真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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121話 実験その2

「やっちゃった……」

 豪華旅館となった本拠地で落ち込む俺を嫁さんたちが慰めてくれる。

「大量破壊兵器扱いされてないといいですね」

「あの程度なら大丈夫でしょう」

「むしろもっとやれ、よ」

 ……慰めてくれてるんだよね?

 

 ペキン付近での満月の戦い。

 以前に倒した刑天は復活してないのか現れず、UHを使うこともなく終わった。

 ゾンビたちを率いてきた魔人らしきモンスターも姿を見せた途端に俺のマジックミサイルの豪雨で瞬殺。1万発ぐらいは当てたかな? まさにオーバーキル。

 

 ……ただ、そこに各国の記者さんたちがいたんだよね。ちょっとやりすぎたかもしれない。どんな記事にされるか心配だ。

 そんなことも忘れるぐらいに異世界魔族の指揮者が脅威だったんだけどさ。

 

「まさかミノタウロスなんかが出てくるとは」

「あれは牛鬼(うしおに)でしょう」

「え? ミノタウロスじゃないの?」

 あいつは人身に牛の頭を持っていた2メートル強の男だった。

 どう見たってミノタウロスだよね。十五夜だったんだから牛じゃなくて兎が出てこいよ、モウ。首切り兎は勘弁してほしいけどさ。

 

 ミノタウロスはよく、オスしかいなくて他種族の女性を襲って孕ませるって種族設定にされてるから過剰に反応しちゃった……。

 いくら嫁さんたち俺のファミリアが担当世界を救済完了するまで妊娠できなくても、そんな目にあわせるわけにはいかない!

 

「いや、蚩尤の眷属だろう。彼の者も牛頭と聞く」

 本当に?

「他にもあんなのがいるの?」

「たぶんね」

 なんてことだ。危機はまだ去っていなかったのか。

 

 ミノタウロスだけではない。ゴブリンやオークも女性の敵な設定が多いんだった。ましてや、柔志郎担当世界(あっち)は『あっぱれ』の他に『対魔忍』も混じってる世界だ。油断はできない。

 他のゾンビタウンで出てきたらどうしよう。ゴブリナだったらいいのに。……華琳が飼うとか言い出しかねないか。

 

「やはり作戦指揮所の用意は急務か」

 スタッシュからある超合金TOYを取り出す。

「それは?」

「アルカディア号。宇宙海賊ハーロックの艦だ」

 もちろん烏賊型ではなく、髑髏艦首型の方だ。華琳もその意匠が気に入ったのか「いいわね」と呟いている。

「海賊船か」

 河賊だった思春も気になるのか、手にとっていじくり回してるな。びっくりして落とされると困るからいきなり鳴らしたりしたけど、それね、リモコンで音も出せるんだよ。

 

「宇宙戦艦よりも異世界への移動が可能な艦の方が便利なんと違う?」

 次元航行艦か。そうなると智子が艦長になりそうだな。コーヒーだけでなく緑茶に砂糖をどばどば投入する方の。

 

「これを方舟にするの?」

「いや、設定サイズは大きいけど、これでも小さいだろうし、俺のMPも足りないんじゃないかな。今回必要なのはこっちの方」

 言いながら取り出したのは付属(オマケ)の機関車のミニフィギュア。

 

「999ッスか!」

「そう。999号」

 銀河鉄道999の主役メカだ。アルカディア号のオマケとして同梱されてたりする。

 さらに収納空間から柔志郎に受け取っていた鉄道模型を出して並べる。

「この2つでニコイチ成現(リアライズ)する」

 機関車を使うって決めた時からこうするって考えてたんだよね。

 ロコモライザーも捨てがたかったけど、あっちは華佗の方が合うでしょ。

 

「銀河鉄道なあじあッスか」

「線路がないとこでも困らないからね」

 飛行可能なら緊急時の退避もスムーズにいくはずだ。

 問題は必要コストだけど……うん、動力車、客車をバラバラに1両ごとならなんとかなりそう。大魔法使いのスキルと、今もまだずっと鍛え続けているからね、最大MP。アルカディア号も成現できる日が近いかもしれん。

 

「それでも今の俺のMPほとんど全部使って1日しか成現できない。さすがは空や宇宙も走行可能な機関車ってとこか。しばらくはこれにつきっきりになるかな」

「煌一の最大MPはまだ増え続けているんだろ、困ることもあるまい。それに客車の方はもう少しコストがかからないはずだ」

 改竄で俺に『大魔法使い』のスキルをくれたと思われるレーティアのおかげだろう。

 

C62形(シロクニ)の999も捨てがたいッスね」

 今さらそんなこと言われても……もう機関車と客車ばらしちゃったよ。

「人工知能の性格考えといてね」

 ばらした999号を柔志郎に渡してお願いする。俺がやっちゃうとアジアって名前から東方不敗な性格になりそうで怖いんだよね。

 ……それはそれでアリか?

 

 

 新聞やニュースで俺たちの本業が報じられると、学園でも騒がしくなった。

 許可のない者が立ち入れない学園島なのでうるさいのは生徒だけだけどさ。

 

「やはり、接触してくる生徒が増えたわね」

「好奇心だけじゃなくて、家や国から命じられてというのも多そうよ」

 留学生もそこそこいるもんなあ。

 慣れているのか華琳や雪蓮は平気な顔してるけどさ、俺は疲れた。EPが激減している。

 相手が学生だろうと、知らない人間との会話はつらい。コミュ障? いえ、呪いのせいで人見知りがちょっと激しいだけです、たぶん。

 

 記者会見でつい元の――おっさんではなく青年の――姿になったのはやはりまずかったのか、あの姿を見たいってよく言われるんだよね。

「もういっそ、徐々に身長伸ばす小細工なんかしないで学園でも元の姿ですごそうかな?」

「次は眼鏡を外してって要求されるわよ」

 華琳の指摘に思わず眼鏡をおさえる俺。

 この眼鏡は魔顔の祝福(のろい)封じのマジックアイテム。外されるわけにはいかない。簡単には眼鏡が外れないような効果と、指輪の方にも祝福封じ追加してるけどさ。

 

「俺の顔なんか見てどうしようってんだか」

「それは気になるんじゃないかと」

「兄さんは多くの女生徒たちから狙われてるんだぜ」

 なにそれ宝譿、初耳なんですけど。

 

「狙われてるってまさか、命じゃないよね?」

「救国どころか救世の天使、それが身近にいるのです。超優良物件なえも……恋愛対象として見られても不思議ではないでしょう」

 稟今、獲物って言おうとしたよね?

 

「俺は既婚者なんですけど!」

「これだけの妻がいるのじゃ。今さら何人か増えたところで、と考えてる娘たちも多いのじゃろうな」

 祭の言葉に頷く嫁さんたち。

「ボクも同級生に兄ちゃん紹介してーって頼まれそうになったよ」

「乙級の子まで?」

 ロリは好きだけどあまり嬉しくないのは気のせい?

 

「ちゃんと断ったのね、季衣。偉いわよ」

「ありがとうございます」

「鈴々も安請け合いするんじゃないぞ」

「わかってるのだ」

 愛紗が鈴々ちゃんに注意してる。俺としてはもっと他に心配な子がいないでもない。

 

「狙われているのは煌一だけじゃない。すでに何人もこれの犠牲になってる」

 チョーカーを指差す詠。

 それの犠牲ってまさか……。

 

「煌一から自分に乗り換えないかって言い寄ってくる男も多いんだよー」

 天和、なんか嬉しそうじゃない?

 でもそうか、俺の嫁さんに告白どころか強引に迫って貞操帯(チョーカー)の防御機能のエジキになってる不埒者もいるのか。

 

「あの記事のせいで聖女とされている桃香さまは特に狙われているぞ。チョーカーが発動する前に焔耶が排除しておるが」

 ニホンのTVや新聞でも聖女扱いされてるもんなあ。

 一見、押しに弱そうで流されやすそうに見えるのもあってターゲットにされているのかもしれない。

 

「わたし、煌一さん以外の男の人とはお付き合いできませんって言ってるのに……」

「あら、それなら女性とはありなのね」

 キュピーンって効果音がして華琳の目が光ったのは気のせいだと思いたい。

 

 嫁さんたちを狙う不届き者がこれ以上現れないようにチョーカーを強化しておこう。孕ませモンスターも怖いしさ。

 結婚指輪も完成させよう。オリハルコンを指輪に加工するのは既にフライタークに発注済みだ。娘たちの分は別のアクセサリーで頼んでいる。あとは石の設定をまとめないと。

 

「ともかく、単独行動は今まで以上に避けるべきね」

「蓮華の意見には俺も賛成だ。干吉たちの動きもまだわからないし」

 マーケットの時に使った偽メダルが時間切れでマーカーに戻り、やつらのアジトがわかったんだけど、2人を捕獲することはできなかったらしい。

 ポロりんのファミリアになった貂蝉と卑弥呼からも事情聴取してるけど、あまり有用な情報はないみたい。

 

「1人でぶらつく暇なんてないっての」

 朱金が愚痴る。北町奉行の仕事もあるから彼女は多忙だ。

「遠山様がサボる暇がないのはすごいですよ」

 真留ちゃんも疲れてるみたい。

 

「将軍選挙は終わったが次は学園祭。さらに各国で治療とUHの操縦訓練。身体がいくつあっても足りぬのう」

 生徒大将軍(かいちょう)には無事に吉音が就任した。詠美ちゃんも副将軍になっている。忙しくてほとんど執行部(せいとかい)には出てないんだけど、俺たちの本業が知られたおかげであまりクレームもきてないようだ。

 

「武将たちは鍛錬、軍師たちは勉強、私たちも歌のレッスン。……一番忙しいのは煌一さんかしら?」

 なにか含むものがあるのか、眼鏡を光らせながらの人和。

 たしかに俺だって忙しい。あっぱれのみんなのように学園島での仕事はないけど、剣や魔法の訓練に固有スキルのための素材の準備。家事を手伝う暇だってない。

 ……プラモデル作ってたり、それにEPを籠めてるのってはたから見たら遊んでるように見えるか。

 でもさ、そのおかげでロボ操縦のシミュレーターも完成したんだから!

 

「煌一が忙しいせいで閨の順番が滞ってるわ。もっと1度の人数を増やそうかしら?」

「ちょっ、1人にかかる時間はそんなに変わらないから!」

 体力が持っても睡眠時間がこれ以上削られるのはキツい。

 実は授業中に半分くらい寝ちゃってる。次のテストが怖いよ。

 

「マジで分身ほしいなあ」

 コピーロボットでも成現するか?

 ……俺の偽物だからチョーカーが反応しそう。

 後で記憶がもらえるとはいえ、コピーロボが嫁さんとするのもなんか許せない。却下だ。

 

「やはり、双頭竜のスキルに賭けるしかないのかしら」

「レベル上げたら分身できるかもしれないってやつ?」

 悪魔の実の能力みたいに覚醒したら化けるスキルなんだろうか? そうであってほしい。

 

「煌一を分割して()()のベッドを使って、それぞれが再生すれば何人もの煌一ができるか試したいところだけど治療費がかかりすぎる」

「欠損部分が再生する回復魔法を覚えていればね」

 レーティア、華琳、その冗談怖すぎるから。……冗談だよね?

 まさか上位の回復魔法を覚えたりしたら、俺はプラナリアみたいに実験されちゃうのだろうか?

 怖いからしばらく回復魔法の訓練は休もう。各国での治療で回復魔法のレベルが上がった娘もいるし。

 

 指輪の石としては超空間共振水晶体(フォールドクォーツ)を成現するか。フォールド鉱石の能力は純度とサイズに比例する。せっかくだから純度の高いやつにしようかな。

 ……フォールド物質って超時空生命体(バジュラ)に狙われるんだったっけ? それとも劇場版だけの設定なのかな。

 こっちにいるかはわからないけど、バジュラのいる世界に行くかもしれないからフォールドクォーツと似た性質を持つ別の鉱石ってことにしますかね。

 

 別の世界に離れ離れになっても見つけられるように、超空間共振水晶体ならぬ超世界共振水晶体ってことにして……ワープクォーツ?

 微妙だ。なら、ファンタジー素材っぽく賢者の石で。

 あ、劇場版マクロスF『恋離飛翼~サヨナラノツバサ~』の主役バルキリーYF-29デュランダルに使われているフォールドクォーツが『賢者の石』っていう超高純度の物だった。

 飛行石かブルーウォーターにするか……?

 

 でもベースとなる石は赤い。メドゥーサ・ブラッドっていう真紅の珊瑚なんだ。

 かなり貴重な物らしいんだけど、ドンさんが立体表示可能な新型ビニフォン数十台の代金としてくれたよ。

 娘たちの分だって。マーケットでも旧型の量産型を買ってたはずなのに。ドンさんああ見えて娘には甘いみたいだね。

 

 赤いなら『エイジャ』に……柱の男に狙われそうだからパスか。

 名前は後で考えることにして、指輪に使えるサイズでYF-29の賢者の石以上の力を発揮する超々高純度の物にしたいな。

 そうなると問題が出てくる。コストだ。必要MPがハンパなさそう。嫁さんの数も多いし。

 

 

 

 よし、強化合宿するか!

 病院大部屋1人無料券(1日)はまだあるし。

 この前のクレーンゲーム救出作戦でGPとは別に特別報酬として束でもらってるんだよね。もったいないから使ってなかったけど、今が使い時かもしれない。

 いや、ゲームでも回復アイテムを使わなくて、終盤になって使いどころがなくて死蔵しちゃう俺だけど、文の頬の傷跡を治すために使ってもらうつもりだったんだよ。

 そしたら文がさ。

「この傷跡は煌一さんの魔法で治してほしい」

 そんなこと言われたら無理にタダ券使ってもらうワケにもいかないでしょ。使いそびれちゃった。

 

 もちろんこの後滅茶苦茶ペロペロしまくったよ、文の傷跡。

 凪も嫁さんになってくれるってわかってれば治す前に舐めまくっておくんだったなぁ。

 

 サイコロ世界の病院のベッドだとMPは1時間、HPは5時間でフル回復する。最大値が違っても時間は同じ。

 大部屋しか使ったことないので個室はもっと短いらしいけど、さらに使用料が高いから使えない。券ももらってないし。

 

 無料券1枚で24日分のMP強化ができる。MPは一気にたくさん使った方が伸びがいいから、効率が最大にうまくいくと1.8倍――大魔法使いのスキル効果――が24回だから、1338258.84505239……約133万8千倍か。あらためて計算するととんでもない数字だ。

 1日でそれだけ伸びるんだから券を使ってもいいか。銀河鉄道も超世界共振水晶体も余裕になるだろう。……途中でカンストしなければだけどね。

 

 

 土日、予定を開けて病院に泊り込んでMP修行したけど、華琳たちもつきあってくれた。

 そしてあの冗談はマジでした。

「そりゃタダ券使うんだから試さないともったいないのかもしれないけどさあ……」

 ベッドに眠る俺の左腕を見ながら呟く。華琳の星凰剣で斬り落とされたものだ。

 俺本体の傷は桃香が治療してくれた。

 まだ欠損部分が再生するほどじゃないが彼女も回復魔法のレベルが上がってきている。ステータスを見たら『聖女』ってスキルが追加されていた。

 どうやら『魔法使い』と同じ称号スキルらしくて、回復魔法スキル関係に効果があるらしい。

 

「3、2、1……10分経過。変化なしのようだな」

 ビニフォンでタイマーを立体表示させていたレーティアがお手製の計測機器でタダ券を握った俺の腕を計って宣言。

 俺は左腕をずらしてベッドに潜り込む。プラナリア実験のせいでMP回復が1回分減るから時間は無駄にはできない。その分は最大HPが増えるから失敗しても損じゃないけどね。

 というか、成功しても俺はあんまり嬉しくない気がする。華琳と華琳ちゃんはこんな気持ちなんだろうか?

 

「指。肘から。肩からと試したけれど、どうやら分裂再生は無理のようね」

「脳か心臓か、きてんとなる部分があるのだろう。まあ、仮にうまくいったとしても煌一同士がせっしょくしたら片方がカードになるはずだから注意が必要なのだ」

 そうだった。クランに言われて気づく俺。わかってたらこの実験も反対できたじゃないか。

 

「あーあ、シャオ専用の煌一ができると思ったのに」

 そんなに残念そうにしないで。俺が悪い気になっちゃうから。

 

「やはり、双頭竜のスキル覚醒に賭けるしかなさそうね。閨のノルマを増やしましょう!」

 なんでそこでみんな頷くかな?

 そんなにスキンシップが足りませんか……。

 

 がんばらなきゃなあ。

 多重影分身の術を覚えるために『封印の書』でも成現した方がいいかも。

 

 ……あの術ってチャクラの消費が多いんだった。チャクラってたぶんCPだろ。俺ってMP特化でCPは少ないんだよね。(アーツ)もまだほとんど使えないし……。

 

 分身、ほしいなあ。

 

 


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