真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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127話 ダブルS

 冥琳と周瑜を合成してしまった。

 どちらか、もしくは両方がいなくなりそうで本当に嫌だったけれど、本人の強い要望で仕方なかった。

 断ると嫌われると言われてしまったらもう無理だ。嫁さんたちにあんな目で見られるのは耐えられない。

 

「調子はどう?」

「ふむ……記憶に若干の混乱、いやこれは相違する記憶か。問題はなさそうだ」

 深く考えるように目を閉じたのはほんの一瞬、すぐに結論を出した冥琳が答えてくれた。

 記憶の相違か。無印恋姫と真・恋姫の違いだろうか?

 

 あ、大喬まわりの改変してしまった記憶かもしれない。気になるけど、今は他の嫁さんたちがいるから後でこっそり確認するしかないね。

 

「冥琳、私はわかるか?」

「レーティア・アドルフだろう?」

「……そうか。いや、冥琳はトリエステに声が似てるからな、もしかしたら彼女の記憶も持ってないかと馬鹿な期待をしてしまったんだ。気に触ったらすまん」

 ああ、中の人が同じだもんなあ。でもそれをいったら、紫苑(ゲッベルス)美以ちゃん(デーニッツ)なんてもっと君と仲がいい人がいるんだけど?

 

 レーティアも大帝国をプレイしてもらったから、その辺が懐かしいのかもしれない。彼女と梓は自分の世界の人間が他にはいないから寂しいのかな?

 かといってこれ以上人間を成現(リアライズ)するのは居場所を用意するのがなあ。

 あと梓はともかく、レーティアのための大帝国の他のキャラのフィギュアが手持ちにない。

 たしか帝ちゃん出てたけど、注文しておくかね?

 

 

「ふむ。ステータスも上昇しているな。能力値は3割程度、スキルも全般的にレベルが上がっている」

 俺が悩んでいる内にビニフォンで自分のファミリアシートを確認したのか、冥琳が合成の結果を教えてくれた。

「すごいじゃない冥琳。他にもあるんでしょ?」

「……どうやら合成の際には治療もされるようだな」

「え? 周瑜の病気は成現の時に治しておいたはずだから、それは関係ないんじゃ?」

 それとも他に俺の知らない古傷でも持っていたのだろうか?

 

「ああ、そっちね」

 どうやら雪蓮はわかったらしい。断金は伊達じゃないか。

 むう……あ!

「そうか、視力が!」

 眼鏡キャラのアイデンティティが失われるのは残念だけど、なんだったら伊達眼鏡でいい。特殊なギミックを持った眼鏡を成現するという手もある。

 やはり基本の透視機能か。……でも俺がそれを使ってるって疑われるのも困るな。

 眼鏡っ子から要望を集めてみるか。

 

「たしかに視力もよくなっているけど、それではないわ」

 華琳からハズレだと言われてしまった。鑑定スキルが高レベルとはいえ覇王様も見抜いたというのか。

 悔しいので自分のビニフォンで冥琳のファミシーを確認する。

 数値は上がっているけど、これといっておかしな箇所は特に……おや?

 

「め、冥琳、これって?」

「ああ。そこは普通は治らないはずなのだが」

「よかったじゃない。煌一が大喜びよ」

 雪蓮がそう茶化す。

 いや嬉しいけど! 大感謝ですけど!!

 

「まさか乙女に戻っておるとはのう」

 そう。新生冥琳は処女に戻っていた。

「ま、膜を再生させただけでは、この欄は処女扱いしてくれないと聞きます」

「ユニコーンなどは男性との経験を鋭く見抜くからだそうです」

 朱里ちゃんと雛里ちゃん、どっからそんな情報を? って、処女神(ワルテナ)だろうなやっぱり。

 プレイヤーシートやファミリアシートには大きく、経験済みか否かの欄があるんだけどこれは、処女や童貞じゃないと従ってくれない獣がいたり使えないアイテムがあるからだ。

 ……あと俺の『魔法使い』のような隠しスキルもあったな。

 その辺りを使うために合成後は経験無しになってしまったのかもしれない。

 

 でもそうなると、俺の成現による改竄はそれを上回るってことになるな。

「合成というのは新しく生まれ変わるということなのでしょうか?」

「記憶を持ったままの転生ってこと?」

「今回は同一人物同士でしたから外見の変化はありませんが、それなら納得がいきます」

 そうか? 全く違う人物でも魂まで合成されてしまうってことになるよね。やはり合成って怖い。

 

「……それってもしかして前の冥琳は死んだってこと? や、やっぱり合成前に戻した方が……」

 混乱してる俺を冥琳がやさしく抱きしめてくれた。

「考え方の問題だろう。私はここにいる」

「そうね。冥琳は冥琳よ。たとえどんな姿になったって」

「さっきの幼い姿でなくなったのを残念がってたくせに」

 冥琳の柔らかな感触やにおいは前と同じで、それでなんとか彼女は無事だと落ち着いてきた俺は、睨んでいた小喬ちゃんと交代した。周瑜との話もほとんどできずに合成しちゃったから気が引けてるのよ。

 

「それと、こちらはたいしたことではないのだけれど、成現の効果時間がなくなっているわね」

 さらっととんでもないことを言う華琳。

「えっ、それって」

「完全にあの人形から解放されているようね」

 それはけっこう大事なことなんじゃないだろうか。恋姫の嫁さんたちは俺の固有スキルで人間に戻っているけど、GPではなくMPで行っているため時間制限がある。その時間が過ぎれば彼女たちはぬいぐるみに戻ってしまうんだから。

 

「気にするほどのこともないでしょう。私たちが人間でいられる時間はもう千年を越えているのだから」

 最大MPを上昇させるために就寝前に余ってるMPは使いきるようにしてるから、みんなの成現時間はそれぐらいになっている。でも、どんなにMPをつぎ込んでもGPとは違って、時間制限は残ってしまう。

 

「そうよ。寿命よりも長い時間があるんだから気にする必要はないわね」

 雪蓮まで。

 合成を上手く使えればみんなを完全に治療することができるのに。

 ……まずぬいぐるみを入手しないといけないから無印にいなかったり、二喬ちゃんのように真の方にいなかったりする嫁さんたちには使えないか。あ、俺もだった。

 

 それなら、俺がフィギュアをなんとか用意して成現して合成すればいいのか?

 でもそれだと俺のイメージの人間になってしまうから、彼女たちとは完全に別人になってしまうんだよな。

 恋姫キャラたちは自分の魂を持ってる人間だから、他の世界の同一人物ならともかく、俺のイメージと合成するわけにはいかない。

 なにより、俺はメカがメインでフィギュアはちょっと苦手なんだよね。ロボ娘ならともかくさ。それに自分自身のフィギュアなんて作れるわけないよね。

 

「冥琳、おかしいところがあったら、すぐに言ってね。なんとかするから!」

 そういえば、成現時間がなくなったってことはこの冥琳は成現前なんだろうか?

 もしかしたら新たに成現を行うことができるのかも。合成による不都合もそれで調整できるといいな。……すぐには必要ないか。

 

 

「さ、次はわたしの番ね!」

「孫策の方はぬいぐるみじゃなくてカードだからGPがかかるんだよな」

「カードからの復活は本拠地や拠点じゃないと駄目っス。本拠地の契約者の自室で行うのが一番安くできるッス」

 デュラハンに殺されたカシオペアを復活させたことのある柔志郎が教えてくれた。

 でも孫策って俺と契約したファミリアってわけじゃないんだよなあ。復活させることってできるのかな?

 

「契約前のカードなら契約時の復活はタダぜよ。そん時は本拠地、拠点以外でも復活できるんじゃ!」

 ああ、そんなのもあったな剣士。契約すれば復活するってことか。

 契約空間入りのスイッチをONにして、指輪に収納していたSR孫策のファミリアカードを取り出す。

 

「……あれ? 煌一? 華琳は?」

 キョロキョロとなにもない真っ白な空間を見回す孫策。

「ここが本当の契約空間(コントラクトスペース)。俺の夢で会っているのは擬似的なもので、こことは違うんだ。ここはむこうと違って停止した時間の中で会話してるっぽい。華琳ちゃんはまだ擬似契約空間にいるはずだよ」

 俺が夢で会ってない時でも華琳ちゃんや孫策は擬似契約空間で生活してるらしい。……どうやって外の様子を見ているんだろう。教えてくれないんだよね。

 

「見ていたんならわかると思うけど、孫策を復活させるために俺のファミリアになってくれると助かる」

「その方が安くすむのよね?」

「実のとこ、契約していないカードを復活させられるかもわからないんだ」

 確認してからこっちにくればよかったな。

 

「そう。いーわよ。契約しましょ。あなたのファミリアになるわ」

「そんなにあっさり決めちゃっていいの?」

「お酒に食事にげえむ。煌一には色々と世話になっているわ。どのみちそっちのわたしと合成するんだし、かまわないでしょ」

 むう、一宿一飯の恩義? 違うか。

 この孫策も合成することが決定事項になってるみたいだ。

 

「そんなに合成したいの?」

「蚩尤を倒すためにも強くなっておきたいのよ。それに、冥琳や大喬ちゃんを自分と取り合うってのもねえ」

 その蚩尤がどこにいるかわからないんだけど……。

 

「こっちの雪蓮と合成するということは俺の嫁さんになるってことだけど、それでもいいの?」

「あなたと結婚しなきゃ冥琳も大喬ちゃんもあなただけのものになっちゃうじゃない!」

 あれ? そうなるの? そういうもんなの?

「俺とでもいいの?」

「そっちのわたしが選んだ男よ、問題ないわ」

 ……選んだっていうか、面白そうって理由だったみたいだけどいいのかな。

 

「で、わたしの絡繰巨人のお願いがあるんだけど」

「なにか乗りたいのがあるの?」

「ええ。いつも使ってるアレよ」

 孫策がいつも使ってる……よくやってるゲームのやつだよな。

 ってすると……アレか。

 

「たしかに色は孫家っぽいよね。3機でちょうど数も同じだし」

「そうなのよ! 蓮華と小蓮のも用意できる?」

「薔薇ならぬ蓮の三姉妹ってとこか」

 そう。孫策がやり込んでる『電脳戦記バーチャロンマーズ』の彼女の愛機は『マイザー・デルタIVタイプRフェアービアンカ』だ。

 ゲームでは『薔薇の三姉妹』、別名『毒蛇三姉妹』と呼ばれるキャラの機体で、高機動性汎用型バーチャロイドの強化型である。キャラの性格は別として、そのカラーリングが赤、紫、白と雪蓮たちのイメージなのだ。

 

「でも、シャオちゃんは『オラトリオ・タングラム』の『フェイ・イェン・ザ・ナイト』の方が似てない?」

 フェイ・イェン・ザ・ナイトはRNA製だけど、DNAカラーの方が色的にシャオちゃんっぽい。小さくてハート型だけど頭にわっかもあるし。

「そうなのよねえ。でもせっかくだから、ね」

 せっかくだから俺はこの赤いバーチャロイドを選ぶぜ! ってデス様もプレイ済みだったっけ? セガハード派なのかも。

 

「あれならプラモもあるけど……バーチャロイド、しかも第3世代型か。試してみないとわからないな」

 第2世代型だったらプラモの他にV.コンバータに使用しているドリームキャストも用意して成現に必要なコストを下げるのに。

 でもバーチャロイドが量産できたら強いよな。

 

「頼むわ。あれなら蚩尤に勝てる」

「バーチャロイドってたしか18メートル級、人間の10倍くらいの大きさなんだけど、蚩尤ってそんなに大きいの?」

「もっと大きいかもしれないわね」

 UHだけじゃ無理かも。バルキリーが完成してない状況で戦うことにならなくてよかった。

 そりゃ成現すればバルキリーは用意できるけど、操縦にはまだ慣れてない。飛行場ができたらすぐにでも訓練を始めないといけないだろう。

 

 あ、バトロイドは14、5メートルだっけ?

 もうちょい大きなのも必要なのか。

 でもあんまり大きいと街中で使いづらそうなんだよなあ。

 

 蚩尤の情報がほしい。

 それと、みんなにもバーチャロンをやってもらう必要があるのかな。

 UH以外のロボの動きを考えてもらうためにも。

 筐体、用意しないといけんね。フォースは無理としても、オラタンぐらいなら手に入らないかな。あっぱれ対魔忍世界にあればいいけど。

 

 18メートル級だったら人間の10倍近い数値なせいか、よくあるサイズってことでロボも多いんだよな。MSもそうだしね。

 

 俺も自分用の機体を考えておかなくちゃいけないな。UHではみんなの想像力に負けちゃっているから、今のうちから「ぼくのかんがえたさいきょうの」ってやつを妄想しておかないと!

 

 

 

「さ、それじゃさっさと契約しましょう」

「う、うん。この用紙に名前を書いて」

 ファミリアシートを渡して孫策と契約すると、契約空間から元の場所に戻った。孫策もカードから人間になっている。

 

「姉様が2人……」

「わかってはいたが実際に見ると眩暈がするな」

「ちょっと冥琳、酷いじゃない」

 雪蓮と孫策が同時に声を揃えて抗議した。

 そして、向き直って自分と同じ顔を見て吹き出した。

 

「なにこれ、おっかしい!」

 それさえも同じタイミングで、見ているこちらとしてはおかしいというより唖然とするばかり。

「そ、孫策が2人……」

 真っ青になってガタガタブルブルと震える美羽ちゃん。それに気づいた2人が心配そうに近づいた。

 

「どうしたの美羽? 顔色が悪いわよ」

「ぴぃぃっ!」

 ステレオで質問された美羽ちゃんは恐怖のあまりか、失神してしまった。

「よほどダブル孫策さんが怖かったんですねえ。どうせならお嬢さまが2人になればよかったのに」

「七乃、天才か」

 美羽ちゃんが2人か、それもいいな。でも残念ながら同一人物同士が触れると片方がカードになっちゃうんだよね。

 

 ……それがなんとかなるなら、華琳と華琳ちゃんと3人でってのもできるのになあ。

 

 

 


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