真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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111話 千鶴

 桔梗のベルゼルガと刑天の戦いが開始される。

 足裏のグライディングホイールを高速回転させるローラーダッシュで勢い良く突撃するベルゼルガ。

 

 それに合わせてズームされる映像。

 空中に大きく立体表示されていて状況はわかるけど、やはりカメラが足りない気がする。撮影班が輝の1人ではそれも仕方がないけど。

 マクロス7のコンセラックスを作るかな。無人の小型カメラロボットだったはずだ。……いや、あれは宇宙用だったっけ

 まだみんなには秘密のまま1度ディスクロン部隊に戦場撮影をまかせてみようかな。

 

 武将たちにEXATを本格導入して、各機のカメラ等からのデータを集めるのもありか。

 そうなると作戦指令室(オペレーションルーム)が必要になるかもしれない。その方が軍師たちも活躍できるだろう。

 パトレイバーの指揮車を成現(リアライズ)、それともいっそ母艦級まで考えるか?

 今の俺の最大MPなら短時間であれば、そこそこ大型でも成現できるはずだ。その間にドワーフとエルフたちが解析してくれればなんとかなる……かな?

 

 俺が現場での指揮系統を考えているうちに、映像ではベルゼルガの攻撃が始まっていた。

 ローラーダッシュで移動しながら装備したヘビィマシンガンを発射。ATが手持ちする火器としては低い威力に分類される武器だが、その分連射できる。

 迫りくる弾丸の群れを刑天は踊るように、というか大斧と盾を打ち鳴らし踊り続けたままかわしていく。

 

「さすがだな」

「おいらの大魔神を倒した素早い動きはまぐれじゃなかったみたいだねぇ」

 桔梗と輝の声が録音されて(はいって)いる。輝は撮影しながら桔梗のサポートを行っていたらしい。

 

「わしがこのベルゼルガにもっと慣れておれば当てられそうだが……」

 そう言いながらも、空中から急降下してきた飛行キョンシーをへビィマシンガンの餌食にする桔梗機。……初心者の動きじゃないし。

 

 だがその動きでベルゼルガの攻撃が止んだと判断したのか、刑天が打ち鳴らし(ドラミング)をストップし、ベルゼルガへと向かっていく。距離が近くなり威力も増しているはずのへビィマシンガンの弾を巨大な盾で受けながら。

 弾丸は刑天には届いていないようだ。やはり首なし騎士(デュラハン)の鎧と同じく強力なマジックアイテムか。課金アイテムだろうか?

「なんて硬いシールドだい」

「なあに、盾ならこっちにだってある」

 その直後、鳴り響く大きな音。映像では刑天のふるった大斧をベルゼルガのシールドが受け止めていた。

 

 あのシールドは俺が渡した『青の騎士ベルゼルガ物語』を読了したドワーフたちが気合を入れて作り上げたもの。メインはパイルバンカーだが、それを射出する液体火薬カートリッジ3発にも耐える強靭に仕上がっている逸物だ。大斧の斬撃を受けてもへこみ1つできていなかった。

「大魔神とは違うのだよ、大魔神とは!」

 自虐的なネタ台詞を叫ぶ輝。若干涙声なのはしょうがあるまい。

 

 その台詞に後押しされたのか、ヘビィマシンガンをあっさりと手放すベルゼルガ。「思いきりのいいパイロットだな」って俺、桔梗に1stガンダム見せたっけ?

 フリーになった右腕が刑天の盾を殴る。これ、ガードされたんじゃなくて最初から盾を狙った攻撃だな。巨大な拳の攻撃はしかし、盾にはいかほどのダメージも与えていない。

 刑天の方も密着に近い至近戦に斧をふるうこともできず、大斧を握ったままの右手でベルゼルガのシールドを殴り始めた。

 

「はぁぁーーーーっ!」

 ロボと巨人がお互いの盾を殴り合う。どちらも防御は盾にまかせて攻撃に専念する接近戦(インファイト)。思わず俺も拳を握る手に力が入る。

 2体の奏でる打撃音がまるで乱れ太鼓のようだ。どんだけ連打早いのよ。百裂拳?

 

 一方、刑天のドラミングがなくなってもキョンシーは飛んだままだった。あの応援による効果は聴いている間じゃなくて、時間制限があるタイプなのかな。

 だが、開発部製EXギアの背部に装着された飛行ユニットによって空を(かけ)る武将たちとの空中戦。同じ土俵に立たされたキョンシーたちは雑魚でしかなかった。

 

 翼を排除したおかげで武器もふるいやすいみたいだ。

 乗機からの緊急脱出の際に邪魔になりそうだからと、オリジナルのEXギアにある翼は不採用となっている開発部製EXギア。

 シート状態の時も干渉する部品なので、ATへの搭載にもそれは有効だった。それでもEXギア搭載のためにコクピットだけでなく機体全体をオリジナルよりも少し大型化することになったけど、大した問題ではない。

 

 武将たちのキョンシー殲滅はあまりカメラには映っていなかった。カメラマンである輝もベルゼルガと刑天の方に意識を集中していたようだ。

「きっきょん、アームパンチだよ!」

 輝のアドバイスで思い出したのか、即座にベルゼルガの右腕から火薬の炸裂音と先ほどまでとは違う打撃音が混じった轟音が発生する。ATの基本兵装であるアームパンチを使用したのだ。

 アームパンチ。ほとんどのATに採用されているこの機構は、液体炸薬カートリッジを使用し爆発的に肘から先を伸縮させて目標を攻撃するもの。

 あ、伸びた腕が戻る時の排莢されるのも映っているな。

 

 で、「きっきょん」って桔梗のこと? ゲンさんよりはマシだけど。

 輝にならって呼ばれ方が変化した娘も多いんだよね。

 俺のは「王子様」のままなので、いい加減勘弁してほしいなあ。「こうちゃん」や俺の友達が使う「アマコー」でもいいからさ。

 あ、「キラりん」は止めてね、思わずサバラでポーズとっちゃうから。

 

 設定ではアームパンチの威力は銃火器に劣るとされていたけど、刑天の盾が大きくへこんでいる。

「むやみやたらと殴っているだけと思うておったか?」

 そうか、なにか(アーツ)を使ったのか。殴り合っている間に、しかも慣れないロボでの戦闘中に練気(チャージ)するなんて桔梗もたいしたものだ。

 

 盾の損傷で、今度は刑天が盾を投げ捨てる。そして後方に大きくジャンプして距離をとり、両手で大斧を握り直した。

「ほお、やる気じゃな。そうこなくては!」

 そのまま動きを止めた刑天。カウンター狙い? ……いや、刑天も練気しているのか。

 それに呼応するようにベルゼルガもシールドの先端を刑天に向けて静止する。必殺のパイルバンカーを使う気か。

 

 何秒かの静寂。

「来いやーーーーっ!」

 桔梗の咆哮で2体が同時に動く。ベルゼルガはローラーダッシュ、刑天は再びジャンプで接近。

 接触する巨人2体。

 ローラーダッシュ中の桔梗機は刑天の斬撃をシールドで受けることはせず、横滑りの移動でそれを回避する。重心移動を利用した高等テクニックだ。俺まだできないよ、それ。

 

 弧を描くように横に移動したベルゼルガは刑天に向けたままのパイルバンカーをその巨大な顔面に向けて発射した。

 盾を失い、また攻撃をかわされた直後で姿勢が崩れていた刑天にはそれを回避する手段はない。アームパンチ3発分の爆音と共に見事に鳩尾に命中、そのまま背中まで貫通するパイルバンカー。

 

「鼻の穴が背中まで開いてしまったな」

 パイルバンカーが刑天から引き抜かれると同時に、刑天が一瞬カードに変わって、そして消えていった。

 さすが必殺武器パイルバンカー、一撃ですか!

 

 

 

 

 

 ベルゼルガと刑天が熱い殴り合いをしている頃、俺はクレーンゲームと戦っていた。あんな戦いが繰り広げられていると知っていたら、ほっぽり出して見にいったかもしれない。ナマで見たかったなあ。

 

「んー、どっかで見たような、そうでもないような要救助者(ぬいぐるみ)がちらほら出てきたな」

「やっと僕のがきたんだよ」

 ああ、これがポロりんとこの使徒かファミリアか。救出したぬいぐるみを渡すと可愛らしくそれを抱える男の娘神(ポロりん)。あざといなあ。

 

「水棲の者はいないか?」

「うーん、どうだろう?」

 ドンさんもぬいぐるみを品定め中。人魚っぽいのはいなかったような。あ、ドラゴン系ならなんとかなるのかな。

 

「お母さんはいない、かぁ……」

 クレーンゲームの筐体を覗き込み、弱々しく呟くゆきかぜちゃん。

 対魔忍たちも参加してるのにペキンにむかわず俺の護衛に残るなんてどうしたんだろうと思ったら、行方不明の母親、不知火を探したかったのね。

 

 いまだに彼女の行方は手がかりなし。ぬいぐるみにされてるかもしれないと考えたのだろう。

 そろそろゆきかぜちゃんと凛子にも『対魔忍ユキカゼ』をプレイしてもらうべきだろうか?

 でも、ショック大きいだろうしなあ。家庭用のなんて出てないから18禁シーンは気まずいし。

 

 それに、『あっぱれ』といっしょの世界でしかも異世界魔族がゾンビタウンを発生させていたりするからゲームとはかなり違う状況になっている。あまり参考にはならないかもしれない。

 あと、いつのまにか対魔忍ユキカゼ2も出てたからそっちもプレイしておかないといけなさそう。

 

「ま、もうすぐおわりそうだし、さっさとペキンに行くよっ」

 あっさりと頭を切り替えたのか、ゆきかぜちゃんが俺を急かす。

「いえ、まだこれからよ。救助した者たちを元に戻さないと」

 凛子の言うとおりだ。むしろそっちのために俺が必要。

 クレーンゲームの方は成現した偽メダルが余っているので俺以外も別の筐体にチャレンジしてくれていて、何人か救出にも成功している。

 

 なお、イカ娘ちゃんの触手によるインチキ救助は筐体になにか仕掛けがされているのかうまくいかなかった。

 それを見てゆきかぜちゃんがイカ娘ちゃんを魔族扱い。そりゃ対魔忍ならあんな魔族もいるかもしれないけど。……いないか。

「魔族じゃなくてイカ娘でゲソ!」

「イカ……娘?」

 対魔忍2人の警戒はとけない。やはり触手には貞操の危機を感じるのか。

 

 突然イカ娘の背後に瞬間移動して彼女の触手である髪を手に取る凛子。

「イカ? 米連のサイボーグとも違う……」

「び、びっくりするじゃなイカ! お前は千鶴でゲソか!」

「千鶴?」

 やはり護衛に残ってくれていた梓が聞き慣れた名前に反応する。

「ああ、梓んとこの姉じゃなくて、イカ娘が世話になってた海の家の長女」

 どっちも千鶴だったな、そういえば。料理の腕と胸以外はよく似てると言われてたっけ。

 

「梓も千鶴の妹だったでゲソ?」

「……うちの千鶴姉はお前んとことは別モンだ」

「そんな……あんな恐ろしい女がもう1人いるでゲソか!」

「いやいや、いくらなんでも千鶴姉ほどじゃないだろ?」

 なんか梓とイカ娘ちゃんで盛り上がり始めたな。内容が千鶴あるあるってのはどうかと思うが。

 

 聞いていたゆきかぜちゃんと凛子も少し引いてるし。2人は幻の家庭用痕をやっていないのかな?

「そんな人間がいるわけない!」

「凛子だって似たようなことしたじゃなイカ」

 忍法抜きに身体能力だけで瞬間移動に見えてしまうのといっしょにしていいものだろうか?

「うっ。私は従姉弟の少年に懸想したりなど……」

「凛子先輩?」

 おっ、凛子はプレイ済みだったか。頼りない親戚に惚れてるお姉さんキャラって共感しちゃったのかな? 凛子の場合はイトコどころか実の弟だったけどね。

 

 

 

 なんとか全員の救助がおわった。ペキンはどうなっているだろうか?

「これと、これかな」

 恋姫キャラと思われるぬいぐるみたちは分けて回収しておく。彼女たちはすぐには成現しない。平行世界の同一人物と接触したら、ファミリア候補の場合は弱い方がカードになってしまうからだ。そうじゃなかったら普通に死亡だというから恐ろしい。

 彼女たちとはあとで契約空間もどきで相談することにする。

 

「元に戻すのに必要なGPはぬいぐるみごとにこの用紙に記入して下さい」

 瀬戸さんがぬいぐるみの写真を貼り付けた用紙を渡してくれる。後ろにプリンターが見えるってことはビニフォンで撮影したのかな?

 ちゃんとぬいぐるみとその用紙もセットになっているので探す手間がはぶけるのはありがたい。

 

「少しはあとから調整がきくように空きスロットを追加設定する? 成現するのにGPが余計にかかるけど」

「うん、それで頼むよ」

「かまいませんですわ」

 ポロりんとワルテナは即答ですか。重課金は違うねえ。

 一方、瀬戸さんはビニフォンで電話中。どうするか相談してるのだろう。

 

「できるだけ、余計なGPはかからないようにお願いします」

 通話をおえた瀬戸さんは結局、そう指示をくれた。高く売れるかもしれない資金投入よりも、今の出費を抑えるってことなんだろう。

 ……手数料はもらうけどね。

 

 まあ、EPを消費する作業が少ないのは助かる。今回は警備の都合上、みんなの前でやらなきゃいけないから、羞恥心でEPの消耗がいつも以上に激しい。

 若くなっておっさんではないとはいえ、いい歳の男がぬいぐるみを見つめて念じてる姿なんて見ないで下さい、頼むから。

 しすたーずが残っていてくれて、歌でEP回復(リラックス)させてくれなきゃきっと持たなかったと思う。スロット追加の人数が少なくて本当によかった。

 

 ポロりんと抱き合う美少年を見ながらそんなことを考えていたのは、同じ光景をワルテナがうっとりと眺めていたのを忘れたかったからかもしれない。

 

 


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