真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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118話 ネーミング

「FXギア?」

「ああ。いつまでもEXギアって呼んでるとオリジナルのと紛らわしいからな」

 学園の授業を終えて開発部に行ったら、ミシェルにEXギアの名称変更を報告された。

 

 開発部製のEXギアはオリジナルの物とほとんど同じだが背部のロケットエンジンと翼は撤廃され、魔法式の飛行装置へと代わっている。

 他にもMPを電力に変換できるバッテリーを内蔵してたり、たしかに違う物だから正式名称は変えた方がいいだろう。

 

「で、なんの略? EXギアってエクステンドギアの略だったよね」

「たいした意味じゃないさ。ほら、翼がないだろう。だからEから1本抜いてFってワケ」

 そんなんでいいのか。

 音声入力なのにガンコントローラーで動く鉄人はどんな意味だったっけ?

 

「まあ、後でそれっぽいのを考えりゃいい」

「いい加減なのだ」

 呆れ顔のクラン。俺も同じ意見だったりする。

 

「ATはBTとでもするつもりかしら?」

 なにその魔少年。

 ……あれにもメインキャラに『こういち』がいたなあ。

 

「FX-ATってのは青の騎士の次期主力ATでFX(フェックス)シリーズってあったから、ややこしくなる」

「そうなのか? まあ、ウールヴヘジンってのが候補かな」

「ウールヴヘジン?」

「北欧神話に登場する戦士ですね」

 知ってるのか雷電。じゃない、朱里ちゃん。

 

「ベルセルクと同じく軍神オーディンの神通力を受けている者たちで、ベルセルクが熊の、ウールヴヘジンが狼のジャケットを纏うそうです」

 雛里ちゃんまで。軍師たちは既に北欧神話までマスターしてるというのか。

「ATで一番メジャーなのは狼じゃなくて(ドッグ)系なんだけどなあ。あと言いにくい」

「略称はUHかな」

 Uh……アメコミの台詞に出てきそうな字面だな。たしか、「あー」とか「えー」で、ええとって意味だったような。

 

「ドワーフのじさまたちが、UHの開発に回ることになってるわ」

 疲れた顔を見せるチックウィード。やはりエルフ嫌いの年寄りドワーフの相手は大変なんだろうか?

「あの連中、試作機をいきなりバラし始めて、ここのネジ位置が悪いだの、間接の角度が悪いだの、とにかくなっとらん、って煩いのよ」

 そっちか。確執よりも技術屋としての本能が優先なわけね。

 

「だからもう面倒なんでUH(あっち)はもう年寄り連中にまかせることにしたわ。それでついでだから仮称EXATから正式名称UHに変更することにしたの」

「古ドワーフが参加することを知ったエルフの老人たちも来たそうにしてる。時間の問題だろうね」

 エルフまでもか。種族が変わっても男のロマンは違わないということね。

 

「助かります。次の次の交流戦の賞品にUHを、と運営上層部が考えておりまして」

 正式に支部長となったせいか瀬良さんは嬉しそうだ。

 昨日の4面(うち)の新本拠地完成のお祝いにも呼んだけど、マーケットの時の後始末と支部長になる手続きで忙しくてこれなかった。

 今度お祝いしなきゃな。宴会が続きすぎなんで今日はパスだけど。

 

「次の次……そんな早く量産できるかな?」

「素材が集まればなんとかなるだろ。ジジイたちは偏屈だが、腕は確かだ」

 頑固職人そのものなワケね。

 新本拠地の風呂も「ぬるい!」とか怒られたりするんだろうか。

 ……そっちは江戸っ子爺さんか。

 

 まあ、AT……UHが古ドワーフ製になるとしても、こっちの分は、しばらく俺のスキルで用意するつもりだったから問題はない。

 

「次の交流戦の賞品には仮設トイレをと注文を受けているのですわ」

「ああ、ここにはそれもあったな」

 ワルテナに相槌を打つ。

 仮設トイレはビニフォンと並ぶ、この開発部のヒット商品だ。

 

「ビニフォンのように面倒な素材は使用してないからな、生産ラインが完成している」

「巨人や小人用の特殊サイズは受注生産だがね」

 うちもクランとララミア用にゼントラサイズのを注文しておこうか。

 でも、変身時間はそんなに長くないしなあ。

 

「ポロりんにも高評価で何台も購入したのですわ」

「はわわわ! あの美形さんたちが使用して使用する……」

「しゅ、朱里ちゃん、使用って……あわわわ……」

 さっき冷静にウールヴヘジンを解説した2人が急に慌てだした。しかも頬を染めて。

 

「直腸洗浄機能が最高だとポロりんも気に入ってくれたようですわ」

 ああ、そっちの使用目的だと腐軍師2人が誤解、いや、正しく把握したせいか。

 ポロりんは両刀だもんな。神さんたちは同性愛もアリらしいし。

 

 まさか、仮設トイレが人気なのって、そういう使用目的なんだろうか?

 いや、俺もその機能の恩恵は受けたけどさ、使ったのは嫁さんたちだし。……さらに使ったのは俺だけど、最近そっちは使ってないから!

 

 

「だからな、駄弁ってないでさっさとバルキリー出さんかい!」

 ドライツェンにヘッドロックをかまされた。身長差があるんで十三が俺にぶら下がることになっている。身長のわりにドワーフって重いな。太めなのはほとんどが筋肉なんだろう。

 

「はいはい。デカいからちょっと離れててくれ」

 俺がスタッシュから取り出したのは年季の入ったTOY。

「おお、懐かしいのう」

「でしょ」

 俺の手にあるそれを見て目を綻ばせる者、多数。

 今は亡きタカトクトイスの名品、可変バルキリーだ。かなりのヒット商品だったので俺に近い世代の男なら触ったことぐらいあるはず。

 それのS型。所謂『ロイ・フォッカー・スペシャル』、後半の主役機である。

 

「最近は他にも色々出てるけどね、これは俺が一番遊んだやつだから」

 その分想い(EP)も籠ってるので、準備がほとんどいらないで済む。

 

 強くイメージして追加改竄することといえば、EX……FXギアに対応させるぐらいだろう。

 タカトク版では角ばってしまっている顔のラインの修正も必要かな?

「たいちょ、それウチのとちょいちゃうねんな?」

「ああ、真桜にあげたのは海外版だから」

 そう、ニューリーダー病の親友を持つ超ロボット生命体の玩具だ。

 いずれはバルキリーの製作も手伝ってもらおうと真桜にプレゼントした。

 

「じゃ、始めるよ」

 ビニフォンで状態で確認してから成現(リアライズ)

 あっさりと成現成功し、ついに夢にまで見た本物のバルキリーが目の前に出現した。

「おお……」

 感動に震えている俺をよそにして、ドワーフやエルフたちがバルキリーに群がり解析を開始する。

 

「やはりエンジン周りは固有原理が働いているようだな」

「OSはFXギア対応にアップデートされているようね」

 うっ、俺が入り込む隙間がない。

 まあいいさ。1日は持つぐらいMPを()ぎ込んだから、あとでも触れるはず。

 飛ばすのは俺じゃ無理だから、経験者のミシェルかクランに頼むことになるな。

 

 ……よく考えたら、複座型のD型にしとけば俺も乗っけてもらえたな。

 バルキリーってことで俺もテンション上がりすぎてたかもしれん。

 飛行訓練するにも飛行場や管制室は必要だ。もっと冷静になって考えておくべきだった。

 

 ふむ。先にシミュレータを用意するか。マクロスFに出てきた棺桶(コフィン)を。

 シミュレータが完成していれば、他の機種が完成しても訓練はしやすいはず。

 ただ、プラモやTOYなんて出てないからフルスクラッチになる。マクロスF観ないと。クランとミシェルの意見も必要だな。

 

 ま、いくら解析してコピーできるとしてもさすがに飛行機、しかも可変ロボなんてすぐに完成しないだろうから余裕でそれまでに訓練は間に合うだろう。

 

「おい」

 見覚えのないドワーフに声をかけられる。

 これが古ドワーフか。

 外見は今まで知ってるドワーフたちとほとんど変わらない。ただ髪も髭も真っ白いぐらいで。背の低いサンタクロースといった見た目だ。

 あとから聞いた話によると、上位種族に進化した個体もいるらしい。古ドワーフってのが上位種族のことなのか?

 

「儂らの分はないのか?」

「ATをってこと?」

「そうだ」

 むう。すでに試作機があるからそっちを叩き台にすればいいと思うんだけど。

 若いもんが作ったのは気に食わないんだろうか。

 

「もっと他にも見てみたい」

 それならわかるか。

「そうなるとベルゼルガじゃない方がいいよね」

 ここは名機スコープドッグを成現して、と。

 降着ポーズでスコタコが現れる。うん、こっちもいいなあ。ベルゼルガとはまた違った量産機の浪漫を感じる。

 

 あ、急いだんでFXギア対応にするの忘れてた。マッスルシリンダーもポリマーリンゲルを使用するオリジナルのままだ。

「オリジナルATそのままだからUHとは違うけど、いい?」

「ふん、その方が参考になろうて」

 なんだか楽しそうな古ドワーフたち。台詞は偉そうだが目が笑っていた。

 狭い操縦席に何人もいっしょに入りこんではしゃいでる。

 

 ついでだから、UH仕様で嫁さんたちの機体も用意しておこう。MPはまだまだあるし。

「さっきFX-ATの話題出したから……」

 呟きながらスタッシュから3つほど取り出す。

 青、緑、赤の3種のTOY。M級のFX-AT『カラミティドッグ』だ。

 

 それぞれ色だけではなく、外形も微妙に違うがどれもカラミティドッグである。

 それにしても、ブルーバージョンが黒か紫だったら恋姫の三国イメージカラーにピッタリなんだけどなあ。

 

 ……ふむ。

 この3機は三国の君主用にするか。性能も高いから文句はないでしょ。

 TOYを君主たちに渡してそう説明したら苦情がきた。

「ちょっとぉ、剣は持ってないの?」

「レッドバージョンは砲撃戦仕様だから」

 雪蓮は近接戦タイプだからレッドバージョンは不向きか。背中に装備したガンランチャーは高性能なんだけどねえ。

 赤くて砲撃戦仕様だからガンキャノンなんて言うな、ヘンビット。

 

「これ、左手が爪になってるよ」

「グリーンバージョンの左腕はアイアンクローだよ。アームパンチよりも強力な武器だ」

「なんか悪役みたいだよぅ。頭の形もなんだか怖いし……」

 アイアンクローはたしかに悪役っぽいけど。でもTV版のキリコの最終機にだってついてたんだってば。そんな泣きそうな顔しないでよ、桃香。

 そして緑なのにザクじゃないと嘆くな、アゴルフ。

 

「……華琳はとくにないの?」

「もっと大きいの、というぐらいね」

 そう言われてもね。自分の身長を気にしてるからロボは大きい方がいいのだろうか。

 でも、このブルーバージョンは性能いいんだよ。特殊コンピュータ『VRマキシマ』を搭載した『ゼルベリオス』だし。

 

 そうだ、ゼルベリオスは3機存在するって設定だったからちょうどいいかな。

 さらに2体ゼルベリオスを出してと。ゼルベリオスも好きなATだからいくつも買ってあるんだよね。

 こっちはさっきのTOYと違って組み立て式のだけど、既に完成させてある。

 

「3人にこれを預けるから、好きにEPを籠めてね。注入が終わったら成現するから」

 これで問題はないでしょ。レッドバージョンとグリーンバージョンは他の武将に回すことにしよう。

 

「なんじゃ、そっちはまだなのか」

 古ドワーフたちはガッカリしたようだけど、まずはスコープドッグを量産して下さい。横幅はともかく、身長の低いドワーフならスコープドッグそのままのサイズでもFX仕様にできると思うから。

 

 他のATのキットやTOYを出して、武将な嫁さんたちに選んでもらう。

 アイアンクロー機はあまり人気がないのか。危険なメロンなんていいと思うけどなあ。

 え? 腕がガトリングガンになってるのも駄目なの?

 ピンクなのになんでブルーと当時悩んだヒロイン機も、誰も見向きも……あ、ヨーコが手にとって悩んでいる。色が気に入ったのかな?

 

「もっとこうキラキラしたのがいいの!」

 ATになにを求めてるんだ、沙和よ。

「それならウチが改造したる!」

 真桜のモデラーレベルも上がってるから大丈夫かな。

 別に改造しないでもイメージさえ籠っていれば成現はできるけど、改造してた方がイメージも固めやすいだろう。

 

 他に器用そうなのは……。

「春蘭は、華琳柄の痛UHにするつもりか?」

「そ、そんなわけがなかろう! 戦場で汚れるのだ、できるわけがないではないか」

 そりゃそうか。

 

 明命は悲しそうな顔で選んでいる。

「犬ばかりなのです。お猫様の名を持つのはないのでしょうか?」

「亀や熊はあるけど、猫科はなかったかな……」

「残念なのです」

 ドイツ戦車なら猫科が多いのに。

 ここは一つ、適当に猫っぽい機体をでっち上げようか。丸顔のドッグ系なら意外とネコミミも似合うかもしれん。

 

「私はこの二つ眼が気に入りましたぞ」

 星の見ているのはパープルベアー。スコープドッグのカスタム機でATには珍しいステレオスコープが特徴だ。

「これならば仮面をつけることもできる」

「ああ、AT標準のターレットレンズじゃ仮面は無理だもんね」

 家庭用の恋姫†夢想を嫁さんみんながプレイ済みだから、星が華蝶仮面だってみんなにバレてしまっている。開き直ったのか星も隠そうとしなかったり。

 

 そんな感じで嫁さんたちの機体選びを眺めていたら1/12サイズのスコープドッグを持っているレーティアに聞かれた。

「これはちょうどいい大きさだな」

「え?」

「マインの機体にする」

 よく見ると操縦席にマインがおさまっている。ああ、サイズ的にはそんなもんなのか。俺もあれには色々乗せたなあ。

「成現する?」

「いや、私が作ろう。完成品に不満があればその時に頼む。そんなことは万が一にもないだろうがな」

 イックスさんの時に小さい部品を作る機材もできているから作れるのか、すごいなレーティア。どんなのができるか楽しみだ。

 でもどうせだったら人間サイズのロボをマインが操縦できれば、さらにそれで戦闘できたり、UHを操縦できるんだけどなあ。1/1のフィギュアがあれば成現するんだけど……蘭妻と勘違いされそうだから絶対に手出しできない領域だよ。

 

 

 ある程度みんなの機体が決まったところで気になっていたことを聞いてみる。

「あとさ、いい加減この開発部にも名前がいるんじゃない? いつまでも開発部ってだけ呼んでいるのも変かなと」

「ならば……ヴェルンドじゃな。フレイの勝利の剣を作った鍛冶師の名じゃ」

 古ドワーフさんは北欧神話にも詳しいのね。UHのネーミングも彼らが考えたのかな。

 

「そいつって闇エルフ(デックアールヴ)じゃなかったっけ? まあいいけど」

 チ子は首を捻ったが、あまり興味はないらしい。デックアールヴってドヴェルグ(ドワーフ)だったような。

 でもチ子と同じく他のエルフからも苦情や代案は出なかった。エルフの老人たちがいたら違ったのかな。

 

「他に案がなければそれでいいですわ」

 ワルテナがみんなの顔を見回して……。

「ないようなので、以後開発部はヴェルンド工房と名乗るのですわ」

 まあ、『666開闢の間開発部』なんて門構えが続く名前よりはマシか。

 工房となっている工場がある2面の主が決定したので誰も文句はないだろう。

 

「名前を考えるのって大変だよな」

 みんなの機体ができたら、パイロット名+カスタムで決めた方が楽そうだ。

「なに? 子供の名前をつけるのでも想像したのかしら」

 華琳に言われて考えてみる。……嫁さんの人数が多いから、子供もたくさん生まれるだろう。かなり大変そう。

 それに、恋姫嫁さんたち風にするなら、(あざな)や真名まで付けなくちゃいけない。

 うわ、今の内から考えておかないとまずいな。思いついたらすぐにメモをとっておくようにしないと。

 

「いつ生まれてもいいようにしておこう」

「作る気まんまんだね。早く煌一さん担当の世界も救済したいな」

 子作りの作業でも浮かんだのか赤い顔の桃香。

 そうなんだよな、彼女の願うように担当世界の救済が完了しないと使徒や契約したファミリアは子供ができないんだった。

 

 そろそろマジで担当世界の救済を考える時なのかな。

 

 


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