屋敷に帰宅後、夕食の前に昼寝。
もちろん休憩のためではなく、救出したぬいぐるみたちとの会話のためだ。
夜の就寝時は、嫁さんたちとの新婚性活を見られたくないので後回しにしていた。ぬいぐるみたちは俺の部屋ではなくそれぞれの君主や近しい者に預けてる。
「これが……?」
疑似契約空間で周瑜ぬいぐるみを前に孫策が震える。
たぶんどちらも同じ無印恋姫世界の出身なはず。親友で愛する周瑜のこんな姿を見れば動揺もするのだろう。
「雪蓮は無事だったのか」
「冥……琳……」
座り込んで俯いたまま震える孫策。泣いているのだろうか?
「笑いたければ我慢しないでいい」
親友の台詞の直後、孫策はいきなり大爆笑。
「ちょっ、ちょっと冥琳、なにこれ? 可愛すぎるわ!」
周瑜ぬいぐるみを抱きかかえて笑い続ける孫策。
あれ? 無印の孫策もこんな性格だったっけ?
「やだ、笑いすぎて涙が出ちゃった」
そう言っているが、はたして涙の理由はそれだけかな。
「人形が煌一の能力で人間に戻るのはここから見ていたけれど、人形のままでも動けるのね」
華琳ちゃんも興味深そうに他のぬいぐるみたちを観察中。
カードの2人はちゃんと元の姿に戻っているのに、ぬいぐるみはそのままなんだよなあ。カードのまま喋られても微妙だけどさ。
ぬいぐるみたちも1度途中まで
「ああ、周瑜を戻すとしたら設定改竄で病気の治癒もしないといけないか」
「病気? それどういうことよ!」
「……詳しくは華琳ちゃんに渡したビニフォンで恋姫やってくれ」
華琳ちゃんはもうプレイ終わってるはず。渡した勉強用の本も読み終えてて暇だって言うんで、痕といっしょに渡してあるんだよね。
「雪蓮に貸すのは構わないわ。そのかわり、他のげーむをよこしなさい」
むう。そんなに暇なのかな。
スタッシュから液晶モニタ、各種ゲーム機、DVDプレイヤー等を取り出し接続を開始する。
「それはてれび?」
「うん。電源は……」
レーティアが開発してくれた。マインがコンセントのないところでも充電できるようにってね。けどすぐに改良型や他の方法を確立したので、試作型のこれは俺が貰ったのだ。
「使い方は……あっ」
取扱説明書を華琳ちゃんに奪われた。
「あなたたちが使うのを見ていたからだいたいわかるわ。不明点もこれがあればいいのでしょう?」
「まあ、そうだけど」
辞典とかも渡してあるからだいじょうぶかな。
ならばと、ゲームソフトとDVDソフトもいくつか取り出す。みんなで観ようと思って用意していたのだけど、今はリュウケンドー観てるからね。
「冥琳たちはまだ戻せないの?」
華琳ちゃんがゲーム機を操作するのを横目で見ながら孫策が質問する。
「うーん、本拠地もグレードアップしたからそこで暮らしてもらうってのもできないわけじゃないけど、俺の嫁さんの冥琳と接触したらカードになっちゃうんだよなあ」
「貴様の嫁?」
あ、ぬいぐるみ周瑜に睨まれた。ぬいぐるみなんでよくわからないけど、たぶん睨まれた。
「なんかねー、私たちの世界とそっくりな世界が他にもあってね、外史だっけ? そのそっくりな世界の冥琳の夫なんだって」
「そっくりな世界……」
「しかも、冥琳だけじゃなくて蓮華やシャオに穏、思春、それに大喬ちゃん小喬ちゃんと私も妻にしてるようよ」
「馬鹿な……」
そんなに驚く……のも当然か。
俺だって信じられなかったもん。
うん。今はもう、みんなの大切な初めてを貰ったから嘘やドッキリじゃないのはわかっているよ。
「そうれがさあ、こいつと結婚したのが私のそっくりさんのせいだっていうらしくてね」
「ああ、それならばわかる」
指のない手で眼鏡をくいっと持ち上げようとする周瑜。眼鏡のパーツは接着されているので動かないんだけどね。
「そっくりな者とはいえ、伯符が苦労をかけているようだな」
「いや、助けられてるよ。雪蓮にもみんなにも」
俺1人だったらトウキョウ解放もできなかっただろう。
固有スキルが便利だけど、俺自身は戦闘であまり役に立ってない。スーパーロボットができたら活躍……できるといいなあ。
俺のビニフォンで映像を立体表示しながら、現状を孫策とぬいぐるみたちに説明する。
「干吉と左慈。その2人の道士によって我らはこのような姿にされたのか」
「うん、ほぼ間違いないんじゃないかな」
「仙術だか妖術だか知らないけど、ろくなことしないわね」
俺もぬいぐるみにされたけど、気づいたらぬいぐるみになっていたんだよね。回復ベッドでも治らないから状態異常ではないみたいだし。
ぬいぐるみが本当の姿になっているみたいだから、ぬいぐるみ限定の設定改竄?
どんな手段でぬいぐるみ化してるかがわかれば、俺の固有スキルで元に戻す装置とか作れるかもしれない。今はまだうまくイメージできないから無理だけど。
「煌一殿に救い出してもらったことはわかった。礼を言う」
頭を下げるぬいぐるみたち。
「うん。早く元に戻してあげたいんだけど、もうちょっと待っててね」
異世界の同じ存在同士が触れ合うと弱い方が消滅してしまう。ファミリアやその候補なら消えずにカードになるけど、カードからの復活はGPがかかるんだよね。
幸い、俺のファミリアは死んでカードになっちゃったことがないんで、復活にいくらかかるか不明なんだけど安くはないだろう。能力値によって復活代も変わるらしいし。
「触れ合っただけで札になるって本当なの?」
「ええ。私自身が体験したわ」
無印恋姫の曹操である華琳ちゃんは、真・恋姫の華琳と接触してカードになってしまった。
あれ? 契約してないファミリカードでも復活代取られるんだろうか?
でも、ゲームコーナーの景品にもファミリアカードがある。景品を使うのにさらにGPを消費しなきゃいけないってのはおかしい。
……ビニフォンでAAAのマニュアルを確認してみる。
ふむ。契約してないファミリアカードの場合、契約時の復活は無料、か。契約してない時はGPはかかりそうだな。それとも契約してないと復活できない?
書いてないな。ワルテナにでも聞いてみよう。
「それは危険ね」
「俺たちは普段
ゲート承認アイテム、けっこう高いんだよ。登録した人間しか使えないから、一時的に貸与することもできない。成現できないかな。
「他の世界? その本拠地というのはどんなところなんだ?」
「華琳ちゃんと孫策は見たよね、あの大きな旅館だよ」
「あれが旅館? 城じゃなかったの」
驚いた顔の孫策。古代中国の人間からしてみればグレードアップした新本拠地はお城レベルなのかもしれない。
「大きくて綺麗で……料理もお酒も美味しそうだったわね」
「あの時は完成祝いだったから。少し貰ってきてるから話がおわったら出すから」
あとで両さんにも持っていってあげないと。
彼とはロボの話もしたい。
「本拠地は大きくて綺麗なんだけどね、他のとこがまだまだでね。最近やっとモブ……市民がきたぐらいだし」
「どんなとこなのよ?」
「簡単に言えば、あの世?」
正確には違うけど、モブさんたちはトウキョウで浄化された魂たちみたいだから、似たようなものだろう。
「それはさすがに……」
ぬいぐるみたちもあの世には行きたくないようだ。
「平和なとこならあの世でもかまわないけど、大喬ちゃんと小喬ちゃんもそっちにいるんでしょ。会えないのは嫌よ」
「それなら合成という手段もあるわ。異世界の自分と合成すれば、触れて消えることに怯えなくてもすむ。力も強くなるそうよ」
華琳ちゃんの説明に孫策やぬいぐるみたちが揺れる。
「合成ってのは2人が1人になっちゃうんだ。記憶は2人分のを持ってるみたいだけど、結局、1人が消えるってことだよ」
一刀君の話だと、合成前の2人には戻れないらしい。フュージョンじゃなくてポタラによる合体と同じだ。
「ふぅん。それなら合成する前に1度戦ってみたいわね。そっちの私と」
「強いわよ。私と同じように鍛えられているのなら」
華琳ちゃんもカードになる前に華琳と戦っているんだよな。それで、力の差を知って負けを認めたんだっけ。
ファミリアは成長しやすいからね。さらに鍛錬も欠かしてないし、雪蓮は
だいたいにして無印開始前の孫策と、漢ルート終了時っぽい雪蓮じゃファミリアでなくてもレベルが違うと思う。
「それは楽しみね。そっちの私なら
「蚩尤がどんなやつかわからないけど、負けるつもりはないよ。そのために準備もしてる」
嫁さんたちをこの孫策のように死なせるわけにはいかない。
「ああ、あの絡繰巨人ね。あれがあれば戦える、かな?」
疑問系か。蚩尤どんだけ強いのさ。
……刑天を配下にしてるんだから、あれより強いのかな。
AT、じゃなかったUHを早くみんなの分、用意しておいた方がよさそうだ。
「雪蓮、本当に合成するつもりなの?」
「ええ。大喬ちゃんを自分と取り合わずにすむじゃない。冥琳も合成しましょ」
「……ならば、まずは私からだ。それで合成がどんなのものか確かめる」
「ちょっ、勝手に話を進めないでよ。俺は嫁さんたちに合成なんてさせたくない!」
どっちかがいなくなるなんてのは嫌なんだってば。
「そう言われてもな。伯符はやる気のようだ」
「もちろん!」
くっ。どうしたものか。
お酒で誤魔化されてくれないかな? 合成しなければ2倍も呑めるでしょって。
「すまない。恩人を困らせるつもりはない。煌一殿の妻であるという私たちと話してみてはくれないか。彼女たちが駄目だというなら伯符も諦めよう」
「……わかった。聞いておくよ」
雪蓮は1秒で了承しそうだし、そうなると冥琳が安全確認のためにって、自分から合成しそうなんだよなあ。
食事ができたと月ちゃんに起こされた。
「あれ? 詠は?」
いつもなら俺の部屋にくる時は栄もいっしょなのに。月ちゃん1人だと俺がなにをするかわからないってさ。月ちゃんも俺の嫁さんなのに。
「詠ちゃんは……不幸が溜まったって部屋から出てきてくれないんです」
「不幸って、MP消費して溜まった不幸を消せばいいのに。……信じてくれてないのかな?」
「信じています。詠ちゃんもそのスキルをちゃんと使ってるんです。……でも、もし煌一さんに貰ったスキルを使っていても不幸が起きてしまったらって」
「考えすぎじゃない?」
軍師ってのは悪い方向に考えるもんなんだろうか。
「それでみんなに迷惑がかかってしまったら、きっと煌一さんに文句を言ってしまうって。詠ちゃんはそれが嫌なんだと思います」
文句を言うのが嫌って……いつも詠には怒られてるから気にしないのに。
夕食後、リューケンドーのDVDをみんなで観る。詠はいない。食事も1人だけ自室で食べたらしい。
「だいじょうぶでしょうか?」
文も心配している。月ちゃん、詠とともに家事の担当が多くて仲もいいからね。
「無理に引っ張り出した方がいいのか、それともそれは逆効果なのか……」
俺自身長いこと引きこもりだったんで無理に押しかけるのは気がひける。
でも、不幸は起きないって証明した方がいいし……。
「せめて口実があれば話もしやすいのに」
武将だったら、専用UHのプラモが完成したって押しかけるんだけどなあ。
「それならちょうどいい」
振り返ると、梓が腕組みしてドヤ顔していた。
「なんの用よ?」
俺を睨む詠に梓が教える。
「初夜の当番だよ」
「えっ、ボクたち今日だっけ?」
「ああ、朱里と雛里たちだったんだけど、詠美がなにか相談があるらしくてね、順番を交代したの」
詠美ちゃんは朱里ちゃん、雛里ちゃんと遅くまで話をしていることも多い。生徒会の選挙がらみで忙しいみたいだからそのことだろうか。
「ボク聞いてないんだけど。他の娘と代わって」
「みんな忙しいみたい。自分のロボにEPをこめないといけないからね」
梓の言うように渡されたTOYにEPを籠めている娘も多い。EP消費しすぎてる嫁さんがいないか注意しないと。
「詠ちゃん……私、まだ待たないとだめなの?」
「月……」
うつむいた月ちゃんにたじろぐ詠。
「お願いします。人数が少ないと不安で」
文、その説得はおかしい。普通は2人だけでするもんでしょ。
「そうだよ。このままだと月が壊れちゃうかもね。煌一、獣だからさ」
俺、ちゃんと気を使うよ。手加減するってば。
詠が心配なんだろうけど、いくらなんでもあんまりじゃないか梓。それは説得じゃなくて脅迫だよね。
「……わかったわよ」
「ありがとう詠ちゃん!」
月ちゃんが詠に抱きついて、今夜の当番が決まった。
「不幸はなくなってる……のよね? 身体は辛いんだけど」
ジト目で俺を睨む詠。
「幸福の痛みだよ、詠ちゃん」
言葉どおりに幸せそうな表情の月ちゃん。
「たしかに幸せだけど……この人数でよかった」
文も疲労の色が見えるな。
「まったく、手加減しろってば。何度も何度も復活して」
すまん梓。昼寝したから、いつもなら眠くておわる時間でも頑張っちゃった。