真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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110話 跳ぶ理由

 剣士が暴走した一刀君の剣『ゲキリュウケン』は特撮番組『魔弾剣士リュウケンドー』に登場したアイテムらしい。

「あー、リュウケンドーはチェックしてなかったんだよ、俺」

 日曜の朝早くという時間帯が悪かった。

 

「たまに早く起きた時も裏番組の方を観てたんだ」

「裏番組……ゾロリですわ。さすが師匠、獣もオッケーだったのですわね」

 なんでそうなるのワルテナ?

 たしかに獣だけど、俺はケモナーじゃない!

 

「全話ご覧になることをお薦めするのですわ。それほど素晴らしい作品なのですわ!」

 スタッシュホールからDVDを取り出して渡してくれた。

 腐女神から観ろっていわれる作品か。ちょっと不安だ。

「ちなみにワルテナのお気に入りは?」

「ツンデレの鋼一(こういち)君ですわ!」

「アニキと同じ名前ッスね」

 そりゃよくある名前だけどさ、ツンデレなの?

 

「おっさん受けで銃四郎(じゅうしろう)もいいのですわ!」

 おっさん受けって、おっさんに受けているってわけじゃなそう……。腐ィルターを通っているからだよね?

 あとその名前。

「オレと同じ名前ッスか?」

剣二(けんじ)もいるぜよ!」

 ふーん。コウイチにジュウシロウにケンジねえ。

 これってもしかしなくてもさ。

 

「なあ剣士、俺と柔志郎がお前の使徒に選ばれたのってさ」

「もちろんリュウケンドーにあやかってぜよ! コウイチはたくさんおって選ぶのが大変じゃったが、逆にジュウシロウは全然おらんで女子(おなご)を選ぶことになってしまったんぜよ!」

 まさか俺たちが選ばれた理由が、ヒーロー番組のキャラと名前が同じだったからなんて……。

 なんか頭痛くなってきた。ステータス見たらEPがごっそり減ってるなこりゃ。

 俺は固有スキルもあって多数のコウイチから選ばれたっぽいけど、柔志郎なんてまさか名前だけなのか?

「その辺はあとで剣士とじっくり話すとして、一刀君のゲキリュウケンは結局どうしたの?」

 

 

 答えを聞けば単純でアーチャーが投影したものだった。

「そうか。剣だし、アーチャーならどうにでもできるか」

 ロム兄さんの剣狼も投影してたし、それぐらいできるはずだ。

 でも投影ってオリジナルよりランクが落ちるんじゃなかったっけ? ……エミヤだとそれはないのかな、よくわからん。

 

「ゲキリュウケンたち魔弾龍(まだんりゅう)は変身アイテムであり、魔法の発動器でもある重要なアイテムなのですわ。ただ、そのためにはマダンキーという特殊な鍵が必要なのですわ」

「なるほど。ウィザードのベルトと指輪っぽい? それともベルカ式インテリジェントデバイスみたいなもんか」

 ゲキリュウケンも喋ってるし。それも単純なシステム音声じゃなくて、意思があるようだ。

 

「でも、アーチャーはマダンキーは用意してくれなかったんだよ」

 龍の顔のついた(やじり)型の掌サイズの小さな姿になったゲキリュウケンを手に一刀君が愚痴る。モバイルモードというらしい。ますますインテリジェントデバイスっぽい。

「じゃあなんでアーチャーはそれを一刀君に?」

『アドバイザーだ。一刀は未熟だからな』

 赤い目を点滅させながらゲキリュウケンが教えてくれた。

 

「なんか前の持ち主ってやつが俺と同じく鹿児島で剣の修行してたらしくて、わりと型が似てるんだよ」

 一刀君は鹿児島の爺さんの道場で剣術の修業してたんだっけ。ということは、剣士のなんちゃって男弁ってもしかして鹿児島弁のつもりなんだろうか?

『鳴神龍神流だ。リュウケンドーの剣は私と剣二の2人で完成させた』

 ふむ。ゲキリュウケン、けっこう自己主張する武器なのね。

 

「師匠、GPは支払いますので固有スキルでマダンキーを用意してもらたいのですわ」

「それはかまわないけど、DVD観てからね」

 玩具も入手しなければいけないし。……リュウケンドーはTT社だったからマサムネたちが持ってきた物の中にあるかもしれないな。なければ通販か。高くつきそうだけどワルテナなら出してくれるだろう。

 

「うらやましいのう。ワシもほしいぜよ!」

 それもいいかもしれないな。ここまで入れ込んでいるなら、同じくアドバイザーとしてこの駄神の教育役になってもらってさ。

「考えておく」

「ならワシのはゴッドゲキリュウケンをお願いするぜよ!」

 ゴッドゲキリュウケン? 上位アイテムがあるのかな。貧乏駄神で修行中とはいえ、一応神だからぴったりなのかもしれないけどさ。

「ついでに煌一さんにザンリュウジン、柔志郎にゴウリュウガンが必要ぜよ」

 ついでと言いながら必要ってどゆことよ。

 

「ゴウリュウガンは銃、ザンリュウジンは斧の魔弾龍ですわ」

「ザンリュウジンは弓にもなるんじゃ!」

 よほど好きなのだろう、リュウケンドーの話をする時の剣士は目が輝いている。

 ……弓か。ポロりんが言っていた玩具の弓ってそれのことかな。エロースの弓じゃなくてちょっとほっとしたけどさ。

 

「魔弾龍ってことは喋るんだよね?」

『無論だ』

 ゲキリュウケンが即答してくる。インテリジェントアイテムかぁ。欲しいような欲しくないような。カレイドステッキみたいのはちょっと困る。

 けど斧か。せめて剣か刀だったら俺のスキルも無駄にならないんだけどね。

「どちらも相棒の魔弾戦士とベストカップルなのですわ」

 またワルテナの腐ィルターごしか、そう思ったが後日DVDを観て不動銃四郎とゴウリュウガンが本当にそうだったのが判明して驚いたよ。

「まあ、それも全部DVDを視聴してからってことで。今はまずクレーンゲームの攻略とペキンの方が先だ」

 玩具があったとして、EP籠めるにも観てからじゃないとできない。アーチャーの投影の方が使いやすくていいよなあ。

 

「そのペキンじゃがな、動きがあったようじゃな。さすがに中国も損害を無視できなくなったようでニホン政府に支援の要請、そしてペキンへの侵攻のいいわけをした。国民の安全を守るためだそうじゃ」

 なんだかなあ。光姫ちゃんもその理由に呆れた顔で報告してくれた。

「やっとか。行くぞ煌一!」

「待てって」

 立ち上がった春蘭を引き止める。

 俺だってすぐにでも行きたいところなんだけど、今回はそれはできない。

 

「その要請を受けて出撃する。邪魔な中国軍は撤退するようにってニホン政府に伝えて。中国政府から了解したって連絡を確認してから桔梗たちに出撃してもらう」

「そんなゆっくりしている場合か!」

「面倒だが仕方がない。正式な手続きを踏んでないと、そんなことは聞いてないと、こちらが中国軍の攻撃に巻き込まれるおそれがある」

 冥琳の指摘だけじゃなくて、中国の使徒扱いされるのも避けたい。

 政治的な駆け引きなんてやりたくないが、干吉たちがなにを企んでいるかわからない以上、用心にこしたことはない。

 

「俺はまだクレーンゲームが残っているから行けない。今の内に出撃するメンバーを決めて小隊を組んでくれ」

「それはもう決まってるわ」

 カラオケだけじゃなくてちゃんと打ち合わせもしててくれたのか。

 

「俺も行く」

 手をあげる恋姫主人公。そのために呼んだのだから当然だ。

 ……予言神が俺の弓だという物の正体が判明したんでもう用件は済んだ気もしないでもないが。

 

「ゲキリュウケン、一刀君を頼むのですわ」

『任せてくれ』

 アドバイザーとはいえ、剣に頼まれちゃうのか。俺も魔弾龍手に入れたらそうなりそうで怖い。

「ワルテナは行かないのか?」

「師匠の護衛をするのですわ」

 ありがたいけどなにか裏がありそう……って、救出したぬいぐるみの品定めをしたいのかも。

 

「ふん、俺が居れば十分だろうに」

「ドンさんもきたの?」

「666の売り場で娘たちのビニフォンを買っててな。遅くなった」

 ああ、マーケットで限定カラーを出してたっけ。開発部の連中、巨大ロボに夢中になりつつも儲けはしっかり出すつもりのようだったからなあ。まとめているチ子のおかげか。

「それなら言ってくれれば用意したのに」

「どうせマーケットのお客さんをナンパしてたのですわ」

「それがなあ、ものすごい混雑でそれどころではなかったぞ」

 剣士を超える巨体が肩を落として疲れた表情を見せる。

 海神が女性を諦めるほどに混んでたのか。最後尾のプラカードを用意しただけじゃ足りなかったかな?

 

「EXATだったか、あれも評判はよかったようだな。早く水中用を出してくれ」

3面(ドンさんとこ)じゃないと水中用はテストできないよ」

「そうか。その時は協力してやる」

 水中用か。ダイビングビートルかな?

 ATじゃないならカプル? オクトスもいいな。

 深さどれぐらいまで対応できればいいんだろう。深海にまでいけるのってスーパーロボになっちゃうんだよね。

 

 

 その後、中国政府の了解を受け、俺の護衛を除くみんなが出撃していった。2面でEXAT(ベルゼルガ)を受け取った桔梗たちも同じく現場に直行した。

「早く俺も合流しないと」

 焦る気持ちはしかし、しすたーずの歌声によって落ち着いていく。

 泣き女(バンシー)の状態異常を引き起こす叫びの逆か。曲によって効果が違うかもしれない。あとで本格的に調べるのもいいか。

 

 ……まさかね、音楽による能力向上を敵が使ってくるとは思わなかったよ。

 

 

 

 

 ここからは記録映像やみんなに聞いた話からの情報だ。

 記録映像は、EXATの宣伝映像の撮影に使ったカメラで撮ったもの。ビニフォンの立体映像に対応できるように俺が成現したそれで輝が録画した。

 大魔神を修理中の彼女は戦闘力が低いので、情報収集担当に回ったそうだ。

 偵察、記録用のドローン作った方がいいかな。……隠形中だと撮影できないか。そろそろ盗撮はあきらめて、ディスクロン部隊をみんなに発表しておくか? マサムネをマインに紹介したいし。

 

 ポータルでペキンに到着したみんなは対魔忍たちと合流、ゾンビやキョンシーと交戦中の中国軍の撤退を手助けした。

 恋姫出身の嫁さんたちは中国語も使えるから、話が通じてよかったよ。……普段なんで日本語なんだろうね?

 中国軍には重傷者も多くて治療が追いつかず、回復魔法を鍛えることを決意した嫁さんもいたようだ。

 

 キョンシーはスケルトンよりも速く強かったが、それでも武将たちの敵ではなかった。

 雪蓮の南海覇王。春蘭の七星餓狼。霞の飛龍偃月刀。それらがふるわれるたびにキョンシーが何体も倒されていく。恋にいたっては一振りでダース単位だ。

 

 翠が刎ねたキョンシーの頭部を蒲公英ちゃんの影閃が突き刺す。キョンシーもゾンビと同じく頭部を破壊しなければ完全には倒せないからだ。

 愛紗はキョンシーを蹴散らしながらも青い顔をしているな。まだ駄目なのか。巫女スキルで霊視できるようになってもずっとOFFにしてるぐらいだもんなあ。夏休み中の怪奇特集のTVだって絶対に観なかったし。

 

 一刀君もゾンビ相手に奮戦していた。

 ゲキリュウケンもあの中だと恋姫の武器にも見えるのは龍顔の飾りのせいだろう。時々その目が赤く光っているのは一刀君にアドバイスしているのか。

 

 剣や槍などで倒されていくキョンシーに撤退中の中国兵たちも驚く。そりゃそうだろう、銃火器で苦戦してたんだから。俺、中国語まだ覚えていないから映像もなに言ってるかわからないけどさ。

 

 しばらくは撤退する中国兵をかばいながらの戦いが続いた。

 ゾンビやキョンシーたちの数が多く、武将たちが無双してもなかなか終わりが見えてこない。

 キョンシーの中にはなりたての元中国兵も多くいた。もっと早く行ければ助かった者もいただろう。

 中国政府の返事を待ってないで、他に方法がなかったのだろうか……。

 

 そう落ち込みそうになっていたら、映像のキョンシーたちの動きが変わった。

 それまで跳ねて移動していたキョンシーたちが、飛び始めたのだ。

 

「あっちや!」

 映像の霞が指差した方へとカメラが向くとそこには首無しの巨人がいた。

 刑天。異世界魔族と思われるそいつが大きな盾と斧を打ち鳴らしていた。

 リズミカルに足を動かし、身体を揺らしながらそれが続く。

「刑天が兵を鼓舞するってこれ?」

「どうやらそのようだ。キョンシーだけでなくゾンビたちの動きも速くなっている」

 刑天を中心にしたままなので姿は映ってないが雪蓮と冥琳の声が聞こえた。

 

 俺がしすたーずの歌でリラックスしてるころ、刑天は同じく音楽(?)でキョンシーを飛ばしていたとは。

 キョンシーたちは飛び道具を使わないようだったが、攻撃の届かない空中から急降下し突撃してくる。ダイブ&ズームだっけ、そんな感じのさっきまでより知性を感じさせる戦い方。

「秋蘭、紫苑、祭、ちょっと時間を作って。他は各自、タイミングを見つけてEXギアを装着!」

 華琳の号令で3人が放つ矢が増えた。これってエルフやミシェルが使ったマルチプルシュート? こんなに練気(チャージ)早くなってたのか。

 

 矢による弾幕でできたキョンシーの攻撃の合間に武将たちがEXギアを装着する。みんなのビニフォンにも装備変換(スワップ)アプリをインストールしているのでそんなには時間がかからない。

 ただ、EXギアは脚のパーツがあるので、そのままだと地面に干渉して装着できず、跳んでその隙間を用意する必要があったりする。そのために華琳は秋蘭たちに頼んだのだろう。

 昭和ライダーの多くが変身で跳んでいたのも理にかなっていたのかもしれない。

 

「変身! とうっ!」

 どこで観たんだろう、まさにあれなモーションで空中に跳んでEXギアを装着している星。

 他の武将たちもそれぞれ思い思いのポーズとコマンド、もしくはビニフォンを直接操作したりしてEXギアを装着する。

 

 桔梗はEXギア装着後、さらにベルゼルガをスタッシュから出した。

 降着ポーズと呼ばれる乗り降りのために脚を変形させた形態をとっている愛機に乗り込み、彼女は叫ぶ。

「神話にうたわれし武将よ。主君と首を失ってもなお戦い続ける執念の武将よ。ぜひともお手合わせ願おうぞ!」

 

 

 


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