念のために確認する。
「刑天じゃなくて蚩尤?」
「そうよ」
即答。マジですか。
刑天やキョンシーのついでに中国妖怪を調べた時にも出てきた。
中国神話に登場する魔神。兵主神って軍神扱いされたりもしてる。
中国妖怪じゃラスボス級の大物だよね。そんな化け物が孫策を殺した?
……そういえば、三国伝では孫策サイサリスに蚩尤ノイエ・ジールが憑依合体してたな。四字熟語好きな悪夢さんの乗機繋がりでさ。
「蚩尤ねえ。それも異世界魔族とやらの使い魔なのかしら? それとも魔人?」
華琳ちゃん、なんか楽しそうだね。カード仲間ができて嬉しいのかな。
魔神が魔人にってなんかランクダウンしてる気がしないでもない。
蚩尤はいろいろあって倒されたってことだからこいつもアンデッド?
中国は2つもゾンビタウンがあるから大物が魔人になってるのかな?
それとも他のゾンビタウンも?
まさかサタンとか出てきちゃったりするんだろうか。
トウキョウなんて名前忘れたけど元日本人ぽいリッチだったのに。
「炎帝神農の子孫ともされているけど、なにか関係あるのかしら?」
「あー、刑天もその配下だったっけ」
どっちも黄帝と戦って敗れていたはず。
「ちょっと、なんの話? あんた誰よ?」
「孫策を倒した勢力の話かな? あ、こっちは」
「曹孟徳よ」
そうか、どっちも無印恋姫の出身っぽいから2人は初対面なのかな。
「ふうん、この娘が。で、疑似契約空間って言ってたけど結局なんなの、ここは?」
ええと、なんて説明すればいいんだろう? そう迷っていたら華琳ちゃんが解説していた。
「ふぅ……ちょっと信じられないけど、死んだはずなのにこんな変なとこにいるんじゃ信じるしかなさそうね」
「あ、解説してもらえるんなら周瑜ぬいぐるみたちも連れてくればよかった」
周瑜ぬいぐるみや他の恋姫ぬいぐるみは学園島の屋敷に保管中。璃々ちゃんのことが気になると先に帰った紫苑が持っていってくれた。こんなことなら置いていってもらってもよかったか。
けど、酔っ払いたちに汚されそうだったしなあ。
「彼女もいるの?」
「今頃は小喬ちゃんに抱かれてるんじゃないかな?」
ぬいぐるみらしくね。
「そう。……抱かれて? 小喬ちゃんを抱いてじゃなくて?」
「周瑜は道士によって小さな人形にされてしまっているわ」
目的は不明だけど、ぬいぐるみにしているのは干吉たちで間違いないだろう。俺もぬいぐるみにされたし。
「元には戻せないの?」
「この男が戻せるわ」
俺を指差す華琳ちゃん。
「これが? なんかぱっとしない感じなんだけど」
「そうね。そのぱっとしない男があなたの夫よ」
「は? なにそれ?」
いや、違うから。俺は雪蓮の夫でもあるけど、この孫策とは違うから!
妙に焦りながら懸命に説明する俺。口数が急に増えたので、逆に胡散臭かったかもしれない。
「鏡のむこうのように、よく似た世界のわたしの夫がこれ?」
「孫策だけではないわ。他にも多くの者の夫よ。孫権、孫尚香、そして大喬に小喬、周瑜も」
ギンと鋭い視線で睨まれた。
「い、いや、別の世界の娘だから! ……あ、大喬ちゃんと小喬ちゃんは違うか……」
「どういう意味かしら?」
声のトーンを落とさないで下さい、恐いから!
真・恋姫には大喬ちゃんと小喬ちゃんは出てこない。雪蓮たちにも彼女たち2人の記憶はなかった。無印恋姫みたいなんだけど、孫策は生きていたと言っているから、もしかしたらこの孫策と同じとこの出身なのかも。
無印恋姫が始まる前なのかな?
どうしよう、大喬ちゃんのアレを無くしちゃったなんて説明できない。
さっき以上に俺は必死に言いわけを開始するのだった。
「……彼女たちを助けてくれたことには礼を言うわ」
「う、うん」
「けれど、冥琳も大喬ちゃんもわたしのよ!」
う……気持ちはわかる。嫁さんたちを取られていたらそう言いたいのも当然だ。
「そうかもしれないけど……お、俺は別れないから! だいたい、俺が彼女たちと結婚しなきゃいけなくなったのは雪蓮のせいなんだよ!」
「わたしのせいにするつもり?」
「いや、君じゃなくて、俺の嫁の雪蓮」
「なんですって?」
「俺の嫁」
もう開き直るしかない。別れるつもりもないんだし。……この疑似契約空間で殺されたらどうなるのかな? 夢オチ扱いで普通に目が覚めてくれればいいんだけど。
「どうやら、そのわたしの偽物と話をつけなきゃならないようね」
「偽物じゃなくて異世界の本人だから。それに異世界の本人同士が触れ合った場合は、弱い方が死んでカードになっちゃうみたいだから、会わせるのはちょっと」
華琳ちゃんも華琳との接触でカードになってしまった。
そして孫策は既にカードになっていることも説明する。
「なに? じゃあわたしはずっとここから出られないって言うの?」
「……なんか方法考えるよ」
本拠地がもう少しでグレードアップするからそっちで生活してもらうという手もある。4面もモブが増えたので寂しくはないだろう。
「この男の妻の孫策と合成されるという手段もあるわ。かなり強くなれるそうよ」
「それはしてほしくない。片方がいなくなるなんて、死んだようなもんじゃないか」
「記憶は双方のものが受け継がれるというのだから、問題はないでしょう?」
そうは言われてもねえ。ソシャゲの駒扱いってのはなんか嫌だ。嫁さんをそんな扱いしたくない。
「とにかく、暫くここでおとなしくしてくれないかな? 外の様子はわかるらしいから、冥琳や大喬ちゃんたちの様子を見ればいい」
「もし泣かせているようなら容赦はしないわよ」
「それは大丈夫。仲良く幸せに暮らしているよ」
……だよね?
俺の嫁さんの数は多いが、どの嫁さんも大事に扱っている。スキンシップが足りないのはあるだろうけど、大喬ちゃんや冥琳にはそもそも雪蓮がいるから、そんなに求めてないだろうし。
「……本当ね?」
「うん。そうだ、あとで周瑜たちも連れてくるからね」
ぬいぐるみだけどね。
まあ、
でもまずはぬいぐるみ周瑜と対面した孫策を見たい気がする。俺の話を信じてくれる材料にもなるだろう。
「それじゃ、また」
俺は疑似契約空間を出た。酔いを解除したから、目覚めるのは簡単みたいだ。あの薬、効くなあ。また貰っておこう。
起きたら場所は開発部の仮眠室だった。誰が運んでくれたのかな?
やはり酔い潰れたのだろう、俺の他にも多くのエルフやドワーフが寝ている。マーケットのために徹夜したのも多かったらしいもんな。
酔いが醒めたせいか物足りなさを感じたので食堂へ行く。
……まだ飲んでるのがいた。
「あら、もう起きたの?」
指輪のカードホルダー内の孫策見てるか? スルメで水割り飲んでるこれが俺の嫁さんの雪蓮だぞ。
「雪蓮こそまだ飲んでたのか?」
「飲まなきゃやってらんないでしょ」
どんだけ飲んだんだろう? さっきの孫策とは別の意味で目が据わっちゃってる。
「異世界のわたしってどんなやつか気になってたのに」
「さっき会ってきたよ。ほとんど雪蓮と同じみたい。冥琳と大喬ちゃんは自分のだって怒られた」
「なるほど。雪蓮らしい」
冥琳も起きてたか。どうやら飲んでいるのはウーロン茶のようだ。
「なによ、わたしは違うわよ」
「え?」
「冥琳と大喬ちゃんだけじゃないわ。煌一もわたしのよ」
ぐいっと引き寄せられ、ぶちゅーっと唇を奪われた。ううっ、酒臭い。
「あと美羽もね」
俺を抱き寄せたまま、きょろきょろ。美羽ちゃんを探しているのだろう。大喬ちゃんといい、雪蓮もやはり……このロリコンどもめ!
まさかあの大目玉も異世界魔族で出てきやしないだろうな?
あの孫策、美羽ちゃんを見たらどう反応するかも気になる。
「美羽ならもう帰ったろう。そろそろ放してやれ」
「そう、残念」
冥琳の助言で俺を解放してグラスを呷り、空になったそれを渡してくる小覇王。
「もうちょっと濃くー」
「はいはい」
ため息まじりに水割りをつくる俺。
「雪蓮、さっきのは煌一を独占すると言いたいのかしら?」
華琳も顔が赤い。やはり酔っているな。その隣で桂花が椅子に座ったまま寝ちゃっている。春蘭と秋蘭は……さっき春蘭が自分専用のEXATの意匠をドワーフたちと相談と相談してたから、開発室にいったのかも。
あの華琳柄の痛ATが実現しなきゃいいけど。
シラフになったら思いとどまるか。
「そうね、わたしの、じゃなくてわたしたちのねー。煌一も他の嫁も!」
「ならばよし!」
ニヤリとしてグラスをかかげる2人。いや、気づけばその場にいて起きていた嫁さんたちみんながグラスを掲げていた。
慌てて俺もウイスキーのグラスを手にする。
「かんぱーい」
雪蓮の合図で乾杯し、ウイスキーを飲む。あ、水入れるの忘れてた。まあいいやロックで。
今の俺、身体が若くなったせいかアルコールにも強くなってるんだよね。二日酔いにもなりにくいし。分解酵素が多いのか?
「それで他に孫策は?」
「孫策を殺したのは刑天じゃないらしい。彼女は蚩尤にやられたと言っていた」
むしろこっちを真っ先に話したかったんだけどね。
「蚩尤か。それは厄介だな」
冥琳も強敵と認識か。
「ふふ。面白そうじゃない。わたしはあのわたしとは違うんだから!」
「魔人なのかしら?」
「華琳ちゃん……カードの曹操もそう言ってたよ」
ちゃんづけで俺を一瞬睨む華琳。すぐに訂正したおかげか、なにも言われなかった。
「蚩尤の資料も集める必要があるな」
「化け物なのは確かだろうから、EXATを量産しないと」
桔梗の1機だけでは話にならない。他の武将たちの分も用意したい。
「数が増えれば連携も必要になってくるわ。その訓練も必要よ」
さすが君主や軍師たち。酔ってても対策が出てくる。
……ちょっとトイレ。
いつのまにか開発部のトイレは個室のほとんどが、
気にはなるけど、変な感覚に目覚めるのが怖くて試せないんだよなあ。
「アーニキ!」
トイレから出た途端に声をかけられる。猪々子か、そう思った時にはもう引きずられていた。
「ちょ、ちょっと?」
どこへ向かうのさ。こっちはたしかシャワー室だったはず。
「お待ちしておりましたわ」
「麗羽? え? なんで?」
そこには麗羽と斗詩が待ち構えていた。バスタオルしか身に着けていない姿で。タオル1枚で腕組みして仁王立ちの麗羽。
「ちょっと待っててな、すぐに準備すっから」
ビニフォンを操作して一瞬で全裸になる猪々子。
「これ、すぐに裸になれてすっげー便利だよなー」
「ほらほらー、アニキも脱げって」
「え?」
「ごめんなさい!」
大きく頭を下げる斗詩。その動作でバスタオルがずれてしまい、必死にそれを整えながら、わけを教えてくれた。
「きょ、今日は私たちの番だったんです」
あー、夜の当番か。
「酷いぜアニキ、忘れてたのかよー」
「いや、順番なんて俺、知らされてないから!」
いつもその時になるまでわからないんだよ。
「煌一さんは
「そ、そんなことは……」
あるかもしれない。さっきは嫁さんみんなを大事にしてるなんて思ったけど、そういえば前回の麗羽たちとの夜は疲れてて俺が先に寝てしまった。よく考えたら、その埋め合わせもしてなかったかもしれん。
「一番好きなものを楽しみにとっているのかと我慢しておりましたが、もう耐えられませんわ」
「耐えられないってまさか、別れたいって言うんじゃ……」
「なぜそうなるんですの!」
だって麗羽は俺の呪いにかかって、俺のことを嫌っていたじゃないか。俺と結婚したときだって桃香の説得に騙されてみたいな感じだったし。
「今日もまたお流れになりそうだってんで、麗羽さま、焦ってるだけだって。あたいたちだっていい加減、アニキとしたいんだぜー」
「そうなの? 斗詩も?」
「は、はい……」
耳まで真っ赤になって斗詩が頷いてくれた。
これって喜んでいいのかな。俺を求めてくれているってことだよね。俺のことをさ。
「軽視できないように私のことを記憶の隅々まで、いえ、魂にまで深々と刻んでさしあげますわ! おーっほっほっほ!」
……俺のことを好き、なのかなあ?
首を捻っていたら、その隙に猪々子に再び捕まり、俺は脱がされていた。
咄嗟に指輪のカードホルダーからの覗きをロックした。間に合ったかな? 双頭竜、見られてないといいな。
「軽視なんかしてないけど、そう思わせちゃってごめん」
結果的にそうなってしまった。反省しよう。他にもそんな嫁さんいないだろうな?
「煌一さん?」
っと、今は麗羽たちに集中しないと駄目か。
「前回の分までがんばるからね」
あれ? 前回はたしか白蓮もいっしょだったはずだけど。
彼女はさっき酔って星にからんでいたから、そのせいでハブられたんだろうか?
……あとでフォローしないといけない。