真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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112話 落し物

 ペキンでの皆の無事を信じ、クレーンゲームと戦った俺たち。

 用意された筐体を全部空にして、救出したぬいぐるみたちを俺の固有スキルで元に戻した。

 必要なGPはむこう持ちなのでこちらの懐は痛まないどころか、さらに手数料を貰っているので信じられないくらいに儲かってしまった。

 

「いいんですか、こんなに?」

「ええ。必要経費です。これは天井さんにしか頼めませんから」

 そう言いつつもかかった経費(GP)を書類にまとめている瀬良さん。うちの開発部によってビニフォンが普及し始めたとはいえ、ペーパーレスはまだ遠いようだ。

 次はタブレットだろうか。でも新型ビニフォンが立体表示できるようになって液晶画面が小さくても大きく表示可能だから、そんなに必要を感じないんだよなあ。

 ……最新型ビニフォンの量産はEXATのおかげで進んでないんだけどさ。

 

 必要な作業や手続きがだいたい済んだので、ペキンに向かおうとしたら瀬良さんに止められた。

「なんのためにここでやったと思ってるんですか!」

 

 ……俺の護衛のためにこの交流会の日を選んでやってるんでした。

 ごめんなさい、忘れてました。

 どうやら俺は交流会(マーケット)が終わるまで、ここから出られないらしい。

 

「じゃ、じゃあ俺はいいからみんなはペキンに……」

「そんなわけにもいくまい」

 残ると言う凛子にゆきかぜちゃんが追従する。

「わたしたちは護衛任務中。それを放り出していけるわけがない」

 さっきはあんなにペキンに行きたがってたのに。

 

「自分たちも隊長をお守りします!」

 凪たち三羽烏も護衛を続けると言ってくれた。

 現在ここには、戦女神(ワルテナ)海神(ドンさん)男の娘神(ポロりん)という3(にん)もの神様がいるのだから心配はいらないと思うんだけどなあ。彼らの使徒やファミリアもいるし、むしろ過剰戦力な気がする。

 

「あ、ワルテナたちに救援に行ってもらえばいいのか」

「それは駄目。まだペキンには目が残っていると考えるのが当然。新たな使徒の登場なんてことになったら、またややこしくなるわ」

 ため息まじりの詠。トウキョウ解放でも協力してもらったけど、ワルテナのことは政府には教えてなかったんだっけ。

 

 理由はある。戦女神なんて人目についたらさ、剣士(けんじ)のことを神様だなんて認めてもらえなさそうで……。自分たちの世界の新しい主神はこっちの残念な方か、って嘆かれたくないでしょ。

 

「それに、もう刑天は倒したようだから、焦って行く必要はない」

 詠には報告が来てたのか。俺に教えなかったのは、集中を乱すとの判断かな。

 桔梗のEXAT(ベルゼルガ)の活躍、見たかったなあ。

「そうか……。じゃ、ここでみんなを待つか」

「それが無難ね」

 

 

 ……手持ち無沙汰だ。

 ここに残っているみんなはカラオケを楽しんでいるけど、俺は音痴なのであまり人前では歌いたくない。ポロりん音楽の神でもあるっていうしさ。

 ペキンに行った流琉ちゃんに代わって料理を作ってくれている月ちゃんを手伝おうとしたら、「あんたは牢から出るな!」って詠に怒られる。俺は囚人じゃないのに。

 

 プラモでも作るかな?

 それとも筋トレ? ……見られながらやるほど筋肉に自信があるわけでもない。パスだ。

 

 なにかツマミを用意するか。もうお酒飲んでも問題ないし。みんなが戻ってくるまでは我慢するけどね。

 テーブルの上には揚げ物や肉料理が多いから、サラダかな。

 あ、月ちゃんに頼んで流琉ちゃんの作った豚バラ軟骨の煮込みの汁に大根を追加しておいてもらおうか。それともジャガイモもいいな。いや、里芋も捨てがたい。

 むう。結局頼むだけというのも気がひけるな。俺の暇潰しにもならん。

 牢屋(ここ)でできるのを考えるか。

 

 スタッシュからカセットコンロとフライパンに蓋、そしてキャベツを出す。最近EXATやその部品を出し入れすることが多いせいか、熟練度もたまってスタッシュのレベルも上がってる。収納空間にはかなり余裕があるんでいろいろとつっこんでるのよ。

 で、キャベツを丸ごとフライパンにのせ、蓋をしてカセットコンロの火にかけていたら、みんなが怪訝な顔で見ていた。

 

「さすがにいくらなんでも、そりゃないぜよ!」

 まさか剣士に注意されるとは。

「キャベツの丸焼きって豪快だねえ」

「中をくり抜いて肉とか詰めてもいいんだけどね、キャベツを美味しく食べるにはこれが一番なんだって」

 みんなの顔は信じてない。華琳ならきっとわかってくれるはずなのに。

 ……華琳ちゃんをカードから復活させて解説してもらおうか、迷うとこだね。

 

 コンロをそのまま放置してカラオケを聴きながら、作戦指令室(オペレーションルーム)をどうするか考える。

 通信はビニフォンでなんとかなっているから別に現地ではなく、それこそ学園島や4面に設置してもいい。

 だけど、緊急時の対応を考えるとやはり近場か移動可能なものがあった方がいいはずだ。

 なにかピッタリなプラモないだろうか?

 

「ねえ、焦げてるんじゃない?」

 詠の指摘どおり、コンロから香ばしい薫りがしてきた。フライパンの蓋を外しキャベツをひっくり返す。焼き面は既に真っ黒になっていた。気にせずに俺は再び蓋をして放置。

「まだ焼くんか? 焦げちょったぜよ」

「いいんだよあれで。外側の皮は無理して食べないもんだから」

 むしろ焦がさないと物足りない。

 

 司令部か。やはり母艦のブリッジがそれっぽいよなあ。でも、あまり大きいのは成現(リアライズ)のコストが半端ないし、あっぱれ世界でもオーバーテクノロジーなのはなあ……それは今更か。

 コストを考えなければ、天使だってことで『アークエンジェル』もいいかな。浴場もあるし。

 でもなあ、カップルには不吉な艦だよ。俺は嫁さんを交換するつもりもないから、種系は無しだな。

 やはり最初はもっと小さな航空機か車両レベルで考えた方がよさそうだ。

 

 それよりも先に指揮官機か?

 ベルゼルガには元から頭部に飾りがあるから、指揮官機以外はそれを外す? なんか寂しいな。

 

 ならば……っと、そろそろいいか。

 コンロの火を止めて、キャベツを出して切り分ける。断面から出る湯気がすごいね。

「外側の黒いとこは食べなくていいからね」

 皿にのせたそれをみんなに渡した。味付けは好みで塩胡椒やマヨネーズを後付けしてもらおう。

 

「……へぅ」

 びっくりした声を上げたのは月ちゃんか。

「どう?」

「美味しいです」

「よかった」

 俺も一口。うん、甘い。

 焦げた部分の香ばしい苦味もいいね。ビールほしくなるなあ。

 

「お兄ちゃんたち、ずるいのだ!」

 いつのまにか戻ってきたらしい鈴々ちゃんが俺に抗議する。

「おいしそうなのを食べているのだ!」

「キャベツの丸焼きだけど、食べる?」

 箸でつまんだそれを前に出したらパクっと食いつく鈴々ちゃん。その後ろで「あーっ」って声が複数。

 

「おいしいのだ! もっとほしいのだ!」

 あーんと大きく開けられた口。それが3つ。

「季衣ちゃんに恋まで」

「ボクも!」

「恋も食べたい……」

 結局、俺の分は3人に渡り、俺には芯の部分も残らなかった。くっ、固いけど一番美味しいとこなの知っていたのね。

 

「なにをやっているのよ」

 呆れ顔の華琳。

「あ、おかえり。手持ち無沙汰でね、キャベツ焼いたんだよ」

「おいしそうなのだ!」

「えっ? 鈴々ちゃんは今食べたでしょ」

「鈴々は葉っぱしか食べてないのだ!」

 そりゃキャベツしか焼いてないんだから、葉っぱだけなのは当然なんだけど。

 肉詰めの方を期待していたんだろうか?

 

「手持ちブタさん、鈴々も食べたいのだ!」

 ……ああ、そういう勘違いね。

「手持ちブタさん……かわいい」

 恋は表情がわかりにくいが、なんかうっとりとトリップしてる。手のひらサイズの子ブタでも思い浮かべているのだろうか。

 それなら『はれぶた』を成現しようかな。みんな可愛がってくれるはず。

 

 あれ? はれぶたって、人間の考えていることを現実化させるんだったよね。俺と能力かぶってない?

 もしかして俺って豚野郎? ……別に罵ってほしいわけじゃない。

 むしろ世界そのものまで変えるレベルだから、俺の上位スキル?

 

 はれぶたはやめよう、俺の立場がなくなる。

 学園島ではペット飼うのも許可制で面倒だ。

「手持ちブタさん、おいしそうだよね」

 それに……ブタだと愛玩用じゃなくて食用って思われそうで怖い。

 

 どうせなら北欧神話のセーフリームニルって猪の方がいいのかも。いくら食べらても夕方には復活する、エインヘリャルの主食。

 でも猪に気が引けるよなあ、復活するごとに何度も殺されて食われるってさ。

 ドMな性格で食べられるのが好きなんだろうか? そんな感じで成現すれば心も痛まない……待て、そんな変態の肉なんて食いたくないような……。

 

「そっちも上手くやったようね」

 空になった筐体を見て華琳が頷く。ブタの勘違いは気づいたけどスルーですか。

「ペキンの方は?」

「問題ない。刑天は桔梗が、キョンシーも武将たちが始末した。中国軍も撤退が完了したのでゾンビども全てを殲滅するまで戦う必要はない。残りは聖鐘(ホーリーベル)が到着してからだ」

 そう言いつつやや疲れた表情の冥琳。

「まだ戦うの!」

 ……雪蓮のおもりで疲れたのね。

 

「雪蓮、血が騒いじゃったんなら、興奮抑制のスキルを使ってくれ」

 稟の鼻血や穏の読書による欲情を抑えるためのこのスキルを、雪蓮もマスターしている。スキルを使えばMPは消費するが、冷静になってくれるはずだ。

「それがね……」

 ため息の後、やはり疲れ顔の蓮華が事情を説明してくれた。

 

 

「ドロップアイテム?」

 刑天を倒した周辺から見つかった物があるらしい。

 今までそんな物なかったけどなあ。異世界魔族の使い魔は倒すとカードになって消えちゃうから装備品も奪えないし。

 都庁にいたリッチもなにも出さなかったはずだ。

「これよ!」

 バンとテーブルにカードを叩きつける雪蓮。

 

「メンコじゃないんだから……これってまさかファミリアカード?」

 カードを手にとって確認する。華琳ちゃん、俺の嫁の華琳とは別の、無印恋姫の曹操のカードによく似ている。

 雪蓮の姿の描かれたそのカードにはSR孫策と書かれていた。

「たしかにファミリアカードですわ」

「あんたにはコレだ」

 翠がワルテナに同じようなカードを渡した。

 

「キョンシーが持っていたみたいだ」

「一刀君のカードですわね。ありがとうですわ」

「R北郷一刀?」

「俺、Rなのか……」

 そのレア度(レアリティ)表記に一刀君が落ち込んでいる。Rでも凄いと思うけどなあ。俺なんかNになりそうだ。あ、使徒はカードにならなくてスピリットになるんだっけ。

 

「平行世界の自分が同じレアリティとは限らないわ。現に私は自分のSSRもSRも見ている」

 華琳ちゃんはSRだったよな。妊娠していたという平行世界の曹操がSSRだったのかな。母は強しってことなんだろうか。

 

「たぶんこれがシャンハイに現れ、中国政府がやっきになって探している孫策さんではないかと」

「見つからねーワケだぜ」

 風にライドオンしている宝譿が、いつのまにかEXギア仕様になっているな。誰が用意したんだろう?

 

「一刀君の方は無印恋姫のかな? それとも……あの世界の一刀君?」

 あっぱれ対魔忍世界にフランチェスカがあったか確認しておけばよかったか。

 

「そいつはどうでもいいわ! 私が気に食わないのはなんでやつらがこれを持っていたかってことよ!」

「戦って負けたのだろう。EXATも無しに刑天と1人で戦えば、お前とて危ういだろう」

 腕を組んだまま冥琳が雪蓮を慰める。……慰めてるんだよね?

「こんなことなら、私が刑天と戦うんだったわ」

「いずれその機会もあろう」

 刑天は消える前にカードになったらしい。聖鐘を使わなければデュラハンのように完全に倒すことはできなさそう。

 

 他にもカードがあるかもしれないと明命たちがペキンに残って探している。

 紫は現地の対魔忍と打ち合わせがあるのでやはりまだ戻ってきていない。

大好きな井河さんと会ってるのかな。

 

 

 雪蓮をなだめながらペキン戦のことを聞いていたら、マーケット終了の時間がきた。

 立ち上がり、拍手を始めるワルテナ、ドンさん、ポロりん、剣士。嫁さんたちもそれに倣って拍手。

「マーケットでは開始と終了ん時は拍手するんぜよ!」

「コミケか」

 絶対にマーケットの企画者にコミケ参加者が関わっていると思う。

 開始時の拍手は、俺がクレーンゲームにチャレンジしていたために邪魔にならないように控え目にやっていたらしい。気づかなかった……。

 

「この後は開発部に行って打ち上げね」

「売れたかな?」

 まあ、俺は儲かった。

 たった1日の働きでこんなに稼いでしまうと、今までの行動はなんだったのかって悲しくなるけどさ。

 このGPはなんに使うかな? 璃々ちゃんのゲート承認アイテムとオリハルコン買ったらいくらぐらい残るかなあ。

 

 成現した嫁さんたちをGPを使って、制限時間無しにしてあげたい。

 でも、もうみんな1000年以上も成現時間あるから、GPを使うまでもないって断られているんだよね。人数も多いし。

 あ、俺自身もか。でも俺の場合、最大MPのせいでコストが桁外れだしなあ。

 

 何に使うかはあとで家族会議だな。

 

 

 

 開発部の売上も予想以上の物だったらしい。

 出荷数の少なかった変身ベルトをオークション形式にしたら、とんでもない額になってしまったそうだ。

 これで開発機材が充実するとチ子たんが喜んでいたけど、うちの開発部で予算不足なんて感じたことなかったんだけどなあ。ワルテナのサポートのおかげか。

 

 で、クレーンゲームやぬいぐるみ成現時の空きソケット追加で減少したEPはまだ回復しきってなかったのだろう、精神的に疲弊していた俺は、打ち上げ会場となった開発部の食堂で酔い潰れて眠ってしまった。

 

「なにここ?」

 目の前には雪蓮。

 背景は真っ白でなにもない……いや、俺が持ち込んだ品がいくつかと華琳ちゃんがいるな。

 

「あー、疑似契約空間……ちょっと待って」

 うう、これは雪蓮じゃなくて……。

 スタッシュから酔い覚ましの薬を取り出して飲む。華佗が作ってくれた粉薬。コップについだ聖水で流し込むと、瞬時に頭がスッキリしてくる。効くなあ。

 セラヴィーに魔法薬も教えてもらっているらしいからそれのおかげかね?

 

「孫策、だよね? 俺は天井煌一」

 そう、目の前にいるのは俺の嫁の雪蓮ではない。ファミリアカードになっていた孫策だ。

「ええ。私は孫策。それで、ここはどこなの? 私は蚩尤に殺されたはずなんだけど……ここがあの世?」

 え? 刑天じゃなくて蚩尤?

 そんな大物が出てきちゃうの?

 

 


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