学園島の猫カフェが閉鎖した。
この世界を形成していると思われる物語の1つ、『あっぱれ! 天下御免』の
けっこう初期のイベントなんだけど、あっぱれの主人公である
だけど、俺たちのゲーム知識による情報で、潜伏してる可能性が懸念された徳河
こうなったら不幸をおこしてしまったゲーム知識を使うしかないでしょ。
「明命、はじめちゃんと猫カフェ跡地に行って『探知』使ってみて」
落ちこんでる明命に事情を説明すると、彼女はすぐさま出ていってしまった。もう夜なんですけど。
明日でよかったんだけどなあ。ま、あの2人なら万が一ってこともないかな?
他にあっぱれやファンディスクでの未消化イベントってどうなるんだろ?
……八雲君、あっぱれだとルートに入ったヒロインとしか結ばれないけど、ファンディスクだと全キャラ攻略済みなハーレム主人公になってるんだよな。
ヒロイン毎のエンディングがないともいうけどさ。
彼もきっとファミリアになれる人物だろう。だけど、そうするわけにはいかない。
嫁さんとられる心配だけじゃなくて、吉音のサポートや他のお役目もあるだろうからね。
ねずみやに顔を出すついでに彼の茶屋、八雲堂ものぞくんだけど留守なことが多いもんなあ。避けられてるわけじゃないよ、たぶん。きっと目安箱関係で忙しいんだよ。
「ただいまです」
「おじゃまします」
明命が帰ってきた。はじめちゃんと子猫数頭をつれて。
はじめちゃんのイベントだと、猫カフェのあった付近で子猫を拾うんだ。そのイベントだと1頭だけだったんだけど、明命が探知スキルを使ったから他にも見つけたのだろう。
探知スキルはMPを消費するアクティブスキルでその分、目的物を見つけ出す性能が高い。まして、明命はそっち方面のスキルレベルも高いからね。
「わあ!」
子猫たちの愛らしさに嫁さんたちも顔を綻ばせた。紫なんてビニフォンのシャッターを切りまくっている。
「ちょっと探知の範囲を広げて探したので時間がかかってしまいました」
それでもこんなにいたってことは猫カフェの連中、猫たちを逃がしてたのかな?
「うん。それじゃこの猫たちをどうするか、相談しようか」
動物を拾ってきたら家族会議しないとね。
「ボクが飼う」
うちの家族ではないが当事者であるはじめちゃんが宣言する。
「わりぃが学園内では、勝手に動物を飼うことは禁じられているんだぜ」
「登録する」
朱金の言葉にもはじめちゃんは折れない。
「こんなにか? しかもどいつも登録申請は通りそうにないぜ」
登録申請には血統書とかの証明書が必要で雑種は駄目らしい。よくわからん理由だ。雑種でも検査ちゃんとすればいいと思うけどなあ。あと避妊手術。
あっぱれの方ではどう解決したかといえば、実はこのイベント、解決していない。
はじめちゃんが「こっそり猫を飼う」宣言をし、八雲君も「子猫のことは俺も何とか考えてみる」と言っておわるだけ。
その後はいっさい出てこない。子猫がどうなったのかはまったくの不明なのだ。
「本土の方で里親を探してもえらえばいいのではないでしょうか? 今の私たちの知名度ならすぐに貰い手が見つかると思うのです」
「ダメだ」
真留ちゃんの案にもはじめちゃんは反対する。
「キミたちの猫だからほしいなんてやつらになんか任せられない。この子たちだからほしい、って人じゃないと」
「そうです。お猫様を大事にしてくれる方でなければ渡せません!」
明命まで。
気持ちはわからないでもないけどさ。
「それならば本拠地で飼いましょう。従業員もいるから私たちが不在でも面倒はみてくれる」
「え?」
華琳の意見にみんなが驚く。
学園島が駄目だからってサイコロ世界に連れてくとか、そういうのってアリなの?
「どうせモブ猫も導入するという話だったのだし、問題はないわね」
雪蓮もか。
孫家はパンダや虎を飼ってたぐらいだから、猫なんて気にもしないのかな。
「たしかにゴッドゲキリュウケンも
「決まり、ね」
「でも……」
コタロウという名の子猫を抱いているはじめちゃんを見る。本拠地につれていってしまえば、はじめちゃんはもうコタロウに会うことはできない。
「はじめ、その猫にこれからも会いたいのなら煌一の妻になりなさい。そうすれば本拠地にも連れていける」
「いきなりなに言い出すのさ、華琳? それじゃまるで人質、いや、猫質でしょ! しかもあっちにいくなら妻じゃなくてファミリアの契約! 梓からもなんとか言ってくれよ」
梓ならきっと反対してくれるだろうと思い、援護を求めたのだが。
「ああ、はじめならいいんじゃない」
「ええっ?」
まさかの裏切り。なんで?
「はじめはさ、呪いにかかってるのに煌一をそんなに嫌ったり、悪く言わないだろ。それってさ」
「つまり、煌一さんを好きってことだよね!」
梓の台詞に割り込んでくる桃香。妙に嬉しそうで目が輝いている。
「そう、はじめは煌一の呪いがかかってしまっている。ファミリアになったとしても呪われたままではつらいでしょうね」
そうだった。呪われた女性からは物すごい拒絶を受けるのが普通だったんで、すっかり忘れてたけどはじめちゃんにも俺の魔顔の呪いがかかっていたんだった。
でも、拒絶されないからって好きだってのは短絡的すぎない?
そう思ってはじめちゃんを見たら、両目を隠している布帯の下の頬が真っ赤に染まっていた。
ま、まさか、そうなの?
「は、はじめちゃんはほら、用心棒の仕事もあるから」
たぶん俺も真っ赤になってるのだろう、顔が熱いのを感じながら必死に誤魔化す。
「かまへんどすえ」
襖を開けて入ってきたのは、その用心棒先、
「旦那? ボクが」
「ウチももう甲級の3年。留年するつもりもあらしまへん。はじめの用心棒も今年度で終わりどす」
自分が不要なのかと聞こうとするはじめちゃんを遮り、山吹は続ける。
「まさか王子さんじゃなくて天使とは見抜けまへんでしたけど、天井さんにならはじめを任せてもよい、思うてはります」
天使か。ニュースや新聞でも俺たちはそう呼ばれることが多い。使徒だから間違ってはいないんだろうけど、なんかなあ。
「俺たちの仕事ってかなり危険なんだけど」
「なんならウチのことももろうてくれます?」
「俺の話聞いてる?」
なんかもう、山吹の中でははじめちゃんがうちにくることは決定らしい。そのつもりでここに呼ばれたんだろうか。
誰が呼んだんだろう。呼ばれてなかったら、番狼のカシオペアに排除されてるだろうし。
「よく考えるのじゃな。猫はうちで預かろう。朱金、少しの間保護するのならいいじゃろ?」
「……わかった。今これから猫を回収ってのも面倒だ。ただでさえ忙しいしな」
光姫ちゃんに頼まれては朱金も頷くしかないか。詠美ちゃんや真留ちゃんも抗議しないようなので、これで決定みたいだ。
「ほな、はじめとウチも泊めておくれやす。こんな時間に帰るなんて怖いわぁ」
いや、あんた用心棒のはじめちゃんなしに1人でここにきたんだよね?
……はじめちゃんが猫といっしょにいられるように、ってお願いだろうから拒否はしないけどさ。
「わかった。詠、客間の用意はいい? 猫もそっちで……トイレと砂を用意しなきゃいけないか」
この時間、ペットショップ開いてるかな? 学園島のペットショップは金持ち相手の商売だからなあ……。
「それならあります!」
元気よく挙手した明命がスタッシュから猫用トイレと猫砂の袋、さらにはキャットフードや猫用ベッドを取り出す。
「いつでも困らないようにお猫様用の各種ぐっずは完備してるのです!」
ああ、明命はスタッシュなんかなくたってそうだったな。得意気に猫じゃらしを揺らす明命とそれに反応する美以ちゃんたちを見て思い出すのだった。
その晩は猫たちに刺激されたのか、変身スキルを使って久しぶりに元の姿に戻った南蛮勢たちとだった。
「もうがまんできないのにゃ」
それは虎じゃなくてゴリラの方じゃなかったっけ? シリアルのCMのさ。
4人で俺の服を脱がそうとするネコミミたちに俺は抵抗することができない。
「な~ぁ」
「なぁ」
「……なぁ」
ミケトラシャムのこの様子からして発情期もきちゃったみたいだからね。
ただ、気になるのは
結局、呼んだら出てきた明命も入れて楽しんだ翌日、はじめちゃんは悩んでるようだった。俺の嫁さんになってくれるんだろうか?
いくらなんでもそりゃないよね。
あっ、剣士に連絡しないと。猫をつれてくのって、ゲート承認アイテムでいいのかな。1度だけ使えるのでいいから、安いのがあればいいんだけど。
ゴッドゲキリュウケンの画像といっしょに事情を説明したメールを送信。これでいいだろ。
学園祭の準備のため、授業時間が減った学校から早めに帰宅すると、留守番組に璃々ちゃんと猫たちを頼んで外国で治療活動だ。今回からスーパーあじあが使えるので自衛隊のお世話にならないですむ。
まずはついこの前治療活動で行った国につけたマーキングにポータルで移動。それから車両ごとに分割したスーパーあじあをスタッシュから出して連結して、目的地である別の国にスーパーあじあで飛んで行く。
どっちの国にも事前に連絡しておいたけど、そのせいで記者が多くて疲れたよ。
「移動時間がかなり短縮されたわね」
「起動した拠点やマーキングも増えてるし、外国行くのも楽になってきたなあ」
マーカーには時間制限があるけど、スキルレベルも上がってるし今の俺のMPなら持続時間を長くできる。今まで設置した場所のマーキングにもMPを補充したから、どれもあと100年ぐらい持つんじゃないかな。
そんなことを言いながら屋敷に帰ってきたら客がきていた。はじめちゃんの他に2人だ。
まずは学園祭の準備で忙しいはずの吉音がつれてきた
もう1人は
この世界では裏で糸を引いていた黒幕が捕まっているのでそれは未遂に終わってるけどね。
「せっちゃんはオレと契約してファミリアになってくれたッス」
……柔志郎、眼鏡フェチでもあるもんなぁ。眼鏡っ子な雪那をスカウトしちゃったか。
「いいの? たしか塾をやってたよね?」
「ええ。私も甲級3年、いつまでも開業していられません」
またそれか。大江戸学園の最上級生は仕事しながら、就職活動や受験勉強をしなきゃいけないから大変だ。
……俺も3年だったっけ。俺のクラスは家柄がよくてそんなに仕事してない、そもそも進路が決まっている連中が多いから忘れてたよ。俺も就職活動なんて必要ないし。
「それに、あやうく塾生をエヴァの企みに利用させるところだった私には寺子屋を続ける資格など……」
目を伏せる雪那。塾生たち乙級生徒を扇動して
「あの子たちのこの先のため魔族と戦い、世界を取り戻したい」
罪滅ぼしのつもりか。
それとも、
まあ、いろいろ思うところがありそうだけど もう契約しちゃったみたいだし、なんか話しかけづらくなったので今度はもう1人に聞いてみることにした。
「かなうちゃんは?」
「……かなうちゃん? 年下扱いはするな。私は甲級3年だ」
「年下ならいいのかな? 俺は本当はもっと年上なんだよね」
小柄な幼児体型な見た目でついちゃん付けで呼んじゃったけど、かなうちゃんも最上級生か。
「君もうちを就職先にしようとしてるの? かなりブラックだよ。まったく、なんで急に……」
「それはこいつのせいだろうねぇ」
輝が瓦版を見せてくれた。彼女のエレキ新聞とは別の瓦版だ。
その見出しは「天使に新メンバー追加! ……か?」というもの。輝のと似たようなやり方だな。
「越後屋とはじめが昨晩ここに泊まったことがスクープされてるねぇ。こいつだけじゃないよ、他にもすっぱ抜かれてる」
すっぱ抜かれるの
……知名度が上がりまくってる俺たちはこういうのの標的にもなりやすい。屋敷をずっと見張ってた生徒がいたのかもしれない。
「はわわ……たぶん越後屋さんが情報を流したんじゃないかと」
「はじめさんを、あわよくば自分を煌一さんの妻にするため、既成事実を狙っているのかもしれません」
「ちっ。取材は専属記者のおいらを通してくれないと」
輝が愚痴る。他の瓦版に出し抜かれたことが悔しいのだろう。けど、いつ専属記者になったのさ。
「これを見て自分たちも煌一の妻になれるんじゃないかと思う女生徒は多そうね。雪那もきたことだし」
「いや、雪那は柔志郎のファミリアでしょ。嫁さんじゃないから!」
なんかさぁ、嫁さんたちのファンクラブが世界中にできててさ、そのファンたちから嫁さんを独占してるって恨まれてるみたいなんだよね、俺。こっちのインターネット掲示板なんて怖くて見るのを止めたよ。
「かなうさんもそれできたの?」
桃香がまた目を輝かせている。恋バナ好きねえ。
でもそんなのじゃないから。俺はかなうちゃんとは直接会うのは初めてだ。怪我しても回復魔法あるから、療養所の世話になってないからね。
「いや、私はあの治療を1度見てみたくてな」
ああ、回復魔法に興味があるのか。それとも信じられないのかな?
「学園でもあの治療をしてほしいって生徒も多くて……」
口ごもる吉音。俺たちが忙しいってのを知っているだけにその先は言えないみたいだ。
「もしかして吉音、回復魔法を教えてほしいって言うの?」
「う、うん」
「魔法はファミリアにならないと無理だと説明したじゃない」
詠美ちゃんがため息。以前に魔法を教えてくれと吉音に頼まれたことがあったようだ。
「そうね。見せてあげましょう。煌一」
「……わかった」
おもむろに脱ぎだす俺。
「な、なにを……」
赤くなりながらも吉音と雪那がじっと見ている。かなうちゃんは治療で慣れているのか、あまり動揺してないな。あ、はじめちゃんまで眼帯をずらして覗いているよ。
もちろん袴は脱がないよ。そこ、なんで残念そうな顔してるのさ。
畳が汚れないようにさっきの新聞を敷いておいて。
「脱いだのは血は落ちにくいからだよ。こっちの腕でいいかな。かなうちゃん、ちょっと見て」
左腕をかなうちゃんに差し出すと、彼女は触診を開始。
「これといっておかしなところはないな」
「じゃあ雪蓮……は、やりすぎそうだから蓮華、お願い」
「いいの?」
「……あんまり痛くしないでね」
俺が頷いたのでスタッシュから取り出した南海覇王で俺の腕を浅く斬りつける蓮華。
「ど、どう?」
「つっ。……これぐらいでちょうどいいから、そんな心配そうな顔しないで」
やりすぎなさそうってことで蓮華に頼んだんだけどそれでもやっぱり痛いな。耐性スキル持ってなかったら泣いていたかも。
「かなうちゃん、見て。本物の傷、だよね」
「あ、ああ」
かなうちゃんが納得したのを確認して、俺は自分に殺菌魔法、それから回復魔法をかけた。
ビデオの逆再生のように傷口が治っていき、血をふき取れば俺の腕には傷跡すら残っていない。
「これが回復魔法」
「……トリックではなさそうだ」
わかってくれたかな、かなうちゃん。
まだ認めたくないのか俺の腕を触りまくり、さらには血の付いた新聞を回収してかなうちゃんは帰っていった。あんなので調べられるのかな?
仲間になってくれれば嬉しいけど、それが無理でも彼女は名医。嫁さんの出産の時はお願いしたいなあ。華佗は駄目だ。やっぱり女医さんじゃないと診せられないよ。
「はじめちゃんはどうする?」
コタロウを抱いている彼女に問うと彼女はチラリと雪那の方を向いて、それからゆっくりとこっちに向き直った。
「ボクも頼むよ。旦那が卒業した後でいいのならね」
その時は俺も卒業してるはずなんだけど言わないでいいか。……卒業、できるよね?
「卒業っていえば、みんながニュースに出るようになってから大江戸学園の人気がまた上がったみたいで、うちに募集する会社が増えたって
吉音はまだいたのね。
「編入学の申し込みも多い。主に外国からだが」
「100パーセント、スパイね」
おとなしく抱かれてるコタロウをチラチラしながらの紫にゆきかぜちゃんが続いた。
「来年度の新入生じゃないの?」
「そっちも多いじゃろうが、来年度では卒業している者もいる。ハニートラップはしかけられないからの」
え? 狙いは俺?
「それよりもっとストレートに婿殿に縁組の申し込みもきておるぞ。各国から」
「は? なんで?」
「政略結婚よ」
ため息つかないで華琳。俺ってそんなのとは無縁だったんだからわかるわけないでしょ。
「全部お断りして下さい! 俺には可愛い嫁さんたちがいるんで!」
「その嫁が多いから申し込んできたんじゃないかしら?」
「ぐっ。蓮華のツッコミが的確すぎる……でも、そんな理由での結婚なんて俺は嫌だから! 愛がない結婚は無理!」
これで「愛なんてあったかしら?」なんて言われたら俺、立ち直れないけどさすがにそのツッコミはなかったのでちょっとほっとした。
「あ、みんなには大江戸学園を卒業したらぜひうちにきて下さい、って学校からの募集もたくさんきてるんだよー」
大きく分厚い封筒をいくつも取り出す吉音。ニホンだけではなく外国の大学からもきてるのか。
「いいねー、試験も免除だって。学費も払ってくれるみたい」
「それってただ在籍してるだけって言うんじゃ……」
そこまでしてほしがるもんかね?
もちろん俺たちは行かないけど。
「……あ、軍師たちは大学行った方がいいのかな? 他にも行きたい人は行ってもいいか。ポータルあるから好きなとこへ通えるし」
「気にはなるが、まずは世界の救済の方が先だろう。煌一の担当も残っている」
そうキリっと決めた冥琳だが、雪蓮が彼女の頭の上に子猫を乗せて笑いながらビニフォンのシャッターを切っているので台無しだ。
あとで俺もその写真もらおうっと。