真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

121 / 137
120話 聖女

 普段はゾンビタウンから出てこようとしない、ゾンビにされてしまった元住人たち。

 力が増す満月の夜だけ異世界魔族に誘導されゾンビタウンを出て周辺地域を襲う。

 たぶん、経験を積んで進化してスケルトンやキョンシーになるために。

 

 その満月の戦いが間近に迫っているのだが、困ったことになっている。

 原因はこの前のペキンでの戦い。

 ゾンビの上位種と見られるキョンシーが発生しているのでペキンに兵が侵入しないようにとのこっちの要請を無視し、中国軍はペキンへと侵攻した。

 そして返り討ちにあって、今度は中国政府からニホン政府を通して俺たちに支援の要請。

 俺たちは、いや俺は行けなかったけど使徒とファミリアたちはそれを受けて中国軍の撤退を手伝い、さらには強敵である異世界魔族の刑天を撃破した。

 

 この時の戦い、隠形を使ってたせいかみんなは映像としては残らなかったけど、現場にいた中国軍兵士や潜り込んでいた各国のスパイが目撃。

 隠形スキルは機械には完全に映らないが、それ以外には存在感が薄くなって見つかりにくくなるスキル。影が薄くなるだけで透明人間になるわけじゃないから見ることはできるんだよね。普段はそれで十分なんだけどさ。

 

 で、報告を受けた各国政府が、そろそろ自分の国も助けてくれと言い出した。俺たちの要請を無視して尻拭いをさせた国なんかはほっておけと。

 

「キョンシーの出現で焦っている国が多いようじゃな。ゾンビ映画そのものだからのう」

 キョンシーに殺されると殺された人間もキョンシーになってしまう。たしかに映画のゾンビに近い。光姫ちゃんの言うようにパンデミックを恐れるのも当然だろう。

「聖水の依頼も以前の倍以上になっている。ゾンビタウンがある国だけでなく、隣接する国からも注文がある」

 表情には出てないけど、紫も疲れているようだ。

 

「だからこそ、まずはキョンシーの出た中国からなんとかしたいんだけど……」

「中国と隣接してる北の大国はともかく、アメリアが煩くてな」

 アメリア。名前がちょっと違うこっちのアメリカだ。

 中国と地続きじゃないのと、ゾンビ映画の本場ってこともあってニホン政府への催促が激しいらしい。

 

「もっとUHがあって、みんなが操縦に慣れてたら……」

「そのUHについても情報公開を、あわよくば現物をよこせと言ってきている」

「UHがあっても使徒かファミリアじゃなきゃ異世界魔族は倒せないっての」

 兵器の力だけで刑天を倒したとでも思ってるのかな。桔梗は(アーツ)も使っているのに。

 

「ニホン政府にマインドコントロールされている使徒を救出する、と言い出す議員もいたらしくてな」

「すでにその情報は各国政府へリーク済み。各国が牽制しあってる状況よ」

 対魔忍ってこの世界だと魔族とだけ戦ってるんじゃなくて諜報戦もしてるようだ。ニホン政府直轄の組織だから、そんなこともあるんだろう。

 凛子とゆきかぜちゃんからの情報にため息しか出ない。

「なんだかなあ」

「自国を優先するのが政府よ。でも、私たちの意思を軽んじてるのは許せないわね」

 いろいろ問題のある国だけど、世界も時代も違うけど、それでも恋姫出身の彼女たちには故郷だ。解放を他国の都合で後回しになどしたくはないのだろう。

 

「煌一、早くUHを用意して。誘拐しにくるなら返り討ちにしてやるわ」

「いや、人間同士で闘ってる場合じゃないでしょ」

 雪蓮他、武闘派の嫁さんたちは戦う気まんまん。

 ううっ、無印孫策、冥琳との合成なんて言い出せる雰囲気じゃないな。孫策は人間同士どころか、異世界の自分である雪蓮と戦いたがってるって説明しづらい。

 

「こういうのはなめられたら駄目なのよ」

 わからないでもないけどさ。下手に戦って、人類の敵認定されるのもまずいでしょ。

 多勢に無勢。向こうが本気で攻めてきたらこっちにも犠牲者が出そうだ。いくら死んでも復活できるといってもそんなのは嫌だ。

 

「新本拠地も完成したわ。璃々も行けるようになっている。ここを失っても問題はないわ」

「華琳まで……」

 うちの嫁さん、このまま世界征服でもしそうで怖い。

 ヴェルンド工房でバルキリーの開発始めてもらったの、早まったかも。

 

「ええと、なめられない様にわたしたちがすごいって見せつければいいんだよね? それなら別に戦わなくてもいいはずだよ!」

「そうだ。桃香さまの言われる通りだ!」

 いや、焔耶思いっきり戦いたそうにしてたよね? 腕が鳴るって指ポキポキしてたじゃん。

 

「桃香、なにか考えがあるのか?」

「うん。奇跡を起こせばいいんだよ」

 そんなあっけらかんと。

「そ、そうでしゅね、FXギアやUHのような機械を使用していたしぇいで神のちゅかいとして見れなくなったのかも……」

「桃香さまのおっしゃる通りに奇跡を起こせば私たちが神の遣いだと認識し、自分たちの思い通りになる存在ではないとわかってくれるかもしれません」

 雛里ちゃんと朱里ちゃんに言われてショックを受ける俺。

 ええっ! ロボ駄目なの? 神の遣いっぽくないの?

 

「奇跡って簡単に言うわね。あてはあるんでしょうね?」

「ほら、ペキンで怪我人を治したらみんな、わたしたちを拝んでいたよー」

 ああ、そっか。回復魔法でも十分に奇跡だった。むしろ聖人の奇跡としてはわりとポピュラーじゃないか。

 

「ふむ。いけそうですね。もし印象操作にあまり効果がなくても、回復魔法スキルの熟練度は貯まります」

「だよね!」

 稟の肯定に桃香も嬉しそう。

 たしかに怪我人がいないと回復魔法の熟練度を貯められないから損ではない。スキルレベル上げて、大きな欠損も治せる高位の回復魔法を覚えたいとこだね。

 

「でも、これで完全にみんなの顔が知られてしまうのですよ」

「その辺は既に似顔絵が広がっている」

 風の心配にビニフォンでみんなの似顔絵を表示する紫。隠形で写真に写らないから似顔絵ってことか。

 ……この生意気そうなガキが俺? 眼鏡どこいったのさ?

 

「煌一の顔はいまだに知られていないようだ。だから想像図や実は女性説などが出回っている」

「なにそれ?」

 想像図はないでしょ。あと女性説って……。俺の他は女性ばかりだけどさあ。

「まるで女性週刊誌ね」

「華琳もそんなの読むんだ?」

「胡散臭いとはわかっててもついつい見てしまうんや、あれは」

 霞まで。

 この学園島の美容院にも置いてあるんだろうか?

 

「どちらかといったらオカルト情報誌では?」

「俺たち未確認動物(UMA)扱い? ……アトランティス出身ってことにしたんだっけ」

 使徒だもんなあ。そりゃ想像図にもなるわと穏の意見に納得。

 実際に魔族やゾンビがいるこっちの世界のあの手の本ってどんな内容なんだろうね。

 

「こんな名誉毀損レベルで似てない似顔絵を使われるぐらいなら、完全に公表してしまった方がいいでしょうな」

 星も似顔絵が気に食わないみたいだな。犯罪者の手配書みたいでなんか怖い絵ばっかりだから。

「顔が知れ渡るのはデメリットもあるが、まあ今更じゃ」

「徳河の方は元から有名だからそうかもしれませんが……この人相書きとどっちがマシか悩みますね」

 真留ちゃんは乗り気じゃなさそう。

 俺も有名になるのは避けたかったんだよなあ。トラブルの種でしかない気がしてさ。

 

「今まで以上に個別行動は厳禁になりますね」

「まあ、問題が出てどうしようもなくなったら本拠地で暮らせばいいか」

 できればみんなにはちゃんと卒業してもらいたいけど。

 

「まずは使徒としての活動を全世界に発信しようじゃないかい」

 輝が眼鏡を光らせる。ついでにカメラのレンズも。そういやこいつ、一応、個人レベルだけどマスコミ側か。

「そう。怪我人の治療や満月の戦いを撮影してさあ」

「隠形を切って現場にマスコミを入れるのか。それを条件にして今度の満月戦は中国でってことにして、それを嫌がったら別の国ってすればいいかな」

 記者さんたちの安全は保障できないけどね。自己責任でお願いします。

 

「その分、治療に関しては中国以外の国がいいだろう」

 ビニフォンで世界地図を大きく立体表示させる冥琳。ゾンビタウンのある国が色づいているが、中国の色が消えた。

「既存の宗教の狂信者がこわい国は危険です」

 亞莎の指摘でさらに色がなくなっていく。

 俺たち、そんな連中にも狙われるかもしれないんだ。自爆テロとかは勘弁してほしいな。

 

「アメリアでいいんじゃない? 煩いんでしょ」

 あの国は選挙権持ってる連中を味方にしといた方がいいってのはなんで見たっけ?

「余計な準備できないようにさっさと行って、適当に治療してすぐ戻ってくればいいわ。ついでに拠点の起動やマーキングも済ませましょう」

 適当にって桂花はあまりこの作戦に賛同してないみたい。イメージ戦略よりも先に敵を倒したいのかな。

 

 

 その日のうちにアメリア政府に連絡。対魔忍たちが手配した飛行機でアメリアに移動した。

 準備はこっちの移動時間しか時間がなかったはずなのに、案内された病院には記者がずらりと待ち構えている。

 

「すごいねえ」

 自分たちに向けられるカメラの多さにビビっていたら、華琳が記者たちの前に出て話し始めた。それも英語で。

 華琳、英語も英会話もスキル持ちになってるから不思議じゃないけどさ。軍師たちも複数の外国語をマスターしている。

 俺? テストで赤点もらわないレベルですけどなにか?

 

「まずは怪我人の治療を行う。その後に記者会見を行うから治療中は質問は一切受け付けない。治療の撮影は許可する、だそうです」

 気を利かせた稟が通訳してくれた。

 記者会見かあ……緊張する。

 

 出発前に治療する対象を怪我人だけに指定しておいたので、治療はスムーズにいった。病気の場合は回復魔法とは別の治療魔法ってスキルだからね。

 今回は俺は治療に参加しなかった。嫁さんたちの方が治療した方が絵面がいいでしょ。

 俺がやらなくても、指輪のプールがあればMPが足りないってことはない。

 

「対象者は軍人ばかりのようね」

「民間人でいきなり実験するより、軍人たちでデータを取りたかったのでは?」

 患者を鑑定した華琳と風が隠しもせずに堂々とそんなことを会話している。マスコミさんたち質問はしてないけど、録画や録音してるんだけどなあ。

 隠形は使ってないので録画はできているだろう。後で都合のよいように編集されても問題ないようにこちらも録画はしている。

 

 

 治療は滞りなく終了した。

 怪我人は多かったが、こちらもデモンストレーション第1回目ということでほぼ全員でやってきたからね。

 俺たちが使える回復魔法では欠損部は戻らなかったけど、それでも患者たちは驚きと感謝を見せて、時には祈り、泣き出した。

 

「チョーカーが発動しなくてよかったよ」

 目の前で黒人の患者が桃香の手を持って号泣している。嫁さんたちの身を護るための貞操帯(チョーカー)は欲情したり下心ありの者に反応するが、触れても発動しなかったから彼にはそれがないということなんだろう。

「桃香のことを聖女様って言っているわ」

「わ、わたしが?」

 桃香が真っ赤になってしまった。この赤面桃香は記者たちがちゃんと撮影してて翌日以降の新聞等で使われまくって、焔耶がスクラップに熱中するのだった。

 

 記者会見はなぜか俺は記者たちのまん前に座らされて緊張したが、質問にはほとんど華琳と軍師たちが答えてくれた。直接英語で回答していたから半分くらいしかわからなかったけどね。

 

 この世界は以前の神はもういなく、自分たちは新しい神の遣いだって発表したときは記者たちの反響がすごかった。

 複数の記者が一気に質問してきたため俺は焦り、面倒になって変身魔法を解除して学園での子供から元の姿に戻る。

 記者たちが驚いた隙に、治療中に渡されていたカンペを見ながら英語で発言。

「別に信じてくれなくてもいいし、無理に改宗する必要もない。だけど、邪魔はしないでくれ。俺たちはこの世界を救うだけだ」

 発音は怪しいけど、一応ちゃんと言い切った。そして、すぐにポータルで屋敷に帰ってきてしまった。

 

「ごめん。まずかった、よね?」

 どの宗教だかわからないけど敬虔な信者だろう記者の剣幕、怖かったんだよ。

「いいわ。予定した時間を超過していたし」

「姉者が眠たそうだったからな、問題ない」

 華琳と秋蘭が慰めてくれる。

 

「ボクもなに言ってるのかさっぱりで……」

「鈴々寝ないようにすっごく我慢してたのだ!」

 英語わかんなきゃ退屈だったよね。俺もまん前にいなきゃ寝てたかも。……そんな度胸はないか。どっちかっていうと緊張で意識がとんでいたかもしれん。

 

「最後は翼を出した方がもっとインパクトがあったと思いますよぉ」

 そう言うけど七乃、翼出そうとしたら上半身脱がなきゃいけないでしょ。練習したから子供の姿にならなくても翼だけ出すことはできるようになったけどさあ。

 

「やっぱEPかなり減ってる……」

 ビニフォンで確認すると俺のEPがごっそり削られていた。

「あの程度で?」

「ああいうの苦手なんだってば」

 元ひきこもりに無茶なことさせないでくれ。

 

「注目されるの、気持ちいいよー」

「天和はそうかもしれないけどさ、俺には無理だって」

 アイドルじゃないんだから。

 今はアイテムで呪いを抑えているけど、以前は見られてる時って嫌悪の表情か、もしくは美男子からの熱視線ばっかりで苦手だったんだってば。

 

「お嫁さんたちの前で喋れてるんだから平気でしょ?」

「みんなは俺に気を使ってくれてるし、呪いもかからないから……」

 それでも慣れるまでに無理してた。

 

「見られるのに慣れるよう特訓ね」

「露出調教されそうなんでパスしたい」

 華琳の目が輝いてる。

 街中で歌えとかそんなレベルじゃなさそうだ。

 

 

 成現用の素材を作るからと特訓をなんとか誤魔化して、自室に逃げだした。バルキリーのシミュレーターの模型を作ってるから嘘じゃないんでいいよね。

 アメリア行ってる間に剣士がきたみたいでマダンキーやゴッドゲキリュウケン他も部屋に置いてあった。モブ猫のためにも成現しないといけない。

 ……成現にはEPが不安か。TOY持ちながらDVDを見るとしても今日はパスかな。

 しすたーずに歌ってもらうのは今頼むと俺も歌わされそうなんで駄目だ。あまりの音痴っぷりに嫌われたくないんよ。

 

 マクロスFの棺桶(コフィン)を作りながら考える。

 これ、何台か並べて対戦可能にしたらGP稼げないかな? でもそれだったら通信対戦のゲーム機の大型筐体を持ってけばいいだけか。

 ん? その辺も素材にしたらコスト下がるかな? こっちのアキハバラ行ったときにゲーセンで貰っとくんだったなあ。

 

「なかなか感じがつかめているではないか」

「クラン?」

 ひょいっと肩からクランが顔を覗かせて俺の手元を見ていた。風呂上りみたいでいい匂いするなあ。

 あ、クランならこのシミュレーターも使ったことあるだろうからEPを籠めるのに協力してもらおう。

 

「うむ。ちゃんと作っておってあんしんしたぞ。お前のことだからさらに顔をかくすような仮面でも用意してるんじゃないかとふあんだったのだ」

 ああ、その手もあったか。でもさ。

「それはそれで恥ずかしいでしょ」

「やっぱり仮面は恥ずかしいですよね……はわわ」

 クランといっしょにきていたのだろう朱里ちゃんのため息まじりのはわわが哀愁を誘う。

 華蝶仮面やらされてたのを思い出したのかな。

 

「か、華蝶仮面かっこよかったよ朱里ちゃん」

「はわわ……」

 雛里ちゃん、それ追い討ち。

 もしかしてわかってやってるの?

 

「仮面ね。天狗党のせいであまりいいイメージはないわね」

 詠美ちゃんが天狗の面とか言うとファンディスクの方のエロシーンを思い出してしまう。

 

「この3人はしっかりと勉強してきたからバッチリなのだ!」

「く、クランさん?」

「あ、あわわ……」

 焦る朱里ちゃん雛里ちゃんを後ろにドヤ顔のクラン。

 詠美ちゃんと選挙対策だけじゃなくてそっちにも勉強してたのか。

 

「……」

 無言で作りかけの模型を片付け始める俺。

 EP回復を早めにしといた方がいいよね。

 

 

 

 

 事後、ビニフォンで確認したらEPがかなり回復していた。

 気持ちよかったもんなあ。そりゃ回復するわ。

 そんなことを実感する賢者モードの俺だった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。