真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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12話 スカル小隊

 アパートに戻った俺は帰ってくる2人のために食事の準備。

 大部屋キッチンの冷蔵庫にこんなにも食材を用意しているということは、彼らのどちらか、もしくは両方が料理をしているということなんだろう。迂闊なものは作れない。

 帰還祝いとして張り切って料理することにする。拳銃安く売ってもらいたいしね。

 帰宅時間がわからないから早めに作っておく。冷めずに保管できるスタッシュって本当に便利だ。

 

 メニューなんにしよう?

 うーん。やっぱり揚げ物かな。

「から揚げが嫌いな男子なんていません!」

「いきなりなに?」

 好き嫌いや苦手なものがわからないから不安になって、つい口に出しちゃっていたか。

 

 華琳ちゃんの成現が解けるのは夜半。今は料理を手伝ってもらってる。

 俺の貸したエプロンが大きめで、余計に華琳ちゃんを小さく見せてお手伝いする娘さん感を演出している。可愛いなあ。

「この包丁は使いやすいわね」

 から揚げの準備として鶏肉を食べやすい大きさに切ってくれてる華琳ちゃん。

 カロリーを気にするおっさんとしては胸肉を使いたいところだが、もも肉の方が美味しいから揚げになるのは確か。なので、両方用意する。

「それは出刃包丁。魚を捌くための包丁なんだけどね、肉を切るのにも便利」

 出っ歯の人が発明したって本当なのかね?

「胸肉の方は皮を剥いて、脂身を落とすのね」

「うん。皮の方は後でパリッと焼くから、捨てるのは脂身だけだよ」

 魚焼き用のグリルで焼けば簡単にできる。余計な油も落ちるし、塩コショウするだけで鶏皮チップスもどきに。酒の肴にいいんだよね。

 

 切ってもらった鶏肉はタレをもみこんで少し置く。生姜は使わない。醤油におろしニンニクだけをたっぷりと入れたパンチ重視のタレ。

 次はフライドポテトにするためにジャガイモを細切りに。

「芽のとこは毒があるから残さないようにね」

 切ったジャガイモは水にさらす。揚げるのにおかしいと思うかもしれないが、こうした方がカラッと揚がる。揚げる前に水をしっかり切らないと油はねが凄いのでちょっと怖いのが難点だけどさ。

 他にも人参、サツマイモ、カボチャを切って粉を用意して、準備完了。

 

 中華鍋に油をはって揚げ物開始。

「ポテトはこんなもんでどう? 熱いから気をつけてね」

 揚げたてのフライドポテトに軽く塩を振って、華琳ちゃんに味見をしてもらう。

 俺自身は猫舌なので味見は無理。

「ふむ。美味しいわね」

 よかった、気にいってくれたようだ。

 揚がったのは皿ごとスタッシュに入れて、次々と揚げていく。

 

 

 揚げ物がおわり、サラダもできてしまった。

 調子に乗ってデザートに牛乳かんも冷蔵庫で冷やしてある。あの保存魔法がかかっているっぽい冷蔵庫で固まってくれるかがちょっと不安だったが、ちゃんと固まっていた。傷まないだけで凝固とか凍結はするっぽいな。

 それでもまだ2人が帰ってこないため、彼らの分以外を小分けして先に夕食をとった。

「ふらいどぽてとも良かったけれど、このいも天もいいわね」

「はい、お茶」

 イモ天も美味しいけど喉が渇くからね。俺のとこから持ってきた玄米茶を淹れて渡す。

「面白い香りね」

「揚げ物にはビールが合うんだけどね。それは涼酒君たちが帰ってきてからね」

 お祝いだし、乾杯したい。

「びいる?」

「麦のお酒。まあ俺のとこにあるのは正確には発泡酒なんだけどね」

 そんなに本数もないから何本かは百貨店に売却して、入荷してもらった方がいいかもしれない。

 マニュアルによると、百貨店のサービスセンターで買取った物で、珍しくない品は品切れにならないとのこと。

 入手した世界でレアな物や高い品は買取った数しか入荷しないらしい。

 

「その手引書、私が読めればね」

「すぐに読めるようになるさ」

 消耗品を売りに行く、とメモをとりながら答えた。

 赤箱にはマニュアルとして薄い本が2冊入っていた。『プレイヤーの書』と『マスターの書』である。

 この内、マスターの書の方は俺にも読めない。というか開かない。あくまで俺はプレイヤーということなんだろう。

 プレイヤーの書の方はといえば、薄いわりに情報量が多い。見た目よりもページ数があるようだ。問題は索引がイマイチなので、目標のページが探し辛いといったところか。

 

「やっぱりコンカは買わないと駄目か」

 俺がマニュアルで調べていたのはコンビニエンスカードの入手方法。華琳ちゃんやヨーコの分がほしい。

 便利だし、使っているだけでシステムツールのスキルレベルも上がる。

「値段が書いてないんだよね。サービスセンターに行かないといくらなのかわからない」

 俺の固有スキルで作ることできないかな? 厚紙かプラ板を同じ大きさに切って穴も開けて……明日試してみよう。メモに追加する。

 

「明日の予定?」

 俺の手元を覗きこむ華琳ちゃん。

「うん。君たちが人間でいられる時間が長くなったから、その空いた時間のMP強化のためになにを成現させるかとかさ。そのためにはEP籠めなきゃいけないしね」

「この小隊編成というのは?」

 漢字なら読める華琳ちゃん。メモの1行を指差す。

「さっきマニュアル見てたらあったんだ。小隊編成するとね、共有スタッシュが使えるようになるみたい」

「共有すたっしゅ?」

「うん。同じ小隊の隊員なら相互に出し入れ可能なスタッシュ」

「それは使えそうね」

 かなり便利だと思う。スキルが個人用のスタッシュエリアと別スキルだけどシナジーはあるみたいだし。

 

「さらにプレイヤーが小隊長になっている小隊はそのファミリアの鍛錬度、熟練度も上がり易いらしい」

 ステータスがアップして強くなるんじゃなくて、強くなりやすいってのはブーストの効果としては微妙じゃない?

「それなら早く編成した方がいいんじゃないかしら?」

「そうなんだけどね。……いい名前が思いつかない」

 赤箱内にあった小隊編成用の用紙には『第49初期本拠地荘203号室第1小隊』という長い上にどうでもいいパーティ名が用意されていた。こんなデフォ名は使いたくない。

「煌一親衛隊でいいでしょう?」

「なんでそうなるの?」

 ネオアメリカ代表のサポートチーム風に煌一ギャルズよりはいいかもしれないけど。

「小隊長は俺だからね。親衛隊に本人が入ってるのも変でしょ」

「それもそうね。なら、煌一小隊ね」

「俺の名から離れて!」

 宇宙ガエルの小隊じゃないんだからさ。……軍曹か。成現してガンプラ談義したいところだ。候補に入れておこう。

 

「チームメンバーは華琳ちゃんとヨーコなんだから……」

 ドリルズ――華琳ちゃんはドリルヘアーといえなくもないけど、ヨーコが直接ドリル使ってたわけじゃないしなあ。

 有名な部隊名からパクるか。

 スカル小隊――華琳ちゃんもヨーコも髑髏の髪飾りだから問題ないな。とはいえ、そんまんまってのもあれか。

「スカル……スケルトン……いや、髑髏小隊でいいか」

「ふふっ。悪くないわね。でも、あなたがそんな名前をつけるとはね」

 後でマクロスのDVDを見せてあげよう。全シリーズおさえてあるからさ。

 

 ……どくろって漢字でどう書いたっけ? ドクロ小隊ってカタカナだとなんかビミョーだから漢字で書きたい。

 辞書を引っ張り出して調べる。ああ、こんな字だったか。

 まだ使うかもしれないから辞書はスタッシュに収納して、今度は赤箱から用紙を取り出しパーティ名と隊長名を記入。ペンとともに華琳ちゃんに手渡した。

「ここに名前を書けばいいのね?」

 華琳ちゃんが名前を書いて小隊結成。

 どこか変わったかよくわからないので、華琳ちゃんのお茶のお代わりを共有スタッシュに入れてみた。

「ふむ」

 説明する前に意図を汲み取り、華琳ちゃんが共有スタッシュから湯飲みを取り出す。

「これは便利ね」

「うん。ただ、小隊はゲートやポータルで全員いっしょに移動しちゃうみたいだから、前線への補給が楽になるってわけではないかな」

 数名残して出陣して楽に補給ってわけにはいかないらしい。

 

「ヨーコには後で入ってもらいましょう」

「そうだね。契約してくれるといいなあ」

 ヨーコのフィギュアはスタッシュではなく自宅に保管してある。ちゃんと夢で会えるといいけど。

「本当なら私が彼女を欲しいぐらいよ」

「そっ、それにしても……あの2人、遅いなあ」

 なんか変な方向に行きそうだったので誤魔化す俺。

 早く帰ってきてほしい。

「今日は帰ってこないんじゃないかしら?」

「どうなんだろう」

 メールしてみたけど、返事もないし。

 せっかく張り切ったのになあ。

 なんだか、誕生日パーティの準備をしたのに誰もきてくれなかったような気分。華琳ちゃんがいてくれてよかった。

 

「まあ、スタッシュのおかげで料理は冷めないし、無駄にならないから」

「びいるは帰ってくるまで待つことにしましょう」

 あ、華琳ちゃんも呑みたかったのかな。

「今日はもう風呂入って寝ようか」

「そうね。まだ時間はあるから今日はゆっくり入れそうね」

 華琳ちゃんの成現はあと2時間くらい時間があるはずだし、風呂はもう沸いた。

 湯沸かし器、俺のとこにもこのアパートの壁面にもないんだけど、どうなっているんだろうね?

 

「お先にどうぞ」

 レディファーストというわけではないが、一番風呂を譲る。

「あら、今日はいっしょに入らないの?」

「も、もう使い方おぼえたでしょ?」

 恋人でもないのに混浴なんて拷問に等しい。

 見るだけで我慢できずに暴走して嫌われたくない。

 

「私は煌一のモノなんだから好きにしていいのよ」

 華琳ちゃんが誘うようなことを言うのは、ヨーコを成現しちゃった影響なんだろうな。

 俺のことを好きになってくれた、って理由じゃない。それが悔しくてつい、聞いてしまう。

「じゃあ、俺の恋人になってくれる?」

「……別にかまわ」

「ごめん、今の無し!」

 口に出してから瞬時に後悔。だから華琳ちゃんが了承しそうなのを最後まで言わせなかった。

 

「私では不満だと言うの?」

「不満なんて一つもない。俺と普通に会話してくれる女の子なんていなかったし、ちっちゃい背もちっちゃいおっぱいもすごく好き!」

「小さくて悪かったわね」

 褒めてるのに。……頬を染めているところを見ると照れ隠しかな?

 

「でも、弱みにつけこんで、ってのは俺の思い描いてる恋人となんか違う! 甘酸っぱくない!!」

 結婚はしてみたいけど、愛のない結婚はノーサンキュー。そんなことになったらストレスで胃に大きな穴が開く自信がある。

「……その歳で思春期?」

 呆れられました。いや、気持ちはわからんでもないけど。

「おっさんだって青春真っ盛りなんだよ」

 むしろ、華琳ちゃんと出会えてやっと俺の青春が始まったって言いたいぐらいだ。

「恋に恋する……私の見立て以上に煌一は乙女だったのね」

 おっさんを乙女とかやめて下さい。あっちの漢女を思い出しちゃうから。

「お風呂が冷めちゃうからもう入って!」

 

 

 ボディシャンプーの使い方を教えたせいか風呂上りの華琳ちゃんからはすっごい良い匂いがした。俺が普段使っているもののはずなのにこの違いはなんでだろう?

「はい」

 ほんのり色づいた肌の美少女にドキドキしながら、よく冷えた麦茶をグラスに注いで渡す。

「気が利くわね」

「湯上りに水分補給は定番だからね」

「そうなの?」

「ビールも捨てがたいけど、銭湯で湯上りに飲むフルーツ牛乳は最高だよ」

 ここにある銭湯にも置いてあるといいなあ。

「銭湯?」

「大きな公衆浴場。みんなを助けたら行ってみようね」

 ぬいぐるみを救助して人数増えてきたら、ここの風呂だと入りきらないし。

 というか、まず住環境を考えないといけなくなるなあ。このアパートの空き部屋、使わせてもらえると助かるんだけど。

 

「ぬいぐるみを集める方が先か。人間に戻すのは住むとこのあてができてからで」

「そうね。皆を助けて。お願いよ」

 もちろん助けるよ。華琳ちゃんの好感度アップのために!

 みんなを助けたらその時こそ華琳ちゃんに正式に告白しよう。

 もしも、ふられたら……どうしよう? 自殺したくなるぐらいに落ち込むだろうなあ。死んでも復活するけどさ。

 回復ベッドで精神異常も回復できるからなんとかなるか。その頃には回復ベッドも有料になっているはずだから、回復分のGPを用意してから告白しよう!

 俺は、ふられることも予定内の告白という自分でもネガティブなんだかポジティブなんだかわからない決意をしたのだった。

 でも、ふられた後も考えられるのって、ヨーコも俺と普通に会話してくれたからちょっと余裕ができたってのが大きいんだろうなあ。

 

 

「ここが契約空間?」

「うん。上手くいったみたい」

 枕元、目覚まし時計の隣にヨーコのフィギュアを置いて寝たせいか、無事に契約空間へくることができたようだ。

 さらに隣にぬいぐるみとなった華琳ちゃんも置いていたのだけど、そのちっちゃい姿がない。契約完了したら、もうここにはこないのだろうか。

 

 ヨーコもフィギュアではなく人間状態だった。一度成現したせいだろうか。

「本当になんにもないのね」

「うん。布団だけ」

 ベッドで寝てるはずなのに、ベッドはなくて布団だけ。布団はいらない気もするんだけどな。

「あ、あと、これもあるか」

 やっぱり布団の下にファミリアシートがあった。

 それをペンとともにヨーコに渡す。

 

「……あたしね、やっぱり人形だったみたい」

「もしかして、フィギュアになってからも意識があった?」

 無言でこくんと頷くヨーコ。

「気にすることないよ。俺なんて普通の人間だったのに、使徒なんてわけのわからないものにされちゃってるし」

「……あたしの記憶もこの想いも作り物だった」

 うっ。ど、どうフォローすればいいんだろう?

「で、でもそれはヨーコにとっては本当の事なんだから……というか、作り物だっていいじゃないか!」

「え?」

「たしかに今までのことは作り物かもしれないけど、そんなのは小さいことだから! これからのことは違うから!」

 俺だって神様の作り物かもしれないし。

 

「これから?」

「華琳ちゃんの仲間を全員助ける!」

「その後は?」

 華琳ちゃんに告白して、たぶんふられて落ち込んで、回復ベッドで心の傷を癒して……。

 ……その後どうしよう?

 

「わからない。俺が担当だっていう世界がどんなところかもわからないから、それ次第」

「ずいぶん行き当たりばったりね」

「力を貸してくれないかな? 君が必要なんだ」

 これでヨーコに断られちゃったら、華琳ちゃんは安心するかもしれないけど怒るだろうし。

「後半だけ聞くとプロポーズしてるみたいね」

 えっ? ……本当だ。君が必要とか言っちゃってるよ、俺。

 

「ふふっ。真っ赤になっちゃって。初心なおじさんなのね」

「おっさんをイジるのはやめて!」

「はいはい。……いーわよ、ファミリアになってあげるわ」

「いっ、いいの!?」

 ヨーコを見つめる。

 真顔の美少女。どうやら冗談じゃないらしい。

 

「人形に戻っても意識があったって言ったでしょう。ずっとあのまま動けないなんて耐えられないわよ」

 ああ、なるほど。それは確かに苦痛かもしれない。

「今は時間制限つきだけど、いずれGPが貯まったらずっと人間でいられると思う」

「それを信じるしかなさそうね」

 名前を書く場所を教えると、そこに記入するヨーコ。グレンラガン世界の文字らしかったが、記名が終わると問題なくファミリアシートの空欄が埋まった。名前にはカタカナでフリガナが追加されていた。

 

「これがあたしの能力ねえ」

「銃とか狙撃のスキルが充実してるね。あとガンメン操縦もちゃんとある」

「ふーん。ガンメンがあればいいけど」

 そんなハードな世界はちょっと。いや、巨大ロボは男のロマンだけれども。

 

 あと、気になったのはヨーコの固有スキル。

 その名も『キス・オブ・クライマックス』。名前だけでなんとなく効果がわかってしまった。

 さすがヨーコと苦笑するしかないよね、これは。

 というかさ、スキルなの?

 本人に説明はしないでおこう……俺には無理だよ、教えるの。

 

 


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