やっぱり他の方法を探したい。

「もしも……もしも不手際があった時は責任をとってあげるわ」

 責任? 責任てもしかして結婚?

 他に責任とりようがないよね。楽にしてくれるって殺しても復活しちゃうんだしさ。

 

「さあ、華琳ちゃん、いつでもいいよ!」

 華琳ちゃんが指示した場所に腕組みして仁王立ちする俺。

「正気なの?」

 ヨーコ、そこは本気って聞いてほしかった。

「見てればわかるわ」

 炎骨刃の炎がさらに激しく噴き上がる。その炎を棚引かせながら華琳ちゃんは無造作に剣をふるった。

 

「えっ?」

 バランスを崩して倒れる俺。

 華琳ちゃんの斬撃が足に当たって……攻撃された箇所を見てみると俺の左足の膝から下がなくなっていた。

「ええっ?」

 膝から下はすぐ側に落ちていた。

 切断面は炎で焼かれ、大火傷状態。

 

「よく斬れる剣ね」

「お、俺の足が……」

 切断面に触ろうとしたら華琳ちゃんに止められた。

「いじっては駄目! 出血するわよ。ヨーコ、そっちの足を持ってきて」

 そうか。焼かれているから出血しないで済んでいるのか? 触るのを止めて納得してたら華琳ちゃんがまたも俺をお姫様だっこする。

「ずいぶんと落ち着いているのね」

「あまりのことに頭がついてこないだけ。……足、ちゃんとくっつくかなあ」

 くっつかなかったら?

 考えたら怖くなってきた。

「く、くっつくよね! 俺の足、元通りになるよね!?」

 どうしよう? 片足になってしまったら。

 痛みよりも恐怖から俺は泣き出していた。

 

 

 ベッドに寝かされた俺。耐性・痛みスキルのおかげか、凄い痛いけど叫び声をあげるほどじゃない。

 斬られた足もちゃんとヨーコが運んでくれて、正しそうな位置にタオルで巻いて固定してある。

 応急処置をしながら吐き捨てるように言うヨーコ。

「狂ってるわ、あんたたち」

「狂ってる。そうね。私はおかしいのね」

「華琳ちゃん?」

「もし、不手際があったら責任を取ると言ったでしょう」

「う、うん」

 これで足がくっつかなかったら結婚してくれるの?

 嬉しいような悲しいような……。

 

「煌一が私の補助なしではいられなくなる。それこそが私の策」

「……そんなにこいつに必要とされたいの?」

「そうよ。私にはその理由がある。煌一に不要とされてはいけない理由が」

「俺が華琳ちゃんを不要とすることなんてないよ」

 そんなもったいない。

 俺の嫁になってくれるかもしれない希少な美少女が不要になるなんて、あるわけがない!

 

「ヨーコを見て、焦ったのかしらね」

「あたし?」

「あなたは強い。煌一の力になるわ」

 うん。そのために成現したんだし。

「ヨーコのような者が増えたら、私は不要になるのではなくて?」

「そんなことはないってば!」

 

「なんだ、捨てられるって焦った女の凶行だったのね」

 ヨーコが呆れたように大きくため息をついてから続ける。

「そこまでする理由ってなに?」

「……私の他にも人形にされた娘たちがいるわ。彼女たちを全員救い出す。人形を人間に戻すのは煌一にしかできそうにないもの。そのために私は煌一のモノになった」

 それなのに、ぬいぐるみとなった恋姫キャラを助ける前にヨーコを成現しちゃったもんだから不安になったのかな。俺に彼女たちを助け出すつもりはないんじゃないかって。

 ……不安か。

 

「華琳ちゃん、おいで」

 布団を軽く持ち上げて入り口をつくる。

「い、いくらモノにしたからって、あたしの前でそんなことをするな! ……だ、だいたい、おじさんはまだ重傷でしょう!」

 なにか勘違いしたらしく顔を真っ赤にしてヨーコが怒鳴った。

 その勘違いに気づいた俺も焦る。

「ち、違う! このベッドは精神にも効果あるから、華琳ちゃんの不安を取り除こうと思っただけだよ!」

「それなら隣のベッドでもいいじゃない!」

 あ、そうだった。

 じゃあ、隣のベッドで、そう言おうとしたら華琳ちゃんが潜りこんできた。

「ご主人様の命令だもの」

「命令ってわけじゃな、ぐぅっ!」

 足がもの凄く痛くなってきた。繋がり始めたんだろうか。

 

「痛むの?」

 歯をくいしばりながらゆっくりと頷く。

 無言で出て行こうとする華琳ちゃん。俺はその華琳ちゃんを抱きしめてしまった。それも強く。

「ここにいろと言うの?」

 激痛に耐えるため、身体に力が入ってしまう。抱きしめる力が強すぎて華琳ちゃんも痛いかもしれない。そう思いながらも力を抜くことができない。

「わかったわ」

 華琳ちゃんはおとなしく抱きしめられたままでいてくれた。

「必要とされてるじゃない。それも強烈に」

 嫌味を言うヨーコの顔が微笑んでいたが、俺の痛み解消にはあまり関係なかった。

 

 

 華琳ちゃんがぬいぐるみに戻ってしまってもまだかなり痛いままだったが、なんとかぬいぐるみを布団の外に出した。

 ぬいぐるみをつぶすわけにはいかない。汗もかなりかいているので、染み込んだら可愛そうだし。

「これが華琳? 本当に?」

 ぬいぐるみを持ち上げて調べるヨーコ。

 さっきまで華琳ちゃんと話をしてたみたいだけど、痛みのせいで内容はあまり聞き取れなかった。真名もちゃんともらえてるみたいだ、よかった。

「そ、それが、華琳ちゃんだから、丁寧に扱って……その姿でも、意識があるみたいだから……」

 途切れ途切れになりながらも、なんとか説明した。

 華琳ちゃんがぬいぐるみに戻ってしまったので、手持ち無沙汰なのかもしれない。

 コンカで確認してみたらもう5、6分でMPがフル回復しそう。それまでちょっと待ってもらおう。

 

「あ、だいぶ楽になった」

 スキルを確認していたら耐性・痛みスキルがレベル3になったという表示。瞬間、痛みが弱くなる。

「もうくっついたの?」

「もうちょいだと思うから確認するのは止めて! 繋がってる途中なんてスプラッタなの見たくないから!」

 布団をめくろうとするヨーコを慌てて止めた。

「軟弱ねえ」

「おっしゃる通りです」

 そんなことは自分が一番よく知っているから。

「そんなんで、華琳の仲間を助けられるの?」

「だから今、鍛えているの。それにヨーコも手伝ってくれるんでしょ?」

「まあ、それを決めるのはもう少し様子を見てからね」

 華琳ちゃんが真名をくれたってことは、きっとヨーコも仲間になってくれるんだと思う。

 そうなったら次はまた別の娘を……その前にクレーンゲームした方がいいかな?

 

 スキルは耐性・斬撃と耐性・火炎をそれぞれ0レベルで入手していた。

 辛かったから1レベルになっててもよさそうなのにな。

 おっ、『MP FULL』の表示。

 華琳ちゃんを成現する。今度はコマンドオプションの略式で。

 MPが約357万だから9時間55分ぐらいか。

 

「目の前でやられると、信じるしかないわね」

「信じてくれてありがとう」

「どう、調子は?」

「耐性・痛みスキルのレベルが上がったから楽になったよ」

 言いながら、スタッシュから炎骨刃を取り出す。屋上から戻ってきてベッドの効果で俺が落ち着いたらすぐに忘れずに収納しておいた。

 スタッシュエリアには空気が満たされていて、大きくなった炎骨刃のスペースはなさそうだったけど、空気を入れていっぱいにしておいたおかげで熟練度が貯まり、スキルレベルが上がっており、無事にしまうことができたのだった。

 

「もう一度鑑定してみて」

「……変わってないわ。残り時間もすたっしゅに入れる前からわずかに減っただけ」

 さすが華琳ちゃん、俺の意図をすぐにわかってくれた。

 これで、成現をさらに有効に使うことができる。

「どういうこと?」

「このスタッシュエリアって中に入れた物の時間は停止するみたい。だから成現の残り時間が減ってなかった」

 炎骨刃を再び収納しながら説明する。

「例えば、そのライフルの弾を成現して、スタッシュに収納して使いたい時にだけ出せば、時間切れは気にしないで済む。……さすがに君たちを入れるつもりはないけどさ」

 これでもしも俺の担当世界で戦闘することになったとしても、武器の調達がかなり楽になったといえるだろう。

 華琳ちゃんとヨーコ以外にもMPを消費することができるのでMP強化の効率も考えないでいいし。

 

 HPが満タンになったのを確認して足を見たら無事に繋がっていた。傷痕ももちろん残っていない。

 ベッドから降りて歩いてみても違和感もない。

 このベッド、マジで凄すぎ。

「斬れた足を別のベッドに入れておいたら2人になったりはしないかしら?」

「俺はプラナリアか?」

「試してみる価値はありそうね」

「止めて!」

 俺みたいなのが2人もいるなんて、勘弁してもらいたい。

 

 その後もHPとMPの強化特訓を続けた。

 炎骨刃はもっとHPが増えてからと先送りにしたけれどね。

 合間に三国伝のDVDを見せながら成現用の武器を作成する俺。薄くて小さい木の板を木刀や剣の形に加工して、形になったらその10センチもない小さな剣をEPを籠めるために設定を考えながら振り回す。

 ……それを、2人に見られてしまった。DVDに夢中になってると思って油断していた。無茶苦茶恥ずかしい。

 EPがごっそり減ってしまった。EP強化に繋がったけど、羞恥プレイは特訓じゃない。

 

 夕方、帰るか迷っていたら田斉君からメールが届く。

『拳銃なう』

 これは今日帰ってくるってことかな。

 俺たちは百貨店に寄ってからアパートに帰ることにした。

 

 百貨店で恋姫ぬいぐるみをヨーコに見せたり、他の面のことを説明したりする。有料の双眼鏡は使わなかったが、ヨーコはライフルのスコープで他の面が多少なりとも見えたようだった。

「空があるだけマシ、なのかしらね」

 そろそろ時間だと華琳ちゃんが教えてくれたので、ベンチに腰掛けて待っていたらヨーコがフィギュアに戻った。

 華琳ちゃんの鑑定は残り時間がわかるので助かるな。

 

 MPは満タンだったけれど、最大MPは2000万を超えている。今成現したら2日以上も人間でいられるためすぐには成現しないと説明しておいた。

 契約空間に入る条件がわからないのだ。華琳ちゃんと契約空間で会った時は全て、華琳ちゃんがぬいぐるみだった時だったはず。

 涼酒君たちが帰ってきたらどうやって契約空間に入るか聞こう。

 

 

 ……けれどその日、涼酒君と田斉君が帰ってくることはなかった。

 

 


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